なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「ウォリアーズ」 The Warriors (1979)
監督:ウォルター・ヒル
製作:ローレンス・ゴードン
原作:ソル・ユーリック
脚本:デヴィッド・シェイバー
ウォルター・ヒル
撮影:アンドリュー・ラズロ
音楽:バリー・デ・ヴォーゾン
出演:マイケル・ベック
ジェームズ・レマー
デボラ・ヴァン・フォルケンバーグ
マルセリーノ・サンチェス
デヴィッド・ハリス
トム・マッキターリック
ブライアン・タイラー
デヴィッド・パトリック・ケリー
ロジャー・ヒル
ドーシー・ライト
アメリカ映画/93分/カラー作品
<あらすじ>
最大勢力を誇るストリート・ギャング団グラマシー・リフスのカリスマ的リーダー、サイラス(ロジャー・ヒル)から、100組以上を数えるニューヨーク全土のストリート・ギャング団に召集がかかる。ブロンクスのヴァン・コートランド公園で開かれる大規模集会に、各グループから非武装の代表メンバーを9名づつ派遣しろというのだ。コニー・アイランドを根城にするウォリアーズからも、リーダーのクレオン(ドーシー・ライト)をはじめとする主要メンバーが参加することとなる。
集会でサイラスはストリート・ギャング同士の団結を呼びかける。そうすればメンバーの頭数で警察官を軽く凌駕し、ストリート・ギャングがニューヨークの街を実効支配できるというのだ。集まった不良たちの大歓声に会場が包まれる中、一発の銃声が響き渡りサイラスが射殺される。犯人はローグスのリーダー、ルーサー(デヴィッド・パトリック・ケリー)だった。それをたまたま、ウォリアーズの一員フォックス(トーマス・G・ウェイツ)が目撃してしまう。会場が大パニックに陥る中、ルーサーらローグスの面々はウォリアーズが犯人だと叫ぶ。怒り狂ったグラマシー・リフスによってクレオンがリンチされ、その他のウォリアーズのメンバーは命からがら逃げ出す。
ひとまず地元へ戻ろう。軍参謀スワン(マイケル・ベック)をリーダー代理に立てたウォリアーズは、およそ30マイル(48km)離れたコニー・アイランドを目指すが、スワンをライバル視するエイジャックス(ジェームズ・レマー)は、自分こそがリーダー代理に相応しいとして不満を隠せない。スキンヘッドのターンブル・エイシーズに見つかった彼らは、間一髪のところで地下鉄に飛び乗った。しかし、線路の火事によって地下鉄がストップしてしまい、ウォリアーズの面々は仕方なく徒歩を選ぶことにする。
その頃、復讐に燃えるグラマシー・リフスはローカル・ラジオ放送を通じて、ニューヨーク全土のストリート・ギャングたちにウォリアーズの討伐を呼びかける。途中で知り合った女性マーシー(デボラ・ヴァン・フォルケンバーグ)を仲間に加え、行く先々で待ち構えるギャング団と戦いながら逃亡を続けるウォリアーズ。果たして、彼らは無事に地元へ辿り着くことが出来るのか…?
武闘派映画監督ウォルター・ヒルによるストリート・ギャング映画の傑作である。劇場公開時は批評家から荒唐無稽だと酷評され、さらに映画を見に来たストリートギャングたちが興奮して劇場で破壊行為に及び、それが原因で殺人事件や暴動事件にまで発展。配給元のパラマウント映画は宣伝や広告を自粛し、一部で上映を打ち切る映画館まで出てしまったが、しかしそれでも製作費400万ドルに対して興行収入2200万ドルを超えるスマッシュヒットとなった。一連のトラブルがなければ、恐らくもっと稼いでいただろう。
ストーリーは非常にシンプル。ニューヨークの南端コニー・アイランドを縄張りにするギャング集団ウォリアーズが、遠く離れたブロンクスで全ギャングの連帯を訴える総決起集会に参加したところ、カリスマ的リーダー暗殺の濡れ衣を着せられ、たちまち追われる身となってしまう。ニューヨーク中のギャング集団から狙われるウォリアーズ。電車や徒歩を駆使して地元へ戻ろうとするものの、しかし途中で様々なギャングの縄張りを通らねばならない。次々と集団で襲い来るライバル・チーム。果たして、ウォリアーズの面々は汚名を返上して無事にコニー・アイランドへとたどり着くことが出来るのか…?ってなわけで、要するに基本は行って帰って来るだけのお話だ。
印象としては、同じくウォルター・ヒルが手掛けた『ストリート・オブ・ファイヤー』('84)の姉妹編といった感じ。雨上がりの濡れたアスファルトや地下鉄での逃避行など符合するシーンが少なくないし、なによりアメリカ版ヤンキー・コミック的な世界観はかなり似ている。というか、そもそも本作の基本コンセプトはアメコミ。原作はソル・ユーリックが'65年に発表した同名小説だが、その世界観が非常にコミック的だと感じたヒル監督は、作品全体を「実写版コミック」として捉えて描くことにしたという。ニューヨークの夜景の色彩や明暗のコントラストが、必要以上に強調されているのもそのためだ。極端に個性的でデフォルメされた、各ギャング団のユニフォームも極めてコミック的である。なので、当時の「非現実的で荒唐無稽」という評価も基本的に間違ってはいない。ただ、それが有名な批評家の先生方からは酷評される原因となり、反対に観客の若者からは熱狂的に支持されることとなったわけだ。
まさしくチーマー映画のノリで展開するストーリーは痛快そのもの。行く先々で待ち受けるライバル・ギャングと熾烈な戦いを重ねながら、主人公たちはホームグランドであるコニー・アイランドを目指す。ピストルやライフルなどの飛び道具を一切出さず、ガチなフィストファイトがメインというのも、日本で言うヤンキーっぽくていい。ラストは自分たちを陥れた宿敵ルーサー率いるギャング、ローグスとの全面対決。まあ、意外とアッサリ決着がついてしまうのだが、ルーサーを演じるデヴィッド・パトリック・ケリーの強烈な怪演のおかげもあって、まるで西部劇のようなワクワク感を味わうことが出来る。物語が真夜中のブロンクスから始まって、朝焼けの海岸で終わるという構成も非常にドラマチックだ。
