なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「ファニーマン/血染めのジョーカー」 Funny Man (1994)

監督:サイモン・スプラックリング
製作:ナイジェル・オデル
製作総指揮:スティーブン・パーソンズ
ガレス・ワイリー
脚本:サイモン・スプラックリング
撮影:トム・イングル
美術デザイン:デヴィッド・エンドリー
特殊効果:ニール・ゴートン
ジム・フランシス
音楽:スティーブン・パーソンズ
フランシス・ヘインズ
出演:ティム・ジェームズ
クリストファー・リー
ベニー・ヤング
イングリッド・レイシー
ポーリン・ブラック
マシュー・デヴィット
クリス・ウォーカー
ジョージ・モーテン
ローナ・キャメロン
エド・ビショップ
イギリス映画/93分/カラー作品
<あらすじ>
地下賭博場でポーカー・ゲームに勝った音楽プロデューサー、マックス・テイラー(ベニー・ヤング)は、怪しげな老紳士ケイラム・チャンス(クリストファー・リー)から先祖代々の古い屋敷を譲り受ける。早速、マックスは家族を連れて週末を屋敷で過ごすことにした。
そこでルーレット・ゲームを見つけた彼らは、何気なく回してみたところ「負け」が出てしまい、屋敷の地下でファニーマン(ティム・ジェームズ)と呼ばれるジェスターが甦る。幼い息子ハリー(ハリー・ハード)を血祭りにあげたファニーマンは、さらにアメリカ人の妻ティナ(イングリッド・レイシー)を撲殺し、ティーンの娘ジェイミー(ジェイミー・ハード)を感電させたうえに爆殺。マックスはトランス状態に陥って幻覚に襲われる。
その頃、マックスの弟で売れないミュージシャンのジョニー(マシュー・デヴィット)が、兄一家と合流するため車で屋敷へ向かっていた。その途中で謎めいた黒人女性(ポーリン・ブラック)ら4人のヒッチハイカーを拾う。
ジョニーらは屋敷へ着いたものの、兄一家はどこにも見当たらない。しかし、黒人女性はファニーマンの存在に気付く。彼女はサイキック戦士だったのだ。異次元へのポータルを発見した彼女は、そこからファニーマンの住処へと足を踏み入れた。
一方、地上ではファニーマンがヒッチハイカーのセルマ(ローナ・キャメロン)たちを次々と惨殺。自分の住処へと戻った彼は、臨戦態勢を整えたサイキック戦士との死闘を繰り広げることとなる…。
'80年代から'90年代にかけて、往時の勢いも輝きも失ってしまった英国ホラー。もともとイギリスは映画における性描写や残酷描写の自主規制が厳しく、例えばマリオ・バーヴァ監督の『血ぬられた墓標』('60)も、セルジョ・コルブッチ監督の『続・荒野の用心棒』('66)も、世界中で大ブームを呼んだハードコアポルノ『ディープ・スロート』('72)もイギリスでは上映禁止の憂き目に遭っている。『食人族』('80)や『マニアック』('81)もイギリスでは劇場公開が叶わず、審査をパスしたホラー映画も多くが残酷描写のカットを余儀なくされた。
唯一の抜け道が、当初は審査基準の甘かったビデオ発売なのだが、それも悪名高い社会活動家メアリー・ホワイトハウスや倫理団体の圧力によって厳格化され、多くのホラー映画が「ビデオ・ナスティー」として有害指定されてしまった。結局、ハマーやアミカスといった英国ホラーの殿堂だった映画会社の衰退も、残酷描写がどんどん過激化する世界的な時代の潮流と合わなくなってしまったためだろう。そうした状況もあって、'80年代以降は英国産のホラー映画が激減。まあ、誰だって余計なリスクは負いたくないからね。
とはいえ、それでもクライヴ・バーカー監督の『ヘルレイザー』('87)やハーレイ・コークリス監督の『ドリーム・デーモン』('88)など、僅かな例外と呼ぶべき名作は生まれるのだが、'90年代に入ってバーカーが活動の拠点をアメリカへ移すと、もはや英国ホラーは絶滅寸前のような状態に。ダニー・ボイル監督がゾンビ映画『28日後...』('02)を大ヒットさせるまで、いわば英国ホラー不毛の時代が続くわけだが、そんな時期に突如として現れた英国産ホラー・コメディが本作である。
