なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「悪魔の密室」 De Lift (1983)

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監督:ディック・マース
製作:マシース・ファン・ヘイニンゲン
脚本:ディック・マース
撮影:マルク・ヘルペルラン
特殊効果:レオ・カーン
音楽:ディック・マース
出演:フープ・スターペル
   ヴィレケ・ファン・アメローイ
   ジョシーヌ・ファン・ダルサム
   ピッツ・ルムール
   ゲラルド・トーレン
   ハンス・フィールマン
   マンフレッド・デ・グラーフ
オランダ映画/99分/カラー作品




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<あらすじ>
アムステルダムのとある近代的な高層商業ビル。とある嵐の夜に停電が発生し、屋上のレストランで食事を終えた男女4人の客が、エレベーター内に閉じ込められ酸欠状態で発見された。翌日、エレベーター製造会社の技術者フェリックス(フープ・スターペル)が点検を行うものの、機械システムには全く異常がなかった。ところが、その直後に盲目の老人がエレベーター・シャフトに転落し、その死体を発見した警備員がエレベーターのドアに挟まれ頭部が切断されるという痛ましい出来事が発生。警察は不慮の事故として片付けようとする。
一方、家庭よりも仕事を優先しがちなフェリックスは、まるで取り憑かれたように問題のエレベーターを調べ始める。そんな彼に接触したのが、一連の事故を取材している女性新聞記者ミーケ(ヴィレケ・ファン・アメローイ)。上司から手を引くよう警告されたフェリックスは会社が何か隠しているのではないかと考え、ミーケの協力を得て調査を進めるうち、例のエレベーターにライジング・サンなる日系企業が開発した最新型のマイクロチップが使用されていることを知る。ただ、その過程で日頃からすれ違いの多い妻サスキア(ジョシーヌ・ファン・ダルサム)がフェリックスの浮気を疑い、夫婦関係は破綻寸前にまで追い込まれていった。
そんなある日、フェリックスはライジング・サン社の技術者が勝手にエレベーターの修理点検を行ったことを知る。ミーケを伴ってライジング・サン社を訪れ、現地法人代表(ハンス・フィールマン)にマイクロチップのことを問いただすフェリックスだが、相手からの返答は要領を得ないものだった。そこで彼はミーケの知人である大学教授から情報を得ることにする。
その大学教授によると、数年前にアメリカでコンピューター制御のエレベーターが暴走する事件が起きたという。さらに、ライジング・サン社では動物たんぱく質を使った有機体マイクロチップを開発したらしい。だが、それを使ったコンピューターは制御不能に陥ってしまった。なぜなら、有機体マイクロチップが増殖して自らの意思を持ち始めたからだ。ミーケは例のエレベーターの制御装置に問題のマイクロチップが使用されている可能性を考えるが、そんなものは現実にあり得ないとフェリックスは否定する。
そうこうしている間にエレベーターの犠牲者はさらに増え、フェリックスはライジング・サン社と結託した上司から暇を出されてしまう。自宅へ戻ると妻が子供を連れて出てしまっていた。仕事も家庭も失いかけた彼は、エレベーターの制御装置を調べるため、独りで無人となった真夜中のビルへ乗り込んでいくのだが…。
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アヴォリアッツ・ファタスティック映画祭のグランプリ受賞作であり、'85年の第1回東京国際ファンタスティック映画祭でも鳴り物入りで上映されたオランダ産のモダンホラー映画『悪魔の密室』。当時高校2年生だった筆者はお小遣いが足りず、映画祭で見ることは叶わなかった(東京ファンタに通い始めたのは大学1年の'87年から)ものの、その後大学時代にレンタルビデオで鑑賞することが出来たと記憶している。ただ、率直な感想はというと、んー……あれっ?で感じだったのだが(笑)。
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まあ、スピルバーグの『激突!』('71)やデ・パルマの『キャリー』('76)と同じ、アヴォリアッツのグランプリを獲得した映画ということで、そもそもの期待値が高かったせいもあるかもしれない。意志を持ったエレベーターが人間を殺すという、ワンシチュエーションな設定もちょっと『激突!』っぽいしね。しかし、それにしてはスリルもサスペンスも恐怖もいまいち盛り上がりに欠ける、一言で表現するならば「地味な映画」だったのである。
