なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「マルセイユ特急」 The Marseille Contract (1974)
監督:ロバート・パリッシュ
製作:ジャド・バーナード
脚本:ジャド・バーナード
撮影:ダグラス・スローカム
美術デザイン:ウィリー・ホルト
スタント監修:レミ・ジュリアン
音楽:ロイ・バッド
出演:マイケル・ケイン
アンソニー・クイン
ジェームズ・メイソン
モーリス・ロネ
マルセル・ボズッフィ
アレクサンドラ・スチュワルト
モーリーン・カーウィン
カトリーヌ・ルヴェル
イギリス・フランス合作/91分/カラー作品
<あらすじ>
パリで駐仏アメリカ大使館所属の麻薬捜査官が相次いで殺される。今度の犠牲者はマシューズ。そのマシューズが殺害された晩、上司ヴェンチュラ(アンソニー・クイン)は彼の妻リタ(アレクサンドラ・スチュワルト)と逢引きをしていた。深い罪悪感に苛まれるヴェンチュラ。黒幕はヴェンチュラが何年も追ってきた麻薬王ブリザール(ジェームズ・メイソン)に違いなかったが、フランスの政界や財界に太いパイプを持つブリザールの尻尾を掴むのは文字通り至難の業だった。
アメリカ大使館から捜査に圧力をかけられたヴェンチュラは、さらにブリザールの仕向けた殺し屋に命を狙われる。そんな彼にパリ市警のブリアック警部(モーリス・ロネ)が、それとなくプロの殺し屋を雇ってブリザールを始末することを提案する。かつて彼の同僚が雇った凄腕がいるという。ヴェンチュラはその殺し屋と会うことにする。
待ち合わせに現れたのは、意外にもヴェンチュラの長年の友人であるジョン・ドレー(マイケル・ケイン)だった。信頼する友が殺し屋であったことに驚くヴェンチュラ。彼はためらいつつも、5万ドルでドレーにブリザール暗殺を任せることにする。
ブリザールの本拠地マルセイユへ飛んだドレーは、彼の愛娘ルシアン(モーリーン・カーウィン)に接触する。ルシアンのボーイフレンドとしてブリザールに紹介されたドレー。しかし、用心深いブリザールは彼の素性を腹心カルメ(マルセル・ボズッフィ)に調べさせ、指名手配中の強盗犯であることを知る。
その情報を流したのは他でもないヴェンチュラだった。というのも、ブリザール一味がイスタンブールからマルセイユへ400kgの麻薬を密輸するというタレコミ情報を得た彼は、そちらの線を使って自らブリザールを逮捕することに決め、偽の指名手配情報を流してドレーの身柄を秘密裏に確保しようと考えたのだ。
そうとは知らぬドレーは、ブリザールの用心棒として雇われることになる。組織の雑用仕事を請け負いつつ、ブリザール殺害のチャンスを狙うドレー。しかし、逆にブリザールによって罠を仕掛けられ、警察から追われる身となってしまう。一方、麻薬密輸の現場を取り押さえようとマルセイユへやって来たヴェンチュラだったが、取引場所が掴めないまま捜査は暗礁に乗りかけていた。そこへ、ブリザールの差し向けた殺し屋たちを迎え撃ちにしたドレーが現われ、彼の情報を元に麻薬の取引現場へ2人で乗り込むことになるのだったが…。
マイケル・ケインにアンソニー・クイン、ジェームズ・メイソンという豪華3大スターが共演するサスペンス・スリラー。しかも、脇にはモーリス・ロネやマルセル・ボズッフィといったフランスの渋い名優が揃う。おのずと日本でも当時はワーナー・ブラザーズの配給で劇場公開され、その後地上波の洋画番組で放送されたこともあるようだが、しかしビデオソフト化はVHSでもDVDでもなされた形跡がなく、今のところ日本では滅多にお目にかかることができない。かくいう筆者も、長いことタイトルしか知らなかったのだが、ここへきてようやくアメリカ盤ブルーレイで見ることが出来た。
『マルセイユ特急』とは言っても、劇中で特急列車が登場するのはごく僅か。しかもストーリー上の重要性もあまりない。まあ、確かに昔は『~特急』なる邦題の外国映画は結構多かった。『上海特急』('32)に『極楽特急』('32)、『脱走特急』('65)などなど。なんとなくドラマチックなイメージが湧くしね。本作の場合なんかは、恐らくその2年前に日本公開され大ヒットした、アラン・ドロンとカトリーヌ・ドヌーヴ主演のフランス映画『リスボン特急』('72)にあやかったのかもしれない。
