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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「ドラキュラの生贄」 Die Schlangengrube und das Pendel (1967)

「ドラキュラの生贄」 Die Schlangengrube und das Pendel (1967)_f0367483_22515879.jpg
監督:ハラルド・ラインル
製作:エルンスト・ギット
原作:エドガー・アラン・ポー
脚本:マンフレッド・コーラー
撮影:エルンスト・W・カリンケ
   ディーター・リプハルト
美術デザイン:ガブリエル・ペロン
音楽:ペーター・トーマス
出演:レックス・バーカー
   カリン・ドール
   クリストファー・リー
   カール・ランゲ
   クリスティアーヌ・ルッカ―
   ウラジーミル・メーダー
   ディーター・エップラー
西ドイツ映画/80分/カラー作品




「ドラキュラの生贄」 Die Schlangengrube und das Pendel (1967)_f0367483_06442138.jpg
<あらすじ>
時は18世紀、場所は中欧の古都リンデンハイム。近郊にそびえ立つアンデマイ城の城主フレデリク・レギュラ伯爵(クリストファー・リー)は、永遠の命を得るために12人の若い乙女を殺害した罪で逮捕される。13人目の犠牲者となりかけた女性が脱走して通報したのだ。法執行官から有罪を言い渡された伯爵は、町の広場にて八つ裂きの刑に処せられる。女性と法執行官の2人へ向かって、一族郎党を皆殺しにすると呪いの言葉を叫びながら。
それから35年後。青年弁護士ロジャー(レックス・バーカー)は見知らぬ男から1通の手紙を渡される。差出人はレギュラ伯爵。そこには、出生の秘密を知りたくばアンデマイ城へ来るようにと記されていた。幼い頃に養子として引き取られたロジャーは、長いこと自分のルーツを探し求めていたのだ。
その頃、リンデンハイムで召使バベット(クリスティアーヌ・ルッカ―)と暮らす男爵令嬢リリアン(カリン・ドール)もまた、同じくレギュラ伯爵よりアンデマイ城への招待状を受け取る。幼い頃に両親と死に別れて天涯孤独の彼女に、相続すべき遺産があるというのだ。
馬車でリンデンハイムへと到着したロジャーは、町の人々にアンデマイ城への道筋を訊ねるが、誰もがその名前を耳にしただけで口をつぐんでしまう。地元では「血塗られた城」と呼ばれ、いまだに恐れられていたのだ。すると、ファビアン(ウラジーミル・メーダー)と名乗る旅の牧師が城の場所を知っているという。彼の目的地も同じ方向だということで、タダで馬車に同乗させることを条件に道案内してくれることとなった。
さらに、馬車が追いはぎに襲われたリリアンとバベットを救ったロジャーは、彼女たちの目的地もアンデマイ城だと知って同行することに。やがてファビアン牧師の目的地に到着するが、そこは朽ち果てた廃墟となっていた。不吉な予感に恐れおののく御者(ディーター・エップラー)を説得し、ファビアン牧師も連れて城へ向かう一行。やがて周囲の風景は奇怪なものとなっていき、恐怖に耐えかねた御者は心臓発作を起こして死んでしまう。驚いたロジャーとファビアン牧師が外へ飛び出した隙に、何者かがリリアンとバベットを乗せたまま馬車を奪い、アンデマイ城へと走り去っていった。
後を追いかけて薄気味の悪い城へと入っていくロジャーとファビアン牧師。そこに待ち構えていたのはアナトール(カール・ランゲ)という執事だ。レギュラ伯爵の開発した薬物で生ける屍となったアナトールは、今宵、35年前に処刑された伯爵を特別な儀式で甦らせるという。
やがて息を吹き返したレギュラ伯爵。そこで、ロジャーが彼に死刑を宣告した執行官の息子であることが明かされる。養子に出されたことで皆殺しを逃れた彼に、レギュラ伯爵自身が死刑を執行しようというのだ。
さらに、リリアンは伯爵を告発した女性の娘。永遠の命を得るためには13人の処女の生血が必要だったのだが、その最後の犠牲者に選ばれたのが彼女だったのだ…。
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ジャーマン・ホラーといえば、サイレント時代の『カリガリ博士』('19)や『吸血鬼ノスフェラトゥ』('21)といった一連の古典的な表現主義映画、もしくは『ネクロマンティック』('87)や『ドイツチェーンソー大量虐殺』('90)など'80~'90年代に作られたアングラ・スプラッター映画、そのどちらかを思い浮かべる人が多いことだろう。そもそも戦後の西ドイツでは、ナチスによる戦争犯罪の反省に立つという意味を含め、映画における暴力描写の規制が非常に厳しかった。かつてはホラー映画のビデオやDVDが、アダルト・ビデオ同様の扱いを受けていた時代もある。それゆえ、ある時期までの西ドイツは、いわばホラー映画不毛の地だったのだ。
「ドラキュラの生贄」 Die Schlangengrube und das Pendel (1967)_f0367483_07085720.jpg
