なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「シービースト」 La sorella di Satana (1966)

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監督:マイケル・リーヴス
製作:ポール・マスランスキー
脚本:マイケル・バイロン(マイケル・リーヴス)
撮影:G・ジェンガレッリ(ジョアッキーノ・ジェンガレッリ)
メイク:デヴィッド・ポラック
音楽:ラルフ・フェラーロ
出演:バーバラ・スティール
   ジョン・カールセン
   イアン・オギルヴィー
   メル・ウェルズ
   ジェイ・ライリー
   エンニオ・アントネッリ
   ルクレチア・ラヴ
イタリア・イギリス合作/79分/カラー作品




<あらすじ>
18世紀のトランシルヴァニア。洞窟に棲む醜い魔女ヴァルデラ(ジェイ・ライリー)によって、またもや幼い子供が殺されたことから、怒り狂った村人たちは暴徒と化した。ヴァルデラを捕らえて処刑する村人たち。そんな彼らに魔女は呪いの言葉を吐き、いつか必ず生き返って復讐すると誓う。そのままヴァルデラは湖に沈められた。
時は移って現代のルーマニア。車で新婚旅行中のイギリス人カップル、フィリップ(イアン・オギルヴィー)とヴェロニカ(バーバラ・スティール)は、トランシルヴァニア地方で道に迷ってしまい、仕方なく付近の寂れたホテルに泊まることにする。何もない場所で2人が退屈そうにしていると、吸血鬼ハンターの末裔だというフォン・ヘルシング伯爵(ジョン・カールセン)なる人物が声をかけてくる。彼はかつてこの土地にヴァルデラなる魔女が住んでいたことを語るが、夫婦はあまり興味のない様子だった。
その晩、ホテルの部屋でくつろぐフィリップとヴェロニカ。2人が愛し合おうとすると、窓の外から支配人ラディスラフ(メル・ウェルズ)が覗き込んでいた。頭にきたフィリップはラディスラフを殴り倒し、翌日の早朝にホテルを出ていくことにする。
ところが、フィリップとヴェロニカの乗った車は湖の近くで突然操縦不能となり、そのまま湖へと突っ込んでしまう。なんとか自力で岸へと泳ぎ着いたフィリップは、駆け付けたトラック運転手(エンニオ・アントネッリ)に助けを求める。湖からヴェロニカを助け出すトラック運転手だったが、それは200年前に処刑された魔女ヴァルデラだった。
そうとは知らない運転手は、面倒なことに巻き込まれて当局から睨まれるのは嫌だと、気絶したフィリップとヴァルデラの死体をホテルに置き去る。意識を取り戻したフィリップは、たまたまホテルに立ち寄ったフォン・ヘルシング伯爵の協力で妻ヴェロニカの行方を捜すことに。だが、やがてヴァルデラが息を吹き返し、村人たちを次々と殺していく。
フォン・ヘルシング伯爵によると、ヴァルデラが処刑されてから今日でちょうど200年目に当たり、彼女はヴェロニカの命と引き換えに蘇ったのだという。ヴェロニカを取り戻すためには、再びヴァルデラを湖に沈めるしかない。2人はなんとかして魔女を捕らえようとするのだが、地元警察の捜査が邪魔になってしまい…。

魔女狩り残酷映画の名作『Witchfinder General』('68)で高い評価を受けながらも、わずか25歳という若さで急逝してしまったイギリスの映画監督マイケル・リーヴス。当時イタリアを拠点にしていたアメリカ人の映画プロデューサー、ポール・マスランスキー(『ポリス・アカデミー』シリーズ)の誘いでローマにやって来た彼は、助監督を務めたホラー映画『生きた屍の城』('64)でノークレジットながら演出や脚本にも深く関り、その仕事ぶりに感心したマスランスキーの提案で、記念すべき処女作を撮るチャンスが与えられる。それがこの『シービースト』だった。

現在、少なくともアメリカではパブリック・ドメイン扱いされているため、トリミングされた古いビデオテープ素材からダビングした、画質も音質も超劣悪な廉価版DVDが、日本を含めた有象無象の激安ビデオメーカーからリリースされている本作。かつて筆者もそうした廉価版DVDで本作を見て、なんちゅうクズ映画じゃ!と呆れ果てたものだったが、しかしやはり映画というのは本来あるべき状態で鑑賞せねば正しく評価することなど出来ない。オリジナルネガからHDリマスターされた超高画質のアメリカ盤ブルーレイを見ると、そう強く感じずにはいられないだろう。

というのも、作品全体の印象がガラリと変わるのである。確かに低予算の安物映画であることは一目瞭然。ロケ地ユーゴスラヴィアの美しい景観にかなり頼っている。とはいえ、リーヴス監督はスコープサイズのワイドスクリーンを隅々まで使って、ロケーションの利点を生かしながら巧みな構図で被写体を捉えている。そんな映像美もスタンダードサイズにトリミングされたらまるで台無しだ。しかも、例えば魔女ヴァルデラが村人の少年に近づくシーンなどは、トリミング版だと画面の左隅にだんだんと映り込んでくるヴァルデラの姿が丸ごとカットされているため、恐怖を盛り上げる重要なシーンとして成立しなくなっている。これじゃ元も子もない。また、トリミング版では色彩が褪せてしまった上にディテールも潰れているため、そもそも景観の美しさが全く伝わらない。これまた致命的だ。

