なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「禁じられた恋の島」 L'isola di Arturo (1962)

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監督:ダミアーノ・ダミアーニ
原作:エルサ・モランテ
脚本:ウーゴ・リベラトーレ
   エンリコ・リブルジ
   ダミアーノ・ダミアーニ
脚本協力:チェザーレ・ザヴァッティーニ
撮影:ロベルト・ゲラルディ
美術・フランコ・マンチーニ
音楽:カルロ・ルスティケッリ
出演:ヴァニ・ド・メグレ
   キイ・ミアスマン
   レジナルド・カーナン
   ルイジ・ジュリアーニ
   ガブリエッラ・ジョルジェッリ
イタリア映画/89分/モノクロ作品




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<あらすじ>
ナポリ湾に浮かぶ小さな島プローチダ。ここには大きな監獄があり、しょっちゅう本土から囚人が移送されてくる。15歳の少年アルトゥーロ(ヴァニ・ド・メグレ)は母親を出産で亡くし、ドイツ人の父親ヴィルヘルム(レジナルド・カーナン)と古い屋敷で暮らしているのだが、父親は遠くへ旅に出ることが多く、普段は近所の住人がアルトゥーロの面倒を見ていた。
父親を尊敬し崇拝しているアルトゥーロ。島の外で何をしているのか全く知らないが、きっと世界中を廻って冒険をしているに違いないと思っている。彼にとって父は英雄だったのだ。なので寂しくてもじっと我慢をしている。16歳になったら一緒に旅へ連れて行ってくれるという約束を信じて。
そんなある時、父親が17歳の若い花嫁ヌンツィアータ(キイ・ミアスマン)を連れて帰って来る。嫉妬心を露わにするアルトゥーロは彼女の一挙一動に強く反発するが、その一方で同世代の美しい娘を前にして淡い恋心も芽生えていた。ところが、それから数週間も経たないうちに父親ヴィルヘルムは無断で旅に出てしまう。
広い屋敷で2人きりになったアルトゥーロとヌンツィアータ。やがて彼女の妊娠が発覚する。身重のヌンツィアータを心配するアルトゥーロ。母親のように出産で死んでしまったら…と気が気ではなかったのだ。そうこうしているうちに彼女は自力で男児を出産し、我が子にカルミネと名付けるのだった。
いよいよヌンツィアータへの想いを募らせていくアルトゥーロ。我慢しきれずに愛を告白するが、敬虔なクリスチャンであるヌンツィアータはそれを強く拒絶する。自棄になったアルトゥーロは、ふしだらな女と評判のある人妻テレサ(ガブリエッラ・ジョルジェッリ)の誘惑に身を任せる。2人の関係に気付いたヌンツィアータは嫉妬心を覚えるのだった。
突然、父親ウィルヘルムが戻って来る。しかし、いつもと様子が違って憔悴しているようだった。するとそこへ警察に護送された囚人がボートで上陸する。トニーノ・ステラ(ルイジ・ジュリアーニ)というヤクザ者だった。その姿を見て瞬く間に表情が明るくなった父親は、監獄の外までいって彼の名前を叫ぶほど親しげな様子だった。しかし、アルトゥーロは2人がただならぬ関係であると直感する…。
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日本では長いこと視聴困難だった幻の映画である。筆者がこの作品の存在を知ったのは小学生の頃。父親が持っていた映画音楽家カルロ・ルスティケッリのベスト盤アルバムに、本作のテーマ曲が収録されていたのだ。うちの父親はロックからカンツォーネ、シャンソン、ディスコ、クラシック、果ては日本の歌謡ポップスからニューミュージックまで、幅広いジャンルのレコードを多数所有していて、筆者は子供の頃から父の留守中にリビングのステレオで片っ端から聴きまくっていたのだが、なぜかその中でも、この『禁じられた恋の島』の美しくも寂しげなテーマ曲は強く印象に残っていたのである。
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それから年月が過ぎ、日大芸術学部の映画学科に入学した筆者は、毎日貪るようにして映画を見るようになったのだが、中でも特に興味を惹かれたのがイタリア映画だった。まあ、入り口はダリオ・アルジェントだったのだが、ヴィスコンティやフェリーニのような巨匠からウンベルト・レンツィやフェルディナンド・バルディなどのB級映画まで、イタリア映画というイタリア映画は片っ端から見まくっていた。そんな中で、『シシリアの恋人』('70)や『警視の告白』('71)の社会派ダミアーノ・ダミアーニに関心を抱き、彼こそが『禁じられた恋の島』の監督であることを知ったというわけだ。
