なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
プロフィールを見る
画像一覧
通知を受け取る
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30

「北国の帝王」 Emperor of the North Pole (1973)

f0367483_10394477.jpg
監督:ロバート・アルドリッチ
製作:スタン・ハフ
製作総指揮:ケネス・ハイマン
脚本:クリストファー・ノップ
撮影:ジョセフ・F・バイロック
編集:マイケル・ルチアーノ
音楽:フランク・デヴォール
主題歌:マーティ・ロビンズ
出演:リー・マーヴィン
   アーネスト・ボーグナイン
   キース・キャラダイン
   チャールズ・タイナー
   マルコム・アッタービュリー
   ハリー・シーザー
   サイモン・オークランド
   マット・クラーク
   イライシャ・クック・ジュニア
   シド・ヘイグ
   ヴィック・テイバック
アメリカ映画/120分/カラー作品




<あらすじ>
史上空前の経済恐慌によって、アメリカ全土に失業者が溢れていた1933年。ホーボーと呼ばれる浮浪者たちは、食料や仕事を求めて鉄道の無賃乗車で全米各地を渡り歩いていた。そんなホーボー連中を敵視するのが鉄道員たち。中でも、オレゴン鉄道に勤務するシャック(アーネスト・ボーグナイン)は、無賃乗車を見つけたら問答無用でハンマーを振り下ろす鬼のような非道ぶりでホーボーたちから恐れられ、彼が車掌を勤める19号列車は誰もが避けていた。
そうした中、ただ一人だけシャックに見つかることなく、たびたび19号車に忍び込むツワモノがいた。ホーボーたちの間で”北国の帝王”の異名をとる男A・ナンバーワン(リー・マーヴィン)だ。ある日、A・ナンバーワンから食料のニワトリを奪おうとして失敗した若者シガレット(キース・キャラダイン)が、こっそりと彼の後について行って一緒に19号列車へと忍び込む。”北国の帝王”の座を奪ってやろうというのだ。しかし、無賃乗車に勘付いたシャックは2人が乗った貨物車両の鍵を閉めてしまう。そこでA・ナンバーワンはわざと貨物列車に火をおこし、騒ぎの隙を狙ってまんまと逃亡。逃げ遅れたシガレットは鉄道員たちに捕まってしまう。
ところが、シガレットは「俺こそがシャックの目を盗んで19号車に無賃乗車した本物の”北国の帝王”だ」と吹聴。日頃からシャックの同僚・部下に対する厳しい態度に不満を持っていた鉄道員たちは、シャックに恥をかかせるべくシガレットを無罪放免にする。それを伝え聞いたA・ナンバーワンは激怒し、自分こそが“北国の帝王”であることを証明するべくシャックに挑戦することを宣言。かくして、男の意地を賭けた三つ巴の戦いの火ぶたが切られることとなる…。

ズバリ、無賃乗車に異常なほどの執念を燃やす浮浪者と、それを許すまじと人殺しも厭わない鉄道員による、まさに男の意地と意地がぶつかり合う異色のバイオレンス・アクションである。ロバート・アルドリッチ監督と言えば『攻撃』('56)や『特攻大作戦』('67)など骨太な男性映画で評価の高い巨匠だが、その一方で老姉妹の確執が殺し合いにまで発展していく『ジェーンに何が起ったか?』('62)を筆頭に、『甘い抱擁』('71)や『傷だらけの挽歌』('71)など、何かにとりつかれた人間の凄まじい執念を描いた作品でも本領を発揮する。そう考えると、本作などはさしずめアルドリッチ映画の集大成とも呼べるかもしれない。

