なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「メサイア・オブ・デッド」 Messiah o Evil (1973)

監督:ウィラード・ハイク
グロリア・カッツ
製作:グロリア・カッツ
製作総指揮:アラン・リシェ
脚本:ウィラード・ハイク
グロリア・カッツ
撮影:スティーブン・カッツ
美術:ジャック・フィスク
ジョーン・モシーン
音楽:フィラン・ビショップ
出演:マイケル・グリーア
マリアンナ・ヒル
ロイヤル・ダーノ
イライシャ・クック・ジュニア
ジョイ・バン
アニトラ・フォード
アメリカ映画/90分/カラー作品

<あらすじ>
カリフォルニアの静かな海辺の町ポイント・デューンに若い女性アルレッティ(マリアンナ・ヒル)がやって来る。この町に住む画家の父親ジョセフ(ロイヤル・ダーノ)から連絡が途絶えたのだ。最後に届いた手紙は不可解な内容だった。海沿いにある父の家に到着するも、そこは誰もいないもぬけの殻。残された父親の日記を読むと、なにか得体の知れない悪夢に悩まされていたようだ。
翌日、アルレッティは父親の絵を販売するギャラリーを訪ねるが、オーナーもスタッフも行方を知らない様子だった。しかし、同じく父親の居場所を探しているという男性が町にいると聞き、アルレッティはその人物トム(マイケル・グリーア)が宿泊するモーテルへと向かう。すると、ちょうどトムはチャーリー(イライシャ・クック・ジュニア)という酔っ払いの老人から、地元に伝わる古い伝説を聞いている最中だった。
チャーリーによると、ポイント・デューンでは100年前に「黒い旅人」が現われたことから月が赤くなり、それと同時に住民たちが狂ってしまった。そして、あれからちょうど100年、同じ現象が起きると危惧する。トムは全米各地の奇妙な伝説を収集しており、アルレッティの父親から話を聞きたかっただけで、彼の所在は全く知らないという。落胆してモーテルを後にするアルレッティに、チャーリーは彼女の父親も奴らの一味になってしまった、だから殺して死体を焼かねばならないと警告するのだった。
その晩、トムが愛人のトニー(ジョイ・バン)とローラ(アニトラ・フォード)を連れて、アルレッティが泊まる父親の家へやって来る。チャーリーが謎の死を遂げたことから、モーテルを追い出されてしまったのだ。家の前の浜辺へ出たトムは、離れた岩場に人々が集まって焚火をしているのを目撃する。
急速に親しくなるトムとアルレッティの仲を嫉妬したローラは、1人で家を出て行くことにする。薄気味の悪い運転手(ベニー・ロビンソン)のトラックで町へ送ってもらったローラだが、商店街には誰も歩いていない。ようやく1人の通行人を見つけた彼女は、その女性を追いかけてスーパーへたどり着くと、青白い顔をした人々が肉売り場の生肉を狂ったように貪っていた。ローラの存在に気付いて襲いかかってくる人々。必死に逃げようとするローラだったが、自動ドアが開かず追い詰められ殺されてしまう。
父親の死体が発見されたとの通報を受けて現場へ向かったアルレッティ。本人だと見分けがつかない状態だったが、手の形で父親ではないことに気付く。なぜ警察は嘘をつくのか。ふと空を見上げたアルレッティとトム。月が燃えるように赤かった。
退屈しのぎに映画館へ出かけたトニーは、わらわらと集まってきた大勢の観客に襲われ殺される。迎えに来たトムも群衆に追いかけられたが、辛うじて逃げ延びることが出来た。その頃、アルレッティは自分の体温が異常に下がり、体の感覚が麻痺してしまったことでパニックに陥る。父親の日記に書かれていた症状と全く同じだ。そこへ、別人のように変わってしまった父親が現われ、いますぐここを立ち去るようアルレッティに警告する…。

ジョージ・ルーカス監督の『アメリカン・グラフィティ』('73)やスピルバーグ監督の『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』('84)の脚本を担当し、あの映画史に残る大失敗作『ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀』('86)を監督した夫婦コンビ、ウィラード・ハイクとグロリア・カッツが、まだ駆け出しの頃に手掛けたインディペンデントのホラー映画。これがなんというか、アート映画とエクスプロイテーション映画のちょうど中間に位置するような、実に不思議な味わいを醸し出す名作に仕上がっている。

