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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「赤い手裏剣」 Bloody Shuriken (1965)

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監督:田中徳三
企画:加賀四郎
原作:大藪春彦
脚本:高岩肇
   野上竜雄
撮影:宮川一夫
美術:西岡義信
擬斗:宮内昌平
音楽:塚原哲夫
出演:市川雷蔵
   小林千登勢
   春川ますみ
   南原宏冶
   山形勲
   須賀不二夫
   吉田義夫
   水原浩一
   伊達三郎
   南條新太郎
日本映画/87分/カラー作品




「赤い手裏剣」 Bloody Shuriken  (1965)_f0367483_23114587.jpg
<あらすじ>
鉱山景気に沸き立つ宿場町に、一人の流れ者がやって来る。伊吹新之助(市川雷蔵)なる浪人だ。商店でヤクザ同士の争いを仲裁した伊吹は、仏一家に絹屋一家という2大勢力が宿場町の覇権を巡って睨みあっていることを知る。天涯孤独の若い娘・お雪(小林千登勢)が営む小さな宿に腰を落ち着け、酒場で仏一家のチンピラたちをひとまとめにして蹴散らす伊吹。そんな彼を用心棒として招き入れたのは、この町で覇権を争うもう一組のヤクザ、炭屋一家の親分・松次郎(吉田義夫)だった。
炭屋一家のために仏一家潰しを50両で引き受けた伊吹は、すぐに仏一家の賭場を荒らして大暴れする。刀と手裏剣を巧みに使う伊吹には誰も敵わない。これを脅威に感じた仏一家の親分・仏の勘造(山形勲)は、金を出して全国の無法者たちを集め、炭屋一家との全面戦争を準備する。一方、絹屋一家の親分・源兵衛(須賀不二夫)は、この機に乗じて漁夫の利を得ようと、事態を静観する構えだった。
仏一家のもとへ集まってきた無法者の中に、北風の政(南原宏冶)という凄腕がいた。報奨金が安いと出て行こうとした北風の政だったが、酒場の女将で仏の勘造の愛人・千波(春川ますみ)の色気に中てられ、そのまま居残ることにする。炭屋一家打倒のために向かった先遣隊は、一人で待ち構えた伊吹の凄まじい戦闘能力にまるで歯が立たず、あえなく皆殺しにされる。その様子を物陰で見ていた北風の政の、狂気に満ちた目がギラギラと光る。それ以降、彼は伊吹を自らの手で殺すことに異様な執着を見せていく。
その頃、仏一家へ単身乗り込んだ伊吹は、なんと炭屋一家と絹屋一家を共倒れさせる計画を100両で持ち掛ける。その話はすぐに絹屋の源兵衛の耳に届き、炭屋の松次郎も伊吹に裏切られたと大騒ぎとなる。すると、伊吹は仏一家に絹屋一家の密偵が紛れ込んでいることを指摘。逆に源兵衛が窮地に追い込まれ、今度は仏一家と絹屋一家の全面戦争へとなだれ込んでいく。
一方、北風の政を色香で丸め込んだ千波は、仏の勘造の暗殺を彼に持ち掛ける。実は、この宿場町で半年前に幕府の御用金が紛失するという事件があったのだが、その黒幕が仏一家だったのだ。御用金の隠し場所を知った千波は、親分を亡き者にして自分が横取りしようと考えていたのだ。
かくして、ヤクザ3大勢力の覇権争いに加え、御用金を巡る陰謀が絡み、不穏な空気に包みこまれていく宿場町。果たして正体不明の浪人、伊吹の思惑とは…?
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ずばり、マカロニ・ウエスタン風のチャンバラ時代劇である。基本設定は黒澤明の『用心棒』('61)とほぼ同じ。それもそのはずで、かの『用心棒』はダシール・ハメットのハードボイルド小説「赤い収穫」を時代劇に置き換えたわけだが、こちらは同じくハメットの「赤い収穫」を下敷きにした大藪春彦の時代小説「孤剣」が原作。要するに、そもそものルーツが一緒なのだ。で、ご存知の通り、黒澤の『用心棒』はセルジオ・レオーネ監督の傑作西部劇『荒野の用心棒』('64)としてイタリアでリメイクされ、世界的なマカロニ・ウエスタン・ブームを巻き起こす。そう考えると、これは『用心棒』の亜流的作品であると同時に『荒野の用心棒』の弟分的作品でもあると言えよう。
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ただ、マカロニ風とは言っても、その仕上がりはセルジオ・レオーネというよりセルジオ・コルブッチとかセルジオ・ソリ―マのイメージに近いかもしれない。時代劇として見ても荒唐無稽で、基本はシリアスだがノリはだいぶ軽い。その辺は、さすが『悪名』('61)シリーズなどで知られる娯楽映画職人・田中徳三監督。あくまでも大衆向けのプログラム・ピクチャーだ。主人公の伊吹が拳銃代わりに短刀状の手裏剣を使えば、対する北風の政は鎌を改造したブーメランで応戦。革製の羽織袴なんていう和洋折衷な伊吹のいで立ちといい、アメリカ西部の炭鉱町を彷彿とさせる宿場町のセットといい、正確な時代考証に則ったリアリズムよりも現代的なエンターテインメント性を重視していることは明らかだ。