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ただ、ホラー映画の伝統がないに等しかった当時のオランダで、本作のようにグラインドハウス的なテイストのB級ホラーが作られたことは注目に値すると言えよう。人口は日本の5分の一以下、当然ながら映画市場の規模もかなり小さいオランダ。そもそも'90年代半ばに、政府が国外からの映画産業への投資を税制優遇するまでは、オランダで作られる国産映画の数は年平均10本程度にしか過ぎなかった。政府からの補助金がなければ映画を作ることも難しく、国外マーケットへ輸出できるような作品も殆どなし。そもそも産業として成立していなかったのだ。
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そんなオランダ映画界に革命を起こしたのが、'70年代に登場したポール・ヴァーホーヴェン監督。官能サスペンス『ルトガー・ハウアー/危険な愛』('73)でアカデミー外国語映画賞候補になり、戦争アクション『女王陛下の戦士』('77)でゴールデン・グローブ賞外国語映画賞にもノミネートされた彼は、それまでドキュメンタリーの巨匠ヨリス・イヴェンスくらいしか国際的に名の知られた映画監督がいなかったオランダにとって、商業ベースで世界に通用するような娯楽映画を撮ることのできる、恐らく最初の映像作家だったと言えるだろう。彼の活躍のおかげもあってオランダ映画界は'70年代に全盛期を迎えたわけだが、その恩恵を受けた次世代の作家に当たるのが『悪魔の密室』のディック・マース監督だ。
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ミュージック・ビデオの監督として頭角を現し、本作で劇場用長編映画デビューを果たしたという、さながら'80年代の申し子とも呼ぶべきディック・マース。ヒッチコックやスピルバーグ、ドン・シーゲルなどに影響を受けたというが、なるほど確かに、殺人エレベーターという本作のアイディアなどは非常にアメリカ的だ。マース監督によると「エレベーター版ジョーズ」が本作の基本コンセプトだったらしいが、スティーブン・キングの小説『クリスティーン』や『人間圧搾機』を彷彿とさせるものもあると言えよう。
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ただし、キング作品におけるマシンの暴走が、主に超自然的な力によるものであるのに対し、本作では日系ハイテク企業ライジング・サンが開発した有機体マイクロチップが原因。そこはちょっと捻りを効かせている。まあ、ライジング・サン社の受付に中曽根元首相の写真が飾ってあるのには思わず失笑ですが。とりあえず、日本がまだ世界に名だたるハイテク先進国だった時代。アメリカだけでなくオランダでも、日本の躍進はある種の脅威と受け取られていたのかもしれない。
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で、嵐の晩にアムステルダムの高層ビルで停電が発生し、最上階の展望レストランで食事を終えた客がエレベーターに閉じ込められる。このプロローグはなかなか悪くない。マース監督自身が作曲・演奏を手掛けたジョン・カーペンター風の電子音楽が怪しげな雰囲気を盛り上げるし、エレベーター3機の扉が一斉に開いて閉まるという
演出もけっこう薄気味悪い。閉じ込められた客が酸欠状態で苦しみながら、しかしなぜかセックスをおっ始めるという意味不明なエロ描写にもニヤリ。このグラインドハウス的な胡散臭さ。とりあえず掴みはオッケーである。
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ただ、その後の展開はかなりスローテンポ。エレベーターの点検を任された技師フェリックスが、好奇心旺盛な女性記者ミーケの助けを借りて、殺人エレベーターの暴走に隠された秘密へ迫っていくわけだが、必要以上に人間ドラマのディテールへ比重を置いているため、話が一向に盛り上がってくれないのだ。売りであるはずのエレベーターによる殺人シーンも意外と少ないし、恐怖演出もいまひとつ垢抜けずドン臭い。そこはやはり、新人監督ゆえの未熟さと言えるかもしれない。
