なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
プロフィールを見る
画像一覧
通知を受け取る
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30

「悦楽の闇」 Divina Creatura (1975)

f0367483_16174128.jpg
監督:ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ
製作:アルベルト・アダミ
原作:ルチアーノ・ズッコーリ
脚本:ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ
   アルフィオ・ヴァルダルニーニ
撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ
衣装デザイン:ガブリエラ・ペスクッチ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ラウラ・アントネッリ
   テレンス・スタンプ
   マルチェロ・マストロヤンニ
   ミケーレ・プラシド
   ドゥイリオ・デル・プレーテ
   エットーレ・マンニ
   ドリス・ドゥランティ
   マリーナ・ベルティ
   ティナ・オーモン
イタリア映画/109分/カラー作品




f0367483_13160566.jpg
<あらすじ>
1920年代のローマ。社交界でも名物のリッチなプレイボーイ、バニャスコ公爵(テレンス・スタンプ)は、破廉恥なパーティと女遊びに明け暮れる放蕩三昧の毎日を送っていた。そんなある日、彼はレストランで若く美しい女性マノエラ(ラウラ・アントネッリ)を見かけて一目惚れする。彼女にはマルティーノ(ミケーレ・プラシド)という新興ブルジョワのフィアンセがいたものの、バニャスコはそんなことお構いなしに彼女を口説いて自分の愛人にするのだった。
貞淑そうに見えてセックスには大胆なマノエラとの情事を楽しむバニャスコだったが、その一方で彼女は人一倍嫉妬深くて疑り深い女性だった。他にも愛人を作って遊び歩くバニャスコに、人目もはばからず罵声を浴びせるマノエラ。本人によると、15歳の時に信頼していた年上の男性に処女を奪われたことから、男性不振になってしまったのだという。
そんなある日、バニャスコのもとへ従兄のミケーレ(マルチェロ・マストロヤンニ)が訪れる。ミケーレもまたバニャスコに負けず劣らずの女好きだったが、その彼こそがマノエラの処女を奪った人物だと知ったバニャスコは、激しい嫉妬の炎を燃やすのだった。
さらに、彼は親友アルメリーニ(ドゥイリオ・デル・プレーテ)から聞き捨てならない噂を耳にする。マノエラがフェルナンダ・フォネス夫人(ドリス・デュランティ)の経営する娼館で働いているというのだ。しかもそれは真実だった。ショックを受けたバニャスコは、友人の科学者ピサーニ(エットーレ・マンニ)のラボから毒薬を盗み、マノエラを毒殺しようとするが思いとどまる。もはや彼はマノエラなしでは生きていけなくなっていたのだ。
そこで彼はマノエラをわざとミケーレに近づけて誘惑するよう仕向ける。思わせぶりな態度でさんざん翻弄した挙句、手痛い別れ方をして彼のプライドを傷つけようというのだ。いわばささやかな復讐だ。ところが、ミケーレもまたマノエラのことを狂おしいまでに愛しており、バニャスコの復讐計画に協力するはずだったマノエラは、ついつい情にほだされてしまう。2人の男性の間で板挟みになって苦しむマノエラ。しかし、彼女には男たちの知らない秘密があった…。
f0367483_13163614.jpg
いわゆる「狂乱の'20年代」のローマを舞台に、暇と金を持て余した上流階級の男女によるドロドロの愛憎劇を描いた退廃的なブルジョワ・メロドラマである。原作は'20世紀初頭のイタリアの流行作家ルチアーノ・ズッコーリが1920年に発表した小説「神聖なる女性」。映画版がどれだけ原作に忠実なのかは分からないが、ファシズムの台頭する危うい時代と貴族社会の堕落したモラルを重ね合わせたストーリーは、自身が伯爵の家系に生まれ育った貴族であり、地方紙の記者でもあったズッコーリならではと言えるだろう。と同時に、そこには原作出版当時のイタリアで絶大な人気を誇った国民的文豪ガブリエーレ・ダンヌンツィオの影響が如実に感じられる。
f0367483_13170529.jpg
