なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「Zinda Laash (生ける屍)」 aka Dracula in Pakistan (1967)

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監督:クワジャ・サルフラズ
製作:アブドゥル・バーキ
脚本:ナシーム・ラズマニ
撮影:ラザ・ミール
   ナビ・アフメド
   イルシャド
音楽:タサダーキ・フセイン
歌詞:ムシール・カズミ
出演:ヤスミーン
   ディーバ
   ハビブ
   レハン
   アサド
   アラウディン
   ナスリーン
   シーラ
   チャムチャム
   ベビー・ナジミ
パキスタン映画/103分/モノクロ作品




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<あらすじ>
長年の研究が実って、不老不死の薬を開発した科学者タバニ教授(レハン)。しかし、それは神の領域を冒した呪われた研究であり、副作用によって彼は吸血鬼となってしまう。最初の犠牲者は彼の恋人(ナスリーン)だった。
その後、吸血鬼の館は周辺住民から恐れられるようになり、誰も近寄らなくなってしまった。ある日そこへ、アキル博士(アサド)なる人物が訪れる。恐る恐る館の中へ入るアキル博士の前に吸血鬼が現れた。実は、アキル博士は吸血鬼ハンターなのだが、何も知らないふりをして館に泊まる。
その晩、深夜になって館の中を探るアキル博士の前に、ネグリジェ姿の美女が現れる。吸血鬼の恋人だ。その妖艶なダンスに見惚れた彼に襲い掛かる美女。すると、物陰から現れた吸血鬼が、自分の獲物だとして阻止する。もはや疑いの余地はない。そう考えたアキル博士は、地下室に眠る彼らを滅ぼそうとする。まずは女吸血鬼を始末するが、その物音に気付いた吸血鬼によって、反対にアキル博士が犠牲となってしまう。
それから4~5日後。アキル博士の弟(ハビブ)が兄を探しにやって来る。館の地下で吸血鬼と化した博士を発見した彼は、仕方なく兄を始末する。その後、彼は姉シリン(ヤスミーン)とその夫パルヴェス(アラウディン)に兄の死を報告する。夫婦と同居しているパルヴェスの妹シャブナム(ディーバ)はアキル博士の許婚だったが、精神的なショックを考えて秘密にした。
ある晩、シャブナムの寝室の窓が勝手に開き、何者かが侵入する。翌朝、彼女は体調不良を訴える。医者によると貧血気味だという。そしてその晩、再び何者かがシャブナムん寝室に現れる。アキル博士の持っていた彼女の写真に一目ぼれした吸血鬼だった。
翌朝、シャブナムの死体が発見される。アキル博士の弟は、その首筋にある2つの斑点を見逃さなかった。これは吸血鬼の仕業に間違いない。彼女もまた吸血鬼となって蘇り、家族を襲うはずだ。そう訴えるアキル博士の弟だったが、当然ながらシリンもパルヴェスも信じようとはしない。
すると、夫妻の幼い娘ベビー(ベビー・ナジミ)が、死んだはずの叔母が夜中に現れたという。次はベビーが危ない。そう考えたアキル博士の弟は、懐疑的なパルヴェスを説得して、真夜中の墓地で吸血鬼と化したシャブナムを待ち伏せしようとするのだが…。
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ずばり、パキスタン版「吸血鬼ドラキュラ」である。'60年代から'70年代にかけて黄金期を迎えたパキスタン映画界。本作はその中心地、パンジャーブ地方のラホールにて製作された、いわゆるロリウッド映画に当たる。もともとパキスタンにはホラー映画の伝統はなく、そもそも検閲では暴力描写や性描写に対する規制がとても厳しかった。そのため、本作も当初は審査自体を拒否されてしまったという。しかし検閲を通らねば劇場公開できない。困った制作陣は「金輪際こんな映画は2度と作りません」と誓約することで、なんとか審査をしてもらうことに。その結果、パキスタン映画史上初の成人指定作品として公開されることになったのだ。
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原作はブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」。本編のクレジットには全く出てこないものの、基本プロットはストーカーの小説そのまんまである。また、ハマー映画『吸血鬼ドラキュラ』('58)を参考にしていることも一目瞭然。特にレハン演じる吸血鬼のメイクや髪型・服装、野獣的なキャラクターは、クリストファー・リーの演じたドラキュラ伯爵とそっくりだし、吸血鬼の館もハマー版の美術セットとかなり酷似している。どう考えても偶然などではあるまい。
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とはいえ、本作オリジナルの解釈およびローカライゼーションも少なからず行われている。その中でも最大の違いは、吸血鬼の起源が「科学実験の副作用」であるという点だ。これはもしかすると、日本と同じくパキスタンには伝統的な吸血鬼伝説が存在しないのかもしれない。冒頭のナレーションで「生と死は神の絶対領域である」との説明がなされたうえで、不老不死の秘薬を開発して永遠の命を得たマッド・サイエンティストが、その副作用として吸血鬼となってしまう。つまり、神の領域を冒したせいで天罰が下ったというわけだ。
