なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「ドラキュラの生贄」 Die Schlangengrube und das Pendel (1967)
監督:ハラルド・ラインル
製作:エルンスト・ギット
原作:エドガー・アラン・ポー
脚本:マンフレッド・コーラー
撮影:エルンスト・W・カリンケ
ディーター・リプハルト
美術デザイン:ガブリエル・ペロン
音楽:ペーター・トーマス
出演:レックス・バーカー
カリン・ドール
クリストファー・リー
カール・ランゲ
クリスティアーヌ・ルッカ―
ウラジーミル・メーダー
ディーター・エップラー
西ドイツ映画/80分/カラー作品
<あらすじ>
時は18世紀、場所は中欧の古都リンデンハイム。近郊にそびえ立つアンデマイ城の城主フレデリク・レギュラ伯爵(クリストファー・リー)は、永遠の命を得るために12人の若い乙女を殺害した罪で逮捕される。13人目の犠牲者となりかけた女性が脱走して通報したのだ。法執行官から有罪を言い渡された伯爵は、町の広場にて八つ裂きの刑に処せられる。女性と法執行官の2人へ向かって、一族郎党を皆殺しにすると呪いの言葉を叫びながら。
それから35年後。青年弁護士ロジャー(レックス・バーカー)は見知らぬ男から1通の手紙を渡される。差出人はレギュラ伯爵。そこには、出生の秘密を知りたくばアンデマイ城へ来るようにと記されていた。幼い頃に養子として引き取られたロジャーは、長いこと自分のルーツを探し求めていたのだ。
その頃、リンデンハイムで召使バベット(クリスティアーヌ・ルッカ―)と暮らす男爵令嬢リリアン(カリン・ドール)もまた、同じくレギュラ伯爵よりアンデマイ城への招待状を受け取る。幼い頃に両親と死に別れて天涯孤独の彼女に、相続すべき遺産があるというのだ。
馬車でリンデンハイムへと到着したロジャーは、町の人々にアンデマイ城への道筋を訊ねるが、誰もがその名前を耳にしただけで口をつぐんでしまう。地元では「血塗られた城」と呼ばれ、いまだに恐れられていたのだ。すると、ファビアン(ウラジーミル・メーダー)と名乗る旅の牧師が城の場所を知っているという。彼の目的地も同じ方向だということで、タダで馬車に同乗させることを条件に道案内してくれることとなった。
さらに、馬車が追いはぎに襲われたリリアンとバベットを救ったロジャーは、彼女たちの目的地もアンデマイ城だと知って同行することに。やがてファビアン牧師の目的地に到着するが、そこは朽ち果てた廃墟となっていた。不吉な予感に恐れおののく御者(ディーター・エップラー)を説得し、ファビアン牧師も連れて城へ向かう一行。やがて周囲の風景は奇怪なものとなっていき、恐怖に耐えかねた御者は心臓発作を起こして死んでしまう。驚いたロジャーとファビアン牧師が外へ飛び出した隙に、何者かがリリアンとバベットを乗せたまま馬車を奪い、アンデマイ城へと走り去っていった。
後を追いかけて薄気味の悪い城へと入っていくロジャーとファビアン牧師。そこに待ち構えていたのはアナトール(カール・ランゲ)という執事だ。レギュラ伯爵の開発した薬物で生ける屍となったアナトールは、今宵、35年前に処刑された伯爵を特別な儀式で甦らせるという。
やがて息を吹き返したレギュラ伯爵。そこで、ロジャーが彼に死刑を宣告した執行官の息子であることが明かされる。養子に出されたことで皆殺しを逃れた彼に、レギュラ伯爵自身が死刑を執行しようというのだ。
さらに、リリアンは伯爵を告発した女性の娘。永遠の命を得るためには13人の処女の生血が必要だったのだが、その最後の犠牲者に選ばれたのが彼女だったのだ…。
ジャーマン・ホラーといえば、サイレント時代の『カリガリ博士』('19)や『吸血鬼ノスフェラトゥ』('21)といった一連の古典的な表現主義映画、もしくは『ネクロマンティック』('87)や『ドイツチェーンソー大量虐殺』('90)など'80~'90年代に作られたアングラ・スプラッター映画、そのどちらかを思い浮かべる人が多いことだろう。そもそも戦後の西ドイツでは、ナチスによる戦争犯罪の反省に立つという意味を含め、映画における暴力描写の規制が非常に厳しかった。かつてはホラー映画のビデオやDVDが、アダルト・ビデオ同様の扱いを受けていた時代もある。それゆえ、ある時期までの西ドイツは、いわばホラー映画不毛の地だったのだ。
