なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「野獣都市」 City of Beasts (1970)
監督:福田純
製作:福田純
馬場和夫
原作:大藪春彦
脚本:石松愛弘
撮影:逢沢譲
音楽:佐藤勝
主題歌:ザ・ブルーベル・シンガーズ
出演:黒沢年男
三国連太郎
高橋紀子
岡田可愛
伊藤孝雄
小松方正
青木義朗
草野大悟
清水将夫
大滝秀治
北竜二
下條正巳
菅井きん
日本映画/88分/カラー作品
<あらすじ>
大学の工学部に通う学生・有間靖治(黒沢年男)は、両親に死に別れた天涯孤独の若者。学内で吹き荒れる学生運動に全く馴染めず、心を許す友達もいなかった。熱烈なガンマニアの彼は、都内の銃砲店でアルバイトをして学費を稼いでいたが、ある時、店の常連である大手製薬会社社長・石浜雄作(三国連太郎)に銃の腕前を買われ、運転手兼ボディガードとして雇われることになる。
その石浜には黒い過去があった。戦時中、仲間の岩野(小松方正)と麻薬の密売で大儲けをしたのだ。その汚れた金を元手に一代で製薬会社を成功させた石浜だったが、そんな彼の前に困窮した岩野が現われる。金をよこさねば過去を暴くというのだ。仕方なく取引に応じた石浜は、有間を伴って受け渡し現場へ向かうものの、そこには岩野と組んだ暴力団の殺し屋が待ち構えていた。危険を察した有間は相手を皆殺しにする。
その翌日、父親の安否を心配した岩野の娘みゆき(岡田可愛)が会社に石浜を訪ねる。みゆきは父親の悪事を全く知らない様子だったが、念のため有間がその後を尾行して動向を監視していたところ、やはりみゆきの身辺を探っていた暴力団に捕らえられてしまう。
暴力団の暴行にも口を割らなかった有間だが、今度は製薬会社の工場が爆破され、株が大暴落してしまう。困った石浜は大手商社の社長・市原(清水将夫)に助けを求める。石浜の一人娘・美津子(高橋紀子)と市原の息子・信之(伊藤孝雄)は政略結婚が決まっていたのだ。
やがて市原の会社と石浜の会社の業務提携が発表され、おかげで株価は奇跡のV字回復を遂げる。ところが、何者かが製薬会社の株を大量に購入していることが判明。会社乗っ取りだった。再び市原に株買戻しの資金援助を願い出る石浜だったが、にべもなく断られてしまう。
そこで、美津子と結婚した信之の羽振りが妙に良いことに気付いた石浜と有間は、信之が株の買い占めで大儲けしたことを知る。信之を拉致して問い詰める2人。すると、株買い占めは市原の差し金であることが判明。怒った石浜は株券と信之の交換取引を市原に打診するが、待ち合わせ時間に現れたのは美津子を人質にした暴力団だった。
一人娘か株券か、二者択一を迫られる石浜。信之を解放するふりをして美津子を救い出そうとした石浜だったが、逆に自分が拉致されてしまう。逆上した有間は暴力団の組長・花谷(大滝秀治)を拉致し、石浜を解放させるものの、既に石浜は廃人同然に成り果てていた。
信之の口から全ての黒幕が国会議員・金森(北竜二)であることを聞き出した有間は、ライフルを片手に金森の邸宅へと乗り込んでいく…。
『野獣死すべし』や『蘇える金狼』などでお馴染み、作家・大藪春彦のハードボイルド小説の映画化である。いわゆる東宝ニューアクション・シリーズの一本でもあり、フレンチ・ノワールを彷彿とさせるスタイリッシュな映像美やダークなストーリーは魅力だが、しかしそれ以前の『狙撃』('68)や『弾痕』('69)、『豹(ジャガー)は走った』('70)などの骨太な傑作・名作に比べると、全体的に甘いという印象は否めないかもしれない。
ストーリーの主軸となるのは、天涯孤独で寡黙なガンマニアの若者・有間と、暗い過去のある中年実業家・石浜の、ある種の同性愛的な匂いすら漂わせる主従関係だ。お互いに年齢も境遇も違えど、どこか似たところのある者同士。どちらもクールで醒めた現実主義者で、モラルに反するようなことも平然と行うが、しかしだからといって必ずしも悪人というわけではない。目的のためなら、時として卑劣な手段を選ぶことも躊躇しない…というだけだ。
