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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「銀蝶渡り鳥」 Wandering Ginza Butterfly (1972)

「銀蝶渡り鳥」 Wandering Ginza Butterfly  (1972)_f0367483_01522120.jpg
監督:山口和彦
企画:吉峰甲子男
脚本:松本功
   山口和彦
撮影:仲沢半次郎
音楽:津島利章
出演:梶芽衣子
   渡瀬恒彦
   梅宮辰夫
   小山明子
   南原宏冶
   清水元
   石井富子
   フラワー・メグ
   園佳也子
   青柳三枝子
   由利徹
   植田峻
   円山理英子
日本映画/86分/カラー作品




「銀蝶渡り鳥」 Wandering Ginza Butterfly  (1972)_f0367483_02010747.jpg
<あらすじ>
3年の刑期を終えて出所した若い女・樋口ナミ(梶芽衣子)は、亡き父親の親友・原田(清水元)の経営するビリヤード場に身を寄せ、気のいいスカウトマン、東隆次(渡瀬恒彦)の紹介で、銀座の高級クラブ・ブロンコのホステスとして働き始める。隆次に頼んで稼いだ給料を病気療養中のホステス、小枝子(青柳三枝子)に手渡すよう頼むナミ。それには深い事情があった。
かつて新橋の不良グループの女番長だったナミは、仲間をリンチした仕返しに矢島というヤクザを殺して有罪になったのだが、その矢島の妻こそ小枝子だったのだ。幼い息子を抱えて泣き叫ぶ小枝子の姿が忘れられず、服役中も罪の意識に苛まれたナミ。しかも、心優しい小枝子はナミの刑期を短くするよう嘆願書まで出してくれていた。
その恩に報いるため、銀座へやって来たナミ。しかし、小枝子の経営していた銀座のクラブは暴力団の大和田興業に乗っ取られていた。親友の佳代(小山明子)が経営するブロンコのホステスとして働いていた小枝子だったが、苦労がたたって体調を崩してしまったという。そこで、ナミは代わりに自分がブロンコで働いて、その給料を小枝子に渡して生活の足しにして貰おうと考えたのだ。もちろん、自分の名前を一切告げずに。
ところが、大和田興業の社長・大和田(南原宏冶)はそのブロンコの乗っ取りも企んでいた。佳代が金融業者に借りていた借金を勝手に肩代わりし、すぐに返済出来ないのなら店をよこせと脅迫する大和田。佳代が毅然した態度で断ると、今度は店に手下をよこして営業妨害を始める。
恩人でもある佳代のため、借金の手形を賭けて大和田にビリヤードの勝負を挑むナミ。幼い頃から原田に玉突きの極意を伝授されていた彼女は、大和田に雇われた凄腕のハスラーを見事に打ち負かすが、卑怯な大和田は約束を反故にしてしまう。そこへ佳代の恋人で隆次の兄貴分・松平紳之助(梅宮辰夫)が現れ、ナミたちの窮地を救うのだった。
ところが、その直後に紳之助が大和田の手下たちによって射殺されてしまう。復讐に燃えるナミと隆次は武器を手に大和田興業へ殴り込むのだったが…。

「銀蝶渡り鳥」 Wandering Ginza Butterfly  (1972)_f0367483_02004160.jpg
日活の『野良猫ロック』シリーズや『怪談昇り竜』で頭角を現すものの、ロマンポルノ路線への変更に伴って日活を去った女優・梶芽衣子。フリーを経て東映に入社した彼女の、言わば移籍後初の主演作となったのが『銀蝶渡り鳥』だ。まあ、今や海外でも傑作カルト映画として名高い『女囚さそり』シリーズや『修羅雪姫』シリーズに比べると、梶芽衣子の主演映画としての知名度は恐らく低いだろうし、作品の完成度やインパクトという意味でも及ばない点は少なからずあるかと思うが、しかし個人的にはそれらと負けず劣らず愛してやまない一本である。

「銀蝶渡り鳥」 Wandering Ginza Butterfly  (1972)_f0367483_02005258.jpg

とりあえず、ジャンルとしてはヤクザ映画に分類されるだろう。当時引退したばかりだった藤純子の後継者として、東映は梶芽衣子に白羽の矢を立てたと言われているが、なるほど確かに❝それっぽさ❞は随所から伺える。ただ、それまでの東映ヤクザ映画が主に明治や大正、昭和初期を舞台としていたのに対し、劇場公開当時のリアルタイムを舞台設定としている本作は、どちらかというと同じ山口和彦監督の『ずべ公番長』シリーズに都会的な大人のムードを加えたといった赴きだ。『夜の歌謡シリーズ』にも似た雰囲気があるなと思ったら、山口監督はそちらを手掛けたこともありました(笑)。

