なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「ロールスロイスに銀の銃」 Cotton Comes to Harlem (1970)
監督:オシー・デイヴィス
製作:サミュエル・ゴールドウィン・ジュニア
原作:チェスター・ハイムズ
脚本:アーノルド・パール
オシー・デイヴィス
撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド
衣装デザイン:アンナ・ヒル・ジョンストン
音楽:ギャルト・マクダーモット
出演:ゴッドフリー・ケンブリッジ
レイモン・サン・ジャック
キャルヴィン・ロックハート
J・D・キャノン
ジュディ・ペイス
レッド・フォックス
ジョン・アンダーソン
エミリー・ヤンシー
ルー・ジャコビ
ユージーン・ロシェ
クリーヴォン・リトル
レオナルド・チミノ
アメリカ映画/97分/カラー作品
<あらすじ>
舞台はニューヨークのハーレム。公民権運動の活動家であるディーク・オマーリー牧師(キャルヴィン・ロックハート)は、自身が進める「バック・トゥ・アフリカ」キャンペーンの資金を集めるため、集会を開いて支持者からの投資金を募る。その様子を冷ややかに眺めているのは、ハーレム出身の黒人刑事コンビ、墓掘りジョーンズ(ゴッドフリー・ケンブリッジ)と棺桶ジョンソン(レイモン・サン・ジャック)だ。彼らはオマーリー牧師を詐欺師だと睨んでいた。
すると、そこへトラックに乗った武装集団が現われ、集まった現金87000ドルを奪って逃げ去る。その後を車で追うオマーリー牧師とジョーンズ&ジョンソン。しかし、どういうわけかジョーンズ&ジョンソンの車はオマーリー牧師の車に邪魔されてしまう。そのオマーリー牧師の車も、武装集団のトラックと激突して大破。直前にトラックから転げ落ちたコットン一梱を、クズ拾いの老人アンクル・バッド(レッド・フォックス)が見つけ、廃品回収業者グッドマン(ルー・ジャコビ)に50ドルで売りつける。
姿をくらましたオマーリー牧師を探すジョーンズとジョンソン。その頃、オマーリー牧師は支持者の未亡人メイベル(エミリー・ヤンシー)の部屋に身を隠していた。そこへ、居場所を見つけた愛人のダンサー、アイリス(ジュディ・ペイス)が乗り込んできて大騒ぎに。オマーリー牧師から平手打ちされたアイリスは、裏切られたと思って復讐を誓う。
一方、ギャングのカルフーン(J・D・キャノン)はコットン一梱の行方を捜していた。集会場を襲撃したのは彼の一味だったのだ。アンクル・バッドがコットンをグッドマンに売ったことを知ったカルフーンとオマーリー牧師は、それぞれ手下を連れて倉庫へ忍び込んだところ鉢合わせに。そこへ、ジョーンズとジョンソンが警官隊を率いて乱入し、派手な銃撃戦へと発展してしまう。その結果、オマーリー牧師は逮捕されたものの、カルフーンは逃亡してしまった。
アンクル・バッドがグッドマンのところからコットンを買い戻していたと知ったジョーンズとジョンソンは、彼のあばら家を訪ねたところアンクル・バッドの姿もコットンもなく、現場には血痕だけが残されていた。2人は老人が殺され、コットンが何者かに奪われたと見る。
アイリスの証言によって、オマーリー牧師を詐欺の疑いで留置所にぶち込んだ警察。ところが、彼の支持者や人権活動家が警察署を取り囲んで抗議活動を繰り広げたことから、ブライス署長(ジョン・アンダーソン)はやむなくオマーリー牧師を釈放する。すると、その直後にオマーリーとアイリスはカルフーンに誘拐されてしまった。
実は、オマーリー牧師とカルフーンは昔のムショ仲間で、「バック・トゥ・アフリカ」キャンペーン詐欺はカルフーンの発案だった。つまり、彼らはグルだったのだが、双方が金を独り占めしようとして仲間割れしたのだ。そうと気付いたジョーンズとジョンソンは、カルフーンたちの足取りを追うのだったが…。
いわゆるブラクスプロイテーション映画、日本で言うところのブラック・ムービーの元祖である。あれ?それってメルヴィン・ヴァン・ピーブルズの『スウィート・スウィート・バック』('71)なのでは?とか、リチャード・ラウンドツリーの『黒いジャガー』('71)が第一号だって聞いたけど?という声も上がりそうだが、しかし本作が劇場公開されたのは双方に先駆けること1年前の'70年。黒人による黒人のための低予算アクション映画、サントラにはジャズファンクやリズム&ブルースが満載、ハーレムを舞台に当時のリアルなブラック・カルチャーが描かれる。紛れもないソウル・シネマだ。
メルバ・ムーアの歌うメロウ&グルーヴィーな主題歌「Ain't Now, But It's Gonna Be」をバックに、ハーレムの雑多な日常風景が映し出されるオープニングからシビレまくる。主人公はハーレムの暴れん坊黒人刑事コンビ、墓掘りジョーンズと棺桶ジョンソン。だいたいネーミングのセンスがイカしてますな。原作はアメリカの黒人作家チェスター・ハイムズがフランスで出版したベストセラー犯罪小説「墓掘りジョーンズと棺桶ジョンソン」シリーズの7作目『ロールスロイスに銀の銃』。同シリーズは他にも1作目の『イマベルへの愛』が『レイジ・イン・ハーレム』('91)として映画化されている。