その一方、イタリアやスペイン、フランスなど各国との合作によって、国際マーケット向けに数々のB級娯楽映画が作られるようになると、おのずとホラー映画へ出資する機会も増えていく。例えばマリオ・バーヴァ監督の傑作『モデル連続殺人!』('64)は、イタリア・フランス・西ドイツの合作だ。また、'60年代は西ドイツ国内の映画産業が不況によって衰退してしまい、犯罪サスペンスやスパイ・アクション、西部劇にソフトポルノ、そしてホラーなどなど、国外でも稼げるような低予算娯楽映画が積極的に作られるようになる。そうした時期に作られたのが、この『ドラキュラの生贄』だ。
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監督は『シルバー・レイクの待伏せ』('62)や『アパッチ』('63)など、俗にザウアークラウト・ウェスタンと呼ばれる西ドイツ産西部劇で鳴らしたハラルド・ラインル。他にも、戦後復活した犯罪スリラー『怪人マブゼ博士』シリーズや、西ドイツ版ジェームズ・ボンドとも言うべき『ジェリー・コットン』シリーズなど、多彩なジャンルで数々のヒット作を放った西ドイツ映画界を代表する娯楽職人だ。しかし、そんな彼でもホラー映画を手掛けたのは恐らく本作のみ。そこは西ドイツ国内の特殊な事情があったので仕方なかろう。とはいえ、この人にもっとホラー映画を撮る機会があったのなら…と惜しまずにはいられなくなるほど、そしてマリオ・バーヴァやハマー・フィルムの傑作群と比べても全くもって遜色がないくらい、本作の出来栄えは素晴らしいの一言に尽きる。
「ドラキュラの生贄」 Die Schlangengrube und das Pendel (1967)_f0367483_07243833.jpg
一応、原作はエドガー・アラン・ポーの「落とし穴と振り子」ということになっているが、ストーリー的には殆ど関係がない。もちろん、邦題にあるようなドラキュラとも関係ない。クリストファー・リー=ドラキュラという安易な発想なんだろうが、そもそも彼の演じるレギュラ伯爵は吸血鬼じゃないしね。それはともかく、だいたいポーの原作短編小説をそのまま映像化すること自体が無理なわけで、ロジャー・コーマンの『恐怖の振子』('61)やスチュアート・ゴードンの『ペンデュラム/悪魔のふりこ』('91)などの例を見ても分かるように、あくまでも元ネタという程度の扱いで大胆な脚色を施さない限り、劇映画としては成立しづらい。本作の場合もまた然りで、ポーの原作の痕跡が確認できるのは、終盤で主人公ロジャーの処刑用に使われる巨大な振り子状の鎌と、ヒロインのリリアンが迷い込む蛇まみれの落とし穴のみ。それ以外は、ほぼ完全オリジナルのゴシック恐怖譚として仕上げられている。
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やはり最も印象的なのは、悪夢的な幻想美に溢れたビジュアルであろう。赤や青の原色照明を駆使した映像は、マリオ・バーヴァ作品からの影響が極めて濃厚。だいたい、内側に針が敷き詰められた仮面をレギュラ伯爵の顔面に打ち込む冒頭シーンは、バーヴァの代表作『血ぬられた墓標』('60)そのものである。マット・ペイントを駆使したアンデマイ城周辺の禍々しい光景は、さながらロジャー・コーマンのポー映画かハマー・フィルムのゴシック映画かといった雰囲気。ラインル監督がもともとホラー映画に精通していたのかは定かでないが、そでなければ相当な勉強を積んで試行錯誤を重ねたはずだ。
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中でも特に目を奪われるのが、アンデマイ城へ続く一本道を馬車で走るシーン。城へ近づいていくに従って、見るもおぞましい異様な光景が広がっていくのだ。怪しげな霧が立ち込める中、道の両脇に連なる枯れた木々から飛び出す人間の手足や胴体、生首。それがさらに城へ近づくと、今度は木々の枝から人間の首つり死体があちこちにぶら下がっている。なんだかよく分からないけど目茶目茶シュール。まさに地獄への入り口といった感じだ。この辺りもイタリアン・ホラーからの影響が大きいだろう。いずれにせよ、その強烈なインパクトには文句なしで圧倒される。
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悪夢的でシュールと言えば、そのアンデマイ城内部の巨大な美術セットも惚れ惚れとするくらい素晴らしい仕上がりだ。壁中に人間の頭蓋骨がみっちりと埋め込まれた狭い通路、広間や拷問部屋の壁に描かれたピカソの「ゲルニカ」ばりにアバンギャルドな絵画、所狭しと並べられた拷問具の数々など、数多のゴシック・ホラー映画とは一線を画す、一種独特のダーク・ファンタジー的な世界を作り上げている。美術デザインとセット装飾を手掛けたのは、'30年代からドイツ映画界で活躍したガブリエル・ペロン。また、後に『Uボート』('81)や『ネバー・エンディング・ストーリー』('84)などの美術を手掛け、『キャバレー』('72)でオスカーに輝くロルフ・ツェヘットバウアーが共同デザイナーとしてクレジットされている。