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ただ、待てど暮らせど『禁じられた恋の島』を見るチャンスは巡って来なかった。ビデオは日本未発売。テレビで放送される様子も一向になく、'80年代末の日本では名画座でかかることもなかった。それも仕方あるまい。キャストはほぼ無名の俳優ばかりだし、ダミアーノ・ダミアーニ監督だって日本では知る人ぞ知る存在だし。このまま見ることなく人生終わるのかと思ってたら、忘れかけた頃になって突然DVDでの日本発売。しかし待てよ、オンデマンドのDVD-Rじゃん!ブルーレイならともかく、さすがにDVD-Rに4000円近くは出せないよなあ…と悩んでいたところ、気が付くと工場プレスの廉価版としてあっさり再発。迷わずポチッと…ということで、ようやく巡り合うことが出来たのだ。
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舞台は『太陽がいっぱい』('60)や『イル・ポスティーノ』('94)のロケ地としても有名な南イタリアの美しい島プローチダ。主人公はもうすぐ16歳になる少年アルトゥーロである。生まれた時に母親が死亡した彼は、ドイツ人の父親ヴィルヘルムと2人で島に暮らしているのだが、しかしその父親はしょっちゅう船で旅に出かけてしまい、時には何か月も音信不通のまま帰って来ない。今日こそは父が戻るんじゃないかと港で待ち続けるが、大抵は骨折り損で終わってしまう。寂しくて仕方のないアルトゥーロだが、しかし父親の前ではそんなことおくびにも出さない。なぜなら自分は男だから。
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そんなアルトゥーロは父親を心から崇拝している。島の外で何をしているのか知らないが、きっと世界中を旅して凄い冒険をしているに違いない。学校に通わない代わりに家で父の蔵書を読んでいる彼は、本に出てくる中世の騎士などに我が父を重ねていた。見た目だって、母親譲りの黒髪で肌の浅黒い自分や他の島の住民とは全く違う。アングロサクソン系の大柄な美男子だ。一緒にいるだけで誇らしい。アルトゥーロにとって父親は完全無欠のヒーローだった。それだけに、自分と2つしか歳の違わない若い花嫁ヌンツィアータを連れて帰ってきた時はガッカリする。大好きな父親を独占できなくなるからだ。
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お前なんか所詮は女だ。男は女よりも偉くて価値がある。女は頭が悪くて退屈な生き物だ。お父さんが僕よりもお前を好きになるわけがない。そうやってヌンツィアータに敵意をむき出しにするアルトゥーロ。まあ、実際に父親ヴィルヘルムは若い嫁を便利な女中&性処理係みたいに扱うわけだけど、アルトゥーロの場合はちょっと本音が違う。若くて美しい継母を異性として意識しているのだ。嫉妬心と恋心。この相反する感情を上手く処理しきれず、ついつい憎まれ口を叩いてしまうわけだ。
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で、ほどなくして父親は「こんな息苦しい島での生活は嫌だ!耐えられん!」と騒ぎ出し、気付いたら再び旅に出ていなくなっていた。だだっ広い屋敷で2人だけになるアルトゥーロとヌンツィアータ。やがて継母の妊娠が発覚し、みるみるうちに彼女のお腹が大きくなるのだが、その様子を見てアルトゥーロは気が気じゃない。自分の母親と同じように、出産で死んじゃうんじゃないかと心配なのだ。しかし、夫や継子の無神経な言葉の暴力にも平然としていたヌンツィアータ。妊娠・出産で命を縮めるほど軟じゃない。産婆の手も借りず自力で子供を産んだ彼女は、我が子にカルミネと名付けるのだった。
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この出来事を機に継母への態度をガラリと変えるアルトゥーロ。もはや募る恋心も隠さず積極的にアタックするが、敬虔なクリスチャンのヌンツィアータは断固として拒絶する。そんなことは絶対に許されない、神様の罰が当たると。気を引くため薬を飲んで病気のふりをしてみせるアルトゥーロだが、そんなことヌンツィアータはお見通し。バカなことをするんじゃないとたしなめられ、プライドの傷ついたアルトゥーロは腹いせのつもりで、以前から色目を使ってくる豊満な人妻テレサと寝てしまう。女の勘でそれに気づいたヌンツィアータは激怒。よりによってこんな尻軽女と!と嫉妬心を隠し切れない。