ゾンビ映画としてカテゴライズされることも多い本作。確かに『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』('69)から影響を受けたような要素は少なからず見られるが、一方でここに出てくる狂暴化した住民たちをゾンビと呼ぶのは無理があるようにも思う。なにしろ、そもそも死者が甦るわけじゃないからね月が赤くなることによって町の住人たちが徐々におかしくなり、やがて人肉食の狂人へと変貌してしまう…というのが基本設定。その背景として「黒い旅人」なる100年前に現れた謎の宣教師の存在も関わっており、どちらかというとオカルト的な要素の方が濃厚だ。ちょうど『悪魔の血族』('70)とか『魔鬼雨』('75)の系譜に属する映画とも言えよう。

その一方で、全体的な作風は限りなくヨーロピアン・ホラーに近い。ユニバーサル・モンスターに代表される古典的なホラー映画を熱愛しつつも、学生時代からヨーロッパのアート映画に傾倒していたというハイク&カッツ夫妻。本作においては、イタリアのミケランジェロ・アントニオーニ監督作品およびフランスのヌーヴェル・ヴァーグ映画を強く意識したらしい。なるほど、そう言われれば確かに雰囲気はアントニオーニっぽい。『情事』('60)や『欲望』('66)あたりを彷彿とさせるような、アンニュイかつ退廃的でスタイリッシュなところとかね。と同時に、鮮烈な照明や色彩の使い方はさながらマリオ・バーヴァといった赴き。モノローグを多用しつつ、ミステリアスでありながら哀切に似たようなものを漂わせる語り口を含め、当時のアメリカン・ホラーとは一線を画す知的なムードは大きな魅力だ。

また、最後までいまひとつよく分からないシュールなストーリーも、いわゆるアート系ホラー映画的な印象を強めるのに一役買っていると言えよう。ヒロインが消息の途絶えた父親を心配してカリフォルニアの海辺町を訪ねたところ、不可解な超常現象によって住民たちが狂人集団と化していた…という大枠のあらすじは理解できるものの、それ以上のディテールは曖昧で漠然としている。そのあやふやさが、一種独特の異次元的かつ悪夢的な世界観を形成している。

ただ、実はこれ、結果的にそうならざるを得ない事情があった。どういうことかというと、事の次第をきちんと論理的に説明するシーンなどが用意されていたものの、それらを撮影する前の段階で資金が底を尽きてしまったというのだ。本作の製作総指揮者として資金の工面をしたアラン・リシェは、もともとハリウッドのタレント・エージェントだった人物。当時『アメリカン・グラフィティ』の脚本家として、ユナイテッド・アーティスツと契約が成立したばかりのハイク&カッツ夫妻も彼の担当だった。映画プロデューサーになるためエージェント会社を独立したリシェは、前途有望な若手映画人である夫妻に初プロデュース作品を任せることにする。それが本作だった。

ところが、最初のラッシュ…つまり粗編集版を仕上げた段階で資金不足に陥り、その後予定していた撮影が全て不可能になってしまったらしい。そこで、監督夫妻はロジャー・コーマンをはじめロサンゼルス中の映画関係者にラッシュを見せて回り、撮影再開に必要な追加資金を集めようとしたものの上手くいかず。そのうえ、早く投資額を回収したい出資者とリシェとの間で法廷争いが勃発してしまい、ポスト・プロダクション作業自体が滞ってしまう。やがて法廷争いに決着がついたことから夫妻はフィルムを制作会社へ引き渡し、限られた映像素材だけで最終的な編集が行われたというわけだ。

そういうわけで、そもそもが説明不足ゆえストーリーが難解なのは当たり前。監督夫妻曰く「これまで本作に関する様々な興味深い解釈を読んできたが、そのどれもが自分たちの意図したものではない」とのこと。そりゃそうだよね、厳密に言えば未完成なのだから。意図が伝わる伝わらない以前の問題だ。とはいえ、映画をどう解釈するかは見る側の勝手だし、それこそが映画鑑賞の醍醐味でもあったりする。だいたい、作り手が映画の全てを把握しているとは限らない。無意識に表現されるものだって絶対にあるはずだ。そう考えると、偶然とはいえ本作が結果的に様々な解釈を許容する作品となったことは、不幸中の幸いとも言えるだろう。

