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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「恐怖の土曜日」 Violent Saturday (1955)

「恐怖の土曜日」 Violent Saturday  (1955)_f0367483_20211673.jpg
監督:リチャード・フライシャー
製作:バディ・アドラー
原作:ウィリアム・L・ヒース
脚本:シドニー・ボーム
撮影:チャールズ・G・クラーク
美術:ライル・ホイーラー
   ジョージ・W・デイヴィス
音楽:ヒューゴ・フリードファー
出演:ヴィクター・マチュア
   リチャード・イーガン
   スティーブン・マクナリー
   ヴァージニア・リー
   トミー・ヌーナン
   リー・マーヴィン
   マーガレット・ヘイズ
   J・キャロル・ネイッシュ
   シルヴィア・シドニー
   アーネスト・ボーグナイン
   ドロシー・パトリック
アメリカ映画/90分/カラー作品




<あらすじ>
アメリカ西部の田舎町ブレイドンヴィルに、怪しげな男たちが次々と集まってくる。旅回りのセールスマンを装ったリーダーのハーパー(スティーブン・マクナリー)、子供好きな学者風の中年紳士チャップマン(J・キャロル・ネイッシュ)、そしてアンフェタミン中毒の粗暴な男ディル(リー・マーヴィン)だ。ホテルの一室で秘かに計画を立てる3人。彼らの正体はギャング。その目的は警備の手薄な地元銀行の襲撃だった。
鉱業で栄えているブレイドンヴィルには、大きな銅山がある。採掘会社に勤務するベテラン社員のシェリー(ヴィクター・マチュア)は社内でも信頼が厚く、社長からもアルコール中毒の息子ボイド(リチャード・イーガン)の補佐を頼まれていた。もともとボイドは勤勉なマネージャーだったが、妻エミリー(マーガレット・ヘイズ)の浮気が原因で酒に溺れてしまったのだ。
一方のシェリーは、しっかり者の妻ヘレン(ドロシー・パトリック)と3人の息子に恵まれ、幸せな家庭生活を送っていたが、このところ長男スティーヴ(ビリー・チャピン)の態度がおかしい。実は、学校で「お前の父親は腰抜けだ」とバカにされていたのだ。というのも、第二次世界大戦では鉱業が重要視されたため、シェリーは業務に専念するため徴兵されなかった。それを幼い子供たちは理解しておらず、スティーヴもそんな父親を恥だと思っていたのである。
その他にも、一見したところ平和で美しい理想的な町には、様々な問題が水面下で渦巻いていた。銀行からの借金返済に困った図書館の司書ブレイデン夫人(シルヴィア・シドニー)は、利用者の財布を盗んで金を抜き取る。真面目な堅物として知られる銀行の支配人リーヴス氏(トミー・ヌーナン)は、妻帯者でありながら病院看護婦リンダ(ヴァージニア・リー)に横恋慕し、こっそり後を付け回して自宅アパートを覗き見していた。バーに立ち寄ったボイドはリンダをナンパしようとするが、酔いつぶれて自宅に送り届けられる。帰宅したエミリーはリンダに叱責され己の欺瞞を反省し、酔いの醒めたボイドも自分の弱さを悔いるのだった。
そうした中、土曜日の朝が訪れる。銀行強盗計画に動き出すギャング一味。彼らはシェリーの運転する車を逃走用にジャックし、電話も武器も持たないアーミッシュの農家を占拠する。後から合流した仲間を見張り役に、アーミッシュ一家とシェリーを監禁したギャングたちは、その足で町の人々が集まる銀行へと向かう。そこにはエミリーやブレイデン夫人、次男を連れたヘレンらもいた。その頃、自力で拘束の縄をほどいたシェリーは、アーミッシュ一家の主スタッド氏(アーネスト・ボーグナイン)の協力で反撃に転じようとしていたのだが…。

娯楽映画の巨匠リチャード・フライシャー監督によるノワール風の犯罪サスペンスである。ただし、面白いのはメロドラマや風俗ドラマの要素が多分に含まれているというところ。地方銀行への強盗計画を企て実行するギャング一味を、ある種の狂言回しとして使いながら、のどかで平和な美しい田舎町に住む善良な人々の生臭い裏の顔を炙り出していく。人は誰でも多かれ少なかれ罪人(つみびと)である、というわけだ。

『ポパイ』や『ベティ・ブープ』で有名なアニメ界の巨匠マックス・フライシャーの息子として生まれたリチャード・フライシャー監督。もともと映画会社RKOで低予算のB級フィルムノワールを撮っていたが、ディズニーに起用されたSFアドベンチャー『海底二万哩』('54)の成功で高く評価され、20世紀フォックスのダリル・F・ザナックによって本作の演出に抜擢される。

当時の20世紀フォックスは自社の開発したワイドスクリーン上映方式「シネマスコープ」に力を入れていた。シネマスコープを採用した映画と言えば、『聖衣』('53)や『百万長者と結婚する方法』('53)などの大作が基本だったが、この『恐怖の土曜日』は100万ドル以下の低予算で作られた初めてのシネスコ作品。それが全米興収で予想以上の好成績をあげたことから、ザナック御大もいたくご満悦だったとか。これを機にフライシャー監督は20世紀フォックスと専属契約を結び、後に『ミクロの決死圏』('66)や『ドリトル先生不思議な旅』('67)、『絞殺魔』('68)などの名作・傑作を生み出すことになるわけだ。

