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なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「日本の黒幕(フィクサー)」 Behind Japan's Black Curtain (1979)

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監督:降旗康男
企画:日下部五朗
   本田達夫
脚本:高田宏冶
撮影:中島徹
音楽:鏑木創
出演:佐分利信
   田村正和
   松尾嘉代
   江波杏子
   有島一郎
   島田正吾
   金田龍之介
   曾我廼家明蝶
   梅宮辰夫
   田中邦衛
   仲谷昇
   狩場勉
   中尾彬
   高橋悦史
   尾藤イサオ
   成田三樹夫
   中谷一郎
   内藤武敏
   佐々木孝丸
   織本順吉
   小林稔侍
日本映画/131分/カラー作品   




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<あらすじ>
海外からの航空機売り込みに関わる汚職容疑で、時の総理大臣・平山栄吉(金田龍之介)が東京地検と国税局の合同捜査を受け、平山を与党総裁へとまつり上げた政界の黒幕であり右翼のドン、山岡邦盟(佐分利信)の自宅にも家宅捜査が入る。屋敷の前に詰めかける大勢の報道陣、シュプレヒコールをあげる活動家たち。その混乱に乗じて、山岡邸へとこっそり忍び込む美少年がいた。
山岡を短刀で殺そうと近づく美少年。だが、足の不自由な少年は土壇場で転倒し、異変に気付いた山岡の書生・今泉(田村正和)に取り押さえられてしまう。頑として素性を割らない少年。しかし、なぜか山岡は少年に一光(狩場勉)という名前を与え、弟子の一人として迎え入れることにする。
一方、もう一人の政界の黒幕で関西を拠点にする小河内辰男(曾我廼家明蝶)とその右腕・森島(成田三樹夫)は、配下のヤクザを特攻隊として待機させ、部下の沢井(尾藤イサオ)をスパイとして平岡の屋敷に送り込み、平岡を暗殺すべく虎視眈々と狙っているが、厳重な警備に手も足も出ないでいた。そんな折、山岡を通じて平山総裁に裏金を渡したとされる商社・大和物産の常務がビルの屋上から投身自殺を遂げる。明らかなトカゲのしっぽ切りだ。さらに、東京地検特捜班の鈴村(仲谷昇)が平岡を事情聴取することとなり、いよいよ山岡の立場が危うくなったと関西陣営は勢いづく。大和物産の副社長・朝倉(内藤武敏)ら経済界も、山岡勢を見限って小河内側に寝返った。
ところが、大和物産が秘密裏に処分したはずの違法献金を記した書類が山岡勢の手に渡っており、そこには小河内側について平山総裁降ろしを画策する伊藤元総理(佐々木孝丸)の汚職の証拠も含まれていた。山岡はその書類を使って小河内側を牽制する。しかし、書類を作成した朝倉副社長が森島によって自殺に見せかけて殺されたため、山岡側は切り札となる証人を失ってしまう。
いよいよ激しさを増していく関東と関西の抗争。小河内配下のヤクザが山岡邸へ突入し、遂に実力行使に打って出るものの、またもや今泉の活躍で山岡暗殺は阻止される。その報復として、山岡側にスパイとして潜入していた沢井の妻が消された。この異常事態に我慢できなくなった山岡の娘・雅子(松尾嘉代)は、恋人である今泉と一緒に家を出て行こうとするが、そんな彼女に山岡は衝撃的な事実を告げる。改めて、父親の異常な権力欲を思い知らされ戦慄する雅子。だが、日本を自分の思い通りにしようという山岡の執念はさらに常軌を逸していく…。
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なんというか、'70年代の東映だからこそ作り得た怪作にして問題作である。ロッキード事件を題材にした政治サスペンスを、コッテコテな東映実録ヤクザ映画路線のノリで描く。それだけでもかなり来ているのだが、本作はそこからさらにあらぬ方向へと逸脱。もはや政界の権力闘争だの裏工作だのどこへやら、日本の黒幕にして右翼のドンだる主人公を取り巻く、愛国カルトと近親相姦と男色の香りが混然一体となった異様な世界が頭をもたげ、ラストは血で血を洗う狂気と熱狂の地獄絵図で幕を閉じる。なんたって、田中角栄までぶっ殺しちゃうんだから。悪乗りが過ぎるってもんです(笑)。
