なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
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「細雪」 The Makioka Sisters (1959)

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監督:島耕二
製作:永田雅一
原作:谷崎潤一郎
脚本:八住利雄
撮影:小原譲治
衣装考証:上野芳生
音楽:大森盛太郎
出演:京マチ子
   山本富士子
   叶順子
   轟夕起子
   根上淳
   川崎敬三
   菅原謙次
   北原義男
   船越英二
   信欣二
   山茶花究
   村田知栄子
   三宅邦子
   浦辺粂子
日本映画/105分/カラー作品




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<あらすじ>
かつて大阪は船場でも指折りの旧家だった蒔岡家。しかし先代当主が残した多額の借金で家が傾き、長女・鶴子(轟夕起子)の婿養子・辰雄(信欣二)は先祖代々の店を手放すことに。次女・幸子(京マチ子)は計理士・貞之助(山茶花究)を婿養子にして芦屋に分家を構えていた。婚期を過ぎようとしている三女・雪子(山本富士子)は見合いを続けているが、事故死した最初の許嫁が忘れられず上手くいっていない。自立心の強い四女・妙子(叶順子)は5年前に宝石商の放蕩息子・奥畑(川崎敬三)と駆け落ちして新聞沙汰になったが、今は人形作家として独立の道を模索していた。
銀行員の辰雄が東京へ栄転することとなり、本家では住み慣れた屋敷を売り払うことに。鶴子一家と一緒に東京へ行くことを嫌がった雪子は、幸子に頼んで分家に居候させてもらうことになる。そんな幸子と雪子の心配の種は妙子だ。どうやら奥畑と寄りを戻したらしい。仕事もせず遊びほうけてばかりの奥畑は、母親から小遣いをせびるばかりか、店の商品にまで手を出して妙子に貢いでいた。贅沢好きの妙子はそれを知りつつ、奥畑から金品を受け取っていたのである。
そんなある日、妙子の人形展示会に奥畑が板倉(根上淳)というカメラマンを連れてくる。もともと奥畑商店の丁稚だった板倉は、学歴がないにも関わらずアメリカで写真の勉強をし、今は小さな写真館を経営していた。浪費家で生活力のない奥畑とは正反対の勤勉で堅実な板倉に、妙子は惹かれるものを感じていた。一方、雪子は幸子の友人・陣場夫人(村田知栄子)の紹介で関西電車社長の親戚・野村(船越英二)と見合いするものの、その変人ぶりに閉口して縁談を断り、東京の鶴子のもとへ行ってしまった。
開催地方が未曽有の大豪雨で水害に見舞われる。洋裁学校に通っていた妙子は、玉置校長(三宅邦子)と2人きりで校舎に取り残され、そこへ大洪水が押し寄せた。間一髪のところで2人を救ったのは板倉だった。それ以来、妙子と板倉の仲は急接近。奥畑との関係をズルズルと続けていた妙子だったが、彼との結婚を決意して洋裁店を開くことにする。その開店資金として父親の遺産の取り分を貰うため、東京の鶴子のもとへ直談判に訪れた妙子だったが、そこへ板倉が危篤との電報が入った。
妙子の懸命な介護もむなしく息を引き取ってしまった板倉。それからというもの、妙子の生活はすっかり荒れてしまい、そのせいでようやく理想の男性・橋寺(菅原謙次)と巡り合った雪子の縁談もご破綻に。そのうえ、妙子は恋人であるバーテン三好(北原義男)の子供を身ごもってしまう…。
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大阪は船場の旧家に生まれ育った美しき4姉妹の日常を通して、時代のうねりの中で消え去っていく戦前の上流文化を描いた谷崎潤一郎の小説『細雪』。これまで'50年と'59年、そして'83年の3度に渡って映画化されており、世代的に筆者が最初に見たのは市川崑が東宝で撮影した'83年版なのだが、その中でどれが一番好きかと言われたら、間違いなく大映の'59年版になることだろう。
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恐らく原作に最も忠実なのは、元ハリウッド俳優ジャック・アベこと阿部豊が新東宝で撮った'50年版である。市川崑の'83年版も関西を襲う水害など一部シーンを大胆に削っているし、映像の雰囲気はだいぶ現代的になっているものの、概ね原作のストーリーに沿った設定・構成となっていた。映画版3作の中で、この'59年版が最もストーリーの改変が多く、そういう意味では賛否が大きく分かれるかもしれない。しかし原作の持つフェミニズム的な要素をより一層のこと際立たせたストーリーは21世紀の現在でも共感できる点が多いし、なによりもダグラス・サーク作品を彷彿とさせる島耕二のエレガントでゴージャスなメロドラマ調の演出、カラー撮影の利点を最大限に生かした豊かな色彩の美しさ、そして大映の誇る豪華女優陣の素晴らしい演技に惚れ惚れとさせられる。
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脚本は'50年版と同じ八住利雄。しかし、戦後日本の新たな時代の空気を思い切り吸った脚色のアプローチは前作とちょっと異なっている。まず時代設定を原作通りの昭和10年代ではなく、劇場公開当時の昭和30年代に変えた点が大きな違いだろう。戦前のような家の格式やしきたりといった古い価値観が依然として根強く残っている一方、民主主義や女性の社会進出などによって自由と平等の価値観が広まった時代。この設定変更によって、若い四女・妙子の封建的な家制度に対する強い反発がより明確となり、それがさらに他の姉たちのキャラ造形にも少なからぬ影響と変化を及ぼし、戦後社会における女性の生き方を問う女性映画として昇華されているのだ。
