なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
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「ジキル博士とハイド嬢」 Dr.Jekyll and Sister Hyde (1971)

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監督:ロイ・ウォード・ベイカー
製作:アルバート・フェネル
   ブライアン・クレメンス
原作:ロバート・ルイス・スティーブンソン
脚本:ブライアン・クレメンス
撮影:ノーマン・ワーウィック
美術デザイン:ロバート・ジョーンズ
音楽:ロバート・ウィテイカー
出演:ラルフ・ベイツ
   マルティーヌ・ベスウィック
   ジェラルド・シム
   ルイス・フィアンダー
   スーザン・ブロドリック
   ドロシー・アリソン
イギリス映画/97分/カラー作品




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<あらすじ>
19世紀末のロンドン。研究熱心で優秀な若手医師ジキル博士(ラルフ・ベイツ)は、ペストやインフルエンザなどあらゆる病気を地球上からなくすべく、コツコツと治療薬の研究開発の心血を注いでいた。しかしある日、女好きで遊び人の先輩ロバートソン教授(ジェラルド・シム)に、「そんな大それた目標は一生かかっても達成しえない」と指摘されハッと我に返る。
確かにその通りだ。全ての病気の治療薬を開発する前に自分が死んでしまう。それでは元も子もない。それならば、まずは自分の寿命を延ばさねば。そう考えた彼は、今度は不老長寿の秘薬の研究に没頭する。その末に、ジキル博士は女性ホルモンが不老長寿に有効であることに気付く。
しかし、実験に必要とされる新鮮な女性ホルモンを入手するのは難しい。そこで彼は、馴染みの死体安置所職員に紹介された死体泥棒バーク(アイヴァー・ディーン)とヘア(トニー・カルヴィン)に若い女性の死体調達を依頼。彼らはジキル博士に要望通りの新鮮な死体を売りつけるため、やがて殺人に手を染めるようになった。
その頃、ジキル博士の住むアパートの上階にスペンサー一家が引っ越してくる。年配の親切な母親スペンサー夫人(ドロシー・アリソン)と皮肉屋で子供っぽい長男ハワード(ルイス・フィアンダー)、そして世間知らずで初心な妹スーザン(スーザン・ブロドリック)だ。スーザンは若くてハンサムなジキル博士に一目惚れし、研究のため自宅に籠りがちな彼を心配して何かと世話を焼くようになる。
一方、ついに不老不死の秘薬を完成させたジキル博士。ところが、それを飲んだところ別人格の女性に変身してしまう。ジキル博士の部屋に見ず知らずの女性がいると知って深く傷つくスーザン。元の姿に戻ったジキル博士はスーザンにそのことを訊かれ、結婚した未亡人の妹ハイド嬢(マルティーヌ・ベスウィック)だと嘘の説明をする。
人格と性別が変わるという思わぬ副作用に戸惑うジキル博士だったが、いまさら実験をやめるわけにはいかない。そんな折、バークとヘアの悪事がバレてしまい、怒り狂った群衆によってバークは縛り首にされ、ヘアは失明してしまった。しかし、実験を続けるためには女性ホルモンが必要だ。そこで彼は覚悟を決め、自らの手で女性を殺すようになる。ターゲットはホワイトチャペル地区にたむろする娼婦たち。やがて人々は、正体不明の殺人鬼を「切り裂きジャック」と呼ぶようになる。
その「切り裂きジャック」事件の検視を担当するのがロバートソン教授。その犯行手口から、彼はジキル博士を容疑者として疑うようになる。自分が警察にマークされていると気付いた博士は、それならばとハイド嬢に変身して犯行を重ねるように。邪魔者のロバートソン教授まで誘惑して殺害してしまう。
しかし、やがてハイド嬢の人格が強くなっていき、ジキル博士はこのままだと体を乗っ取られてしまうと危惧する。そのハイド嬢は、処女から取った女性ホルモンによってジキル博士の人格を消し去ることが出来ると考え、スーザンの命を狙うようになる。彼女に好意を寄せていた博士は、なんとかそれを阻止しようとするのだが…。
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『フランケンシュタインの逆襲』('57)や『吸血鬼ドラキュラ』('58)などの大ヒットで、一時代を築いたブリティッシュ・ホラーの殿堂ハマー・フィルム。'40年代以降久しく途絶えていたゴシック・ホラーのジャンルを復活させて世界的なブームを巻き起こし、芸術映画に偏りがちだったイギリス映画の国際市場における興行的価値を高めることにも貢献した、偉大な独立系映画プロダクションだった。しかし、'60年代末にはその勢いも衰え始め、作品にも出来不出来の差が目立つようになる。そんなハマー・フィルム混迷期に製作された異色中の異色作が、この『ジキル博士とハイド嬢』である。
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下敷きとなっているのは、ロバート・ルイス・スティーブンソンの傑作怪奇小説『ジキル博士とハイド氏』。ただし、本作のジキル博士は秘薬を飲むことによって、人格ばかりか性別まで変わってしまう。要するに、ハイド嬢なる女性に変身してしまうのだ。まるで趣味の悪いジョークのような設定だが、実際に全ての始まりは脚本家ブライアン・クレメンスの発した何気ないジョークだった。
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大ヒットした人気テレビドラマ『おしゃれ(秘)探偵』('61~'69)の脚本家兼プロデューサーとして頭角を現し、映画でも『女子大生・恐怖のサイクリングバカンス』('70)や『見えない恐怖』('71)などの優れたサスペンスを生み出したクレメンス。その『女子大生・恐怖のサイクリングバカンス』のスタジオ撮影に使用されたのが、当時ハマー・フィルムの製作拠点だったエルストゥリー・スタジオだった。食堂でスタッフらと食事をしながら雑談していたクレメンスは、ジキル博士が女性に変身するというアイディアを冗談半分の思いつきで口にしたところ、それを聞いていたハマー・フィルム創業社長の息子で製作主任のマイケル・カレラスが気に入り、本当に映画化されることになってしまったのだ。