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そもそも本作は、同じく佐分利信が主演を務めた『日本の首領(ドン)』三部作の番外編的な立ち位置にあると言えよう。当時の東映は『仁義なき戦い』シリーズ以来の実録ヤクザ映画ブームが下火となり、新たな方向性を模索していた。そこで生まれたのが、最前線に立つ暴力団員の群像劇を生々しいバイオレンスで描いた『仁義なき戦い』シリーズとは一転、巨大ヤクザ組織のドンを中心とした暴力団と政界・財界の癒着を社会派大河ドラマ風に描く『日本の首領(ドン)』シリーズだったというわけだ。
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その予想以上の大成功を受けて、東映が企画したのが『日本の黒幕(フィクサー)』。ロッキード事件を元ネタにしつつ、日本の政治を裏側で操る右翼の重鎮を主人公に、いまだ戦前・戦中の亡霊に蝕まれた日本社会の病巣に切り込む野心作だ。東映が監督として指名されたのは、当時『愛のコリーダ』('76)などで世界的に注目を集めていた巨匠・大島渚。政治色の強い題材となったのはそれが理由だ。
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しかし、大島の意向を汲んだ脚本の執筆が迷走し、挙句の果てに大島が突然の降板。あらかじめ設定されていた公開日に間に合わせるため、一度はクビになった高田宏冶が急遽脚本を仕上げ、代打に起用された降旗康男監督が駆け足で撮影を完了させた。ストーリーがいろんな意味で暴走気味なのも、豪華キャストの芝居が時として笑えるほど過剰なのも、こうしたゴタゴタが生んだ副産物みたいなものなのかもしれない。
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佐分利信演じる主人公・山岡邦盟のモデルは、実際に日本最大の政界の黒幕として岸信介らを総理大臣に擁立し、ロッキード事件で起訴された右翼のドン・児玉誉士夫。劇中に出てくる山岡の親衛隊・青山クラブは、児玉の裏活動を支えた実行部隊・青年思想研究会、通称・青思研を下敷きにしている。さらに、金田龍之介が演じる総理大臣・平山栄吉はもちろん田中角栄、曾我廼家明蝶の演じる関西の黒幕・小河内辰男は児玉誉士夫の宿敵だった元日本共産党中央委員長の田中清玄がモデル。アメリカ製航空機の売り込みを巡って裏金を贈った大手商社・大和物産は丸紅である。
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ストーリーはロッキード事件の再現を軸としつつ、そこに関東の山岡VS関西の小河内という2大裏勢力の争い、つまり右翼VS左翼の仁義なき戦いを絡めているところがミソ。先述したように、ノリはほとんど実録ヤクザ映画だ。これはもともと、「大島渚にヤクザ映画を撮らせる」ことが企画の発端だったらしいので、言うなれば当然の帰結だったとも言えるだろう。ただ、それよりも本作を怪作たらしめているのは、山岡身辺の一種異様な人間模様を描いた「華麗なる一族」の物語だ。
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山岡を神のように崇拝する書生や親衛隊の右翼青年たちが、一つ屋根の下で日々精進しながら暮らす山岡邸。一応、山岡の妻や娘など女性がいないでもないが、その大半は男性ばかりで、それはさながら部外者を寄せ付けない閉鎖的な「男の園」である。男が男に惚れ、師弟の契り、兄弟の契りを交わす世界。おのずとそこには男色の香りが漂う。山岡の娘・雅子が、恋人である自分よりも父親に忠実な書生の美青年・今泉(田村正和の耽美的な忠犬ぶりが秀逸)を「お稚児さん」と皮肉るのもむべなるかな。
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なので、老若関係なしに男同士が肌を触れ合ったり、髪をまさぐりながら抱き合ったりなど、さながらBL的な描写のオンパレードだ。上半身裸で水浴びをする美少年・一光のキラキラした姿を眺めながら、山岡が思わず「美しい」と漏らしてしまうシーンなど、薔薇族映画か!?と思わせられる(笑)。こうした男色的要素は恐らく、当時まだ同性愛との噂も根強かった三島由紀夫と楯の会にインスパイアされたものではなかろうか。そういう興味本位の下世話な安直さみたいなものもまた、当時の東映らしいと言えるかもしれない。さらに、山岡の家族に隠された近親相姦の秘密、熱病的な宗教のごとき愛国カルトの異常さが背徳的なやばいムードを醸し出し、ドロドロの愛憎ドラマを繰り広げていくことになる。