と同時に、これは反体制・反権力を明確に打ち出した映画でもある。それを理解するためには、まず「ホーボー」とは何ぞや?というところから学ぶ必要があるだろう。日本語に訳すと「浮浪者」となってしまうが、しかしアメリカの歴史・文化において「ホーボー」とはただ単なる浮浪者などではない。19世紀末にイギリスで端を発してアメリカ経済を直撃した“大不況”を背景に、貨物列車などに忍び込んで全米各地を渡り歩きながら、仕事を探して生活する渡り鳥労働者のことを「ホーボー」と呼ぶようになったのだが、やがてその貧しくとも自由で開拓精神あふれる生き様が多くの人々の共感を呼ぶようになり、いわば近代化以前の古き良き「アメリカン・スピリット」を体現するような存在として詩や小説、音楽などの題材になったのである。

事実、本作の主人公A・ナンバーワンのモデルとなった伝説的なホーボー、レオン・レイ・リヴィングストンは、そのようなライフスタイルに憧れたことから、決して生活が困窮していたわけではないにも関わらず、自らの意思でホーボーとなったことを自伝で明かしている。まあ、それはあくまでも極端な例ではあるし、そもそも実害のある無賃乗車を正当化するわけにもいかないとは思うのだが、とはいえ貨物列車の隅っこや車両連結部分にこっそりと便乗するだけで客席に堂々と居座るわけじゃないし、その程度のことなら目をつむったっていいんじゃない?と個人的には思うのだけれどね。

ただ、その一方でホーボーたちに厳しい目を向ける人々も多かった。いや、恐らくそちらの方が主流だったに違いない。ろくに働きもせず無賃乗車を決め込むとは何事だ!というわけだ。また、線路脇の空き地や原っぱに集まって野宿する彼らを白い目で見る向きも多かった。しかしながら、20世紀前半のアメリカを代表するジャーナリスト、H・L・メンケンが著書『The American Language』で解説しているように、ホーボーたちは自らのことを浮浪者ではなく労働者だと自負していた。ただ不景気のせいで働ける場所が殆どないため、自らの足で遠くへ探しに出かけなくてはならないのだ。しかし移動しようにも肝心の金がない。ならば無賃乗車するしかなかろう。さもなければ飢え死にするしかない。恐らく、彼らは一見すると自由気ままなように思えて、実際は世間からの冷たい目や見えない圧力と日々戦っていたに違いない。

そう考えると、本作で「北国の帝王」ことA・ナンバーワンが無賃乗車に執念を燃やす理由も、おのずと分かってくることだろう。言うならば彼は、鬼のような車掌シャックに象徴される非情な社会に対し、自らの人間としての尊厳を賭けて立ち向かっているのだ。そんな彼にしつこく付きまとうホーボーの若者シガレットは、一方的にライバル心を燃やして帝王の肩書を奪い取ろうと画策するのだが、しかし鼻から歯が立たない。それは若者ゆえの未熟さと軽率さもさることながら、そもそもの動機が下らない功名心ばかりに終始しており、A・ナンバーワンのような人としての信念が決定的に欠けているからだ。

また、仲間からも恐れられる車掌シャックも、ただ単なる極悪非道なモンスターではない。本作においては、ある意味で権力サイドの人間ではあるものの、そうはいっても所詮は一介の鉄道員。僅かな給金で過酷な労働を強いられている男だ。その積もり積もった不満や怒りが、さらに立場の弱いホーボーへ向けられる。俺がこんなに汗水たらして働いているのに、ルールを守らず無賃乗車するとはなんたる不届き者!成敗してくれる!というわけだ。

弱者がさらなる弱者をヘイトするという、まさに今の日本でもリアルに起きているような負の連鎖。しかも、あまりの憎しみに目がくらんでしまい、列車から突き落とした相手が死んだって我関せず。無賃乗車した方が悪いだろ!という論理だ。これなども、自己責任の名のもとに弱者を平然と切り捨てる現代日本の姿を想起せずにはいられない。直接手を下しているか否かだけの違いだ。

