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なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「美女の皮をはぐ男」 Gritos en la noche aka The Awful Dr. Orlof(1962)

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監督:ジェス・フランコ
製作:レオ・ラックス
   マリウス・レスール
   セルジュ・ニューマン
脚本:ジェス・フランコ
撮影:ゴドフレード・パチェコ
音楽:ホセ・パガン
   アントニオ・ラミレス・アンヘル
出演:ハワード・ヴァーノン
   ディアナ・ロリス
   コンラド・サン・マルティン
   ペルラ・クリスタル
   メアリー・シルヴァース(マリア・シルヴァ)
   リカルド・ヴァレ
   マラ・ラソ
   ヴェナンチオ・ムロ
   フェリックス・ダフォース
   マリサ・パレデス
スペイン・フランス合作/87分/モノクロ作品




<あらすじ>
20世紀初頭のフランス。立て続けに若い女性が謎の失踪を遂げていた。いずれも身持ちの悪い女性ばかりだったため、当初は警察も重要視していなかったが、しかし3カ月の間に5人の女性が同じような状況で消えたとなっては、もはや事件性を疑わないわけにはいかない。休暇先で知り合った人気バレリーナ、ワンダ(ディアナ・ロリス)と婚約したタネール警部(コンラド・サン・マルティン)は、晴れやかな気持ちで職場復帰したところ、女性連続失踪事件の捜査指揮を任されることとなった。
その犯人は、元刑務所監察医のオーロフ博士(ハワード・ヴァーノン)。死刑囚の殺人犯モルフォ(リカルド・ヴァレ)を助けて手懐けた彼は、盲目だが怪力の彼を使って女性たちを次々と拉致していた。その理由は、火事で顔が焼けただれてしまった一人娘メリッサ(ディアナ・ロリス二役)を元の美しい姿に戻すため。被害者の皮膚をはぎ取って、娘に移植手術を施していたのだ。
しかし、手術は失敗の連続。今宵も酒場の歌手ダニー(マリア・シルヴァ)を誘い出して殺すが、やはり移植手術は上手くいかなかった。殺してしまったからいけないのだ。そう考えたオーロフ博士は、ダニーと同じ酒場で働く歌手イルマ(マラ・ラソ)を誘拐して、生きたまま顔の皮をはいで移植。しばらく様子を見ることにする。しかし、博士の度重なる悪事に耐えられなくなった愛人アルネ(ペルラ・クリスタル)と口論になり、彼女を殺害してしまった。
一方、タネール警部は目撃者たちの証言から犯人が2人組であることに気付き、彼らの似顔絵を描かせて捜査を進めるが、なかなか上手くいかない。そんなある晩、オーロフ博士は馬車でタネール警部を待つワンダを見かけ、娘メリッサと瓜二つであることに驚く。ワンダもオーロフ博士の異様な風貌が犯人の似顔絵に似ていると気付いた。そこで、彼女はタネール警部に秘密で夜の街へ繰り出し、オーロフ博士の行方を捜すことにする。
酒場でオーロフ博士を見つけて接近するワンダ。花売りの老婆にタネール警部宛の手紙を渡したものの、その直後にオーロフ博士によって誘拐されてしまう。その頃、犠牲者のネックレスを拾った釣り人ジャノー(ヴェナンチオ・ムロ)の証言から、オーロフ博士に疑いの目を向けていたタネール警部は、ワンダからの手紙を読んで彼女に危険が迫っていることを知るのだが…。

スペインが誇るカルト映画の巨匠ジェス・フランコ監督の出世作であり、現在まで脈々と伝統を受け継ぐスパニッシュ・ホラーの原点でもある。ジェス・フランコといえばゲテモノ。20以上にものぼる変名を使い分けた彼は、70年余りのキャリアで200本近くのエログロ映画を低予算で撮りまくった。しかし、もともとはパリのソルボンヌ大学で映画を学んだインテリで、ジャズミュージシャンや小説家などの顔を持つ多才な人物。当初はミケランジェロ・アントニオーニのような芸術映画作家を志していたというが、実際に表向きはチープなポルノやホラーだけど中身はアバンギャルドなアート映画だったりすることも少なくない。ま、一方で本当にしょうもないゴミクズみたいな映画も多いんだけどね。いずれにせよ、本作はそんな彼が芸術映画の道から足を踏み外す(?)きっかけになった映画でもある。

火事で顔に火傷を負った愛娘の美貌を取り戻すため、盲目の醜い男を手下に使って若い美女を次々とさらっては殺し、皮膚の移植手術をするマッド・サイエンティストの物語。これはジョルジュ・フランジュ監督の名作『顔のない眼』に酷似しており、しばしば同作の亜流映画だと呼ばれている。なるほど、手下が博士の愛人の中年女性ではなく醜い盲目の男という違いこそあれ、大まかな設定はほぼ一緒だ。ただし、フランコ監督自身は様々なインタビューで『顔のない眼』からの影響を否定している。フランジュ監督とは面識があったものの、たまたま似てしまっただけなのだと。

そんなフランコ監督が本作の下敷きにしたと語るのは、戦前にベラ・ルゴシが主演したエドガー・ウォレス原作の英国産ホラー・ミステリー『The Dark Eyes of London』('39)だ。これは生命保険会社を経営する医師オーロフ博士が、盲目の醜い男を手下に使って、顧客を次々と殺害しては保険金を騙し取るというお話。確かに設定は似ている。そもそも主人公の名前が全く同じだ。正直なところ、フランジュ監督と面識があるのに『顔のない眼』を全く意識していないわけはないと思うのだが、しかし『The Dark Eyes of London』が本作の元ネタであることに間違いはないだろう。まあ、個人的に連想したのは『カリガリ博士』('20)だけどね。