アメリカ西部の田舎町ブレイドンヴィルに、一人また一人とギャングが集まってくるところから物語は始まる。なにしろ、犯罪とは無縁の平和な場所なので、銀行の警備もかなり手薄。近くの警察署だって、大都会に比べれば警察官の数は圧倒的に少ない。しかも、地元には大きな銅山の採掘会社があり、先の大戦における軍需景気で町は大いに潤っている。銀行強盗をするならここでしょ!とギャングたちが考えるのも当然と言えば当然だろう。

計画の下調べをするため、町の様子を探って回るギャングの一味。そこから、カメラは何も知らない平凡な市民たちの日常へと足を踏み入れていく。夫婦生活の倦怠期から夫への愛情が冷め、恋愛の刺激を求めて浮気に走る裕福な人妻。そんな妻の裏切りを知って深く傷つき、自暴自棄になって酒に走る夫。銀行からの借金返済を滞納してしまい、やむにやまれず他人の財布を盗んでしまう気位の高い浪費家の中年婦人。妻帯者でありながら独身の若い看護婦に恋焦がれ、性の欲望を抑えきれずストーカー行為に走ってしまう堅物で生真面目な銀行支配人。その若い看護婦もまた、理想の男性を求めながらもなかなか見つからず、半ばあきらめつつも毎晩のようにバーへ通い詰めナンパされるのを待っている。

まるでノーマン・ロックエルのイラストから抜け出てきたような、のどかで風光明媚なブレイドンヴィルの町だが、それも一皮むけば善良そうに見える住民たちの身勝手な愛憎と欲望がドロドロと渦巻く。フライシャー監督はそんな罪深い人々の赤裸々な素顔を淡々と見つめつつ、しかし決して彼らを断罪したりなどしない。世の中に完璧な人間などいない、誰もが何かしらの罪を抱えて生きているからだ。それは、敬虔なクリスチャンであるアーミッシュの人々も同様。心の中では様々な負の感情が隠されている。それを表に出すか出さないかの違いしかない。

そんな中で、物語は銅採掘会社に勤める中間管理職の中年男シェリーに焦点を当てる。妻と3人の息子を心から愛する良き家庭人なのだが、近ごろ長男スティーヴの態度が反抗的だ。というのも、戦争で従軍しなかったシェリーのことを学校の友達が「腰抜け」呼ばわりしてバカにし、スティーヴもまたそんな父親のことを恥だと思っていたのだ。確かにシェリーは戦争へ行っていない。しかし、それは彼が兵役を拒否したからではなく、武器を作るために必要な銅を生産するため、国から労働奉仕を求められたからだ。しかし、幼い子供たちにはそれを理解することは難しい。

そんなシェリーが終盤、ギャングたちを相手に英雄的な活躍を見せる。そこはネタバレになるので割愛するが、ラストで傷つき病院のベッドに横たわるシェリーが、自分を英雄視して自慢する息子にかける言葉は象徴的だ。「この世に死ぬことを恐れない人間なんていない」と。まあ、そんなこと言っても小さい子供には全く伝わらないので、「でもお父さんは別だよね!だって悪い奴らをやっつけたんだもん!凄いや!」みたいな反応しか返ってこないのだけど(笑)。

そんな、どこにでもいる平凡な父親の火事場の馬鹿力的な勇気を演じるのが、『サムソンとデリラ』('49)や『聖衣』('53)でお馴染みのマッチョなタフガイ俳優ヴィクター・マチュアというのはとても面白い。'40年代から'50年代初頭にかけてハリウッドのトップに君臨したスターだったが、当時は人気に陰りが出始めていたことから、役者として新たな方向性を模索していたのだろう。ただ、折から専属契約を巡ってフォックスと対立していたこともあり、彼にとって同社作品への出演はこれが最後となってしまった。

脇役のキャスティングは全体的に地味だが、当時悪役俳優として頭角を現しつつあった若き日のリー・マーヴィンが、子供相手でも手加減しない狂犬のようなギャング、ディルを演じて強烈なインパクトを残す。また、'30年代を代表する清純派スター女優シルヴィア・シドニーが借金苦で盗みに手を出す中年婦人を、マーヴィンと同じく悪役として注目を集め、同年の『マーティ』('55)でオスカーに輝くアーネスト・ボーグナインが、アーミッシュ一家の信心深い父親役を演じているのも印象深い。

評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)※3000枚限定プレス
カラー/ワイドスクリーン(2.55:1)/1080p/音声:5.1ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:90分/発売元:Twilight Time/20th Century Fox
特典:映画史研究者ジュリー・カーゴとニック・レッドマンの音声解説/音楽トラックの独立再生機能



by nakachan1045 | 2018-04-18 20:35 | 映画 | Comments(0)

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