なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
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「おんな極悪帖」 Notebooks on Heinous Women (1970)

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監督:池広一夫
企画:勝呂敦彦
原作:谷崎潤一郎
脚本:星川清司
撮影:梶谷敏男
美術:西岡義信
音楽:渡辺岳大
出演:安田道代(現・大楠道代)
   田村正和
   佐藤慶
   小山明子
   岸田森
   小松方正
   遠藤辰雄
   丘夏子
   芦屋小雁
   早川雄三
   伊達三郎
日本映画/84分/カラー作品




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<あらすじ>
江戸時代。深川の櫓下の娼婦から芸者へと成り上がり、さらに客の男たちを使って大名・春藤太守(岸田森)の側室となったお銀の方(安田道代)は、芸者時代からの愛人である家老(佐藤慶)や腰元・梅野(小山明子)と裏で結託し、我が子を世継ぎにしてお家の実権を握ろうと狙っていた。そのためには、妊娠中の奥方がどうしても邪魔だ。
そこで、お銀の方は浪人を使って奥方の暗殺を謀るも失敗。仕損じた浪人は口封じのため梅野が始末する。次なる一手を考えたお銀の方は、藩医・細井玄沢(小松方正)から毒薬を手に入れて奥方を毒殺することに。玄沢もまた口封じのため殺害する。そして、奥方お気に入りの坊主・珍斉(芦屋小雁)を脅迫。目の前で梅野に妹・お由以(丘夏子)を惨殺された小心者の珍斉は、恐れおののいて奥方に毒を盛ることを約束する。
一方、気まぐれで家臣の首をはねたり、側室であるお銀の方に入れ込むなど、目に余る太守の乱心ぶりを知った国表は、殿の行状を戒めるべく菅沼八郎太(早川雄三)と氏家左門(伊達三郎)という2人の国侍を江戸の上屋敷へ派遣する。諸悪の根源たるお銀の方を切り捨てると申し立てる菅沼と氏家。そこへ、藩の下級武士・磯貝伊織(田村正和)が現れる。
役者と見紛うばかりの優男である伊織は、その若さと美貌を武器に年増女の梅野を夢中にさせ、お銀の方の用心棒へと引き立てられた男だ。さらなる出世を狙う彼は、殿の前で菅沼と氏家に決闘を申し込んで2人を倒す。それに喜んだ太守は、いつもの気まぐれで梅野と対戦するよう命じた。うろたえる梅野だが、お銀の方はあっさりと彼女を見捨て、梅野を踏み台としか考えていなかった伊織は迷うことなく彼女を切り捨てる。
伊織を自分の愛人にするお銀の方。そこへ奥方が毒殺されたとの報が入り、喜ぶ彼女は次に家老と珍斉を始末せねばと考える。ところが、それを家老本人が陰で聞いていた。騙されたことを知って怒り狂い、お銀の方を斬ろうと追いかける家老だったが、伊織によって返り討ちにされる。
すると、その一部始終を珍斉が見ていた。自分を殺せば大目付に密告する手はずが整っていると、お銀の方を脅迫して大金を巻き上げる珍斉。そこへ、お銀の方の悪だくみに以前から気付いていた太守が家臣を連れて乱入し、彼女と伊織を捕えようとするのだが…。
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『アウトレイジ』ばりに「全員悪人」なピカレスク時代劇である。というか、出てくるのはどいつもこいつも、欲の皮の張ったクズみたいな人間ばっか(笑)。観客の同情や共感を誘うようなキャラクターは1人もいない。その中でも、ひときわ計算高くて狡猾な元娼婦の大名側室が、色と金と暴力と裏切りを存分に駆使して、お家の実権を握るべく邪まな策略を張り巡らせる。考えてみれば、悪女の登場する時代劇は数あれど、悪女をヒロインとする時代劇は滅多にない。まことに大胆不敵な映画だ。
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そんな本作が生まれた背景には、日本映画の斜陽が深く関わっていると言えるだろう。'60年代に入ってからというもの、テレビの普及に伴って観客動員数も製作本数も右肩下がりを続けた日本映画界。大手各社は、やれ特撮怪獣映画だ任侠映画だヌーベルヴァーグ映画だと、ブームを作っては観客を映画館へ呼び戻そうとするが功を奏せず、やがてライバルのテレビでは不可能なエロ・グロ路線へと舵を切るようになる。
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まずは東映が、ピンク時代劇『徳川女系図』('68)と『徳川女刑罰史』('68)を大ヒットさせ、いわゆる「異常性愛路線」を打ち出して成功。日本映画に本格的なセックスとバイオレンスの時代が訪れる。そこで、大手映画会社の中でも特にジリ貧だった大映と日活が配給網を統合し、'70年に新会社・ダイニチ配映を設立。主に若年層や成人男性をターゲットとして、暴力やセックスを前面に押し出した低予算映画を製作する。それもたったの2年弱で頓挫し、日活はロマンポルノ路線へ転向、大映は倒産という憂き目に遭ってしまうのだが。いずれにせよ、そんなダイニチ配映時代に大映京都が製作した作品の一つが、この『おんな極悪帖』だったわけだ。
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そんなわけで、おのずと本作にも「斜陽の時代」の影が付きまとう。なんというか、東映のピンク時代劇と似たような香りが漂うのだ。とはいえ、そこは腐っても大映。美術セットや衣装は相変わらず豪華で完成度が高いし、エログロと言っても東映作品に比べたら遥かに控えめで上品だ。日本映画の黄金時代を確立した立役者としての誇りか。しかし、それが逆に移ろう時代の無常さみたいなものを感じさせることも否めない。すぐそこに終わりが近づいていることを、嫌がおうにも思い起こさせるのだ。
