なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「猟奇!喰人鬼の島」 Antropophagus (1980)

監督:ジョー・ダマート(アリスティデ・マッサチェージ)
製作:オスカル・サンタニエッロ
原案:ルイジ・モンテフィオーリ
アリスティデ・マッサチェージ
脚本:ルイジ・モンテフィオーリ
撮影:エンリコ・ビリビッキ
特殊効果:ジュゼッペ・フェランティ
音楽:マルチェロ・ジョンビーニ
出演:ティサ・ファロー
ジョージ・イーストマン(ルイジ・モンテフィオーリ)
ゾーラ・ケローヴァ
サヴェリオ・ヴァローネ
ヴァネッサ・ステイガー(セレナ・グランディ)
マーガレット・ドネリー(マーガレット・マッザンティーニ)
マルク・ボダン
ボブ・ラーソン
ルビナ・レイ
イタリア映画/90分/カラー作品
<あらすじ>
ギリシャのとある小さな島。海水浴を楽しんでいたドイツ人の若い男女が、漂流するボートから飛び出してきた”何か”によって惨殺されてしまう。それから程なくして、本土ではある事情から島へ渡りたい女性ジュリー(ティサ・ファロー)が、エーゲ海クルーズへ向かおうとしている観光客グループに声をかける。彼女は島に住むフランス人一家の家庭教師を務めているのだが、今はオフ・シーズンのため本土からの定期船が出ていないのだ。
観光客グループのメンバーは、クルーズ船を所有するアンディ(サヴェリオ・ヴァローネ)とその妹キャロル(ゾーラ・ケローヴァ)、妊娠中のマギー(ヴァネッサ・ステイガー)とその夫アーノルド(ボブ・ラーソン)、そしてプレイボーイのダニエル(マルク・ボダン)の5人だ。彼らはジュリーを島へ送り届けることを快諾する。
翌朝、島へと到着した一行。下船の際に足首を捻挫してしまったマギーは、大事を取って船に残ることにした。ひとまず村へ向かったジュリーたちだが、なぜか住民の姿が1人も見えない。すると、とあるアパートの一室で食い殺された人間の死体を発見する。ただ事ではないと悟った彼らはすぐにクルーズ船へと戻るが、船は潮に流されてしまっていた。仕方なく村へ戻る一行。物陰で何者かがマギーを拉致していることに、彼らは全く気付かなかった。
ジュリーの雇い主であるフランス人一家の屋敷で一夜を明かすことにした一行は、ワイン樽の中に隠れていた少女リタ(マーガレット・ドネリー)を発見する。彼女によると村人は何者かに次々と殺されたらしいのだが、生まれつき目が見えないためその正体は分からない。すると、暗闇から姿を現した不気味な男がダニエルを食い殺してしまった。
その翌日、一行は場所を移ることにする。たどり着いたのは、島の所有者であるウォルトマン一家の屋敷だ。現在の主人クラウスは妻子を連れて船旅へ出たまま行方不明となり、その妹ルース(ルビナ・レイ)が家を守っているはずだった。しかし、屋敷へ足を踏み入れた一行の眼前で、ルースが首つり自殺を遂げる。
屋敷内を探索していたジュリーは、ルースの残した日記を発見。それを読んだ彼女は戦慄する。例の人喰い殺人鬼の正体はクラウス(ジョージ・イーストマン)だったのである。船が沈没してボートで海上を漂流していた彼は、空腹のあまり死んだ妻子を食ったせいで狂人になってしまったのだ…。
妊婦の腹から引きずり出した胎児を丸かじりにする…という悪趣味なこと極まりない残酷シーンで物議を醸し、一部の国では上映禁止の憂き目に遭いつつも大ヒットしたという、伝説のイタリア産罰当たりホラー映画である。
そもそも、イタリアの低予算娯楽映画が一大輸出産業だった時代、保守的なハリウッド映画では見ることの出来ない赤裸々な性描写や残酷描写は彼らの十八番だった。マカロニ・ウエスタンやイタリアン・ホラーが大成功した理由の一つもそこにある。しかし、'70年代も後半になるとハリウッド映画にも大胆なセックスとバイオレンスが溢れかえる。そればかりか、『スター・ウォーズ』に始まるSF映画ブームを契機に、ハリウッド映画はどんどんハイテク化していく。予算ばかりか技術もないイタリア映画はとても太刀打ちできなくなったのだ。