19世紀末から20世紀にかけ、イタリアでは国民的な文豪だったガブリエーレ・ダンヌンツィオ。それはなにも偉大な作家だったからというだけではなく、第一次世界大戦で英雄的な活躍をした戦闘機パイロットとして、さらには国粋主義的な政治活動家および革命家として、イタリア国民からの絶大な支持を得ていたのである。彼の官能的かつ耽美主義的な小説や詩は当時のイタリアで大変な人気を博し、当然ながらその作風に影響を受ける作家・作品も少なくなかった。ズッコーリの「神聖なる女性」もその一つだったと言えよう。
f0367483_13180691.jpg
ちなみに、ダンヌンツィオは映画界との関りも深かった。かなり早い時期から映画の可能性に注目していた彼は、イタリア無声映画の金字塔『カビリア』('14)をはじめとする多数の映画で脚本を手掛け、新興メディアである映画の地位向上に一役買っている。また、当時のイタリアで空前の大ヒットを記録した『されどわが愛は死なず』('13)を筆頭に、ダンヌンツィオの小説に影響されたブルジョワ・メロドラマも数多く作られてブームとなった。もちろん、ダンヌンツィオの小説を映画化した作品も少なくない。その代表作がルキノ・ヴィスコンティ監督の遺作『イノセント』('76)だ。
f0367483_13181993.jpg
そう考えると、随所でサイレント映画風の字幕が挟み込まれる本作は、'10~'20年代に人気を集めたダンヌンツィオ風ブルジョワ・メロドラマ映画へのオマージュだとも言えよう。高貴で奥ゆかしい淑女の顔と自由奔放で情熱的な娼婦の顔を兼ね備えた美女マノエラに魅了され、彼女を性的に弄び搾取しながらもいつしか彼女なしでは生きていけなくなる放蕩貴族のバニャスコ公爵とその従兄ミケーレ。愛欲にまみれた三角関係の破滅的な運命の行く先に、静かに忍び寄るファシズムの時代が暗い影を落としていくという展開も、ダンヌンツィオがファシズムの先駆者でありムッソリーニのお手本となった政治指導者であったことを想起させる。
f0367483_13190330.jpg
ただ、本作はスタイリッシュでゴージャスな映像美の素晴らしさに比べて、中身がちょっと曖昧で分かりづらい。いや、ストーリーそのものは極めてシンプルなのだが、結局のところ何が言いたいのかいまいち伝わってこないのだ。これはジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ監督の作品に共通する弱点であろう。近親相姦を題材にした『さらば美しき人』('71)にせよ、エリザベス・テーラー演じる精神を病んだ女性の放浪を描いた『サイコティック』('74)にせよ、ストーリーテリングよりも映像のスタイルに重きを置いているせいか、芸術性の高いビジュアルやムードは見応えがあるものの、肝心の内容があまり記憶に残らないのだ。
f0367483_13184843.jpg
日本ではヴィスコンティの愛弟子として紹介されることの多いパトローニ・グリッフィ監督。由緒正しい貴族の家系の出身で、自他ともに認める同性愛者。若い頃は端正な顔立ちの美青年だった。10代の頃から若い知識人のサークルに出入りし、当時の仲間には後のイタリア首相ジョルジョ・ナポリターノや映画監督フランチェスコ・ロージ、作家ラファエーレ・ラ・カプリアなどがいた。映画だけでなくオペラの演出家としても活躍している。師匠ヴィスコンティとかなり共通点の多い人物なのだが、しかし映画監督としては師匠の表層的な部分しか学んでいないようにも思える。まあ、それでも個人的には割と好きな映画監督ではあるのだが。
f0367483_13191936.jpg
魔性の女マノエラを演じるのは、本作の翌年にヴィスコンティの『イノセント』にも主演したラウラ・アントネッリ。ご存知、'70年代のイタリア映画を代表するグラマー女優だが、やはり古風な顔立ちと肉感的なセックスアピールのギャップは、時代物メロドラマに特有のデカダンな香りにしっくりする。放蕩貴族のバニャスコ公爵には、パゾリーニの『テオレマ』('68)やネロ・リージの『ランボー/地獄の季節』('71)などイタリア映画にも縁の深い英国俳優テレンス・スタンプ。尊大で気位が高くてモラルの欠如した、ある意味でオスカー・ワイルド的なヒーロー像は彼のダークで危険な個性にピッタリだと言えよう。
f0367483_13192318.jpg
そのバニャスコ公爵の従兄弟で、いかにもイタリア的な女たらしの伊達男ミケーレにマルチェロ・マストロヤンニというキャスティングも絶妙。また、マノエラの婚約者マルティーノ役として、当時まだ若手の新進俳優だったミケーレ・プラシドが出演している。その後の渋くてダンディな名優のイメージとは程遠いチャラ男っぷりが面白い。そのほか、ピエトロ・ジェルミ監督作品の常連でピーター・ボグダノヴィッチ監督のお気に入り俳優でもあったドゥイリオ・デル・プレーテ、スペクタクル史劇やマカロニ西部劇の重鎮俳優だったエットーレ・マンニも登場。終盤では『青い体験』('73)でアントネッリと共演したこともある人気女優ティナ・オーモンが娼婦役として顔を出している。