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そして、その異常な世界の頂点に君臨するのが佐分利信扮する山岡邦盟である。己の飽くなき権力欲を崇高な愛国の理想とすり替え、家族を含めた周辺の人々に絶対服従を強いてその運命を弄び、日本国を意のままに操ろうとする悪魔のような男。もともとが矛盾だらけの人間なのだが、次第に常軌を逸して支離滅裂になっていく。しまいには、良識派の右翼の重鎮に「国民一億人を敵に回すのか」と迫られ、あろうことか「一億人が間違っているのだ!」とのたまう始末。さながら愛国という妄想に取り憑かれた真正の狂人だ。それでいて、時として懐の深い人間的な魅力も垣間見せる。こんな希代の怪物を生身の人間として、説得力を持って演じることのできる俳優は、後にも先にも佐分利信しかあり得ないだろう。彼なくして本作は成立しなかったと言っても過言ではない。
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ほかにも、曾我廼家明蝶や金田龍之介、島田正吾、有島一郎、仲谷昇などなど、およそヤクザ映画とは縁のない日本映画界・演劇界の重鎮が顔を揃える。政権与党の元締めたる伊藤元首相を演じている佐々木孝丸は、日本のプロレタリア演劇の先駆者であり左翼系文化人の代表格みたいな存在だったが、そういえば佐分利信も映画監督としては左翼的な傾向が強く自作に日本社会党の初代書記長・片山哲を出演させたこともあるし、監督の降旗康男も「赤旗」を愛読する共産党の熱心な支持者である。この顔合わせで、右翼のドンの狂信的世界を描いているのは興味深い。もっとも、本作では右翼も左翼も双方相当いかれているのだけど(笑)。なお、佐分利が主演した『華麗なる一族』('74)では、佐々木が「鎌倉の老人」なる政界の黒幕を演じていた。
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そんな中で異彩を放つのは、山岡を暗殺しようとして逆にお稚児さんとなる美少年・一光役の狩場勉。とりあえず設定上は「テロリスト」ということになっているらしいのだが、その素性は血みどろの壮絶な最期に至るまで一切明かされず。狩場勉は新藤兼人監督の『絞殺』('79)で、家庭内暴力に走る不安定な高校生を演じてデビューした当時の新人俳優。未熟な演技力はともかくとして、心に爆弾を抱えたナイーブな怒れる若者のイメージにはピッタリだ。セリフを殆ど喋らせなかったのも得策。
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ドロドロ愛憎劇で本領を発揮するのは田村正和と松尾嘉代でしょう。中でも女性の存在感が薄い本作にあって、2時間ドラマ的な悪女演技で気位の高い反抗的な令嬢を体現し、髪の毛もおっぱいも振り乱して孤軍奮闘する松尾嘉代の雄姿はある意味立派。対する田村正和の、コッテコテにクサい悩める美青年ぶりと相まって、なんとも香しい雰囲気を醸し出す。成田三樹夫のねちっこい怪演、尾藤イサオの幸薄い負け犬っぷり、小林稔侍の狂犬ぶりなども見どころ。殆ど見せ場のない江波杏子も、そこにいるだけで画面が引き締まる和服姿が少なからず印象的。オールスター映画としても十分に楽しめる。
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評価(5点満点):★★★★☆

参考DVD情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:2.0ch Dolby Digital/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:131分/発売元:東映ビデオ
特典:フォトギャラリー/予告編



by nakachan1045 | 2018-08-15 13:00 | 映画 | Comments(0)

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