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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「悪魔の手毬唄」 Rhyme of Vengeance (1977)

「悪魔の手毬唄」 Rhyme of Vengeance  (1977)_f0367483_06462673.jpg
監督:市川崑
製作:市川崑
   田中収
原作:横溝正史
脚本:九里子亭(市川崑・日高真也)
撮影:長谷川清
美術:村木忍
音楽:村井邦彦
出演:石坂浩二
   岸恵子
   若山富三郎
   仁科明子
   北公次
   草笛光子
   高橋洋子
   辰巳柳太郎
   三木のり平
   山岡久乃
   林美智子
   渡辺美佐子
   加藤武
   大滝秀治
   中村伸郎
   岡本信人
   永島瑛子
   白石加代子
   常田富士男
   小林昭二
   辻萬長
日本映画/143分/カラー作品




「悪魔の手毬唄」 Rhyme of Vengeance  (1977)_f0367483_09365926.jpg
<あらすじ>
時は昭和27年、場所は岡山と兵庫の県境にある鬼首(おにこうべ)村。かつてここは仁礼家と由良家が勢力を二分していたが、20年ほど前に村を訪れた恩田なる詐欺師に騙された由良家は没落し、今や葡萄酒工場を経営する仁礼家の天下だった。
その恩田は、地元で唯一の温泉旅館「亀の湯」の主人・源次郎を殺害して逃亡。残された未亡人・青池リカ(岸恵子)は旅館を切り盛りしつつ、女手一つで息子・歌名雄(北公次)と娘・里子(永島瑛子)を育てた。歌名雄は仁礼家の葡萄酒工場で働いているが、実は由良家の泰子(高橋洋子)と恋仲。しかし、仁礼家の文子(永野裕紀子)も歌名雄に横恋慕しており、仁礼家の当主・嘉平(辰巳柳太郎)は娘可愛さに2人を結婚させようと画策しているが、母親のリカは頑として首を縦に振らなかった。
その「亀の湯」に東京から来た探偵・金田一耕助(石坂浩二)が宿泊する。古い友人・磯川警部(若山富三郎)に呼び出されたのだ。かつて源次郎殺しの捜査を担当した磯川警部は、いまだ謎の多いこの事件を調べ続けていた。そこで、信頼する金田一に協力してもらおうと考えたのだ。
金田一が温泉に浸かっていると、常連客の老人・多々良放菴(中村伸郎)に声をかけられる。別れた5番目の女房おはんから復縁を願う手紙が届いており、その返事を書きたいのだが手が不自由なため、金田一に代筆して欲しいというのだ。頼まれるがままに手紙を代筆した金田一。それからしばらくして、近隣の総社へ出かけた金田一は、おはんと名乗る老婆に峠で遭遇する。
ところが、総社の旅館の女将・井筒いと(山岡久乃)によると、おはんは1年前に病死しており、墓参りも済ませてきたという。驚いた金田一は放菴の家を訪ねるものの、そこには誰もおらず、吐血したものと思われる血痕だけが残されていた。
その頃、鬼首村出身の人気歌手・別所千恵(仁科明子)が久しぶりに帰省し、村は上へ下への大騒ぎだった。実は千恵は恩田が鍛冶屋の娘・春江(渡辺美佐子)に産ませた子供で、母娘ともども追い出されるようにして鬼首村を後にしたのだが、村の人々はそんなこと忘れたかのような歓待ぶり。千恵と春江は仁礼家に泊まることとなったが、由良家の女当主・敦子(草笛光子)はそれを苦々しく思っていた。
かくして、仁礼家では千恵の歓迎会が盛大に行われ、幼馴染の歌名雄や里子らも招かれていた。すると、仁礼家へ行く途中で里子は、滝の方へ向かう泰子と、その後を歩いていく老婆の姿を見かける。不思議に思いつつも気にかけなかった里子だったが、その翌日、泰子の死体が滝で発見された。
泰子の死因は絞殺。傍には仁礼家の家紋の入った升などが置かれていた。歌名雄と文子を結婚させたい仁礼家の嘉平が、邪魔者の泰子を殺したのではないかと勘繰る由良家の敦子。しかし、捜査に当たる警察の立花主任(加藤武)は、前夜に里子が目撃した老婆おはんが犯人だと断定して行方を捜す。
ところが、今度は葡萄酒工場で仁礼家の文子が死体で見つかる。金田一は由良家のご隠居(原ひさ子)が歌う、村に古くから伝わる手毬歌の歌詞に謎を解くカギがあると睨むのだったが、さらなる殺人事件が発生してしまう…。
「悪魔の手毬唄」 Rhyme of Vengeance  (1977)_f0367483_09332977.jpg
社会現象にもなった大ヒット作『犬神家の一族』('76)に続く、市川崑監督と石坂浩二のコンビによる金田一耕助シリーズの第2弾。前作は角川映画の製作で東宝が配給を担当したが、今回は東宝が製作と配給の両方を手掛けている。当時の出版界は折からの横溝正史ブーム。その人気が映画界やテレビ界にも飛び火して、数多くの映画やドラマが作られたわけだが、個人的にはやはり『犬神家の一族』と松竹の『八つ墓村』('77)が双璧トップ。その次に好きなのが、この『悪魔の手毬唄』だ。
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まず初めに断っておくと、本作を純粋に謎解きミステリーとして見た場合、ちょっと腑に落ちないようなところは少なからず見受けられる。例えば、犯人の動機そのものは全く理解できないわけでもないのだが、しかしだからと言って殺人まで犯すだろうか?という点。ネタバレを極力避けようとすると、もどかしい表現になってしまうのだが、もっと他に「それ」を防ぐ方法はあっただろうに、と思えて仕方ない。しかも、もっと簡単で面倒臭くない方法が。合理性という観点からいうと、あまり現実的だとは思えない。