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そうそう、本編前半のロケ地となったドイツ南部の都市ローテンブルグの街並みの美しさにも言及しておくべきだろう。ここはドイツ有数の観光地として日本人にも人気だ。12世紀にまで起源を遡る旧市街で撮影されたシーンの数々は、観客を300年以上前の中央ヨーロッパへとタイムスリップさせてくれる。荒涼とした郊外の土地を馬車がひた走るシーンを含め、これら前半の映像にはヘンリク・ガレーンの『プラーグの大学生』('26)を彷彿とさせるものがあり、しっかりとドイツ表現主義の伝統が息づいている。
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ただ、こうしたビジュアルの綿密に計算し尽くされた完成度の高さに比べると、様々な古典ホラーの要素を寄せ集めてきたような脚本の弱さは否めないだろう。良く言えばそつがない。悪く言えばオリジナリティがない。脚本のマンフレッド・R・コーラーは、ジェス・フランコ監督の『女奴隷の復讐』('68)など、主にユーロスパイ映画の脚本家および監督として知られた人だが、良きにつけ悪しきにつけ職人肌の映画人だったのだろう。
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主演は当時西ドイツで大人気だったアメリカ人俳優レックス・バーカーと、ドイツ版ジャーロことクリミ映画のヒロインとして活躍したカリン・ドール。2人はラインル監督の西部劇映画でもたびたび共演している。もともと10代目ターザン俳優としてハリウッドで活躍したバーカーだが、'50年代末に活躍の場をヨーロッパへと移し、フェリーニの『甘い生活』('60)などに出演。ラインル監督の『怪人マブゼの挑戦』('61)で西ドイツを拠点とするようになり、一連の西部劇映画で絶大な人気を誇った。一方のドールはクリミ映画や西部劇映画で引っ張りだことなった後、『007は二度死ぬ』('67)の悪女役ボンド・ガールとしても脚光を浴び、ヒッチコックの『トパーズ』('69)にも起用された。最近では名匠マルガレーテ・フォン・トロッタ監督の『生きうつしのプリマ』('16)に出演し、とても80代とは思えない依然として変わらぬ美貌を披露してくれた。本作でも抜群に美しい。
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そして、さながら血の貴婦人バートリ・エリジェベトの男性版とも呼ぶべきレギュラ伯爵を演じるのは、ご存知我らがドラキュラ俳優クリストファー・リー。日本タイトルに反してヴァンパイア役ではないものの、バートリ・エリジェベトが別名・女吸血鬼だったことを考えると、ある意味で妥当なキャスティングとも言えるだろう。そのリーを時として食ってしまうくらいの怪演を見せるのが、レギュラ伯爵の忠実な執事アナトールを演じているカール・ランゲ。また、実は盗賊の仮の姿だったファビアン牧師を演じているユーゴスラヴィア人俳優ウラジーミル・メーダーの豪快で憎めないキャラも魅力的だ。ちなみに、当時の西ドイツ産西部劇は主にユーゴスラヴィアで撮影されており、多くのユーゴスラヴィア人俳優がドイツ映画にも出演していた。このメーダーもその一人である。
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なお、当時の多くの西ドイツ産B級娯楽映画と同様に、日本では劇場未公開のまま、VHSで発売されたのみだった本作。英米では「The Blood Demon」のタイトルで劇場公開され、その後「The Torture Chamber of Dr. Sadism」や「Castle of the Walking Dead」など、様々なタイトルでテレビ放送やビデオ発売されてきた。これまでに各国でDVD版も発売されているが、そのいずれもが使い古しの上映用フィルムをマスター素材に使用した粗悪品。まともな画質で見ることが出来ないというのが、筆者を含めた熱狂的ファンの大きな悩みだった。本国ドイツでも同じような状況だったのだが、それを覆したのが'06年にLaser Paradeなるメーカーから発売された書籍型ボックス仕様のDVD。フィルム自体の経年劣化は見受けられるものの、過去のDVDと比べれば雲泥の差とも言うべき高画質だ。しかも、劇場公開当時のメイキング映像など特典も盛りだくさん。プレミアが付くことは必至なので、ホラー映画ファンならば廃盤にならぬうちにゲットしておきたい。

評価(5点満点):★★★★★

参考DVD情報(ドイツ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:ドイツ語・英語/字幕:ドイツ語/地域コード:2/時間:80分/発売元:Laser Parade (2006年)
特典:メイキング映像「Ein Grusical wird gedreht」(約3分)/メイキング映像「Neus von Film」(約4分)/ドイツ盤オリジナル劇場予告編/ドイツ語版スーパー8バージョン(約30分)/カリン・ドール音声インタビュー(約40分)/ポスター&スチル・ギャラリー/キャスト&スタッフ・プロフィール集

by nakachan1045 | 2017-04-23 10:53 | 映画 | Comments(0)

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