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なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「ナイトビジター」 The Night Visitor (1971)

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監督:ラズロ・ベネディク
製作:メル・ファーラー
原案:サミュエル・ローカ
脚本:ガイ・エルムズ
撮影:ヘニング・クリスチャンセン
音楽:ヘンリー・マンシーニ
出演:マックス・フォン・シドー
   トレヴァー・ハワード
   リヴ・ウルマン
   ペール・オスカルソン
   アンドリュー・キアー
   ルパート・デイヴィース
   ジム・ケネディ
   アーサー・ヒューレット
   ハンネ・ボルク
スウェーデン・アメリカ合作/102分/カラー作品




<あらすじ>
雪の降り積もる真冬の人里離れた田舎。1人の男が裸同然の姿で雪原を駆け抜ける。やがて一軒の民家へたどり着いた男。彼の名前はセイラム(マックス・フォン・シドー)、そこは彼の実家だった。屋根をつたって窓からこっそりと民家へ忍び込むセイラム。家の中では家族が口論している。妹エスター(リヴ・ウルマン)とその夫で医者のアントン(ペール・オスカルソン)は、家と農場を売り払おうと考えていたのだが、末っ子のエミー(ハンネ・ボルク)が猛反対していたのだ。
アントンの医療ケースに細工して家から抜け出したセイラムは、近隣に住む元恋人ブリット(ロッテ・フレディ)を絞め殺す。死体を発見した親の通報で現場へ駆けつけたアントンは、医療ケースの中にネクタイの束が入っていることに驚く。警察の調べによるとブリットは細い紐のようなもので絞殺されていた。
慌てて家に戻ったアントン。すると今度は寝室でエミーが撲殺されていた。凶器はアントンの文鎮だ。夫が殺人犯ではないかと疑い、寝室に閉じ込めて警察を呼ぶエスター。すると、アントンは部屋に隠れていたセイラムを目撃して、ショックのあまり気を失う。
しばらくして意識を取り戻したアントンは、警察の警部(トレヴァー・ハワード)にセイラムが犯人だと訴えた。しかし、セイラムは2年前に殺人事件で逮捕され、現在は厳重な精神病棟に幽閉されている。実際、警察が確認したところセイラムは精神病棟の独房にいた。ただ、警部は警部で腑に落ちないものを感じていた。ブリットの絞殺に使われたと思われるアントンのネクタイ、言い争いの直後にアントンの文鎮で殺されたエミー。不自然なくらいに証拠が揃い過ぎているのだ。
そこで、精神病棟にセイラムを訪ねる警部。出迎えた所長ケンプ(アンドリュー・キアー)が要塞のような精神病棟を案内する。確かに、ここを脱走するのは至難の業だ。丘の上にそびえたつ病棟は窓も小さく、最上階の独房は厳重にロックされている上に監視の目が光っている。拭えない疑念を抱きつつも、現実的に脱走が極めて困難であることは警部も認めざるを得ない。
しかし、夜の帳が下りるとセイラムは再び精神病棟を巧みに抜け出し、今度はアントンが雇った弁護士クレメンス(ルパート・デイヴィース)を狙う。やがて浮かび上がる2年前の殺人事件の真相。真犯人はアントンとエスターの夫婦なのだが、もともと邪魔者だったセイラムに罪を擦り付けたのだ。一連の犯行は濡れ衣を着せられたセイラムが用意周到に計画した復讐。果たして、彼は警察の目を欺いて完全犯罪を成し遂げることが出来るのだろうか…?

スウェーデンとアメリカの合作による、サスペンス・スリラーの隠れた名作である。舞台は雪の降り積もる真冬の人里離れた田舎。主なロケ地はスウェーデンの地方都市ヴァールベリ郊外の丘陵地帯だが、あえて本編中には特定の国や土地を指し示すものは一切出てこない。出演陣もスウェーデンとイギリス、デンマークの混成キャストだし、セリフは全て英語で統一されている。なので、これはどこでも起き得る話として見るべきなのだろう。

閑話休題。主人公は2年前に無実の罪で殺人犯の濡れ衣を着せられ、誰も助けてくれないまま不利な裁判で精神病棟に幽閉されてしまった男セイラム。そんな彼が厳重警備の敷かれた要塞のごとき病棟の独房を夜な夜な抜け出し、裁判で自分を陥れたり見捨てたりした関係者を、巧みに計算されたシナリオに沿って一人また一人と殺害し、物的証拠や状況証拠による疑惑の目が妹エスターとその夫アントンに向くよう工作していく。なぜなら、彼らこそ2年前の殺人事件の真犯人であり、無実のセイラムに濡れ衣を着せた首謀者だから。要するに、復讐目的の完全犯罪を仕組むわけだ。

