なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
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「よみがえるブルース」 Too Late Blues (1961)

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監督:ジョン・カサヴェテス
製作:ジョン・カサヴェテス
脚本:リチャード・カー
   ジョン・カサヴェテス
撮影:ライオネル・リンドン
衣装:イーディス・ヘッド
音楽:デヴィッド・ラスキン
出演:ボビー・ダーリン
   ステラ・スティーヴンス
   エヴェレット・チェンバース
   ニック・デニス
   ヴィンセント・エドワーズ
   ヴァル・エイヴェリー
   マリリン・クラーク
   ジェームズ・ジョイス
   マリオ・ギャロ
   シーモア・カッセル
アメリカ映画/100分/モノクロ作品




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<あらすじ>
売れないジャズ・バンドを率いるバンド・リーダーのゴースト(ボビー・ダーリン)。エージェントのベニー(エヴェレット・チェンバース)は彼の才能を高く評価していたが、理想主義者のゴーストはコマーシャリズムに迎合することを嫌い、ベニーの助言にも頑として従わない。いつまでもブレイクしないことにバンド仲間たちは少なからず不満を抱いていたものの、ゴーストの才能についていけば何とかなると気楽に構えていた。
そんなある日、ゴーストは業界パーティで見かけた無名の女性歌手ジェシー(ステラ・スティーヴンス)に一目惚れする。ずば抜けた美人だが歌唱力に自信を持てず、これまで業界のパトロンたちの間を転々としてきたジェシー。そんな彼女をゴーストは「俺がお前を有名にしてやる」と口説き落とし、ベニーの反対を押し切ってバンドのボーカリストに迎え入れる。
売れるためにやる気を出し始めたゴースト。そんな彼にベニーがレコード契約の話を持ってきた。まずはシングル4枚、それがヒットしたらアルバムも出せる。レコード会社社長ミルト(ヴァル・エイヴェリー)の商業主義にゴーストが強く反発する場面もあったが、なんとか最初のレコーディングは無事に終了し、ゴーストと仲間たちは行きつけのニック(ニック・デニス)のプールバーで盛大に打ち上げパーティを開く。
すると、その場に居合わせた肉体労働者の男トミー(ヴィンセント・エドワーズ)が難癖をつけてくる。ジャズ・ミュージシャン風情がいい気になって生意気だと。たちまちバンド・メンバーと殴り合いの喧嘩が始まるものの、普段は強気で威勢のいいゴーストはすっかり怖気づいてしまう。トミーに乱暴されかけた自分を守ろうともせず、気絶したふりをして逃げるゴーストに失望したジェシーはバンドを脱退。自分の不甲斐なさに苛立ったゴーストは仲間に八つ当たりし、バンドそのものが解散してしまう。
それから1年後、ゴーストは金持ちの中年マダム(マリリン・クラーク)のヒモとして暮らしながら、細々とナイトクラブのステージに立っていた。若手の新人女性歌手を連れて楽屋を訪れたベニーに、自分が売れないのはエージェントのせいだ、本物の音楽を理解しない業界連中のせいだと不満を吐露するゴースト。そんな彼にベニーは冷たく言い放つ。こうなったのは全てお前の自業自得だと。思いつめたゴーストは、かつての仲間やジェシーを探して再びやり直そうとするのだが…。
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「アメリカのインディペンデント映画の父」とも呼ばれる監督兼俳優ジョン・カサヴェテス。自らが主宰する演劇ワークショップの学生や友人・知人を集め、映画界の交友関係を通じて資金を募り、人から借りた16ミリカメラを使って自主製作された処女作『アメリカの影』('59)でヴェネチア国際映画祭の批評家賞を獲得した彼が、監督作第2弾としてハリウッドの大手スタジオ、パラマウントで撮った作品が、この『よみがえるブルース』である。
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当時のハリウッド映画界は、テレビの興隆によって観客動員数が激減し、衰退の一途をたどっていた時期。その一方で、フランスのヌーヴェルヴァーグやイギリスのブリティッシュ・ニュー・ウェーヴなど、ヨーロッパでは新世代の映像作家による新たな映画運動が活発となり、その影響力はアメリカにも及びつつあった。若い世代の観客層を獲得すべく試行錯誤していたパラマウントは、カサヴェテスの存在に「アメリカ版ヌーヴェルヴァーグ」の可能性を見出し、いわゆる「ビートニック世代」をターゲットにした若者向け映画を彼に撮らせようとしたようだ。
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総額35万ドルという低予算、6週間という短いスケジュールで撮影された本作。テーマはカサヴェテス映画に欠かせない要素の一つであるジャズの世界だ。主人公は売れないジャズバンドのリーダー、ゴースト。音楽業界の商業主義に強く反発し、大衆に迎合することを毛嫌いする彼は、その才能を周囲から高く評価されながらも、ギャラの安いドサ周りの仕事に甘んじている。エージェントであるベニーの助言にも聞く耳を全く持たず。そんな彼が、とあるパーティで一目惚れした無名の美人ジャズ歌手ジェシーに入れあげ、彼女をバンドのボーカリストとして迎えて有名スターに育て上げようとする。