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とりわけ目を引くのは、『羅生門』('50)や『雨月物語』('53)、『影武者』('80)などでお馴染みの日本映画界を代表する撮影監督、宮川一夫によるスタイリッシュなビジュアルの美しさである。中でも、薄暗い夕刻の原っぱを舞台に人物のシルエットだけで描かれる決闘シーンは、マカロニというよりむしろジョン・フォードの西部劇を彷彿とさせると言えよう。酒盛りで浮かれる炭屋一家の群衆から酔っ払いが一人フラフラと玄関口へ歩いていくと、いきなり障子を蹴破って仏一家の殴り込み隊が乱入して来るシーンの、流麗かつダイナミックなカメラワークも印象的だ。シネスコサイズのワイド画面を隅々まで存分に活用した、風格のある映像に宮川カメラマンのセンスが光る。
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ストーリーに関しては、既に『用心棒』という元ネタを共有する傑作が存在するだけあって、さすがにこれといった目新しさはない。2大勢力が3大勢力になった分だけ話は込み入っているものの、その向かう先は『用心棒』とほぼ一緒だ。大きな違いといえば、盗まれた幕府の御用金を巡る陰謀が絡むことくらいか。このサブプロットでは、己の欲望のために男たちを翻弄して御用金を独り占めしようとする、妖艶な酒場の女将・千波の狡賢い悪女ぶりが物語にある種の華を添え、『用心棒』とは一線を画す性の香りが作品全体に漂う。演じるのが春川ますみというのもいい。今の美的価値観からすれば必ずしも美人とは呼べないかもしれないが、しかしその豊満な肉付きの良さが醸し出す女の色香はまさにセックスそのもの。鶏ガラみたいに痩せた女では、このむせかえるような性的魅力は到底表現できまい。
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で、主人公の伊吹を演じる大映の看板スター、市川雷蔵。さすがに『用心棒』の三船敏郎と比べてしまうと分が悪いものの、大胆不敵にしてどこか軽妙なところのあるヒーローを艶っぽく演じており、とりあえず雷蔵の持ち味はきっちりと活かされている。とはいえ、ルーティンワークの一つという印象も拭えないのだが。むしろ、本作で異彩を放つのは、上でも言及した千波役の春川ますみ、そして伊吹の宿敵・北風の政を演じる南原宏冶だ。中でも南原は、まるで殺し合いにしか己の生を実感できないような、血に飢えた浪人・北風の政のイカれっぷりをギラギラとした個性で演じて強烈。その狂気には野性的な色気すら漂う。当時はフリーとして主に東映の時代劇や任侠映画の悪役で活躍していた南原だが、やっぱり彼だけ妙に東映臭がプンプンとするのだよね(笑)。
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ただ、実はその市川雷蔵と南原宏冶による一騎打ちが、本作における最大の弱点だったりもする。まあ、全体的にチャンバラシーンの殺陣振り付けに大雑把な印象を受けることは否めないのだが、特にクライマックスの伊吹と北風の政の対決シーンは拍子抜けするくらいに呆気なく、これといったカタルシスもないままに映画はジ・エンドとなってしまう。なんたる尻つぼみ!小林千登勢演じる清純な娘・お雪が馬に乗って颯爽と宿場町を去っていく伊吹の名前を呼ぶ、『シェーン』そのまんまなラストもあざとい。
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もともとNHKの専属女優としてデビューした小林千登勢は、確かに純情可憐な雰囲気でとても可愛らしいのだが、小ぢんまりとした存在感はやはりテレビ出身の人という感じ。映画出演が少なかったのも頷ける。3大勢力それぞれの親分には山形勲、須賀不二夫、吉田義夫と、時代劇でお馴染みの悪役スターが顔を揃ており、伊吹に振り回されまくる浅はかな悪党どもの情けなさを演じて小気味よい。
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そんなこんなで、昭和の大スター、市川雷蔵の主演作としては及第点といった感じではあるが、黒澤の『用心棒』からマカロニ・ウエスタンを経てたどり着いた異色時代劇として一見の価値はあると思うし、日本映画全盛期の大衆娯楽映画として普通に面白い作品ではある。
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評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/音声:Dolby Digital Mono/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:87分/発売元:株式会社KADOKAWA/角川書店
特典:劇場予告編/フォトギャラリー

by nakachan1045 | 2017-04-08 04:52 | 映画 | Comments(0)

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