シンプルでありながらもじっくりと練り込まれた脚本と演出が見事。セリフを最小限に止めながらも、観客が的確に状況を把握できるよう、細かなディテール描写を丁寧に積み重ねていく。よくよく考えると都合の良すぎるような展開はなくもないが、しかし一切の荒唐無稽を排したリアルでパワフルな演出が完全犯罪のプロットに十分な説得力を与えている。中でも、一見して脱出不可能な精神病棟を、主人公セイラムが用意周到な計画で抜け出していく過程は本作の白眉だ。

しかもこれ、撮影用のセットなどではない。14世紀に軍事要塞として建設され、17世紀末から1931年まで刑務所として使われていた、スウェーデンのヴァールヴェリ要塞でロケされているのだ。なので、これは筆者の勝手な憶測ではあるけれど、恐らく制作陣は実際に要塞や独房の建築構造や立地条件を考慮した上で、脱出方法を独自に研究して編み出したはず。そうでなければ、ここまで具体的に映像で描写することは出来なかったのではないだろうか。

また、セイラムの目論見を直感で見抜いた警部が、その決定的な証拠を掴むべくじわじわと追い詰めていくサブプロットも、ストーリーの緊張感を嫌がおうにも高める。と同時に、第三者である警部の客観的かつ論理的な視点が加わることで、セイラムを巡る複雑な人間関係や2年前の事件のあらましが徐々に浮き彫りとなり、ストーリー全体にもリアリズムが増すわけだ。

監督はアカデミー賞5部門にノミネートされた『セールスマンの死』('51)や、マーロン・ブランド主演の元祖バイカー映画『乱暴者』('53)で知られるラズロ・ベネディク。第二次世界大戦中にナチスの魔手を逃れるべく、母国ハンガリーからハリウッドへ移住した亡命ユダヤ人だ。本作の劇場公開時は既に65才の大ベテラン。どんよりとした曇り空のもと、真冬の荒涼とした雪原を主人公セイラムが駆け抜けるオープニングからして、どことなくドイツ表現主義を彷彿とさせる悪夢的かつ寓話的な雰囲気が漂う。その前衛的でエッジの効いた演出は全く年齢を感じさせない。後に『バベットの晩餐会』('87)で高く評価される撮影監督ヘニング・クリスチャンセンのナチュラルな画作りは、時としてベルイマン映画をも想起させる。そういう意味では、とても北欧的なイメージの強い映画だ。

原案は'50年代に低予算のB級西部劇を手掛けたハリウッドの脚本家サミュエル・ローカ。もともと'63年に20世紀フォックスが、スティーヴ・マックイーン主演で映画化しようとしたらしい。それがどう巡り巡ったのかは定かでないが、当時ヨーロッパに活動拠点を移していたハリウッド・スター、メル・ファーラーの手元に企画が流れ着き、北欧ロケで映画化されることとなったわけだ。一応、スウェーデンとアメリカの合作ということにはなっているが、脚本のガイ・エルムズを筆頭にイギリスやデンマークのスタッフ・キャストも含まれているし、デンマークでの撮影も行われているので、実際は多国籍プロダクションだったと考えていいだろう。

本編クレジット上の主演は警部役を演じるイギリスの大御所俳優トレヴァー・ハワードだが、実質的な主演はマックス・フォン・シドーとリヴ・ウルマン。どちらもベルイマン映画で世界へ飛び出したスウェーデンを代表するスターだ。復讐の鬼と化したセイラムを演じるマックス・フォン・シドーの不気味な存在感は強烈。理性と狂気の混在した得体の知れなさは、時としてレクター博士をも彷彿とさせる。無実の罪で陥れられた犠牲者とはいえ、もともとヤバい人だったんだよね、絶対に。また、知性派女優のイメージを逆手に取ったリヴ・ウルマンの、徐々に性悪女の本性を垣間見せていく演技も秀逸だ。

その小悪党な夫を演じるのはイギリスでも活躍したスウェーデンの名優ペール・オスカルソン。また、ハマー映画の名脇役としてもお馴染みのアンドリュー・キアーやルパート・デイヴィースも顔を出している。なお、アメリカ盤ブルーレイはしばしば「VCIクオリティ」と揶揄されるインディペンデント系メーカー、VCIからのリリース。VHS時代から本作の著作権を保有している彼らは、過去のDVD版でアスペクト比を誤ってしまい大不評を買ったこともあったが、今回はちゃんと劇場公開時と同じビスタサイズで収録されており、画質も古いヨーロッパ映画としてはまずまずのクオリティだ。

評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM Mono/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:102分/発売元:VCI
特典:映画研究者ブルース・G・ハレンベックによる音声解説/オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2018-04-10 12:58 | 映画 | Comments(0)

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