なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「酔いどれ博士」 Drunken Doctor (1966)

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監督:三隅研次
脚本:新藤兼人
撮影:森田富士郎
美術:内藤昭
音楽:小杉太一郎
出演:勝新太郎
   江波杏子
   林千鶴
   小林哲子
   ミヤコ蝶々
   東野英治郎
   千波丈太郎
   藤岡琢也
   酒井修
   平泉征
   小林幸子
   殿山泰司
   浜村純
   団次郎
日本映画/81分/カラー作品




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<あらすじ>
東京下町のスラム街。とある傷害事件を起こして医師免許をはく奪された大松伝次郎(勝新太郎)は、安宿に泊まって酒と博奕の日々を送っていた。そんなある日、地元の愚連隊・エビカニ団のリーダー、トラ松(平泉征)が、兄貴分と慕うヤクザ三次(千波丈太郎)との決闘で腹に弾丸を食らってしまう。
安宿に運び込まれたトラ松を仕方なく治療し、ドス一丁で弾丸を摘出してみせた伝次郎。その見事な腕前に感心した自治委員長(殿山泰司)は、副委員長(上田忠好)や書記長(藤岡琢也)と相談し、伝次郎に町医者となってくれるよう頼みこむ。
医師免許がないことを理由に申し出を断る伝次郎だったが、住民たちはそれでも構わないと懇願する。貧しいスラム街にまともな医者は来てくれないし、住民たちは普通の病院で診てもらうような金もないからだ。かくして、みんなに押し切られる形で診療所を開業することになった伝次郎。川向うの診療所で働く花子(小林哲子)が看護婦に名乗りを上げ、クズ屋のお松(ミヤコ蝶々)が経理や賄いを担当することになる。
その豪快な人柄と腕っぷしの強さで人々から頼りにされ、「ギョロ松」の愛称で親しまれるようになった伝次郎は、貧しい暮らしに疲れて気力を失った彼らに、勇気と希望を与えていく。そんな伝次郎に惚れ込んだのがホステスのカルメンお春(江波杏子)。愚連隊の若者たちも少しづつ心を開いていく。
一方、駐在所の老警官・元帥(東野英治郎)は伝次郎の素性を怪しんで、なにかと身辺を探る。やぶ医者ならば逮捕しなくてはならないからだ。しかし、身寄りのない貧しい少女(小林幸子)を無料で診察し、時には匿名で食べ物を差し入れていく伝次郎の優しさに感慨を抱き、あえて黙って見過ごすようになる。
だが、例のトラ松が再び問題を起こした。恋人・時子(林千鶴)と所帯を持つため、チンピラ稼業から足を洗おうとするトラ松を仲間たちが「腰抜け」だと非難し、煽られたトラ松は再び三次と果し合いをして撃たれてしまったのだ。今度ばかりは傷が重く、診療所の貧しい設備ではとても手に負えない。病院で手術するため20万円は必要だが、スラム街でそんな大金を持っている者はいない。そこで、伝次郎は奥の手の秘策を案ずるのだったが…。
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隠れた名作とはこういう映画のことを言うのだろう。舞台は昭和30年代頃だろうか。戦後の焼け野原から復興したとはいえ、日本の庶民がまだまだ貧しかった時代。高度経済成長の波に取り残され、トタン屋根のあばら家が軒を連ねるドヤ街で肩を寄せ合って暮らす最底辺の人々に、喧嘩早くて飲んだくれのワケアリなヤブ医者が生きる希望と勇気を与える。『座頭市』シリーズや『眠狂四郎』シリーズ、『子連れ狼』シリーズで有名な名匠・三隅研次が、まさにそのキャリアの絶頂期に手掛けた実に見事な人情ドラマだ。
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主人公は腕っぷしが強くて豪快で男気溢れる風来坊・大松伝次郎。実はもともと腕のいい優秀な外科医だったが、短気で正義感の強い性格が災いして傷害事件を起こしてしまい、医師免許を剥奪されたうえに大病院の職を追われてしまったのだ。その彼が流れ着いたのがスラム、いわゆるドヤ街というやつだ。住民の過去を問わない、名前はみんなあだ名で呼び合う。どん底と呼んでいいくらい貧しくて汚い場所だけど、分け隔てなく誰でも受け入れてくれる懐の大きな町でもある。昼間から酔っぱらって博奕を打ったって誰も文句を言わない。そんなドヤ街の安宿に寝泊まりしていた伝次郎は、ひょんなことから診療所を開くことになる。
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決闘で鉄砲玉を腹に食らった若者(平泉征がムチャクチャ若い!)を、メス代わりのドスと気付け薬の焼酎で治療してしまった伝次郎。その腕前に感動したドヤ街の自治責任者たちが、どうかここの町医者になってくれないかと頭を下げたのだ。腕さえよければ、免許のないやぶ医者だって全然構わない。だいたいこの街には頼んだってまともな医者は診療に来てくれないし、住民はみんな貧しいから普通の病院になんか行けない。診療所は俺たちが拾い集めた資材で建てる、医療器具だって可能な限り拾ってくる、飯はきっちり三食食わせてやる、だから安い診察料で俺たちを診てくれないかと。
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最初は全く乗り気ではなかった伝次郎だが、押し切られるようにしてドヤ街の町医者に。本当に拾い物だけで水道やガスの通った診療所を建ててしまった住民たちのバイタリティ、どこの馬の骨とも知れぬ自分を受け入れ信頼してくれる彼らの心意気に感動し、乱暴者で飲んだくれの不良ドクターなりに心を入れ替え奮起したわけだ。そんな伝次郎の心強い右腕となるのが、空手が得意なしっかり者で、故郷・秋田のズーズー弁もチャーミングな看護婦・花子(懐かしの小林哲子が好演)。伝次郎の人柄に惚れ込んで先祖代々のクズ屋稼業から足を洗ったおばちゃん、お松(ミヤコ蝶々の飄々とした芝居が最高!)が身の回りの世話をしてくれる。もはや嫌だなんて言ってられない(笑)。
