なかざわひでゆき の毎日が映画三昧
「ナイトホークス」 Nighthawks (1981)

監督:ブルース・マルムース
製作:マーティン・ポル
原案:デヴィッド・シェイバー
ポール・シルバート
脚本:デヴィッド・シェイバー
撮影:ジェームズ・A・コントナー
特殊メイク:ディック・スミス
音楽:キース・エマーソン
出演:シルヴェスター・スタローン
ルトガー・ハウアー
ビリー・D・ウィリアムス
リンゼイ・ワグナー
パーシス・カンバータ
ナイジェル・ダヴェンポート
ヒラリー・トンプソン
ジョー・スピネル
キャサリン・メアリー・スチュワート
アメリカ映画/99分/カラー作品
<あらすじ>
ロンドンのデパートで爆弾テロが発生。犯人ウルフガー(ルトガー・ハウアー)は国際的なテロリストで、冷酷非情な凶悪犯として悪名を馳せていた。しかし、潜伏中に仲間を殺害したことから組織に見限られ、ヨーロッパやアジア、中東、アフリカのテロ組織はどこも彼を雇わなくなってしまう。そこで彼は、仲間の女性テロリスト、シャッカ(パーシス・カンバータ)の協力でパリへ向かい、整形手術で顔を変えて逃亡する。
一方、ニューヨーク市警のディーク・ダシルヴァ刑事(シルヴェスター・スタローン)とマシュー・フォックス刑事(ビリー・ディー・ウィリアムス)は、上司ムナフォ警部補(ジョー・スピネル)の命令で、新設された対テロ特殊部隊ATACに加わることとなる。ウルフガーがニューヨークに潜伏している可能性があるからだ。
指揮官はロンドンから来たピーター・ハートマン(ナイジェル・ダヴェンポート)。フリーランスとなったウルフガーは、世界中のテロ組織へ向けて自らの実力を誇示するため、大規模な破壊工作を行うはずだった。それには、世界金融の中心地ニューヨークが最も理に適った選択肢だったのだ。
しかし、アメリカの警察はテロ対策に慣れておらず守りは脆弱。テロリストのように考え行動しろ、犠牲を恐れて銃の引き金を引くことを躊躇するなと徹底的に教えるハートマンに対し、警察官は人殺しじゃないと強く反発するダシルヴァ刑事だったが、次第にテロリストがそこらの犯罪者とは根本的に全く違う相手だと理解していく。
その頃、偽造パスポートでニューヨークに降り立ったウルフガーは、ディスコでナンパした女性パム(ヒラリー・トンプソン)のアパートで同居し、まずは宣戦布告のため深夜のウォール街でビルを爆破する。しかし、隠し持った武器をパムに見つかってしまい、彼女を殺害。警察の捜査によって足取りを掴まれてしまう。
ディスコでウルフガーを発見したダシルヴァ刑事とフォックス刑事。地下鉄で人質を取って逃走するウルフガーを追跡する2人だったが、ダシルヴァ刑事が人混みでの発砲を躊躇したことから取り逃がしてしまい、フォックス刑事が顔面をナイフで切り付けられ重傷を負ってしまう。
折しも、メトロポリタン美術館では国連の祭典が行われ、各国から要人が集まってきていた。次なるテロの標的になり得ると考えたATACが厳重な警備に当たっていたが、関係者に扮して潜入したシャッカが邪魔者であるハートマンを殺害する。ウルフガーはあえて美術館を狙わなかったのだ。
ほどなくして、観光中の国連大使たちを乗せたロープウェイのリフトがウルフガーとシャッカによってジャックされ、乗客を人質に取った彼らは逃亡用のバスと飛行機を要求。ギリギリのところでシャッカを射殺したものの、またしてもウルフガーを取り逃がしてしまう。そこでダシルヴァ刑事は1枚のメモを発見。そこには彼の元妻アイリーン(リンゼイ・ワグナー)の住所が記されていた…。
出世作『ロッキー』('76)でスターダムにのし上がり、続編の『ロッキー2』('79)も興行収入2億ドルのメガヒット、『勝利への脱出』('80)では巨匠ジョン・ヒューストンとタッグを組むなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだったスタローンの主演作だが、それにも関わらず、いまひとつ客足が伸びずに終わってしまった不遇の作品。久しぶりに見直してみたが、なるほど、当時受けなかった理由は分からなくもない。