そんなA・ナンバーワンを演じるリー・マーヴィン、シャックを演じるアーネスト・ボーグナイン、ハリウッド映画史にその名を刻む希代の怪優たちによる凄まじい演技合戦がまた見ものだ。こうがもうね、アクションのテクニックがどうのこうの、身体能力がどうのこうのじゃなくて、まさしく気迫の問題なわけですよ。怪物ばりにコワモテのオッサン2人が、文字通り全身全霊で激しくぶつかり合う。ラストの一騎打ちなんか、あまりの迫力に開いた口がふさがりません。当時まだ若造だったシガレット役のキース・キャラダインもすっかり影が薄くなってしまう。こういう強烈な個性を持った型破りな俳優も、この2~30年ですっかりいなくなってしまった。

ちなみに、脇役にも地味ながら個性の強い役者が顔を出している。中でも要注目なのは、ジャック・ヒル監督やロブ・ゾンビ監督のカルト映画で有名な怪優シド・ヘイグが、野宿に集まっているホーボーの一人を演じていること。『マルタの鷹』('41)などでお馴染みの名脇役イライシャ・クック・ジュニアの姿もチラリと見えるし、マット・クラークやサイモン・オークランドなど、'70年代のハリウッド映画やテレビドラマに欠かせない懐かしいバイプレイヤーたちが揃っている。

なお、本国アメリカに先駆けて発売された日本盤ブルーレイは、特典も含めて基本的には旧DVDからのストレートな移植。恐らく、もともと本編はHDマスターだったのだろう。画質は概ね良好なので、DVDからブルーレイに買い替えて鑑賞する意味は十分にある。ただ、その後リリースされたアメリカ盤は4Kリマスターとのこと。日本語字幕はないが、特典はほぼ同じ。まあ、3000枚の限定プレスだったため既に廃盤となっているのだが。

あと、隠しコマンドとして予告編の別バージョンが収録されているのだが、これは本編の全米初公開時のもの。というのも、もともと「Emperor of the North Pole」というタイトルで劇場公開された本作だが、Emperor of the North Pole(北極の帝王)だとサンタクロースを連想させ、クリスマス映画と勘違いされかねないという理由から、20世紀フォックス幹部の判断で「Emperor of the North」に替えられたのだそうだ。

評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:1.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語・日本語(吹替)/字幕:日本語/地域コード:ALL/時間:120分/発売元:20世紀フォックス
特典:映画歴史家ディナ・ボーランによる音声解説/オリジナル劇場予告編(再公開時)/TVスポット集/隠しコマンド(初公開時オリジナル劇場予告編)



by nakachan1045 | 2018-06-13 20:05 | 映画 | Comments(0)

カテゴリ

全体
映画
音楽
未分類

お気に入りブログ

なにさま映画評

最新のコメント

すいません!その通りです..
by nakachan1045 at 13:12
直人の子分に曽根晴美とあ..
by Django at 02:25
いまみると、北斗の拳のバ..
by ドゴラ at 14:14
昔、NHKで見たので記憶..
by さすらい日乗 at 12:59
> さすらい日乗さん ..
by nakachan1045 at 10:21
これは、公開時に今はない..
by さすらい日乗 at 07:33

メモ帳

最新のトラックバック

venussome.co..
from venussome.com/..
venuspoor.co..
from venuspoor.com/..
venuspoor.com
from venuspoor.com
http://while..
from http://whileli..
http://while..
from http://whileli..
http://www.v..
from http://www.val..
オペラ・ブッファの傑作で..
from dezire_photo &..

ライフログ

検索

ブログパーツ

最新の記事

「細雪」 The Makio..
at 2018-09-18 21:20
「離愁」 Tomorrow ..
at 2018-09-17 10:53
「ビッグ・ボス」 Capon..
at 2018-09-16 09:11
「悪魔の密室」 De Lif..
at 2018-09-13 07:16
「超人アーゴマン」 Come..
at 2018-09-10 13:21

外部リンク

ファン

ブログジャンル

映画
ライター