ストーリーは基本的に主演女優バーバラ・スティールの代表作『血ぬられた墓標』('60)の焼き直し。かつて村人によって処刑された恐ろしい魔女が現代へ蘇り、復讐の殺戮を繰り広げていく。ただし、『血ぬられた墓標』と違って、ここではバーバラの一人二役を見ることは出来ない。というのも、当時売れっ子女優だったバーバラのスケジュールを確保することが出来ず、たった1日で彼女の出番全てを撮らねばならなかったからだ。そのため、バーバラの扮する若妻ヴェロニカの肉体を乗っ取った魔女ヴァルデラは、彼女と似ても似つかない醜い容姿のモンスターとなり、ジェイ・ライリーというアメリカ人俳優が特殊メイクを施して演じている。バーバラ本人の出番は実質的に全体の3分の1以下。それを休憩殆どなしの18時間連続で撮りあげたらしく、さすがにバーバラもプロデューサーや監督を恨んだそうだ。

だが、この魔女ヴァルデラの強烈過ぎるキャラクターこそ、本作の白眉だと言えよう。見た目は『サスペリア』('77)のエレナ・マルコスも真っ青なケダモノ、行動パターンは手の付けられない暴走する狂人。この悪夢に出てきそうなグロテスク魔女が、神経を逆なでするような奇声を高らかにあげ、猛ダッシュで駆け回りながら人を殺しまくる。残酷描写もなかなかのもの。'66年の映画ということを考えれば、当時としては相当にショッキングだったはずだ。

まあ、魔女というわりに魔術らしいものは一切使わず、ただ単に鉈やらナイフやらで人を殺すだけなのは看板倒れだが、恐らく時間的にも予算的にもマリオ・バーヴァのような特殊効果を使う余裕がなかったのだろう。なにしろ、たったの20日間で全編を撮り終えたそうなので。ただし、バーバラ・スティールによると、リカルド・フレーダ監督は一本の映画を10日間で撮影から編集まで終えたことがあったとのこと。やはり上には上がおりますな。

それはそうと、本作の最大の問題は、後半でちょくちょく差し込まれるコミカルなシーンにあるだろう。中でも、終盤で展開される主人公たちと現地警察のカーチェイスは、まるでチャップリンやキートンの無声喜劇みたいなノリで、全体のバランスを著しく損ねている。というか、どう見ても明らかにここだけ浮きまくっているのだ。実は、撮影スケジュールの問題でこのシーンは第二班チームが別撮りしており、彼らに演出を任せたリーヴス監督は一切ノータッチだったらしい。後から完成した映像を見てビックリした監督だが、その時点では撮り直しなどしている余裕もなく、なおかつただでさえ全体の尺が短いのでカットするわけにもいかない。本人としては不本意な仕上がりだったそうだ。

なお、主人公フィリップ役のイアン・オギルヴィーは、リーヴス監督の幼馴染にして大親友。これが映画デビューだった彼は、その後のリーヴス監督作2本にも出演し、さらにはロジャー・ムーアの跡を継いで2代目セイントを演じたテレビ『テンプラーの華麗な冒険』('78~79)に主演するなどの人気スターとなった。フォン・ヘルシング伯爵役のジョン・カールセンは、当時イタリアで活動していたニュージーランド人俳優。イタリア産B級娯楽映画ではお馴染みの顔だった。また、英語が喋れるため『ビルとテッドの大冒険』('89)や『悪霊喰』('03)など、イタリア・ロケのあるハリウッド映画にもちょくちょく顔を出していた。

さらに、B級映画ファンにとって興味深いのは、ロジャー・コーマン監督の『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』('60)で有名なメル・ウェルズが、ルーマニア人のホテル支配人役で顔を出していること。もともとAIPの低予算モンスター映画に多数出演していた彼は、当時の多くの売れないアメリカ人俳優がそうしたように、チャンスを求めてイタリアへ出稼ぎ仕事に行っていたのだ。そのホテル支配人にレイプされそうになる姪っ子を演じているのが、'70年代に一連のアマゾネス映画で活躍するセクシー女優ルクレチア・ラヴ。当時はまだデビューしたばっかりだった。

というわけで、確かに胸を張っておススメできるような名作ではないが、かといって駄作として切り捨てるのも勿体ないユニークな低予算ホラー。少なくとも、超低予算で撮られた新人監督の作品としては上出来な部類に入るだろう。その後、イギリスへ戻ってボリス・カーロフ主演のホラー・ミステリー『The Sorcerers』('67)を撮ったリーヴス監督は、アメリカのAIPの共同出資で『Witchfinder General』('68)がカルトな人気を集め、その実績を評価したAIPからエドガー・アラン・ポー原作『呪われた棺』('69)のオファーを受けるも、その準備中に処方薬の飲用を誤って不慮の死を遂げてしまったのである。

評価(5点満点):★★★☆☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/時間:79分/発売元:Raro Video
特典:女優バーバラ・スティールのインタビュー(約28分)/封入フルカラーブックレット(8p)



by nakachan1045 | 2018-03-02 00:08 | 映画 | Comments(0)

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