f0367483_13191166.jpg
だが、本作のキャストで特に要注目なのは娼館マダムのフォネス夫人を演じているドリス・ドゥランティであろう。これが20数年ぶりの映画復帰作だったドゥランティは、ファシズム時代のイタリア映画界を代表するグラマー女優であり、ファシスト政権の権力者たちと次々関係をもって我が世の春を謳歌した正真正銘の魔性の女だった。しかも、戦争末期には政権の崩壊をいち早く察知してまんまと国外へ逃亡。戦争犯罪者としてパルチザンの処刑リストにも名前が載っていたが、同じようにファシスト党幹部と繋がっていた女優ルイーザ・フェリーダが銃殺刑に処せられたのに対し、ドゥランティはあらゆるコネを駆使して逃走資金と逃走経路を確保、素早く立ち回って中立国スイスへと逃げおおせた。そして、戦後のほとぼりが冷めた頃を見計らって華々しく帰国。ただ、過去の悪事が忘れ去られたわけではなかったため、再びトップスターへの復帰を目指した試みは成功しなかった。本作でも出番は僅かではあるものの、しかしその存在感というか、ある種の凄みのようなものは十分に感じられるだろう。
f0367483_13192603.jpg
また、マノエラの叔母役としてチラリと顔を出すマリーナ・ベルティも、ファシスト時代に人気を博したイタリアの国民的な清純派女優。貴族の毒牙にかかる不幸な少女を演じた「理想家ジャコモ」('42・日本未公開)でトップスターとなった。母親がイギリス人で流暢な英語を話すことが出来たため、戦後は『クオ・ヴァディス』('51)や『ベン・ハー』('59)、『クレオパトラ』('63)などのハリウッド映画でも活躍。'02年に亡くなるまで生涯現役を貫いた。
f0367483_13191554.jpg
なお、絢爛豪華たる衣装の数々をデザインしたのは、後に『エイジ・オブ・イノセンス』('93)でアカデミー賞に輝くガブリエラ・ペスクッチ。彼女は他にもヴィスコンティの『ベニスに死す』('71)やエットーレ・スコラの『パッション・ダモーレ』('81)、セルジョ・レオーネの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』('84)、テリー・ギリアムの『バロン』('88)などを手掛けており、時代物のコスチュームに関しては世界的な第一人者だ。
f0367483_13192979.jpg
評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)※レターボックス/音声:1.0ch Dolby Digital Mono/言語:イタリア語/字幕:日本語/地域コード:2/時間:109分/発売元:日本ビクター
特典:オリジナル予告編(英語版)



by nakachan1045 | 2018-09-08 13:23 | 映画 | Comments(0)

カテゴリ

全体
映画
音楽
未分類

お気に入りブログ

なにさま映画評

最新のコメント

すいません!その通りです..
by nakachan1045 at 13:12
直人の子分に曽根晴美とあ..
by Django at 02:25
いまみると、北斗の拳のバ..
by ドゴラ at 14:14
昔、NHKで見たので記憶..
by さすらい日乗 at 12:59
> さすらい日乗さん ..
by nakachan1045 at 10:21
これは、公開時に今はない..
by さすらい日乗 at 07:33

メモ帳

最新のトラックバック

venussome.co..
from venussome.com/..
venuspoor.co..
from venuspoor.com/..
venuspoor.com
from venuspoor.com
http://while..
from http://whileli..
http://while..
from http://whileli..
http://www.v..
from http://www.val..
オペラ・ブッファの傑作で..
from dezire_photo &..

ライフログ

検索

ブログパーツ

外部リンク

ファン

ブログジャンル

映画
ライター