というのも、ストーリーがサクサクとスピーディに進んで行くのはいいのだが、人間ドラマがあまりにも希薄過ぎるため、エモーショナルな盛り上がりにまるで欠けているのだ。特にキャラクターの薄っぺらさは如何ともしがたく、感情移入の余地が殆どない。例えば、スタローン扮する主人公ダシルヴァ刑事だが、ヴェトナム戦争で何十人も殺した元帰還兵でありながら、「躊躇することなくテロリストを殺せ」という指揮官の指示に真っ向から反発する。そこには様々な理由や葛藤があるはずなのだが、劇中では全く説明されず、いとも簡単に考えを改めてしまう。これはなんとも不自然だ。
また、ダシルヴァ刑事と元妻アイリーンとのぎくしゃくした関係も、序盤にそれとなく触れられるだけで、その後はうやむやになってしまう。だいたいアイリーンの存在自体が、ラストシーンにおけるビックリ演出の仕掛けとしか機能しておらず、出番も拍子抜けするくらい少ない。というか、実質的にはチョイ役の扱いだ。なぜ当時旬のスターだったリンゼイ・ワグナーをわざわざ起用したのか?と首を傾げるばかりである。
メインとなるアクションやサスペンスにしても、例えば地下鉄での追跡劇やロープウェイでの人質立て籠もりなど、個別に見るとそれぞれ緊張感があってスリリングなのだが、全体的な流れを見ると単にパーツを順序通りに羅列しただけの平坦な印象を受ける。終盤、人質に紛れ込んで逃亡しようとするシャッカが、ダシルヴァの準備した扇動作戦に引っかかって射殺されるわけだが、これに関しても、なぜあのレコーディング音声を聞いたシャッカが激高したのか釈然としない。それまで何があっても冷静沈着だった彼女が取り乱すのだから、それ相当の理由があるはずなのだが、あの音声内容だけではさっぱり分からず。説明不足の多さと単調なストーリー構成。この2つが本作の大きな弱点だと言えよう。
そもそも、本作の脚本は『フレンチ・コネクション』第3弾のためにデヴィッド・シェイバーが書いたものの、ジーン・ハックマンが出演を断ったことから企画が白紙撤回され、シェイバー自身がリライトして単独の作品になったと言われている。ただ、シェイバーと共に原案者としてクレジットされているポール・シルバートによると、彼はまた彼で70年代に欧州を震撼させた南米出身の国際テロリスト、カルロス・ザ・ジャッカルをモデルにしたテロリストとの戦いを描く脚本を70年代後半に書いており、それが巡り巡って本作の原案に使用されたのだという。要するに、『フレンチ・コネクション』用の脚本とシルバートが書いた脚本を合体させたうえで、シェイバーが一つの作品としてまとめ上げたというわけだ。
しかし、撮影に入ってからはトラブル続きだった。当初監督として起用されたのは、ディズニーで『フリーキー・フライデー』('76)や『ブラックホール』('79)を撮っていたゲイリー・ネルソン。ところが、スタローンとネルソン監督の現場での折り合いが悪く、ネルソン監督は撮影開始からほどなくしてクビになってしまう。その決定的な原因となったのが、冒頭とラストのスタローンの女装シーンである。通常、警察のおとり捜査において女性役は女性の警官や刑事が担当するため、男性刑事がわざわざ女装するということは現実的ではない。コメディならいざ知らず、本作はシリアスな犯罪サスペンスだ。その点をネルソン監督が指摘して変更しようとしたところ、直後にプロデューサーからクビを言い渡されたのである。