「銀蝶渡り鳥」 Wandering Ginza Butterfly  (1972)_f0367483_02010489.jpg
で、ストーリーの軸も任侠ドラマというより人情ドラマ。義理人情に厚く正義感の強い元スケ番のヒロイン、ナミが過去に犯した己の罪を償いつつ、夜の銀座で肩を寄せ合いながら懸命に生きる人々の善意に救われ、そんな彼らを虐げる暴力団組織の悪事を砕くために長ドスを手に壮絶な戦いを挑むこととなる。『女囚さそり』や『修羅雪姫』で顕著だった左翼的アナーキズムもバイオレンスの美学もここにはない。浪花節的な義理人情の世界を、笑いあり涙ありで描く大衆向けプログラム・ピクチャー。恐らくそこが評価の分かれ目だとは思うのだが、しかしクールで肝の据わった梶芽衣子の粋なカッコ良さは既に健在だし、ホステス仲間に前科がバレて虐められるシーンで啖呵を切ってみせる際の反骨精神、その一方で罪の意識から小枝子に面と向かって謝罪することを躊躇ってしまう心の弱さなど、非常に人間臭いナミのキャラ造形も魅力だ。

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最大の見せ場は、中盤のビリヤード対決と最後の殴り込み。大和田興業の雇った凄腕ハスラーがヤク中のジャンキーってのがミソで、こいつのクスリが切れてフラフラし始めた辺りからスクリーンの映像までサイケにトリップしやがる(笑)。こういうベタで分かりやすい演出も時代を感じさせて微笑ましい。ベタと言えば、梶芽衣子自身が歌う恨み節的なコッテコテの演歌をバックに、雨が降りしきる中を和服に着替えたナミが傘をさして一人黙々と殴り込みへ向かうと、待っていた隆次が物影から姿を現して合流。二人揃って大和田興業の事務所へ歩いていく…なんていう、いよっ!待ってました!的にベタなスタイリッシュ感も素敵だ。

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惜しむらくは、その殴り込みシーンの立ち回りがわりとアッサリしていること。長ドスを手にしたナミが敵を次々とぶった切る一方、隆次は手にしたハジキをバンバンぶっ放すわけだが、けっこうスンナリと勝ってしまうのだよね。バイオレンス描写も血糊の量もそこそこだけど、いまひとつ迫力に欠けるという印象は否めず。もうちょっとド派手にやってくれても良かったのにな…と残念に感じる次第である。

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迫力という点で言うと、当時の東映バイオレンス映画で狂犬のごときギラギラ感を発散させていた渡瀬恒彦も、ここでは意外なくらいに大人しいというか、ちょっとヤンチャで喧嘩っ早いけど気のいいアンチャンといった感じで、妙に爽やかな弟キャラだったりする。一応、二の線を行くのは梅宮辰夫なのだけれど、これまたいつものごとくポッチャリ体型の冴えないオッサンで、演技も相変わらずの大根ぶり。なぜこの人がスター扱いされていたのか、今なお不思議なのだよねえ…。

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その一方で、梶芽衣子を取り囲む女優陣はとても魅力的。心優しくも誇り高いマダム、佳代を演じる小山明子のしっとりとした美しさはもちろんのこと、夫を殺したナミに情けをかける小枝子役の青柳三枝子も上品な純和風美人という感じで好印象。石井富子に園佳也子といった昭和の名コメディエンヌたちもいい味を出している。また、裏切り者の悪女・美樹には美空ひばりの養子・加藤和也の実母でもある円山理英子、援助交際の走りみたいなことをやってる女子高生ホステスのユカにはグラビアモデルでセクシー歌謡の歌姫としても知られるフラワー・メグと、いかにも昭和らしい安っぽいケバケバしさ満載なB級美人女優たちのお色気も楽しい。

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悪役の大和田には『網走番外地』の権田権三こと南原宏冶、ナミの恩人である原田役には黒澤映画の常連である清水元。また、病弱な小枝子の面倒を見ている世話好きなオカマの勇に、テレビ『人造人間キカイダー』の私立探偵・服部半平役が懐かしい植田峻が扮している。子供の頃大好きな役者の一人だったので非常に嬉しい。

「銀蝶渡り鳥」 Wandering Ginza Butterfly  (1972)_f0367483_02003740.jpg
評価(5点満点):★★★★☆

参考DVD情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:1.0ch Dolby Digital Mono/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:86分/発売元:東映ビデオ
特典:フォトギャラリー/オリジナル劇場予告編


by nakachan1045 | 2017-01-02 18:31 | 映画 | Comments(0)

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