そこで彼らがどうしたのかというと、まあ、当然と言えば当然なのかもしれないが、よりショッキングで過激なエロとグロを追求するようになったのである。中でも、ジョー・ダマートやブルーノ・マッテイのようにウルトラ低予算のキワモノ映画を専門にする商売人たちにとって、センセーショナリズムはクズ同然のガラクタ映画を売るために必要不可欠なカギ。もっと不道徳なエロを、もっと血生臭いグロをと創意工夫(?)を凝らした結果、全裸の美熟女をおマ●コから一突きで串刺しにする『Patrick vive Ancora(パトリックはまだ生きている)』('80)や、ゾンビになった息子が母親の乳首を食いちぎる『ゾンビ3』('79)など(どちらも演じているのは元お姫様女優マリアンジェラ・ジョルダーノ)、とんでもない珍品が続々と生み出される。
そんなイタリア産ゲテモノ映画の最盛期に登場した本作。当時はイタリア産カンニバル映画の最盛期でもあったので、喰人鬼を題材にするというのも頷けるところだろう。しかもこの喰人鬼、船の難破で海を漂流した挙句に愛する家族を食ったことから狂人になったという設定なのだが、見た目的にはほぼゾンビである。ロメロ監督の『ゾンビ』('78)に端を発する、世界的なゾンビ映画ブームにもちゃっかり便乗(?)するという商魂逞しさ。さすがはイタリア映画である。
ただし、ここには『食人族』('80)や『ゾンビ』のように骨太な映画屋魂に根差す作家性もなければ、『食人帝国』('80)や『サンゲリア』(79)みたいなプロらしい熟練した職人技もない。なんたって、イタリア映画界きってのゴミ映画監督ジョー・ダマートの仕事だからね。
いかにして予算も時間も手間もかけずに儲かる映画を作るか、それだけを目標にチープなゲテモノ映画を量産し続けたダマート監督。もともとは一流の映画カメラマンだったのだが、監督に転身してからは臆面もなく商業主義に走った。ただし、筆者は基本的にセンセーショナリズムも商業主義も決して悪いとは思わない。センセーショナリズムは映画誕生以来の基本だし、そもそも映画はれっきとしたビジネスである。どちらも映画というメディアの否定できない本質だ。いずれにせよ、その志の低さといかがわしさこそが、あえて言うならばダマート監督の作家性みたいなものであり、未だに一部のコアな映画マニアを魅了し続けるポイントだとも言えよう。
なので、本作も映画作品としてのクオリティは限りなく最低レベルに近い。不安定なカメラワークも、稚拙な特殊メイクも、ブツ切りの編集も、ぎこちない役者の演技も、金をかけず短期間で映画を完成させるために手抜き仕事をした結果であろう。脚本も安直で突っ込みどころが多い。実はこれ、もともとダマート監督が書いたまま放置されていた脚本を、喰人鬼役で出演も兼ねている俳優ルイジ・モンテフィオーリがリライトしたのだそうだ。
マカロニ・ウエスタンの悪役俳優として知られるモンテフィオーリ(役者としては常にジョージ・イーストマン名義を使用)だが、ジュリアーノ・ジェンマと共演した『新・さすらいの用心棒』('72)以来、たびたび脚本も手掛けており、兼ねてより裏方志向も強かったようだ。彼によると、ダマートによるオリジナル脚本はあまりにも出来が悪かったため、「海で遭難した一家の父親が息子の死体を食う」という部分だけを残して、あとは全て書き換えたとのこと。そんな彼も、「この映画が作られた唯一の理由は金儲け。なにか芸術的な志があったわけではない」とハッキリ証言しており、ギリシャでの撮影そのものは楽しかったものの、出来上がった作品は「正直言って好きじゃない」と述べている。
最大の見どころは、冒頭でも述べた胎児丸かじりシーン。撮影には食用ウサギを使用している。ちなみに、このシーンは古代ローマ時代の地下墓地でロケされており、現場には2000年前の古い人骨も残されていた。しかし、ダマート監督は映画的にもっとインパクトが必要だと考え、スタッフに命じてプラスチック製の人骨を用意させ、それを本物の人骨と混ぜて使用した。ところが、引き上げの際にどれが偽物でどれが本物か分からなくなってしまい、とりあえず適当に回収したところ本物の人骨まで持ち帰ってしまったのだそうだ(笑)。なんちゅーいい加減な。