本作の脚本にはスタローン自身の意向が強く反映されており、実際に彼が直接書き直しを指示していたとも伝えられている。なので恐らく、ネルソン監督では自分の思い描く作品にはならないと感じたスタローンが彼を切った…とも憶測出来るだろう。まあ、こればかりは分からないけどね。ただ、スタローンはスニークプレビューでルトガー・ハウアーの評判が良かったことから、これでは映画の看板である自分の影が薄くなってしまうと危機感を覚え、ファイナル・カットで彼の出番を少なくさせたとも言われているので、あり得なくはないかもしれない。
いずれにせよ、ネルソン監督がクビになったことから、既に監督としての実績のあったスタローンが後を引き継ぐつもりだったのだが、これが全米監督組合の規定に違反していることが判明。ある特定の映画で監督が解雇された場合、既にその作品に関わっている人物が引き継ぐのはNGなのだそうだ。いわば、監督の立場や権利を守るための罰則規定ですな。そこで、スタローンの個人マネージャーでもあった共同プロデューサーのハーブ・ナナスが、知人であるブルース・マルムースをロサンゼルスからニューヨークへ呼び寄せることに。マルムースは『ロッキー』のジョン・G・アヴィルドセンと一緒にオムニバスコメディ『フォア・プレイ』を監督していたので、スタローンにとっても比較的近しい関係だったわけだが、しかしそれ以外に映画監督としての実績はなかった。なので、ぶっちゃけスタローンとしては使い勝手が良かったのだろう。
ちなみに、悪役にルトガー・ハウアーを起用することを提案したのもナナス。以前にポール・ヴァ―ホーヴェン監督の『女王陛下の戦士』('78)を見て以来、主演を務めたハウアーに注目していたのだそうだ。これがハリウッド映画初出演となったハウアーだったが、実は彼もまたスタローンとの間に現場での対立や諍いがあり、後のインタビューで「別に気にしていない」としつつも事実として認めている。まあ、こんなこと言っているとまるでスタローンが悪者みたいだが、しかし彼は興行的にも大きな責任を背負った主演スター。特に本作は彼の存在あってこそなのだから、クリエイティブな面で譲れない部分があったりするのは当たり前だ。自己主張が強くなければ映画界でトップに立つことなど出来まい。
ただ、出来上がった作品を見たスタローンは少なからず落胆することになる。というのも、ストーリーにおいて重要な位置を占める人間ドラマ部分の大半が、編集権を持つ製作元ユニヴァーサルによって容赦なくカットされてしまったのだ。中でも、ダシルヴァ刑事と元妻アイリーンのパートは殆ど削除されてしまったという。アイリーン役を演じたリンゼイ・ワグナーによると、劇中ではセリフで触れられただけのレストランのデートシーン、彼女のアパートでの美しいラブシーン、さらにはクライマックスで夫を抱擁するシーンなどが存在したという。実際、それらのシーンのスチル写真だけは残されている。
また、ダシルヴァ刑事と相棒フォックス刑事が、暴力に関してそれぞれ異なる意見を対立させるシーンも丸ごとカットされてしまった。恐らく、それらのシーンにおいてダシルヴァ刑事の心に抱えたトラウマ、つまりなぜ彼がそこまで暴力を嫌うのかというその核心が描かれていたはずだ。そこがすっぽりと抜けてしまったのは痛い。
さらには、ルトガー・ハウアー扮するウルフガーとシャッカのラブストーリーも伏線としてあったらしい。つまり、ラストに命からがら逃げ伸びたウルフガーがそのまま逃亡せず、わざわざダシルヴァ刑事の元妻アイリーンの命を狙うのは、シャッカを殺されたことの個人的な復讐でもあったのだ。しかし、ファイナルカットの本編を見る限り、その背景は全く分からない。加えて、ウルフガーの最期ももっと壮絶なものになるはずだったらしい。ディック・スミスが特殊メイクを担当し、銃弾でウルフガーの頭が吹っ飛ぶシーンも撮影されていたのだが、結局使用されなかった。