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ミューズとの出会いによって俄然やる気を出すゴースト。ベニーの働きかけもあって、バンドは念願のレコードデビューが決まる。ところが、その打ち上げパーティで思わぬトラブルが発生する。行きつけのプールバーで肉体労働者の不良青年トミーに絡まれたのだ。「ジャズ・ミュージシャン風情が生意気だ」と難癖をつけられ、ついカッとなって売られた喧嘩を買ってしまうゴーストだったが、しかし相手が拳を振り上げようとした途端に委縮してしまう。普段は平気で大口をたたく自信家のゴーストだったが、実は喧嘩がからっきし苦手なチキン野郎だったのである。
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巻き込まれたジェシーを守るわけでもなく、逃げようとしたところをトミーに捕まって放り投げられ、バンド仲間が取っ組み合いの喧嘩をしている間中ずっと気絶したふりをするゴースト。トミーを店から追い出した仲間たちは心配して駆け寄るが、しかし一部始終を見ていたジェシーは騙されなかった。別に喧嘩なんか強くなくてもいい。でも立ち向かう気概くらいは見せて欲しかった。失望したジェシーはバンドを去り、自尊心の傷ついたゴーストは一方的にレコーディング契約を破棄し、仲間に八つ当たりしてバンドは解散してしまう。「この中で才能があるのは俺だけだ。お前らなんか俺がいなければただのクズだ。俺は天才だから一人でも成功できる」と捨て台詞を残して。
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それから1年後、ナイトクラブでピアノを弾きながらパトロンの中年マダムに生活費を援助してもらっているゴースト。要するにヒモである。しかし根拠のないプライドは相変わらずで、こんな落ちぶれた生活を送っているのは怠慢なエージェントのせいだ、俺の芸術を理解できない連中のせいだと不満を募らせている。そんな彼にベニーが冷たく言い放つ。すべてお前自身の行いが招いた自業自得の結果だと。エージェントにまで見捨てられ、もはや後がないことを悟ったゴーストは、いまだ想いを残すジェシーを取り戻し、かつての仲間を集めて再びバンドを結成しようとするのだが…?
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理想と現実のギャップに忸怩たる思いを抱え、大きな挫折を味わうことになる芸術家の物語。音楽業界の商業主義に抗う主人公ゴーストのプライドと葛藤に、カサヴェテス自身がハリウッド業界で味わってきた苦悩が少なからず投影されているであろうことは想像に難くない。そういう意味では非常にパーソナルな作品だとも言える。しかし本作が興味深いのは、そこからさらに芸術家自身の偽善や傲慢、自己満足やナルシシズムにまでメスを入れている点であろう。コマーシャリズムに流されることなく自己のアイデンティティを貫くことは大切だが、しかしそれは時として独りよがりになってしまいかねない危うさも孕む。芸術性と大衆性のバランスはアーティストにとって普遍的な課題だ。メジャースタジオでの初監督作に、あえてこうした題材を選んだことの意味は小さくないはずだ。
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ただ、その核心へと迫るストーリー上の引き金として、表向きはビッグマウスだが実は腰抜けのチキン野郎だったゴーストに、恋人や仲間の面前で大恥をかかせるという筋書きはちょっと安易だったかもしれない。そこでプライドの傷ついた彼が自暴自棄となることで、それまで取り繕ってきた自己矛盾が次々と露呈していくわけだが、酒場の喧嘩ではなくもっと音楽と密接に結びついた形で語られた方が自然だし、より強い説得力を持ったようにも感じられる。
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まあ、カサヴェテスの意図も分からなくはない。黒人文化由来のジャズという音楽ジャンルや、ミュージシャンという水商売の自由人に偏見を持つホワイトトラッシュ、トミーというキャラクターは、ある意味で主人公ゴーストが世間に対して抱いている不満やコンプレックスの象徴でもある。そこに彼の自己矛盾の元凶の一端があると言えよう。つまりゴーストにとってトミーとの対峙は、本人の心に巣食う悪魔との対峙であり、そこでしっぽをまいて逃げてしまうという展開は、彼の根本的な弱さを描く上でとても重要だ。結局、商業主義を否定する普段の強弁だって、本当は勝負に出るのが怖いだけじゃないのか?と。しかし、このジャズとは無縁なトミーという人物とゴーストに、どこで接点を持たせるのかと考えた時、場末の酒場という設定は苦肉の策であったのかもしれない。