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なので、基本的には「マッド・サイエンティストのジキル博士が秘薬を飲むことで、セクシーな悪女ハイド嬢へと変身してしまう」という奇想天外なアイディアが全ての作品。しかしそこはさすが、才気あふれる名脚本家ブライアン・クレメンス。スティーブンソンの原作が発表された1880年代の同時期に起きた「切り裂きジャック事件」、さらには実際はその半世紀以上前に起きた「バークとヘア連続殺人事件」という、英国犯罪史に悪名高い2つの連続殺人事件を巧みに織り交ぜることで、猟奇ムードたっぷりのゴシック・ホラーとしてしっかりと成立させている。
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というのも、ジキル博士の開発した秘薬は女性ホルモンが原料。女性は男性よりも一般的に寿命が長く、肌の老化や頭皮の抜け毛も男性より遅かったり少なかったり。これこそ長寿の秘訣に違いない!と考えた博士は、女性ホルモンを使って不老長寿の秘薬を作るわけだが、そこには別人格の女性に変身してしまうという副作用があり、しかも残念ながら効果は長続きしない。実験を続けるためは若い女性の新鮮な死体がたくさん必要だということで、ジキル博士は「バークとヘア」の悪党コンビから死体を買うわけだが、しばらくすると彼らの悪事がバレて死体調達が難しくなったことから、自らホワイトチャペルの娼婦たちを次々殺して実験台とするようになる。それが「切り裂きジャック事件」の真相だった!…というわけだ。確かに荒唐無稽なストーリーだが、虚実入り混じる話の膨らませ方はなかなか上手い。
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監督は『火星人地球大襲撃』('67)や『バンパイア・ラヴァーズ』('71)など、中期~後期のハマー・フィルムを代表する名作を手掛けたロイ・ウォード・ベイカー。カメラマンは傑作カルト・ホラー『怪人ドクター・ファイブス』('71)のノーマン・ワーウィック。ジキル博士がハイド嬢へと変身する様子を、鏡越しのワンカットで捉えた見事な長回しシーンのほか、技巧を凝らしたカメラワークがとても印象的だ。
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19世紀末のロンドンの街並みをスタジオ・セットで再現した、ロバート・ジョーンズによる壮麗な美術デザインも大きな見どころ。そういえば、ジョーンズはテレビ『おしゃれ(秘)探偵』以来のクレメンス作品常連組だが、共同製作者のアルバート・フェネルやロバートソン教授役のジェラルド・シムなど、本作はハマー・フィルム常連組と並んでクレメンス作品常連組も目立つ。
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しかし、本作の肝となるのはなんといっても、ハイド嬢役の女優マルティーヌ・ベスウィックであろう。というか、彼女の存在がなければ本作の面白さも半減どころではなかったはず。まさに彼女の独壇場とも言うべき抜群のハマリ役なのだ。その妖艶でゴージャスで小気味よいくらい邪悪で、時としてチャーミングですらある悪女っぷりはワクワクするくらいに痛快!当時すでにアメリカへ活動の拠点を移していた彼女は、旧知の女性エージェントと久々に会うためロンドンへたまたま戻っていたところ、オーディションの話を持ち掛けられたのだそうだ。この役にはケイト・オマーラやジュリー・エーゲが候補として挙がっていたらしいが、結果としてはマルティーヌで大正解。というか、もはや彼女以外には考えられまい。
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対するジキル博士役を演じているのは、当時ハマー・フィルムがクリストファー・リーやピーター・カッシングに続くホラー俳優として売り出していたラルフ・ベイツ。陰のあるダークな貴公子は彼の十八番で、本作でもその個性は十二分に生かされている。また、そんなジキル博士に思いを寄せる、世間知らずで初心な女性スーザンを演じるスーザン・ブロドリックの清楚な美しさも魅力的。彼女はハマーの『鮮血の処女狩り』('71)にも出ていたが、大成することなく短いキャリアを終えたのは惜しまれる。なお、スーザンの兄ハワード役で、傑作スパニッシュ・ホラー『ザ・チャイルド』('76)の主演俳優ルイス・フィアンダーが出ているのも要注目だ。
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評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ&DVD情報(イギリス盤2枚組)
ブルーレイ
カラー/ワイドスクリーン(1.66:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語(SHD)/地域コード:B/時間:97分
DVD
カラー/ワイドスクリーン(1.66:1)/音声:2.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:英語(SDH)/地域コード:2/時間:93分
発売元:Studiocanal Limited
特典:メイキング・ドキュメンタリー「Ladykiller:Inside Dr.Jekyll & Sister Hyde」(約20分)



by nakachan1045 | 2018-02-11 14:09 | 映画 | Comments(0)

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