もともとオリジナルカットは2時間半近くあったらしい。まあ、さすがにそれは長すぎだろ!と思うのだが、ここまでユニヴァーサルが大幅に本編を短くしたのは、それなりに理由があったという。どういうことかというと、会社的には本作が大当たりするとは思えなかったのだ。これは後にスタローンやルトガー・ハウアーも証言しているのだが、本作の劇場公開当時、アメリカ人にとってニューヨークが大規模テロの標的になるという設定は現実味が薄かったというのである。歴史を振り返れば、それ以前にニューヨークで起きたテロ事件は少なからずあったはずなのだが、確かにいずれも規模的にはさほど大きくない。ゆえに、人々の記憶から消し去られてしまったのだろう。
とにかく、当時としては荒唐無稽とも受け取られかねない題材だったため、ユニヴァーサルとしてはあまり期待していなかったらしい。そのため、単純明快なアクション映画として売るのが得策と考え、余計なドラマ部分をことごとく削ってしまったというのだ。だが、その約12年後に世界貿易センター爆破事件が起き、さらにその8年後にアメリカ同時多発テロ事件が発生することになるわけだから皮肉なものである。
なお、役者陣ではルトガー・ハウアーの好演もさることながら、ATACの指揮官である英国人ハートマンを演じる名優ナイジェル・ダヴェンポートの貫禄と存在感が素晴らしい。時としてスタローンを完全に食ってしまっている。相棒フォックス役のビリー・ディー・ウィリアム、女テロリストのシャッカ役を演じるパーシス・カンバータは、どちらも当時はそれぞれ『スター・ウォーズ』と『スタートレック』で脚光を浴びていたわけだが、本作では出番が大きく減らされたこともあって、無駄遣いされている感は否めないだろう。
まあ、最大の無駄遣いはアイリーン役のリンゼイ・ワグナーか。彼女は『ペーパーチェイス』('73)でも出番を削られた過去があるので、誠に気の毒としか言いようがない。実は彼女、当時女優業をいったん休養して、歌手活動に本腰を入れるためニューヨークに拠点を移していたのだそうだ。もともと歌手を志していたリンゼイだったが、思いがけず女優としてキャリアの道が開け、テレビ『地上最強の美女バイオニック・ジェミー』でトップスターに。その放送終了を機に初心へ戻ろうと考えたわけだが、エージェントから頼まれて本作へ出演することに。制作サイドのたっての希望だったらしく、オーディションなどは一切なかったという。で、そのままなし崩し的に女優業へ戻り、準備されていた歌手活動はなかったことになってしまったようだ。
スタローン映画のファンとしては、『ロッキー』シリーズの高利貸しガッツォ役でお馴染みのジョー・スピネルが、ここでは上司の警部補を演じているのにも要注目。スタローンとの共演はこれが最後となった。また、『スター・ファイター』('84)や『ナイト・オブ・ザ・コメット』('84)のヒロイン役で注目された女優キャサリン・メアリー・スチュワートが、冒頭のロンドンでの爆破テロに巻き込まれるデパート販売員役で登場。当時彼女はロンドン在住で、得意の英国アクセントを披露したのだが、なぜかL.A.でのポスト・プロダクションの際、他人に吹き替えられてしまったのだそうだ。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間99分/発売元:Shout Factory/Universal Studios
特典:共同製作者ハーブ・ナナスのインタビュー(約16分)/撮影監督ジェームズ・A・コントナーのインタビュー(約25分)/女優リンゼイ・ワグナーのインタビュー(約10分)/女優キャサリン・メアリー・スチュワートのインタビュー(約4分)/脚本家ポール・シルバートのインタビュー(約10分)/技術監修ランディ・ユルゲンセンのインタビュー(約11分)/オリジナル劇場予告編/ラジオ・スポット集/スチル・ギャラリー
by nakachan1045
| 2017-07-17 00:17
| 映画
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