なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
The Monster of Piedras Blancas (1959)
監督:アーヴィン・バーウィック
製作:ジャック・キーヴァン
脚本:H・ヘイル・チェイス
撮影:フィリップ・ラスロップ
出演:レス・トラメイン
フォレスト・ルイス
ジョン・ハーモン
フランク・アーヴィッドソン
ジャンヌ・カーメン
ドン・サリヴァン
ピート・ダン
ジョセフ・ラカーヴァ
ウェイン・バーウィック
アメリカ映画/71分/モノクロ作品
<あらすじ>
カリフォルニアの小さな海辺の町ピエドラス・ブランカス。灯台守のスタージェス(ジョン・ハーモン)は、夜の岩場は危険だから決して近づくなと長年警告し続けているが、そのおかげで町の住人からは変人扱いされていた。それがどれだけ重要な警告なのか、町の人々は全く理解していなかったのである。
やがて、夜釣りに出かけた地元の兄弟が翌朝になって惨殺体で発見される。2人とも首をバッサリと斬られていた。これが事故だとは考えにくく、殺人の可能性もある。町医者ジョーゲンソン(レス・トラメイン)は、詳しい検視が必要だと保安官マットソン(フォレスト・ルイス)に告げる。
惨たらしい事件に町民の間では動揺が走る。雑貨屋経営者コチェック(フランク・アーヴィッドソン)は、「ピエドラス・ブランカスの怪獣」の仕業だと騒ぎ立てた。実は、この町には昔から怪獣伝説がまことしやかに伝えられてきたのである。そんなコチェックから、いつも廃棄する肉の切れ端を譲り受けていたスタージェス。彼はその肉を岩場に置いていくことを日課としていた。まるで、動物にエサを残していくかのように。
ところが、その日に限ってコチェックは他人に肉を売り払ってしまった。これからは有料の申し出を優先させてもらうというコチェックに憤慨するスタージェス。悪いことが起きるに違いない。そんな彼の予感が的中し、次々と町民が怪死を遂げていく。犠牲者はいずれも首を斬られていた。
夜は外を出歩いちゃいけないと娘ルシール(ジャンヌ・カーメン)に忠告するスタージェス。しかし、自由奔放な彼女は父親の言うこと軽く聞き流すだけだ。そんなルシールの恋人フレッド(ドン・サリヴァン)はジョーゲンソン医師の助手なのだが、死体から発見された鱗のような物体を調べた結果、それが絶滅した太古の爬虫類ディプロベルテブロンのものであり、しかも細胞が生きていることを発見して驚く。
そして、ついに犯人が人々の前に姿を現した。それはディプロベルテブロンが進化したヒューマノイドだった。実は10年以上も前に怪物の存在を察知したスタージェスは、毎日その住処にエサの肉を置くことで人知れず町を守ってきたのだが、そのエサを入手できなかったがために、腹をすかせた怪物が町へ出てきたのだ。研究のためにも怪物を生け捕りにしようと考えるジョーゲンソン医師とフレッドだったが…。
'50年代後半から'60年代にかけて、雨後の筍のように大量生産された『大アマゾンの半魚人』('54)のパクリ映画の一つである。ただし、その他大勢の半魚人ホラーと一線を画すのは、実際に本家の制作に携わったスタッフ陣によって作られていること。そこには、当時斜陽の一途を辿っていたハリウッド業界の裏事情が深く関わっている。
監督を手掛けるのは、長年ユニバーサル映画でダイアログ・コーチを務めてきたアーヴィン・バーウィック。プロデュースは同じくユニバーサルのメイク部門に所属していたジャック・キーヴァン。スタジオシステムの崩壊で専属契約を切られた彼らは、共同でヴァンウィック・プロダクションという制作会社を設立する。その第1回作品として発表されたのが本作だった。
もともと『大アマゾンの半魚人』でモンスタースーツの制作に携わった経験のあるキーヴァンが、本作でもモンスタースーツ制作を担当。なるべく予算を抑えるため、古巣のユニバーサルから『宇宙水爆戦』('54)や『The Mole People』('56)で使用されたモンスタースーツのパーツを借り受けた。当時のユニバーサルは元専属スタッフの独立を積極的に手助けしていたらしく、本作でも実は製作費の一部をユニバーサルが極秘で提供している。長年貢献してくれた元社員に対する、せめてもの思いやりだったのだろう。さらに、キーヴァンは『大アマゾンの半魚人』に関わった音響技術者のジョー・ラピス、小道具担当のエド・キーズら旧知の仲間を集め、スタジオとの専属契約を失った彼らに新たな職場を提供したのである。
そんな元メジャー・スタジオ所属のベテラン職人たちによって作られた本作。かなりの低予算であることは一目瞭然だし、いい意味でも悪い意味でも典型的なモンスター映画といった内容だが、作品の仕上がりはなかなか手堅い。例えば、当時のAIPが製作した『吸血怪獣ヒルゴンの猛襲』('59)や『金星人地球を征服』('56)といった独立系B級モンスター映画と比べても、こちらは明らかにプロの仕事だ。シンプルで分かりやすいストーリーはきちんと構成が練られており、丁寧な人間ドラマとロジカルな展開によって設定の荒唐無稽さを最大限に補っている。リアルな生首を手にした醜悪なモンスターの初登場シーンもかなりショッキングだ。派手な見せ場を用意することが物理的に不可能であるため、その代わりにインパクトの強さで勝負に出たという感じだが、その計算は十分に功を奏している。
ベテランの名バイプレイヤーと新進の若手をバランス良く配したキャスティングも理想的。紅一点のヒロイン役に、当時男性誌のピンナップガール(今で言うグラビアモデル)として人気を集めていたジャンヌ・カーメンを起用する辺りも抜け目がない。なお、雑貨屋で死体を発見する少年ジミー役として、バーウィック監督の息子ウェインが出演しているのも要注目。そう、あのカルト映画『ホラー喰っちまっただ』('83)のウェイン・バーウィック監督その人である。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(1.78:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio Mono/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:71分/発売元:Olive Films/Paramount Pictures (2016年)
特典:なし
by nakachan1045
| 2017-02-12 06:36
| 映画
|
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