そんな2人は、はじめこそ半ば利害関係で結ばれていたが、やがて互いに親子にも似た、いや、恐らくそれ以上の深い情を通わせていく。母親を幼くして亡くし、父親に至っては存在すら知らない有間にとって、初めて自分に目をかけ才能を認めてくれた石浜は、あてどなくさまよう人生を導いてくれる父親そのものだ。一方、たった一人で弱肉強食の世の中を渡り歩き会社を大きくした石浜にとって、孤独と野心を胸に秘めた青年・有間は若き日の自分のようであり、望んでも恵まれなかった息子=後継者のような存在。そんな彼らが会社を巡る権力の邪まな陰謀工作に体を張って立ち向かっていく…というのが、本作の基本的な構造である。
そこに絡むのが、石浜の一人娘・美津子だ。父親の野心のために政略結婚させられる彼女は、自分を道具のようにしか扱わない石浜に対して常に憎悪の目を向け、そんな父親にどこまでも忠実な有間に対しても軽蔑の眼差しを向けている。しかし、人質交換で究極の選択を迫られた父親が会社ではなく自分を選んだ時、ようやく父親の本当の気持ちを悟るに至り、有間を手助けして壮絶な復讐に挑んでいく。ハードボイルドの装いをまといつつ、本質的にはドロドロとした情念の世界。そのエモーショナルなカタルシスこそが本作の面白さだと言えよう。
ただ、そんな主人公たちに襲いかかる政治家や企業、暴力団の絡んだ陰謀の構造は、残念ながら非合理的で荒唐無稽だ。黒幕の国会議員・金森にとってはリスクのわりに利益が大きいとは思えないし、その下で動く商社社長・市原にとっても息子の義理の父親・石浜は陥れるよりも仲間に引き入れた方が得策なはずだ。そもそも関係の距離が近すぎるので、遅かれ早かれバレない方がおかしい。アジトの場所を知られたまま捕虜を解放する暴力団も抜けてる。いろいろな意味で現実味に乏しいのだ。
監督は『若大将』シリーズや『ゴジラ』シリーズ、『コント55号』シリーズの福田純。東宝らしい健全で明るい娯楽映画を数多く手がけた職人監督だ。『100発100中』('65)シリーズでは、フレンチ・スパイ・コメディを彷彿とさせるポップな映像感覚が光っていたが、その一方で笑いのセンスには吉本喜劇的なコテコテ感が抜けず、どこかチグハグな印象を受けた。そうした不安定感は本作にも共通するかもしれない。なんというか、いまひとつハードボイルドになりきれていないのだ。確かにビジュアル的にはスタイリッシュな洋画風だが、中身は任侠映画的な義理人情の愛憎ドラマ。そこが本作の魅力でもあり欠点でもある。
音楽にも同様のことが言える。冒頭からラテン・ジャズ・タッチのクールでグルーヴィ―な音楽スコアが痺れるくらいカッコいいのだけど、オープニング・タイトルとエンディングに流れるテーマ曲は一転して泥臭い歌謡フォーク。え?とその大きなギャップに拍子抜けする。音楽は黒澤映画や岡本喜八映画、日活の裕次郎映画でお馴染みの巨匠・佐藤勝。少なくとも、本編スコアにおけるヒップなお洒落センスは、同時代のイギリス映画やイタリア映画にも全然負けていない。
主演は黒沢年男と三国連太郎。ニューロティックで怪物的な三国の存在感はさすがといった感じだが、孤独や哀しみを内に秘めたストイックな若者を体現する黒沢もまたカッコいい。彼の西洋的なバタ臭さが、ビジュアルの世界観に素晴らしくマッチしている。こういうヨーロッパ映画風の映像に難なく映える日本人俳優はとても貴重だ。また、石浜の娘・美津子を演じている高橋紀子も、フランス人形的な美しさが存分に活かされている。
そのほか、小津安二郎作品でもお馴染みの北竜二や『ゲバゲバ90分』も懐かしい小松方正、日本の国宝的脇役俳優・大滝秀治に黒澤映画の常連組・清水将夫などなど、アクの強い名優たちがガッツリと脇を固める。当時テレビの『サインはV』でブレイクしていた岡田可愛もメインクラスでクレジットされているものの、実質的には客寄せパンダ的な扱いで、大して本筋に絡むこともなくあっという間に消えてしまう。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:88分/発売元:東宝ビデオ
特典:劇場予告編/銃器解説/封入解説書
by nakachan1045
| 2017-12-09 00:23
| 映画
|
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