やはり最も印象的なのは、悪夢的な幻想美に溢れたビジュアルであろう。赤や青の原色照明を駆使した映像は、マリオ・バーヴァ作品からの影響が極めて濃厚。だいたい、内側に針が敷き詰められた仮面をレギュラ伯爵の顔面に打ち込む冒頭シーンは、バーヴァの代表作『血ぬられた墓標』('60)そのものである。マット・ペイントを駆使したアンデマイ城周辺の禍々しい光景は、さながらロジャー・コーマンのポー映画かハマー・フィルムのゴシック映画かといった雰囲気。ラインル監督がもともとホラー映画に精通していたのかは定かでないが、そでなければ相当な勉強を積んで試行錯誤を重ねたはずだ。
中でも特に目を奪われるのが、アンデマイ城へ続く一本道を馬車で走るシーン。城へ近づいていくに従って、見るもおぞましい異様な光景が広がっていくのだ。怪しげな霧が立ち込める中、道の両脇に連なる枯れた木々から飛び出す人間の手足や胴体、生首。それがさらに城へ近づくと、今度は木々の枝から人間の首つり死体があちこちにぶら下がっている。なんだかよく分からないけど目茶目茶シュール。まさに地獄への入り口といった感じだ。この辺りもイタリアン・ホラーからの影響が大きいだろう。いずれにせよ、その強烈なインパクトには文句なしで圧倒される。
主演は当時西ドイツで大人気だったアメリカ人俳優レックス・バーカーと、ドイツ版ジャーロことクリミ映画のヒロインとして活躍したカリン・ドール。2人はラインル監督の西部劇映画でもたびたび共演している。もともと10代目ターザン俳優としてハリウッドで活躍したバーカーだが、'50年代末に活躍の場をヨーロッパへと移し、フェリーニの『甘い生活』('60)などに出演。ラインル監督の『怪人マブゼの挑戦』('61)で西ドイツを拠点とするようになり、一連の西部劇映画で絶大な人気を誇った。一方のドールはクリミ映画や西部劇映画で引っ張りだことなった後、『007は二度死ぬ』('67)の悪女役ボンド・ガールとしても脚光を浴び、ヒッチコックの『トパーズ』('69)にも起用された。最近では名匠マルガレーテ・フォン・トロッタ監督の『生きうつしのプリマ』('16)に出演し、とても80代とは思えない依然として変わらぬ美貌を披露してくれた。本作でも抜群に美しい。
なお、当時の多くの西ドイツ産B級娯楽映画と同様に、日本では劇場未公開のまま、VHSで発売されたのみだった本作。英米では「The Blood Demon」のタイトルで劇場公開され、その後「The Torture Chamber of Dr. Sadism」や「Castle of the Walking Dead」など、様々なタイトルでテレビ放送やビデオ発売されてきた。これまでに各国でDVD版も発売されているが、そのいずれもが使い古しの上映用フィルムをマスター素材に使用した粗悪品。まともな画質で見ることが出来ないというのが、筆者を含めた熱狂的ファンの大きな悩みだった。本国ドイツでも同じような状況だったのだが、それを覆したのが'06年にLaser Paradeなるメーカーから発売された書籍型ボックス仕様のDVD。フィルム自体の経年劣化は見受けられるものの、過去のDVDと比べれば雲泥の差とも言うべき高画質だ。しかも、劇場公開当時のメイキング映像など特典も盛りだくさん。プレミアが付くことは必至なので、ホラー映画ファンならば廃盤にならぬうちにゲットしておきたい。
評価(5点満点):★★★★★
参考DVD情報(ドイツ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:ドイツ語・英語/字幕:ドイツ語/地域コード:2/時間:80分/発売元:Laser Parade (2006年)
特典:メイキング映像「Ein Grusical wird gedreht」(約3分)/メイキング映像「Neus von Film」(約4分)/ドイツ盤オリジナル劇場予告編/ドイツ語版スーパー8バージョン(約30分)/カリン・ドール音声インタビュー(約40分)/ポスター&スチル・ギャラリー/キャスト&スタッフ・プロフィール集
by nakachan1045
| 2017-04-23 10:53
| 映画
|
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