なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「手討」 Teuchi (1963)

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監督:田中徳三
企画:浅井昭三郎
原作:岡本綺堂
脚本:八尋不二
撮影:牧浦地志
美術:西岡善信
衣装考証:上野芳生
音楽:伊福部昭
出演:市川雷蔵
   藤由紀子
   城健三朗(若山富三郎)
   成田純一郎
   中村豊
   眞島千都世
   阿井美千子
   柳永三郎
   加藤嘉
   佐々十郎
   菅井一郎
   小桜純子
   毛利郁子
   細川ちか子
   名和宏
   水原浩一
日本映画/85分/カラー映画




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<あらすじ>
時は徳川幕府第4代将軍・家綱の治世に当たる明暦二年(1656年)。江戸のお浜御殿にて上覧能が催されたものの、その席で旗本の新藤源次郎(城健三郎)が大あくびをしたことから、舞台で舞っていた外様大名・前田加賀守(名和宏)は自らが侮辱されたと受け止め激怒する。
幕府に対して源次郎の厳罰を求める前田加賀守。外様大名の離反を恐れる老中・松平伊豆守(柳永二郎)ら長老たちは、幕府全体のことを考えて源次郎に切腹を命じる。これに憤慨したのは直参旗本の若者たち。彼らに同情する名将・大久保彦左衛門(菅井一郎)は、旗本仲間から信頼の厚い青山播磨(市川雷蔵)を伴って江戸城へ向かい、源次郎に対する恩赦を願い出るものの退けられてしまう。
加賀百万石の屋敷前で切腹して果てた源次郎。播磨は美しく純粋な腰元お菊(藤由紀子)を連れて源次郎の墓参りに訪れる。2人はかねてより互いに惹かれあっていたが、その帰り道に寄った茶屋で結ばれる。
屋敷へ戻った播磨を待ち受けていたのは、近藤登之助(成田純一郎)や沢主水(中村豊)ら旗本の仲間たち。彼らは外様大名のご機嫌ばかりをうかがい、建幕の功労者である旗本をないがしろにする幕府の姿勢に憤りを募らせ、白柄組なる集団を結成したというのだ。
幕府に対する不満を晴らすかのように江戸の町で暴れる白柄組の面々。このままでは旗本の立場が危うくなると心配した播磨は、自らが頭領となることで彼らの暴走を抑えようとする。しかし、ある日ついに最悪の事態が生じてしまった。前田藩の行列と遭遇した白柄組が、相手に襲いかかったのである。
これに激怒した前田加賀守は、島津薩摩守や伊達陸奥守を従えて江戸城へと参上し、白柄組の引き渡しを松平伊豆守に迫る。困った長老たちだったが、牧野備後守(加藤嘉)が名案を思い付く。前田家に縁のある姫君と、白柄組の頭領である播磨を結婚させることで、両者の仲を取り持とうというのだ。
お菊を心から愛する播磨は、はなから縁談を断るつもりだった。しかし、播磨が伯母(細川ちか子)に呼ばれて見合いに出かけたと知ったお菊は、彼の愛情を疑って1枚でも欠ければ手討ものとされる、青山家にとって先祖伝来の家宝である南京絵皿を割ってしまう。播磨の自分に対する気持ちを試そうというのだったが…。
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江戸時代の怪談として有名な『番町皿屋敷』。江戸の旗本・青山播磨守主膳の屋敷に奉公していた下女・菊は、主が大事にしている10枚の皿の内1枚を割ってしまったことから、中指を切り落とされた上に自ら井戸へ身投げして死んでしまう。それ以来、青山家の井戸からは夜ごと「1つ…2つ…3つ…」と皿を数える菊の声が響き渡り、やがて呪われた主膳は没落の道を歩むことになる…というやつだ。
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この理不尽な封建社会の犠牲になった女性の哀しくも恐ろしい物語を、男女の切ない悲恋ドラマとして大胆にアレンジした作品が、『半七捕物帳』で有名な戦前の作家・岡本綺堂が大正5年に発表した戯曲『番町皿屋敷』。その映画化に当たるのが本作である。
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基本的に恋愛時代劇なので、いわゆる怪談的な要素は一切なし。怪談版では厳格な主従関係にあった青山播磨とお菊だが、岡本綺堂の戯曲版では恋人同士だ。お互い純粋に愛し合う2人だが、しかし身分の違いから結ばれることが出来ない。しかも、播磨に縁談の話が持ち上がったことから、お菊は疑心暗鬼にかられる。そこで、彼女は青山家の家宝である皿の1枚を割ることで、播磨にとって御家と自分とどっちが大事なのかを試そうとするわけだ。最初はお菊を許した播磨だったが、現場を目撃した奉公人たちの証言から彼女がわざと皿を割ったと知る。自分の愛情が疑われたことに激怒し、彼女を斬り殺した播磨。以来、彼の心は荒んでしまい、青山家も没落していく。