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そういえば、本作はゴーストのバンドが慈善施設でジャズをプレイするシーンから始まるのだが、演奏している側が全員白人であるのに対し、聴衆側が全員黒人であるというシチュエーションが目を引く。黒人音楽にルーツを持つジャズを、当の黒人ではなく白人が商売にする。これは現在にまで脈々と続く米エンタメ業界のホワイトウォッシング(白人化)に対する風刺であり、演奏が終わった途端に興奮した黒人の少年がトランペットを奪って逃げるというハプニングがそのことを裏付ける。処女作『アメリカの影』で人種差別の根深さを描いたカサヴェテスらしい着眼点であろう。
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当初カサヴェテスはゴースト役にモンゴメリー・クリフトを、ジェシー役に愛妻ジーナ・ローランズを想定していたらしいのだが、しかし当時落ち目だったクリフトは私生活が荒れて仕事どころではなく、パラマウントは無名のローランズよりも売り出し中の若手人気女優ステラ・スティーヴンスを推した。そこでゴースト役として白羽の矢が立ったのは、'50年代末にティーンアイドル歌手として世界的に大ブレイクし、当時俳優業にも進出したばかりだったボビー・ダーリン。これが見事なはまり役で、彼独特の明るい明朗快活さがゴーストの浅はかな傲慢さを、少年っぽいあどけなさを残すベビーフェイスが人間的な未成熟を上手いこと体現している。シンガー・ソングライターという出自も役柄に説得力を与えていると言えよう。
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歌手としての才能に自信を持てず、性を切り売りして身を滅ぼしていくジェシー役のステラ・スティーヴンスの儚げな美しさもいい。もう一昔前だったら、モンローがやっていてもおかしくない役柄だろう。ちなみに、スティーヴンスによるとキス・シーンの撮影中に相手役ダーリンの股間が勃起してしまい、その自然現象が収まるまで一時撮影が中断してしまったそうだ(笑)。
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エージェントのベニーを演じているエヴェレット・チェンバースは、カサヴェテスがジャズ・ピアニストの私立探偵を演じたテレビシリーズ『ジョニー・スタッカート』('59~'60)のプロデューサーで、プロの俳優ではない。その後も『刑事コロンボ』や『エアーウルフ』などの人気ドラマを手掛けている。乱暴者トミー役には医療ドラマの金字塔『ベン・ケーシー』('61~'66)で有名なヴィンセント・エドワーズ。本作の撮影中にドラマ主演が決定したのだそうだ。バンド仲間のレッド役にはカサヴェテス映画に欠かせない常連シーモア・カッセル。この頃はまだ若くて結構ハンサムだ。また、音楽プロデューサーのミルト役を演じているヴァル・エイヴェリーも、『フェイシズ』('68)や『グロリア』('80)などに出演しており、それ以外でもカサヴェテスとは縁の深い俳優である。
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当時の一般的なハリウッド映画とは一線を画す、あまりにもほろ苦い結末が待っている本作(それでも若干の希望を残す辺りで妥協しているのだが)。それゆえなのか、興行的には今一つの結果しか残せず、カサヴェテスは次回作『愛の奇跡』('63)でスタジオ側の横槍に悩まされることとなる。まあ、それでなくても欠点のある映画だとは思うのだが、それでもなおスタジオ映画という枠組みの中でインディーズ的な作家性の発露を試みたカサヴェテスの仕事ぶりは評価されて然るべきだろう。
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ちなみに、本作のブルーレイはアメリカとイギリスでリリースされているが、両者の画質は明らかに異なる。フィルムに経年劣化の少ないアメリカ盤も決して悪くはないものの、しかし明暗のコントラストを上げて黒みを強調したイギリス盤の方が遥かに見やすい。しかも、アメリカ盤は特典ゼロで予告編も字幕も入っていないが、イギリス盤は映画評論家の解説ビデオが収録され、ステラ・スティーヴンスのインタビューを含む小冊子も封入され、英語字幕のオプションも付いている。
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評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ&DVD情報(イギリス盤)
ブルーレイ
モノクロ/ワイドスクリーン(1.78:1)/1080p/音声:1.0ch リニアPCM/言語:英語/字幕:英語/地域コード:B/時間:100分
DVD
モノクロ/ワイドスクリーン(1.78:1)/音声:1.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:英語/地域コード:2/時間:100分
発売元:Eureka Entertainment/Paramount Pictures
特典:映画評論家デヴィッド・ケアーンズの解説(17分)/ブックレット封入(52p)



by nakachan1045 | 2018-09-27 00:33 | 映画 | Comments(0)

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