もちろん、各ギャング団のバラエティ豊かなコスチュームも見どころ。シルクハットに白塗りメイクのチャップリンみたいなハイハッツ、野球のユニフォームにキッスみたいなヘビメタメイクのベースボ-ル・フューリーズ、ランナウェイズみたいなレディース集団のリジーズなどなど、まさに漫画的なルックのストリート・ギャングたちが続々と登場する。これはその後、本作と『ニューヨーク1997』を合体させたようなイタリア産B級アクション『ブロンクス・ウォリアーズ/1990年の戦士』('82)でそっくりパクられていた。ちなみに、ベースボール・フューリーズとのバット対決アクションは、日本の黒澤明監督によるサムライ映画にインスパイアされたそうだ。
無名の若手ばかりを集めたキャスト陣の顔ぶれも魅力的だ。中でも主演のマイケル・ベックは惚れ惚れとするようなカッコよさ。もともとヒル監督は、製作を務めた『エイリアン』('79)のキャスティングのために、シガニー・ウィーヴァーが出演したイスラエル映画『Madman』('78)を鑑賞したのだが、この作品で主人公を演じていたのがマイケルだった。本作に続いてオリヴィア・ニュートン・=ジョン共演のミュージカル大作『ザナドゥ』('80)に主演したマイケルだが、残念ながらその後はB級映画路線まっしぐらに。男臭さと美しさを兼ね備えているところは、『ストリート・オブ・ファイヤー』のマイケル・パレとも相通じるかもしれない。
そんなマイケル・ベック演じるスワンと、なにかにつけ対立する問題児エイジャックスには現在も渋い名わき役として活躍するジェームズ・レマー。むちゃくちゃ若い(笑)!宿敵ルーサー役のデヴィッド・パトリック・ケリーも当時は全くの新人で、映画デビューだった本作以降、主に悪役俳優として引っ張りだことなった。最近では『ジョン・ウィック』シリーズの掃除人チャーリー役でお馴染み。この2人はウォルター・ヒル作品『48時間』('82)でも再共演していた。また、スワンと惹かれあう女性マーシー役のデボラ・ヴァン・ファルケンバーグも、『ストリート・オブ・ファイヤー』のマイケル・パレの姉役でヒル監督と再タッグを組んでいる。
さらに、カリスマ的リーダー、サイラスを演じているロジャー・ヒルがまた素晴らしい。出番は僅かだけどインパクトは強烈。まさしくカリスマに相応しい堂々たる存在感で、実際に撮影現場でも本物のストリート・ギャングが混じった集会シーンの聴衆を圧倒させたそうだ。彼がシェイクスピア俳優ばりの重量感で叫ぶセリフ「Can You Dig It ?(分かったか)」は、その後あちこちでコピーされたりサンプリングされたりしている。代表作がこれっきりというのは実に惜しい。なお、そのルーサー暗殺の瞬間を目撃するフォックス役のトーマス・G・ウェイツは、ヒル監督と折り合いが悪くトラブルが続いたため、地下鉄の線路に落ちて殺されることに(笑)。本来ならマーシーとくっつくのはフォックスだったらしい。この処遇に不満を持ったウェイツが名前のクレジットを拒否したことから、本編ではメインキャストであるにも関わらず名前が出てこない。ウェイツはその後、『遊星からの物体X』('82)で“頭”に食われる通信技師ウィンドウズを演じていた。
なお、本作は当時の劇場公開版とは別にディレクターズ・カット版が存在する。といっても、全体的なストーリーと編集の流れは劇場公開版とほぼ一緒。大きな違いは、シーンの切り替わりで映像がフリーズしてアメコミ風のイラストになり、漫画のコマを移動するような形で次のシーンへと移る、いうなればコミック効果を加えていることだ。また、冒頭では原作小説のベースになった古代ギリシャ戦記『アナバシス』を、グラフィックノベル風に再現したプロローグも付け加えられている。これは、実写版アメコミという基本コンセプトをより明確にすることを目的としたもの。劇場公開版に比べて、さらにスタイリッシュで神話的な印象が強まっている。ヒル監督によれば、これが『ウォリアーズ』の本来あるべき形なのだそうだ。このディレクターズ・カット版は、今のところアメリカやイギリスではブルーレイ化されているものの、日本では未ソフト化のままである。
評価(5点満点):★★★★★
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)※本編はディレクターズ・カット版のみ
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:5.1ch Dolby Digital・2.0ch Dolby Digital/言語:英語・フランス語・スペイン語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:ALL/時間:93分/発売元:Paramount
特典:ウォルター・ヒル監督によるイントロダクション(約1分)/メイキング・ドキュメンタリー('05年制作・全4パート・合計約62分)/オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2018-10-16 00:06
| 映画
|
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