で、ハーレムの治安を守るジョーンズとジョンソンが睨みを利かせるのは、「バック・トゥ・アフリカ」キャンペーンを推進する公民権運動活動家のオマーリー牧師。この「バック・トゥ・アフリカ」キャンペーンとは何かというと、貧しい黒人たちが金を出し合って大きな客船を買い、みんなで先祖の故郷アフリカ大陸へ帰ろうというもの。これは全くのフィクションではなく、実際に19世紀からアフリカ系アメリカ人たちの間で提唱されてきた社会運動が下敷きとしてある。白人社会のアメリカで差別され虐げられ搾取される生活なんかもう御免だ!アフリカへ戻って自由になろう!というわけだ。
しかし、このオマーリー牧師。実は前科者の詐欺師だった。刑務所で神の啓示を受けて生まれ変わったと言っているが、生まれ育ったハーレムで長いこと犯罪と向き合ってきたジョーンズとジョンソンの目は騙せない。確かに俺たちは白人から散々ひどい目に遭ってきたが、しかし一番許せないのは立場の弱い同胞から平気で搾取する黒人どもだ。この街にはそんな奴らがゴロゴロしている。そういう犯罪者どもからハーレムの善良な人々を守るのが俺たちの仕事だ!というのが、ジョーンズとジョンソンの一貫したポリシーなのである。
その一方で、地元の白人にとってオマーリー牧師は半ばアンタッチャブルな存在だ。政治家や有力者たちは彼の活動を支援し、警察のブライス署長や上司は彼に捜査の手が及ぶことを恐れる。なぜなら、人種差別主義者だと思われたくないから。世間の反発を招いて余計な騒ぎを起こしたくないから。そして、彼のやっていることは崇高な社会奉仕だから。要するに、ただの偽善者なのである。それは同時に、ポリティカル・コレクトネスに配慮し過ぎること、社会的マイノリティを美化し過ぎること、理想や正義を盲目的に過大評価することの危険性も示唆している。黒人も白人も所詮はただの人間、いい奴も悪い奴もいて当たり前。それこそが平等というものだろう。
これが長編処女作だった監督のオシー・デイヴィスは、シドニー・ポワチエと同世代の黒人俳優。日本ではスパイク・リー作品によく出てくるお爺ちゃんという印象だが、実はマーティン・ルーサー・キング牧師の仲間としてワシントン大行進のオーガナイズや司会役を務め、マルコムXとも親しい友人だったバリバリの公民権活動家だった。ハレームの名もなき黒人庶民の怒りや不満を代弁しつつも、刑事コンビの目を通して当時のブラック・パワー・ムーブメントの熱狂的な盛り上がりを一歩引いて見つめる本作の視点には、恐らく活動家として様々な負の側面も見てきた監督自身の経験が色濃く反映されていると言えよう。「ブラック・イズ・ビューティフル」などの合言葉を皮肉交じりでセリフに織り交ぜている辺りにも、そうしたデイヴィス監督の自己批判精神を見て取ることが出来る。
とはいえ、基本的にはセックスとバイオレンスとユーモアをたっぷり盛り込んだノリノリの痛快刑事アクション。黒人のステレオタイプを皮肉ったブラック・ジョークもピリッと効いている。中でも、ハーレムの賑やかでワイルドで猥雑な日常を生き生きと活写した躍動感溢れる演出は見事で、おのずとテンションも最高潮に盛り上がっていく。骨太なメッセージ性の高さもさることながら、B級プログラム・ピクチャーとしても申し分のない出来栄えだ。
また、全編に散りばめられたファッションや音楽などのトレンドカルチャーもめちゃくちゃオシャレでクール。当時は西アフリカの民族衣装をモダンにアレンジしたファッションが流行していたが、そのカラフルで鮮烈な色彩やエレガントなデザインは今見ても十分に新鮮だ。ミュージカル『ヘアー』で有名な作曲家ギャルト・マクダーモットによるファンキーな音楽スコアや挿入歌にもワクワクさせられる。先述したメルバ・ムーアの歌う主題歌など鳥肌ものだ。
主演はビル・コスビーと並ぶ黒人コメディアンの草分け的存在ゴッドフリー・ケンブリッジと、国民的西部劇ドラマ『ローハイド』('59~65)で親しまれたレイモン・サン・ジャック。この2人は続編『ハーレム愚連隊』('72)でもコンビを組んだ。オマーリー牧師役には、マイク・サーン監督の『ジョアンナ』('68)と『マイラ』('70)で当時注目されていたキャルヴィン・ロックハート。その愛人で鉄火肌のダンサー、アイリスを演じるジュディ・ペイスはテレビ出身の女優だが、実にエレガントでゴージャスで美しい。
そのほか、テレビ『警部マクロード』のJ・D・キャノン、エディ・マーフィーやクリス・ロックにも影響を与えた伝説的コメディアンのレッド・フォックス、『わが心のボルチモア』('90)で有名なルー・ジャコビ、その後メル・ブルックスの『ブレージングサドル』('74)に主演するクリーヴォン・リトル、マイケル・チミノ監督の父親で『ドラキュリアン』('87)や『月の輝く夜に』('88)が印象深いレオナルド・チミノなど、お馴染みのバイプレイヤーたちが顔を揃えている。
評価(5点満点):★★★★☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/言語:2.0ch DTS-HD Master Audio/音声:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:97分/発売元:Kino Lorber/20th Century Fox
特典:オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2017-12-02 05:04
| 映画
|
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