個人的に好きなのは、フーテン娘トニーが深夜の映画館で群衆に襲われるシーンだ。ガラガラの広い映画館でど真ん中の席に座るトニー。しかし、場内が暗くなって予告編が始まると、1人また1人と青白い顔をした観客が入って来る。しかも、なぜかみんなトニーの後部座席にしか座らないので、彼女は周囲の異変に全く気が付かない。で、まるで逃げ道を塞ごうとするかの如く(実際そうなのだけど)両隣に人が座った時点で、「おや?」と思った彼女が恐る恐る振り向くと、自分の席から後ろだけが全部満席という異常な光景が!これがなかなかゾッとするんだよね。

ほかにも、インパクトの強いシーンやカットは多々あり。ありきたりな血みどろ残酷シーンではなく、洗練された悪夢的イメージによって不安や恐怖を徐々に高めていく。そういう面からも、作り手のアート志向の強さが感じられることだろう。カメラマンはグロリア・カッツの弟であるスティーブン・M・カッツ。その後『ブルース・ブラザース』('80)や『ゴッド・アンド・モンスター』('98)などのメジャー映画を手掛けることになる人物だが、姉の映画に関わったのは後にも先にも本作が唯一である。

ヒロインのアルレッティ役には、プレスリー主演の『青春カーニバル』('66)などに出ていたマリアンナ・ヒル。『ゴッドファーザーPARTⅡ』('74)の次男フレド・コルレオーネの悪妻ディアナ役で記憶している映画ファンも多いだろう。どちらかというとお飾り的な役柄の多い美人女優だった彼女にとって、本作は数少ない本格的主演作の一つだ。ちなみに、アルレッティという役名は『天井桟敷の人々』('45)などで有名なフランスの大女優から取られている。

一方、謎めいた紳士トム役のマイケル・グリーアはもともとスタンダップ・コメディアン。ベティ・デイヴィスやジュディ・ガーランドなどの物真似で有名だったらしく、アメリカの芸能界においてゲイであることをカミングアウトした最初期の有名人だった。さらに、ハリウッド黄金期の名脇役ロイヤル・ダーノとイライシャ・クック・ジュニアが登場。また、『残酷全裸女収容所』('72)などのB級映画でお馴染みのセクシー女優アニトラ・フォード、ロジェ・ヴァディム監督の『課外授業』('71)にも出ていた女優ジョイ・バンが、トムの取り巻き美女役で華を添えている。

なお、劇中にてアルレッティの父親ジョセフが家中に描いたモダンアート作品の数々は、美術監督としてクレジットされているジョーン・モシーンによるもの。彼女はグロリア・カッツの学生時代のルームメイトだったそうで、テレンス・マリック監督の『地獄の逃避行』('73)にも参加。また、当時まだ助監督だったウォルター・ヒルが、冒頭で殺される若者役として出演。その彼の首を切る少女を演じているのは、本作で編集助手を務めているビリー・ウェッバーの従姉妹。で、そのビリーはテレンス・マリック監督の『地獄の逃避行』と『天国の日々』('78)の編集を手掛けて有名になり、『ウォリアーズ』('79)を皮切りにウォルター・ヒル監督ご贔屓の編集マンとなった。本作の当時は、お互いに顔を合わせたことなどなかったそうだ。いわゆる不思議な縁というヤツである。

評価(5点満点):★★★★☆
参考DVD情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:2.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:90分/発売元:Code Red Releasing
特典:ウィラード・ハイク監督とグロリア・カッツ監督による音声解説/メイキング・ドキュメンタリー「Remembering Messiah of Evil」(約22分)/女優ジョイ・バンの音声インタビュー(約9分)/美術監督ジョーン・モシーンのインタビュー(約14分)/オリジナル劇場予告編/短編映画「The Bride Stripped Bare」(約8分)/短編映画「Down These Mean Streets」(約14分)
by nakachan1045
| 2017-09-23 02:04
| 映画
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