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そんな気まずい空気の漂うところへ突然、父親ヴィルヘルムが戻ってくるのだが、どうもいつもと様子が違う。すっかり憔悴しきってボロボロなのだ。こんなお父さん見たことない、と困惑するアルトゥーロ。港の船着き場でグッタリと座り込む父。しかし、後から到着したボートで上陸した囚人を見て、その顔色がパッと明るくなる。相手はトニーノ・ステラという札付きのワルなのだが、まるでご主人様に再会した忠犬のごとくトニーノにまとわりつき、彼が収容されている監獄の傍まで行って名前を叫ぶ父親を見て、アルトゥーロがずっと抱いてきた憧れの父親像が脆くも崩れ去っていく…。
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ここからはネタバレ。劇中では具体的にハッキリと描写されているわけではないのだが、この父親ヴィルヘルムとチンピラのトニーノ、どうやら同性愛の関係にあるらしいのだ。しかも、タチ役のトニーノにヴィルヘルムがゾッコン惚れこんでいる様子。息子の前では強くて逞しくて勇敢で、女なんぞ甘やかしたりしない硬派なオスを演じていた父親が、実はチンピラ男に骨抜きにされ貢ぎまくっているメス犬だったというわけだ。恐らく、しょっちゅう旅に出かけていたのもトニーノに会うため。世界中を歩き回って冒険していたわけじゃない。若い嫁を連れてきたのも世間体のため。無知で初心な貧しい娘ヌンツィアータは騙しやすかったのだろう。「禁じられた恋」とは未成年の少年と若い継母のそれに加えて、少年の父親と同性の愛人の関係も意味しているのだ。
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これはある意味、男尊女卑の価値観が根強い南イタリアを舞台に、思春期の少年がマチズモ的な「男らしさ」の幻想から解き放たれ、大人への階段を上り始めていく姿を描いたカミング・オブ・エイジ・ムービーだと言えよう。父親ヴィルヘルムとトニーノの同性愛的関係性は、言ってみればホモソーシャルな男性優位主義や家父長制の本質を揶揄したメタファーだ。ハッキリと彼らがゲイだと明確にされていないのも、もちろん同性愛がまだタブーだった時代ゆえの事情もあるだろうが、同時に曖昧にすることでより象徴的な意味合いを持たせる目的もあったのではないかと思う。
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ダミアーニ監督の演出はどこまでもシンプル。それでいて、そこはかとなく詩情が漂う。チェザーレ・ザヴァッティーニが脚本に協力していることからも分かるように、ネオレアリスモからの影響は濃厚だ。主要キャストにスターを使っていないこともその一つであろう。惜しむらくは、これがモノクロ映画であること。青い海に囲まれたプローチダ島の美しさは、カラー映画の方がより鮮明に伝わってくるはずだ。
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なお、アルトゥーロ役のヴァニ・ド・メグレはこれが映画デビュー作。ヌンツィアータ役のキイ・ミアスマンと父親ヴィルヘルム役のレジナルド・カーナンは、どちらもヨーロッパ在住のアメリカ人だ。もともとパリのアメリカン・ホスピタルで医師として勤務していたカーナンは、患者の一人だった元祖スーパーモデル、ドリアン・リーに薦められてファッション・モデルへと転身し、大女優シモーヌ・シニョレの相手役として映画デビューしたというユニークなキャリアの持ち主だったが、出演作たったの4本だけを残して俳優業を引退してしまった。
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評価(5点満点):★★★★☆

参考DVD情報(日本盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(1.85:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:イタリア語/字幕:日本語/地域コード:2/時間:89分/発売元:復刻シネマライブラリー
特典:なし



by nakachan1045 | 2018-11-06 17:00 | 映画 | Comments(0)

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