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中でも大きくキャラクターが変わったのは三女・雪子である。内気で控えめで自己主張をほとんどせず、しかしこうと決めたら頑として曲げない自我の強さを秘めた女性・雪子。それゆえに傍からは優柔不断に見えることが否めず、姉たちが世話をする縁談話も一向に上手くいかない。映画版だと山根寿子が演じた'50年版の雪子はどこかお嬢様ゆえの冷たい残酷さがあり、吉永小百合が演じた'83年版の雪子は魔性の女のしたたかさを併せ持っていた。
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しかし、本作で山本富士子が演じる雪子は、妹・妙子にも負けず劣らず進歩的な考えの持ち主で、正義感が強くてハッキリとものを言うしっかり者の女性だ。若さゆえの反逆精神で暴走しがちな妙子をなにかと陰で支えつつ、保守的な姉たちとの仲を器用に取り持っていく。次々と舞い込む縁談が上手くいかないのは、心に決めた最初の婚約者が交通事故で亡くなってしまい、彼への想いがいまだ断ち切れないでいるから。それゆえ、最愛の男性・板倉が病死して生活が荒れまくる妙子のことを誰よりも深く理解し、どこまでも彼女の味方をする。映画版・雪子の中ではこの'59年バージョンが一番好きだ。
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上・中・下の原作3巻の中から、三女・雪子のなかなかまとまらない縁談問題と、四女・妙子の波乱万丈な恋愛遍歴に焦点が当てられるのは他の映画版と同様。ただ、本作は性格の正反対な両者を対比させるのではなく、お互いに呼応させていくことによって、家柄やしきたりにこだわることの無意味さ、女性が自分の意志で人生を切り拓いていくことの大切さを訴え、相手の家柄や財産よりも愛情こそが幸福の鍵であることを強調していく。まあ、全体的に妙子のエピソードに寄り過ぎている嫌いはあるので、そこを不満に思う原作ファンもいるだろうとは思うのだが。脚本の八住利雄は'50年版でも妙子推しだったので、恐らく彼女に一番感情移入していたのかもしれない。
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和の様式美をそこかしこに散りばめつつも、当時のハリウッド・メロドラマ的な華やかさを前面に押し出した島耕二監督の風格ある演出は、それこそダグラス・サークの『心のともしび』('54)や『風と共に散る』('56)と比べても遜色がない。大映時代劇に欠かせない上野芳生が監修を手掛けた女優陣の和装は素晴らしいし、スタジオ撮影とカラー撮影の利点を最大限に生かしたシンボリックなカメラワークも見応えがある。もっと評価されてもいい作品だろう。
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やはりキャスト陣で一番は雪子役の山本富士子だが、自分で稼いで自立しなければと思いつつお嬢様育ちの贅沢癖が抜けず、周囲に反発して茨の道を歩む妙子役の叶順子も良い。苦労知らずゆえにどこか飄々とした次女・幸子役の京マチ子も色っぽくて素敵だ。そういえば山本富士子も京マチ子も大阪人であるため、関西弁の船場言葉の流暢なセリフ回しも実に粋で風情がある。長女・鶴子役に'50年版で幸子を演じた轟夕起子が当たっているのも面白い。彼女は当時、島耕二監督夫人でもあった。
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脇役で抜群に光っているのは、不良で甲斐性なしの我がままお坊ちゃん、奥畑こと啓坊を演じている川崎敬三だろう。二枚目で軽いノリのチャラ男っぷりが実にはまり役。'50年版の田中春男はちょっと庶民的過ぎだし、'83年版の桂小米朝(現・桂米團治)は華に欠ける。川崎敬三こそベスト・オブ・啓坊である。一方、妙子の運命の人・板倉役は'50年版の田崎潤が圧倒的に良かったのだが、本作の根上淳の誠実そうな好青年振りも悪くない。なお、小津映画でお馴染みの三宅邦子が、洋裁学校の校長役で顔を出しているものの、残念ながら出番は水害パニックシーンのみ。その代わりと言ってはなんだが、'83年版では蒔岡姉妹の親戚の叔母役として存在感を発揮している。
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そうそう、'50年版は特撮を使った大規模な洪水シーンが大きな見どころの一つだったが、本作でもなかなか迫力のある災害パニックを見せてくれる。凄まじい土砂崩れの描写などかなりのスケール感で、しかも実際の大洪水を撮影したようにしか思えないほど超リアル。恐らく…いや、どう考えてもミニチュアを使ったのだろうと思うのだが、とてもそんな風には見えない。これ、どうやって撮ったのだろうか。
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評価(5点満点):★★★★★

参考DVD情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:2.0ch Dolby Digital/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:105分/発売元:株式会社KADOKAWA
特典:劇場予告編/フォトギャラリー



by nakachan1045 | 2018-09-18 21:20 | 映画 | Comments(0)

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