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次に、犯人が古い手毬唄の歌詞になぞらえて殺人を重ねるという、その手段にも疑問が残る。例えば、これが地元の村人だったら誰でも知っている唄、ということであればまだ多少は納得も行く。迷信深い田舎であれば呪いのせいに出来るだろうしね。もちろん、舞台は昭和20年代なのでさすがに大して通用しないだろうし、そもそもそれだと次の犯行が予見出来てしまうので意味がない。まあ、警察の捜査を多少かく乱することは出来るかもしれないが。で、本作の場合は村人ですらほとんど知らない古い唄なので、そうなると歌詞の内容になぞらえる必然性がない。むしろ、そのことに気付かれたら次なる犯行のヒントを与えることになりかねない。これまた冷静になって考えれば極めて不合理だ。
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他にもご都合主義的だと思えるような部分は幾つもあるのだが、しかし本作においてそれらの所謂「突っ込みどころ」は大した問題ではない。むしろ本作の面白さというのは、事件の背後にある関係者らの生々しい愛憎や欲望、激動する社会の中で名もなき庶民に多くの犠牲を強いてきた昭和史の歩み、伝統や体面を重んじる日本ならではの狭い村社会におけるしがらみや因習、それらの要素が混然一体となって絡まることで、人間のどうしようもない業や哀しみが浮かび上がるところにあると言えよう。
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そうした、壮大かつ宿命的な人間ドラマを盛り上げる雰囲気作りも非常に上手い。舞台は山に囲まれた辺鄙な寒村。季節はどんよりとした曇り空の薄ら寒い冬。日本的な様式美をたたえた残酷な猟奇殺人。古い手毬唄の謎めいた歌詞。伝統と近代化の狭間で暮らす人々の日常風景。伝奇ホラー的なおどろおどろしいムードの中に漂う、情感溢れる哀切や郷愁がなんとも言えない。スプラッターな残酷描写やショックシーンの適度なさじ加減も絶妙。もちろん、市川崑監督らしいトリッキーでモダンな映像テクニックも見どころだ。
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あと、映画ファンとしては20年前に殺された青池源次郎の前職が無声映画の弁士だった…というのも興味深く思える設定だろう。字幕スーパー付きトーキー映画の登場で職を失った源次郎は、仕方なく妻リカを連れて大阪から故郷の鬼首村へ戻らなくてはならなくなった。これもまた、時代の移り変わりに翻弄された人間の哀しみ。大河内伝次郎の『新版大岡政談』('28)やディートリッヒの『モロッコ』('30)の映像が挿入されるのもいい。
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惜しむらくは、昭和27年という時代の空気を十分に表現しきれていないところだろうか。これはある時期からの日本映画の弱点でもあるのだが、どうしても”今感”をぬぐい切れていないのだ。それはことに、村の若者たちを取り巻くドラマ部分に言える。歌名雄役を演じている北公次なんか、どう見ても昭和40年代の若者にしか見えないもんな…。まあ、彼はそれだけじゃなくて一本調子な芝居にもけっこう問題ありなのだけど。もちろん、トータルではかなり頑張って時代感を再現していると思うのだけど、まだどこか足りないものもある。そこは、やはり今も昔もハリウッド映画にかなわない点だろう。
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もちろん、オールスター・キャストの顔ぶれも魅力的だ。今回はどちらかというと控えめに、狂言回し的な役どころに徹している石坂浩二の金田一だが、それがむしろ要所要所で存在感を発揮して、ストーリーの流れに緩急を与えている。不器用で朴訥とした中に、ベテラン刑事ならではの凄みを時折垣間見せる、磯川警部役の若山富三郎もチャーミング。田舎の旅館の女将さんとしては少々奇麗すぎる感は否めないリカ役の岸恵子も、運命のいたずらで都会から地方へ流れ着き、女手一つで子供を育てねばならなくなった女性のけなげが滲み出る。実は本作はこのリカと磯川警部のラブストーリーでもある…という味わい深さにもホロッとせられる。
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そのほか、金田一シリーズには欠かせない憎まれ役の加藤武、世間話好きでおしゃべりな女中役の林美智子、胡散臭さダダ洩れな放菴役の中村伸郎、一癖も二癖もある村医者役の大滝秀治、面倒な仕事ばかり押し付けられる巡査役の岡本信人、死体を発見して奇妙な声を上げながら気絶する常田富士男、いちいち話が明後日の方向に飛んで金田一をイライラさせる三木のり平、存在自体が殆どホラーみたいな白石加代子など、実に芸達者な名優たちの演技を楽しむことが出来る。山岡久乃や原ひさ子も、出番こそ少ないながらインパクトは抜群。草笛光子に渡辺美佐子、辰巳柳太郎といった大御所も存在感がある。
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また、本作は村井邦彦による音楽スコアも素晴らしい。中でもタイトルクレジットで流れるメインテーマ「哀しみのバラード」は秀逸。前作『犬神家の一族』で大野雄二が書いた名曲「愛のバラード」を意識したと思われるが、よりヨーロッパ映画的(特にイタリア)な抒情性がなんとも胸に染みる。
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評価(5点満点):★★★★☆

参考DVD情報(日本盤)
カラー/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:2/時間:143分/発売元:東宝株式会社
特典:予告編/作品資料/スナップ・コレクション/封入解説書



by nakachan1045 | 2018-03-13 00:46 | 映画 | Comments(0)

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