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…というのは、あくまでも戯曲版の顛末。この映画版ではさらに大幅な脚色が加えられている。まずは、物語の背景として江戸時代初期の社会情勢を巧みに取り入れることで、当時の'60年安保闘争の記憶を如実に投影している点は特筆に値するだろう。徳川家による支配体制を維持するため、外様大名に気を使う江戸幕府は彼らの言いなり。身内でありながら粗末な扱いを受ける旗本の若者たちは不満を募らせ、権力を握る大人たちへの強い反発から徒党を組んで狼藉を働く。外様大名をアメリカ、彼らと幕府の相互関係を日米安保、旗本の若者たちを全学連に置き換えれば、本作の言わんとすることは一目瞭然だ。
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そうした中で、江戸幕府という巨大な組織の歯車として犠牲を強いられるのが青山播磨。外様大名と旗本の対立を治めるため、望まぬ政略結婚を強要されそうになった播磨は、それゆえ愛する女性お菊を手にかけねばならぬ事態へ追い込まれてしまう。既に結婚の約束も交わしていた2人。確かに、播磨の愛情を疑って大義と自分を天秤にかけるお菊の行動は愚かで身勝手だが、しかし立場の弱い庶民の女性ならではの不安と疑心暗鬼は理解できるし、そもそも政略結婚の話が持ち上がらなければ順調に播磨と結ばれていたはずだ。だからこそ、なおのこと武家社会(=戦後体制)の理不尽に運命を狂わされた男女の悲恋が際立つこととなる。
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ただ、戯曲版のほろ苦い結末までをも大きく変えてしまったことには疑問が残る。ネタバレになるので詳しくは触れないが、あまりにも純愛の気高さや美しさを強調し過ぎた結果、せっかく盛り込まれた社会派的なメッセージ性が薄れてしまい、最後の最後で凡庸なメロドラマに落ち着いてしまったように思えるのだ。なんとも惜しいというか勿体ない。
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とはいえ、これだけ重厚で深みのあるストーリーを90分以内に収めてしまうという、近ごろの映画関係者にも少しは見習ってほしい八尋不二(『山椒大夫』『釈迦』『秦・始皇帝』)の脚本は立派だし、スタイリッシュで情緒溢れる田中徳三監督の演出にも風格がある。中でも、切腹を命じられた新藤源次郎が、旗本の仲間たちを大勢従えて前田藩の屋敷門前で果てるシーンの、過剰なまでに芝居がかった演出のカッコ良さは一見の価値あり。当時まだ城健三郎を名乗っていた若山富三郎の、スケールの大きな存在感と芝居もインパクト強烈だ。贅沢な衣装や美術デザインの美しさも、さすが全盛期の大映作品だけのことはある。
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頑固なまでに実直な青木播磨を演じる市川雷蔵の折り目正しい凛々しさもさることながら、可憐なお菊を演じる藤由紀子(後の田宮二郎夫人)の清楚で上品な美しさがとてもいい。まだ時代劇の芝居に慣れていない様子は伺えるものの、とにかく雷蔵と並んで見事なくらい画になるのだ。また、播磨の伯母を演じる民藝女優・細川ちか子の貫禄も凄い。まさに重量級。こういう、出てくるだけで場の空気を一変させるような性格女優というのも、今では絶滅危惧種となってしまった感がある。
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さらに、東映の時代劇やヤクザ映画でお馴染みの悪役俳優・名和宏が、ここでも居丈高でプライドの高い前田加賀守を憎々しげに演じて出色。旗本の若者と心中する花魁役として、ヘビ女優こと毛利郁子がチラリと顔を出しているのも要注目だ。
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評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:1.0ch Dolby Digital/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:85分/発売元:株式会社KADOKAWA
特典:劇場予告編/フォトギャラリー



by nakachan1045 | 2017-10-11 23:55 | 映画 | Comments(0)

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