そのほか、可憐な美少女の頭皮を引き剥がした挙句に首を食いちぎったり、喰人鬼がこぼれ落ちた自分の内臓に食らいついたりと、えげつないグロ描写が盛り込まれているものの、特殊メイクの仕上がりがかなり粗雑なせいもあって、今見るとそれほどショッキングでもない。ユルユルなストーリー展開もまるで怖くないしね。ただ、このいかがわしい場末的な安っぽさは、当時のイタリア映画でしか体験できないものでもある。今では高性能なデジタルカメラのおかげで、素人の自主制作映画でもそれなりに見栄え良く仕上がってしまうからね。
主演は大女優ミア・ファローの妹で、名匠ジョン・ファローと名女優マーガレット・サリヴァンを両親に持つティサ・ファロー。その相手役は、戦後イタリア映画を代表する大物俳優の一人であるラフ・ヴァローネの長男サヴェリオ・ヴァローネ。どちらも七光り俳優だ。女優として伸び悩んだティサは本作を最後に女優業を引退し、その後しばらくB級・C級映画に出続けたサヴェリオも偉大な父親には遠く及ばず消え去った。
イタリア産ホラー映画ファンにお馴染みなのが、キャロル役を演じているチェコ人女優のゾーラ・ケローヴァ。『人喰族』('81)ではオッパイにフックを突き刺されて宙吊りにされ、『ザ・リッパー』('82)では股間に割れた酒瓶をぶち込まれるという、いずれもまともじゃない殺され方をした猛者である。しかも、筆者好みのふてぶてしいスケバン顔(笑)。けっこう女優としての寿命は長く、タヴィアーニ兄弟がトルストイをテレビ映画化した『復活』('01)なんかにも出ていた。
また、本作にはその後有名になった女優が2人出ている。まずは、ヴァネッサ・ステイガー名義で妊婦マギー役を演じているセレナ・グランディ。ティント・ブラス監督の文芸風官能映画『ミランダ/悪魔の香り』('85)の主演に起用され、'80年代のイタリア映画を代表するセックス・シンボルとして一時期は大変な売れっ子だった。また、美少女リタ役を演じているマーガレット・ドネリーは、その後マーガレット・マザンティーニの名前でベストセラー作家に。彼女の夫はジュゼッペ・トルナトーレ監督の『明日を夢見て』('95)などに主演した大御所俳優セルジョ・カステリットで、彼が監督と主演を兼ねた『赤いアモーレ』('04)はマーガレットの小説の映画化だ。なお、彼女の父親はイタリア人の作家カルロ・マッザンティーニ、母親はアイルランド人の有名な画家アン・ドネリー。つまり、本作では母方の姓を名乗っていたのである。
そうそう、あと音楽を手掛けているのは『西部悪人伝」('70)や『西部決闘史』('71)などのマカロニ・ウエスタンで、キャッチーかつエキサイティングな音楽スコアを手掛けた名匠マルチェロ・ジョンビーニ。本作ではよっぽど音楽にかける予算が少なかったのであろう、ギリシャ音楽風のエキゾチックなメロディは悪くないのだが、ほぼシンセサイザー一台で演奏されたサウンドは悲しいくらいにチープ。ちなみに、彼の息子ピエルルイジ・ジョンビーニは、日本でも大ヒットしたガゼボの『アイ・ライク・ショパン』やライアン・パリスの『ドルチェ・ヴィータ』などのユーロビートを作曲・プロデュースしたヒットメーカーだ。
なお、イタリア国外マーケットでは興行的に成功したものの、国内では2日間で上映を打ち切る映画館も出るほど不入りだったとのこと。それでも翌年には、同じダマート監督、モンテフィオーリ脚本・出演で、ストーリー的には直接の関連性はない続編『Rosso sangue』('81)が作られ、ドイツでは『食人村 カンニバル』('99)なるリメイク映画も製作されている。
評価(5点満点):★★☆☆☆
参考ブルーレイ情報(イギリス盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.66:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:英語・イタリア語/字幕:英語/地域コード:B/時間:90分/発売元:88 Films
特典:ドキュメンタリー「42nd Street Memories: The Rise nd Fall of America's Most Notorious Block」(約82分)/イタリア語版オープニング(約2分)/オリジナル劇場予告編集(イギリス版・アメリカ版・イタリア版)
by nakachan1045
| 2017-10-12 23:34
| 映画
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