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以降は基本的に「吸血鬼ドラキュラ」のストーリーを踏襲していくものの、原作のジョナサン・ハーカーに当たるアキル博士が実は吸血鬼ハンターで、しかも中盤で吸血鬼の返り討ちにあって殺されてしまうため、その弟が実質的にヴァン・ヘルシング教授的な役割を果たすなどの改変が加えられている。また、原作では3人いた吸血鬼の花嫁が本作では一人だけ。ちょっと寂しい気もするが、その代わり(?)にお色気ムンムンのセクシー・ダンスをたっぷりと披露してくれる。
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そう、なにしろ本作はパキスタン映画。お隣のインド映画と同様に、唐突なミュージカルシーンやダンスシーンが次々と挿入されるのだ。のどかなラウンジ音楽をバックに妖艶な舞を見せつけてアキル博士を誘惑する吸血鬼の花嫁。それが通用しないとなると、今度は激しいゴーゴーダンスでアグレッシブに「おいでおいで」アピールをする。振り付けにおける「セクシー」の発想がほとんど小学生レベルだったり、演じる女優ナスリーンがちょっとふくよかすぎて動きが苦しそうだったりするのもご愛敬(笑)。ほかにもストーリーとは直接関係のないミュージカルシーンが盛りだくさん。まあ、ボリウッド・ホラーを見慣れていれば想定の範囲内だが、そうでなければホラーなのにミュージカル!?とビックリするかもしれない。
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また、先述したように当時のパキスタン映画では性描写や暴力描写が厳しく規制されていたため、本作でも当時のハマー映画のような刺激的なシーンは殆ど見られない。吸血鬼の最期はハマー版と同じだが、特殊メイクの技術がだいぶ遅れているため、石膏で型取りした白いマスクがパリッと割れるだけ。次の瞬間には骸骨になっている。とはいえ、そのマスクだってパリで製作しているし、吸血鬼の牙も歯科医に頼んで外国製を取り寄せたりしたらしい。恐らく何もかもがパキスタン映画界では初挑戦だったのだろう。
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あとこれは文化の違いなのかもしれないが、ストーリー運びが全体的にかなりのんびりしている。ミュージカルシーンの挿入もさることながら、一つ一つのシーンがとにかく懇切丁寧で長いのだ。そんなこともあって、ホラー映画として見るとまるで怖くないし、なかなか話が前に進まないので退屈してしまうことも否めない。これで劇場公開時には、映画館でショック死する女性がいたというのだから驚き。よっぽどホラー映画に免疫がなかったというか、刺激の少ない平和な時代だったのだろう。
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そんな本作を生み出したのは、アキル博士の弟役を演じている俳優ハビブことハビブル・レフマン。彼がもともと本作の企画を立ち上げ、兄である映画製作者アブドゥル・バーキに協力を仰ぎ、長年の友人だったクワジャ・サルフラズ監督を半年かけて説得して実現に至ったのだという。先述したように検閲の審査ではトラブり、さらには配給会社や劇場興行主からも「こんな映画はパキスタンでは当たらない」と難色を示されたらしいのだが、パキスタン映画初の成人指定映画というハンデが逆に話題を呼び、蓋を開けてみると異例の大ヒットを記録。国際映画祭にも出品されたほか、「The Living Corpse」のタイトルで国外配給もされ、アメリカでは「Dracula in Pakistan」のタイトルで上映されている。
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全盛期のロリウッド映画というのはボリウッド映画と違って、激しいバイオレンスや下世話なお色気(ただしヌードは一切厳禁)を盛り込んだワイルドな作品が多く、厳しい戒律の下で暮らすパキスタン庶民にとって大いなる現実逃避となったとも言われているが、もしかすると本作の成功がそのきっかけになったのかもしれない。まあ、そんなパキスタン映画の黄金期も、'77年の軍事クーデターで樹立された、イスラム原理主義的な軍事政権の厳しい取り締まりによって多くの映画館が閉鎖され、たちまち凋落の一途をたどってしまうのだが…。
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評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Doigital/言語:ウルドゥー語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:103分/発売元:Mondo Macabro
特典:ドキュメンタリー「South Asian Horror」(約24分)/メイキングドキュメンタリー「Dracula in Pakistan」(約13分)/専門家による音声解説/オリジナル劇場予告編(インターナショナル版)/失われたミュージカルシーンの音声トラック/フォトギャラリー



by nakachan1045 | 2018-02-10 15:52 | 映画 | Comments(0)

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