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そもそも経験が浅いのはスタッフも同様で、特にこの手のジャンルは当時のオランダ映画では珍しかった(ヴァーホーベンの『4番目の男』と並ぶオランダ映画史上初のホラーとされている)ため、特殊効果やスタントなどの撮影は全くの手探りだったようだ。例えば、エレベーターに挟まれた警備員の首が切断されるシーン。特殊効果を担当したレオ・カーンは、映画の仕事が初めてならダミーヘッドを作るのも初めてで、切断シーンの撮影はなかなか上手くいかず30回以上もリテイクを重ねたそうだ。そのためゴム素材のダミーヘッドはボロボロ。しかし新しく作り直す費用がないことから、あえて照明を当てないことでごまかしている。また、当時のオランダではプロのスタントマンが少なく(アスリートを使うことが多かったらしい)、しかも本作ではそもそもスタントマンを雇うだけの予算がなかったことから、スタントは全て俳優本人が演じている。
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プロが少ないと言えば、当時のオランダでは俳優も数が限られており、人気スターを使いたくてもスケジュールを抑えることが大変だったことから、主演にはまだ演劇学校を卒業したばかりの新人フープ・スターペルを起用している。彼はこれで一躍有名になったが、不思議なことにその後2年もの間オランダ国内ではお呼びがかからず、しばらくは西ドイツに活動の拠点を移していたという。後にその理由が分かったらしいのだが、あれだけ国際的に成功した映画に出たからには世界中からオファーが殺到しているに違いない、きっとオランダ映画になんか出てる暇はないだろう、と勝手に忖度されていたのだとか(笑)。逆に言うと、それだけプロの俳優の層が薄いため選択肢が少なかったのだろう。
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ちなみに、女性記者ミーケ役を演じているヴィレケ・ファン・アメローイは本作で唯一の有名スター。'70年代から売れっ子女優として映画やテレビで活躍し、アカデミー外国語映画賞にノミネートされた主演作『アントニア』('95)で国際的な知名度を得た。一時期はハリウッド映画にも進出し、『イル・マーレ』('06)ではサンドラ・ブロックの母親を演じている。
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そんなこんなで、アヴォリアッツのグランプリを獲得するほどの名作かと言われると少々疑問ではあるが、しかし当時のオランダ映画界には存在しなかったポップコーン・ムービー、つまりアメリカ流の純然たる大衆向け娯楽映画を作りたいというディック・マース監督の野心と心意気は買いたい。映画学校で勉強していた頃、彼は「いつかドン・シーゲル監督のような映画を撮りたい」と発言したところ、そんなのオランダでは絶対に無理だ、ゴダールやトリュフォーを目指せと教師から言われたという。本作はその大いなる夢と目標への第一歩であり、それは3作目の『アムステルダム無情』('88)で結実することとなる。
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なお、日本ではレンタルビデオ全盛期にVHSでリリースされたっきりの本作だが、アメリカではディック・マース監督自身が監修を務めた2Kレストア版ブルーレイが'17年に発売されている。オリジナルのネガフィルムから修復したという映像は、その鮮烈なネオンカラーといい適度な濃淡のグレインといい、'80年代当時の空気感まで伝わってくるほどナチュラルでオーガニックな仕上がりだ。
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評価(5点満点):★★★☆☆

参考ブルーレイ&DVD情報(アメリカ盤2枚組)
ブルーレイ
カラー/ワイドスクリーン(1.66:1)/1080p/音声:5.1ch DTS-HD Master Audio・2.0ch DTS-HD Mater Audio/言語:オランダ語・英語/字幕:英語(オランダ語用・英語吹替用)/時間:99分/地域コード:ALL
DVD
カラー/ワイドスクリーン(1.66:1)/音声:5.1ch Doldy Digital・2.0ch Dolby Digital/言語:オランダ語・英語/字幕:英語(オランダ語用・英語吹替用)/時間:99分/地域コード:ALL
発売元:Blue Underground
特典/ディック・マース監督と編集者ハンス・ファン・ドンゲンによる音声解説/主演俳優フープ・スターペルのインタビュー(2017年製作・9分)/ディック・マース監督短編映画「Long Distance」(2004年製作・4分)/オランダ版劇場予告編/英語版劇場予告編/ポスター&スチル・ギャラリー/フルカラー・ブックレット封入(20p)




by nakachan1045 | 2018-09-13 07:16 | 映画 | Comments(0)

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