ただこの映画、ノリは限りなく'80年代ホラーに近い。ストーリーの基本設定はほぼ『グーリーズ』シリーズ、もしくは『トロル』シリーズ。謎めいた古い屋敷を訪れた家族が、ふとしたことでファニーマンなる悪戯な妖怪を蘇らせてしまう。で、そのファニーマン(元ネタはトランプのジョーカーに描かれるジェスター)ってのがまた、キャラ的には『エルム街の悪夢』シリーズのフレディ・クルーガーに似ているのだ。それもシリーズ後期のフレディね。お茶目でふざけた道化者なのだが、やることは極めて残忍。それぞれの犠牲者ごとに、趣向を凝らした殺し方をするのもフレディっぽい。例えば、人形師の男の場合だと、無理矢理やらせた人形劇の最中にパペットが彼の頭に爆弾を仕掛けて爆死。顔半分ふっ飛んだ状態の死体が転がり、一人で観客席にいたファニーマンが嬉しそうに拍手喝采する。狙った犠牲者を異次元に引き込むというのも、フレディが少年少女を悪夢の世界へ引き込むのと同じだ。
その一方、シニカルで毒の効いたブラック・ユーモアのセンスは非常にイギリス的だ。だいたい、主人公ファミリーが揃いも揃って嫌な奴ばっかりというのも悪意がある(笑)。大物音楽プロデューサーの父親はヤク中の軽薄なギョーカイ人だし、アメリカ人の母親は拝金主義のクソビッチ。四六時中ヘッドホンで耳を塞いでゲームばかりしているティーンの娘は周りを舐め切っているし、小学生の息子もクソ生意気でタチの悪いいたずらっ子だ。なので、一家皆殺しになってもまるっきり同情の余地がないのだよね。
コッテコテのベタなギャグばかり連発するのも、恐らくあえて狙ってのことなのだろう。あまりにも下らなさ過ぎて失笑の嵐だけどね。いちいちファニーマンがカメラの向こうの観客に向かってジョークを決めるのも、手法としては正直言ってダサい。このしょーもない感じは、あの悪ノリC級ホラー・コメディ『レプリコーン』シリーズとも相通ずるものがある。なので、賛否両論は大きく分かれるはずだ。この手のバカバカしい映画は個人的に嫌いじゃないが、かといって人様にお勧めするのも憚られる。下手するとむっちゃ怒られるだろうから(笑)。
あと、後半でファニーマンと対決するアフロヘアのサイキック戦士が、'70年代ブラクスプロイテーション映画の女王パム・グリアにソックリなのも個人的にはポイント高い。演じているのは、知る人ぞ知る2トーンスカ・バンド、ザ・セレクターのリード・ボーカリスト、ポーリン・ブラックである。なんとイカしたキャスティング!しかも、右手の中指と薬指の間がパックリと裂けて、そこから銃口が飛び出して機関銃のようにバンバンと撃ちまくるってんだからカッコ良過ぎ。ま、よくよく考えるとアホだけどさ。
そんなナンセンス極まりない映画を作ったのは、これが監督処女作だったサイモン・スプラックリング。もともとザ・クラッシュのライブビデオ制作などに携わったことはあったらしいのだが、映画に関しては学校で学んだこともなければ撮影現場を経験したこともない、全くの素人だったらしい。ただ、友人のナイジェル・オデル(本作のプロデューサー)がロンドンの映画学校で教師をしており、当時たまたま無職で何もすることのなかったサイモンに声をかけ、生徒の卒業制作を手伝わせたことから、自分も映画を撮ってみたい!と感化されてしまったようだ。
ファニーマン役を演じる主演のティム・ジェームズも、もともとサイモンとは古い付き合いの友人。スタッフやキャストの大半は仲間内で集め、みんな基本的にはノーギャラだったそうだ。スペシャル・ゲストにはホラー映画の帝王クリストファー・リー。ギャラの2000ポンドを領収書なしの現金で渡すことを条件に引き受けたのだそうだ。ま、いわゆる脱税ってやつですね。しかも撮影の拘束期間はたったの1日。彼にとっては割のいいアルバイトみたいなもんだったんでしょう。
そんなこんなで、脚本もバジェットもチープでナンセンスなホラー・コメディだが、当時のイギリス映画としてはかなり過激かつぶっ飛んだスプラッター描写は見どころだし、ラストのシュールで悪趣味で皮肉たっぷりな展開などはちょっとケン・ラッセルっぽくて面白い。とりあえず、imdbの評価ほど酷い映画ではありませんよ、とだけは言っておきたい。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ情報(イギリス盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.66:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:93分/発売元:Screenbound Pictures (2017年)
特典:オリジナル劇場予告編/サイモン・スプラックリング監督による音声解説/サイモン・スプラックリング監督のインタビュー(約35分)
by nakachan1045
| 2017-10-08 17:12
| 映画
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