ちなみに、当時のフランコ監督にホラー映画を撮るつもりなど全くなかったらしい。これも関係者によって諸説あるのだけれど、フランコ監督自身の弁によると、当初撮るはずだった左翼系社会派映画の企画が、独裁者フランコ将軍の政権下にあったスペイン当局の検閲で却下されてしまったのだという。ちょうどミュージカル映画の撮影でフランスのニースに滞在していた彼は、ならば別の映画を撮ろうということでフランス人のプロデューサーらと相談。ネタ探しの一環として、彼らと一緒に当時大ヒットしていたハマー・ホラー『吸血鬼ドラキュラの花嫁』('60)を見に行ったところ、「こういう映画を撮ってくれ」と言われて承諾したのだそうだ。

とはいえ、もともと少年時代からユニバーサル・ホラーの大ファンだったというフランコ監督。これがホラー映画初挑戦だったわけだが、ジャンルに対する愛情や理解のあることは、本作を見ればよく分かるだろう。モノクロならではの陰影を強調した画作りは、まさしく古典的なゴシック・ホラーの王道。美女を抱きかかえて暗い夜道を静かに歩くモルフォの姿は幻想的ですらある。さながら『カリガリ博士』のジェーンを誘拐したチェザーレのような趣き。特殊メイクでカッと目を見開いたままのモルフォの顔が、悪夢的な不気味さを一層のこと醸し出す。時代が時代なので残酷描写はかなり大人しいものの、しっかりと女優のトップレス・ヌードを披露している辺りはジェス・フランコ監督ならではかもしれない。

ただし、スペイン本国公開版ではこれらのヌードが存在せず、同じシーンの着衣バージョンが使用されている。先述したように、当時のスペインは独裁者フランコ将軍の政権下。映画での性描写や残酷描写は厳しく規制されていた。もちろん、スペイン以外でも当時はまだ映画のセックスがご法度だった国はあっただろう。そこで、フランコ監督は予めヌードと着衣の2種類のバージョンを撮影して編集し、それらをマーケットによって使い分けたのである。この手法はフランコ政権が崩壊する70年代末までスペイン映画の常套手段となった。まあ、フランコ監督が最初の発案者なのかどうかは分からないけど。

また、舞台をスペインではなく外国に設定するというのも、昔のスペイン産ホラーやサスペンスではよくあるやり方。というのも、スペインには殺人者や犯罪者、売春婦などは存在しないというフランコ政権の建前があったからだ。ただし、たとえ撮影はスペイン国内でも、舞台を外国に設定していれば検閲をパスできた。誠にバカバカしい理屈ではあるものの、そういう時代だったのだから仕方あるまい。本作の場合も、確かにフランスとの合作ではあるが、ロケ地はスペインのマドリードだし、キャストもオーロフ博士役のハワード・ヴァーノン以外は全員スペイン人。やはり国内の検閲を考慮してフランスを舞台にしたらしい。

そのハワード・ヴァーノンはスイス出身の俳優で、主に悪役としてフランス映画で活躍していた。本作にはプロデューサーのマリウス・レスールの推薦で起用されたらしいが、フランコ監督とはかなりウマが合ったらしく、これ以降30年近くに渡ってフランコ作品に欠かせない常連俳優となった。また、ヒロインのワンダとメリッサの2役を演じているディアナ・ロリスは、本作をきっかけに売れっ子スターとなり、イタリアのマカロニ西部劇やスペインでロケ撮影されたハリウッド映画でも活躍するようになる。

なお、タネール警部役のコンラド・サン・マルティンは'50年代に人気を博したスペインの2枚目スター、オーロフ博士の愛人アルネ役のペルラ・クリスタルは当時フランスやイタリアでも活躍したセクシー女優、そしてモルフォ役のリカルド・ヴァレはもともとプロのダンサーだった。また、後にペドロ・アルモドヴァル作品のミューズとなる女優マリサ・パレデスも出演しているらしいのだが、残念ながらその姿は確認できていない。

というわけで、ムーディなゴシック・ホラーとして普通に良く出来た映画。フランコ監督はよっぽど本作に思い入れがあったのか、その後もたびたび自作にオーロフ博士を登場させているほか、『フェイスレス』('87)というリメイク版まで撮っている。また、クラウス・キンスキーが切り裂きジャックを演じた『柔肌』('76)は、娘のために皮膚移植手術をするという設定こそオミットされているものの、それ以外は本作とソックリなシーンやストーリー展開が多く、実質的なリメイクとも言うべき作品だった。

評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(1.66:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/フランス語・英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:87分/発売元:Redemption/Kino Lorber
特典:評論家ティム・ルーカスによる音声解説/ジェス・フランコ監督のインタビュー(約16分)/メイキング・ドキュメンタリー「The Young Dr.Orloff Chronicles」(約19分)/ジェス・フランコへのオマージュ「Jess What Are You Doing Now!」(約8分)/フォトギャラリー/オリジナル劇場予告編集



by nakachan1045 | 2017-12-28 08:52 | 映画 | Comments(0)

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