それはともかくとして、ハードボイルド映画の名作『殺しの分け前/ポイント・ブランク』('67)のプロデューサー、ジャド・バーナードが脚本も手掛けた本作。フランスのパリで国際的な麻薬王ブリザールを追い詰めようとするアメリカ人の麻薬捜査官ヴェンチュラが、異国の地にあって手も足も出ず捜査が行き詰まったことから、秘密裏にプロの殺し屋ドレーを雇って敵を始末しようとするというお話。で、その殺し屋ドレーというのがヴェンチュラの古い友人で、なおかつ女を手玉に取るのが得意な生粋のプレイボーイ。ブリザールの愛娘ルシアンのボーイフレンドとして組織に潜入するも、肝心のヴェンチュラがやはり自分の手でブリザールの尻尾を掴もうと勝手な行動をしたせいで、あと一歩のところで正体がバレて絶対絶命のピンチに追い込まれる…ってわけだ。
結論から言うと、ビジュアルや雰囲気はイカしているけどストーリーは結構散漫な映画。パリの古びた裏路地や廃墟となった鉄道駅、マルセイユの港や広場などのロケーションは趣きがあってお洒落だし、マイケル・ケインや女優陣の洗練されたスポーティな'70年代ファッションもシックで魅力的なのだが、なにしろ脚本の出来がいまひとつパッとしない。これに続く『怪盗軍団』('75)も同様なのだが、ジャド・バーナードの脚本はアイディア自体は面白いものの、それを一つのストーリーとしてまとめるのがあまり上手くない。本作の場合で言えば、公の捜査機関がプロの殺し屋を雇って犯罪者を追い詰めるという基本プロットは目の付けどころがいい。しかし、そこからあまり話が広がっていかず、なんだか尻つぼみになってしまった感は否めないだろう。
一番の見どころは、ドレーがルシアンとお近づきになるシーン。なにをするのかというと、マルセイユの郊外から街中へかけて派手なカーチェイスを繰り広げるのだ。というのも、この親にしてこの娘ありな鼻っ柱の強い女性ルシアンは、実は大のスポーツカー狂。普段からポルシェ911Sを颯爽と乗り回している。そこで、ドレーは愛車アルファロメオ・モントリオールを操縦して接近し、わざと煽りながらカーレースを挑んで彼女の気を引くというわけだ。カースタント監修は世界的なスタントドライバー、レミー・ジュリアン。『ユア・アイズ・オンリー』('81)から『ゴールデンアイ』('95)までの007シリーズのカースタント監修を手掛け、『ミニミニ大作戦』('69)ではマイケル・ケインのスタントダブルを担当していた人物だ。男女の駆け引きを加味したスピーディなカーチェイスは、数多のカーアクションとは一味違った粋な面白さがある。
監督はポップでサイケな犯罪コメディ『太陽を盗め』('68)や、パリを舞台にしたエレガントなロマンス映画『フレンチ・スタイルで』('63)などのロバート・パリッシュ。あと忘れちゃいけない、『007/カジノ・ロワイヤル』('67)の演出にも名を連ねていた人だが、なるほど、こうしたお洒落っぽい映画は得意だったのだろう。後に『インディ・ジョーンズ』シリーズを手掛けるダグラス・スローカムのカメラも躍動感があって洗練されている。あとジャズ・ファンクな音楽スコアをロイ・バッドが担当しているのも要注目だが、残念ながら『狙撃者』('71)や『殺しのカルテ』('72)といった代表作に比べると地味で印象が薄い。
最後に女優陣についても言及しておこう。とりあえず予告編等では、ブリザールの愛人を演じるカトリーヌ・ルヴェルが大きくフィーチャーされているものの、実際はほぼ色添えに過ぎないような役柄。出番もセリフも少なければ、ストーリーへの絡みも殆どない。恐らく、当時ヨーロッパや日本で大ヒットしたアラン・ドロン主演の『ボルサリーノ』シリーズに出ていたことから、そのネームバリューを当て込んでのキャスティングだったのだろう。実質的なヒロインはルシアン役のモーリーン・カーウィン。この人は『相続人』('73)でベルモンドの相手役をやった人なのだが、綺麗だけどちょっと毒があるというか、気が強くて小生意気そうなところがとても魅力的な女優だ。また、ヴェンチュラの部下の妻で浮気相手のリタを演じているアレクサンドラ・スチュワルトも、ちょっと疲れたような倦怠感が漂う大人のいい女という感じで、アンソニー・クインとのツーショットも貫禄があって様になる。イングリッド・チューリンとかマルテ・ケラーとか、この手の渋くて枯れた女優はとても好きだ。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Mater Audio/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/時間:91分/発売元:Kino Lorber/20th Century Fox
特典:オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2018-01-13 07:44
| 映画
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