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かくして、医者としての初心に立ち返り、日本の最底辺で社会から見捨てられた人々と向き合っていく伝次郎。少々乱暴だが気風が良くて豪快で性根の優しい彼の人柄は、貧しさゆえ生きる気力や働く気力を失った住民たちに明るい希望を与え、伝次郎自身もまた医者の誇りと使命感を取り戻していく。この少々ほろ苦くも、大らかで暖かでユーモラスな人間模様がとにかく素晴らしい。社会の厳しさや冷たさ、人間の愚かさや汚さをしっかりと踏まえたうえで、それでもなお人間誰しもが本来持っているはずの根源的な善意に信頼を置きながら、絵空事の美談に終始しない血の通った人情ドラマが軽快なテンポで描かれていく。
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その一つの象徴となるのが、見た目が東郷元帥に似ているからという理由で元帥とあだ名で呼ばれる駐在所のベテラン警察官。「法律は冷たいがゆえに価値がある」が信条の彼は、法の番人として日頃から法律の遵守を掲げている真面目な堅物だが、しかし貧しい住人たちのささやかな違法行為には見て見ぬふりをしている。法律が必ずしも弱者の味方ではないことをよく分かっているからだ。この辺りはさすが、常に弱者の目線に立って社会や人間を描いた巨匠・新藤兼人の脚本である。
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そんな元帥も不法な医療行為だとしたら看過できないとして、伝次郎に疑いの目を向けて身辺を調査するのだが、かえって強い感銘を受けていくことになる。たとえ酒好きの酔っ払いでもいい、医師免許がなくても仕方あるまい、この街の人々には見返りを求めず手を差し伸べてくれる伝次郎のような存在が必要なのだと。そう、法律はしょせん法律。人間の命や生活の方がずっと大事なのだ。伝次郎の信念に深く共鳴しつつ「本質的には賛成だが、この制服がそれを許さんのだ」と吐露する元帥の、迷いと苦悩を滲ませた名優・東野英治郎の人間味溢れる芝居が味わい深い。
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もちろん、欠点こそ多々あれど人間的に器の大きな愛すべき豪傑・伝次郎を演じる勝新太郎も文句なしに素晴らしい。よくよく考えれば現実的にはあり得ないキャラクターなのだが、このような荒唐無稽を大胆に演じて説得力のある俳優は、恐らく勝新以外には考えられないだろう。さながら少年漫画や劇画の世界である。そもそも、本作のノリ自体が極めて劇画的だ。人間が頭から屋根を突き破って飛ばされる喧嘩シーンなどはまさにその真骨頂であろう。終盤の大乱闘なんか、チンピラ30人くらいを次々と殴り飛ばしちゃうもんね。しかも、本当に片っ端から空高く吹っ飛んでいくの(笑)。そういえば、三隅研次作品はどこか劇画の匂いがするものが多いし、実際に劇画を原作にした作品も少なくない。そのいかにもプログラム・ピクチャー的な大衆娯楽性に、三隅監督の持ち味であるシビアな反骨精神と新藤兼人ならではの社会派的な問題意識を融合させたところに、本作の独特の面白さがあるとも言えよう。
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先述したように小林哲子演じる看護婦・花子、ミヤコ蝶々演じるお松などの魅力的な脇役が登場する本作だが、先ごろ惜しくも亡くなった女優・江波杏子が演じるカルメンお春もなかなか美味しいキャラだ。かつて赤坂の一流キャバレーでナンバー2だったことが自慢の落ちぶれたホステスで、盲腸の手術をしてくれた伝次郎にぞっこん惚れ込んでしまう。酒に酔った勢いで伝次郎に向って吐き捨てる、「てめえはアタシのムスコ…じゃねえ、アタシのミサオを見ちまったな、もう、この幸せもん!」というセリフが傑作(笑)。ミサオを見たんだからアタシと結婚しろ!と迫る逆プロポーズシーンも微笑ましい。
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また、伝次郎の過激な荒治療(?)で性根を叩き直される不良少年たちの青春ドラマも見どころだ。そのリーダー・トラ松を演じるのが当時22歳だった平泉征(現在の平泉成)。弟分の若者には大映の若手スター候補だった酒井修。メンバーの中には、これが映画デビューだった初々しい団次郎(現・団時朗)の姿もある。また、トラ松の恋人・時子には、当時まだ林千鶴を名乗っていた高林由紀子。不良少年たちに悪さを教えるヤクザのチンピラ三次には、筆者世代には『仮面ライダーV3』のドクトルGが懐かしい、大映の悪役俳優・千波丈太郎が扮している。この頃はえらいハンサムだ。
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さらに、伝次郎が特に目をかけて励ます、幼い弟を抱えた身寄りのない病身の少女として、子役時代の小林幸子が登場。そのほか、殿山泰司に藤岡琢也、上田忠好、田武謙三など、懐かしい名バイプレイヤーたちがドヤ街の住民を演じている。また、役者の名前はよく分からないが、和服姿の年老いたオカマさんもいい味を出して印象的だ。オカマだろうとホステスだろうとチンドン屋だろうとなんだろうと、社会からつまはじきにされた弱者たちが肩を寄せ合って逞しく生きるドヤ街の人間群像。その温かさがなんとも愛おしい。
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評価(5点満点):★★★★★

参考DVD情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:81分/発売元:株式会社KADOKAWA
特典:劇場予告編/フォトギャラリー



by nakachan1045 | 2018-12-09 08:06 | 映画 | Comments(0)

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