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ただ、大映が時代劇にセックスと暴力を持ち込んだのは、決して本作が初めてなどではない。同社は看板スターだった市川雷蔵の主演で、'63年から'69年にかけて12本の『眠狂四郎』シリーズを生み出したが、第4弾『眠狂四郎 女妖剣』('64)は耽美的なエロスと猟奇的なバイオレンスが満載で、その後のシリーズの基本路線を決定付けた。今となっては大したことないとはいえ、時代劇で女優のヌードを見せたのも画期的だったと言えよう。
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で、その『眠狂四郎 女妖剣』を手掛けたのが、本作の監督でもある池広一夫。合計で3本の雷蔵版『眠狂四郎』シリーズを担当したほか、任侠映画『若親分』シリーズや『座頭市』シリーズなどの人気シリーズにも起用され、大映倒産後は『子連れ狼』や『遠山の金さん』などテレビの人気時代劇でも重宝された人だ。本作はどうしても大映全盛期の作品に比べると見劣りしてしまうことは否めないが、シメントリーにこだわった絵作りは相変わらずスタイリッシュだし、あえて「異常性愛路線』とは一線を画した適度なエログロも大映映画らしい品格。なにより、日本的な情念や愛憎の類を極力排した西洋的なピカレスク路線が見どころだと言えよう。
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ヒロインのお銀の方は、深川の芸者時代に仲間から娼婦出身であることをバカにされ、あの女たちを見返してやりたい!をモチベーションに、女の武器をフル活用して大名の側室まで成り上がった女。確かに動機そのものはいかにも人間臭いが、権力を握るという目的のためなら腹を痛めた子供でも平気で道具にする、自分に絶対の忠誠を誓う家臣でも平気で裏切ったり見捨てたりする、他人に情けや愛情などかける発想が一切ないという、潔いくらいの割り切り方はかえって清々しいくらいだ。
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その他の登場人物たちも、基本的には己の野心と欲望に忠実で、揃って道徳概念など一切持ち合わせていない。唯一、年下の色男・伊織に心を許してしまった梅野だけは不憫にも思えるが、しかしそんな彼女だって邪魔者は躊躇することなく殺しまくる冷血漢。非業の最後も自業自得と言えば自業自得だ。どんな極悪人たちの裏切り合い騙し合いを、テンポよくスピーディに描いていく池広監督の語り口は実にドライ。それでいて、どこか狂気めいた不穏な空気が緊張感を盛り上げる。
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中でも出色なのは、岸田森演じるお殿様の凶悪ぶりだ。いきなり初登場シーンから、ケタケタと笑いながら家臣の首をスパーンと斬りはね、興奮覚めやらぬままお銀の方を裸にひん剥き、絶叫しながら無我夢中で肉欲を貪る。完全に「キ・〇・ガ・イ」である。殿さまのご乱行と言えば『将軍家光の乱心 激突』('89)の京本政樹や『十三人の刺客』('10)の稲垣吾郎がパッと思い浮かぶが、キャラのインパクトという意味では本作の岸田森が最強である。ラストの死に様もいろんな意味で圧巻。テンション・マックスな岸田森の怪演は必見だ。
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マカロニ・ウエスタン調の音楽スコアも印象的。そういえば、池広監督は雷蔵主演の『ひとり狼』('68)でもマカロニ・チックな時代劇に挑戦していたっけ。やはりどこか洋画的なセンスを持っているんだよね。ただ、時代劇の要である殺陣はイマイチ迫力不足。これはひとえに、武芸の達人たる伊織役の田村正和が、全く強そうに見えないせいもあろう。線が細すぎて立ち回りに安定感がないのだよね。ルックスも確かにハンサムだけど、雰囲気が地味でスターのオーラに欠ける。役者として遅咲きだったのも分からないではないかな。
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主演は当時大映のエログロ路線を一手に担っていた安田姓時代の大楠道代。彼女のように芝居の上手い本格派女優の出ているところが、脱ぎっぷり最優先の東映異常性愛路線とは一線を画す大映ならではのアドバンテージだったと思うのだが、やはり品格よりもお下劣が勝る時代だったのか。梅野を演じる小山明子のしっとりとした美しさも魅力。抜群に演技が上手いというわけではないけど、どんな役をやっても隠せない気品の滲み出るところがいいんだよねえ。
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評価(5点満点):★★★★☆

参考DVD情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:2.0ch Dolby Digital/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:84分/発売元:株式会社KADOKAWA
特典:劇用予告編/スタッフ・キャスト解説/フォトギャラリー



by nakachan1045 | 2018-03-03 16:51 | 映画 | Comments(0)

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