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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「ジキルとハイド」 Edge of Sanity (1989)

「ジキルとハイド」 Edge of Sanity  (1989)_f0367483_20375995.jpg
監督:ジェラール・キコワーヌ
製作:エドワード・シモンズ
   ハリー・アラン・タワーズ
脚本:J・P・フェリックス
   ロン・レイリー
撮影:トニー・スプラトリング
美術デザイン:ジャン・シャルル・デデュー
音楽:フレデリック・タルゴーン
出演:アンソニー・パーキンス
   グリニス・バーバー
   サラ・モール=ソープ
   デヴィッド・ロッジ
   ベン・コール
   リサ・デイヴィス
   ジル・メルフォード
   クローディア・ウディ
アメリカ映画/91分/カラー作品




<あらすじ>
1880年代のロンドン。若く美しい妻エリザベス(グリニス・バーバー)と暮らすヘンリー・ジキル博士(アンソニー・パーキンス)は、有能な医者として人々から尊敬される存在だったが、幼い頃に父親とその愛人のセックスを覗き見したところを捕まって折檻されたことがトラウマとなり、秘かに歪んだ性的欲望を抱えていた。
そんなある日、患者の麻酔薬として使用しているコカインに誤ってエーテルを混ぜてしまい、その際に発生したガスを吸引して気を失ったジキル博士。目を覚ました彼は、サディスティックな別人格ジャック・ハイド氏に変貌してしまう。夜のロンドンへと飛び出したハイド氏は、街角に立つ娼婦を残虐な方法で殺害する。
朝になって正気を取り戻したジキル博士。昨夜の記憶はおぼろげだが、女性をなぶり殺しにした際の快感と開放感を忘れられず、それ以来、夜な夜な実験研究のためと妻に嘘をついて家を抜け出し、病院の仕事場でガスを吸ってはハイド氏に変貌。次々と娼婦を殺していく。人々は犯人を切り裂きジャックと呼んで恐れおののいた。
ある晩のこと、呼び込みの若者ジョニー(ベン・コール)に誘われてホワイト・チャペルの怪しげな店へ入ったハイド氏、そこで父親の愛人と瓜二つの娼婦スザンナ(サラ・モール=ソープ)と知り合う。それ以来、スザンナと会うために店へ通い詰めるようになったハイド氏。彼はホワイト・チャペルでドラッグも売りさばくようになる。
一方、夫の様子がおかしいことを心配したエリザベスは、ボランティアとして働く教会で娼婦たちに情報を聞き、ホワイト・チャペルの街角でハイド氏を見つける。すぐにそれが夫のジキル博士だと気付いた彼女は、こっそりと彼の後を尾行するのだったが…。


'80年代の後半、まるでかつてのロジャー・コーマンのように、エドガー・アラン・ポー作品をはじめとする古典怪奇文学の映画化を、立て続けに幾つも製作したイギリス出身のベテラン・プロデューサー、ハリー・アラン・タワーズ。いずれも超低予算の安っぽいB級映画だったし、'80年代当時でも古めかしいような題材ばかりだったが、しかし同時に、その古き良きドライブイン・シアター全盛期を彷彿とさせる時代錯誤感が大きな魅力でもあった。懐かしい往年の名優も結構出ていたしね。そんなハリー・アラン・タワーズ印のクラシック風ホラー映画のひとつが本作だ。

内容はずばり、『ジキル博士とハイド氏』×切り裂きジャック。本編でロバート・ルイス・スティーブンソンのクレジットがないことからも察せられるように、小説版からはキャラクター名や設定の一部を拝借しているだけで、ストーリー的な関連性はほぼないに等しい。まあ、だからといってスティーブンソンの名前を明記しなくて良いわけはないのだろうけど。少なくとも、本来ならインスパイア元としてクレジットには入れなくてはならないはずだ。

それはともかくとして、切り裂きジャックの正体はハイド氏に変貌したジキル博士だった、という仮説(?)に基づいた本作。幼い頃の性的なトラウマが原因で、女性を暴力的に凌辱したいという秘かな願望を抱えていたジキル博士が、たまたま薬品の化学反応によって発生したガスを吸い込んだことから、長年隠れていた別人格ハイド氏を解き放ってしまう…というわけである。

で、それ以降はロンドンの貧民街ホワイト・チャペルに夜な夜な繰り出すハイド氏のご乱行と娼婦殺しが描かれていく。まあ、安直と言えば安直なストーリーだが、エロ&グロ満載の19世紀版スラッシャー映画として見れば大して気にもなるまい。ロンドンでロケされていることもあって、それなりにクラシカルな雰囲気は出ているものの、時代考証は随分といい加減だ。

ただ、まるでケン・ラッセル作品を彷彿とさせるような、ジェラール・キコワーヌ監督のアバンギャルドでパンクな演出は面白い。それこそ、『肉体の悪魔』('71)と『クライム・オブ・パッション』('84)を足して『白蛇伝説』('88)で割ったような感じ。ハイド氏が足繁く通う怪しげなナイトクラブの、ケバケバしくもスタイリッシュで変態チックな内装デザインなんか、それこそデヴィッド・リンチの『ブルー・ベルベット』('85)や『ツイン・ピークス』('90)に出てきてもおかしくない。娼婦たちの着ているドレスが、どこからどう見たって'80年代風なのも、この世界観ではむしろ自然に思えてしまうから不思議だ。

キコワーヌ監督はもともとフレンチ・ポルノの出身。それもハードコアである。そんな彼がどういう流れでそうなったのかは定かでないが、本作の当時はハリー・アラン・タワーズのもとでB級娯楽映画の演出を任されていた。筆者は本作と『エドガー・アラン・ポー/早すぎた埋葬』('90)の2本しか見たことないのだが、野心的なエクスプロイテーション映画作家としてなかなかユニークなセンスを持った人だと思う。まあ、良識的な観客からは眉をひそめられるだろうけど。

主演はノーマン・ベイツことアンソニー・パーキンス。もうね、この手の変態サイコパス役はお手のものですよ。しかも、本作ではやり過ぎか!ってなくらいにノリノリで狂いまくり。晩年の代表作と呼んでもいいだろう。娼婦スザンナ役のサラ・モール=ソープも大熱演。この人、当時のハリー・アラン・タワーズ映画でたびたびヒロインを演じていて、もしかすると彼の愛人だったのではないかとも推測する(実際、それ以前のキャリアは謎)のだが、普段の「隣の女の子」的イメージを投げうったアバズレ美女ぶりが痛快だ。

ジキル博士夫人エリザベス役には、イギリスの人気テレビ女優グリニス・バーバー。どちらかというと地味な女優さんだったが、ヴェラ・マイルズにも通じる良妻賢母的な持ち味は役柄に合っている。また、カナダ産ソフトポルノ『JOY ジョイ』('83)に主演し、第二のシルヴィア・クリステル的な売り出され方をした女優クローディア・ウディが、ナイトクラブで働く娼婦の一人として顔を出している。

評価(5点満点):★★★☆☆
「ジキルとハイド」 Edge of Sanity  (1989)_f0367483_22452080.jpg
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:91分/発売元:Scream Factory/MGM
特典:オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2017-12-10 00:39 | 映画 | Comments(0)

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