なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
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「ナイト・タイド」 Night Tide (1961)

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監督:カーティス・ハリントン
製作:アラム・カンタリアン
製作総指揮:ジュールス・シュワルツ
脚本:カーティス・ハリントン
撮影:ヴィルス・ラペーニクス
音楽:デヴィッド・ラクシン
出演:デニス・ホッパー
   リンダ・ローソン
   キャメロン(マージョリー・キャメロン)
   ギャヴィン・ミューア
   ルアナ・アンダース
   マージョリー・イートン
   トム・ディロン
アメリカ映画/86分/モノクロ作品




<あらすじ>
アメリカの西海岸。海軍に入隊して1年の若い水兵ジョニー(デニス・ホッパー)は、ふらりと立ち寄ったジャズ・バーでモーラ(リンダ・ローソン)という謎めいた女性と知り合う。たちまち恋に落ちた2人。モーラはカーニバルの見世物小屋で人魚として働いていた。そんな彼女を不気味な中年女性(マージョリー・キャメロン)がしばしば監視しており、モーラは少なからず恐怖心を抱いている様子だった。
ある日、モーラが住むアパートの1階で営業しているメリーゴーランドを訪れたジョニーは、経営者(トム・ディロン)の孫娘エレン(ルアナ・アンダース)から警告を受ける。これまでモーラと付き合った男性は、ことごとく謎の溺死を遂げているというのだ。そこへ通りがかった例の中年女性の後を尾行したジョニーは、モーラの親代わりであるマードック船長(ギャヴィン・ミューア)の家にたどり着く。
ジョニーを自宅へ招き入れたマードック船長は、にわかに信じられないことを打ち明ける。モーラは海の怪物セイレーンの末裔、つまり本物の人魚だというのだ。かつて船乗りとして世界中を旅したマードック船長は、ギリシャのミコノス島で天涯孤独の孤児モーラを引き取ったのだが、成長するに従ってセイレーンとしての本能に目覚め、恋人の若者たちを海へ引きずり込んでしまったのだという。
モーラ自身もジョニーにそのことを認めた。彼女によると例の中年女性もまたセイレーンで、モーラを仲間のもとへ連れ戻そうとしているらしい。なによりも彼女は、セイレーンの本能に支配され自制が効かなくなることを恐れていた。それ以来、悪夢にうなされるようになるジョニー。そんな彼に占い師ロマノヴィッチ夫人(マージョリー・イートン)は危険が迫っていると警告する。果たして、モーラは本当にセイレーンなのか、それとも…?

『恐怖の足跡』('61)や『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』('69)と並び称される、'60年代のアメリカン・インディーズ映画を代表する名作ホラーである。ただし、実際のところホラーの要素はかなり薄い。むしろ、ギリシャ神話に出てくる上半身が女性、下半身が魚の怪物セイレーンの伝説を基にした、哀しくもロマンティックな怪奇幻想ミステリーと呼ぶべきだろう。

西海岸の風光明媚なリゾート地で休暇を過ごす若い水兵ジョニーが出会ったのは、自らを本物の人魚(セイレーン)だと信じている謎めいた美女モーラ。彼女の周辺では不可解な事件や現象が相次いでおり、育ての親であるマードック船長もモーラの正体を恐れている。まさか!人魚なんて本当にいるはずがない。恋人が立て続けに溺死するという、不幸な出来事に対する自責の念から、そう信じ込んでいるだけではないか。このままだと自分は化け物になってしまうと不安を募らせ、次第に精神を病んでいくモーラ。ジョニーは愛する彼女をなんとかして救おうとするのだが…。

監督はこれが長編処女作だったホラー映画の名匠カーティス・ハリントン。もともと盟友ケネス・アンガーと共に、アンダーグランドなアヴァンギャルド映画の作家として活動していたハリントン監督は、少年時代から親しんできた古典的ホラー映画、中でもヴァル・リュートンが製作した一連のRKOホラー作品にインスパイアされたという。原作はハリントン監督が南フランス滞在中に執筆した短編小説。自分をモンスターだと信じる女性の悲劇を描いたストーリーは、ジャック・ターナー監督の傑作『キャット・ピープル』('42)を下敷きにしている。

ヒロインが本当に海の怪物セイレーンなのかどうか、最後の最後まで明確にしない点も『キャット・ピープル』と同じ。一応、クライマックスでロジカルな説明は用意されているのだが、その一方でモーラが本人の言う通りのモンスターであった可能性も否定せず、真相を観客の想像に委ねる形で静かな幕切れを迎える。なので、モーラの身辺に出没する不気味な中年女性の正体も明かされない。それはさながら、この世と異界との境目にあるトワイライト・ゾーンへと迷い込んだような感覚だ。

随所に悪夢的なイメージを交えたポエティックなモノクロの映像美は、ハリントン監督が敬愛するジャン・コクトーやジョルジュ・フランジュなどのフレンチ・アヴァンギャルドを彷彿とさせる。劇場公開当時、アメリカ本国ではあまり話題にならなかったものの、本作を大変気に入ったアンリ・ラングロワの尽力によって、その後フランスで高く評価されるようになったというのも納得であろう。

ただ、その一方でアヴァンギャルド映画作家というハリントン監督の出自が、長編劇映画初挑戦の本作においてマイナスに働いてしまっている面も否定できない。なんというか、ストーリーテリングがどことなく舌足らずなのだ。さらに、役者の芝居をカメラで捉えることにも慣れていないせいか、所々で稚拙な演出も目に付く。これはハリントン監督自身も認めているところなのだが、当時の彼は演劇に関する知識も経験もないに等しかったらしい。それゆえ、撮影現場では主演のデニス・ホッパーにだいぶ助けられたと後に語っている。

そのデニス・ホッパーは、以前からハリントン監督の短編実験映画のファンだったことから、本作のジョニー役を引き受けたのだという。本作で意気投合した2人は、その後SFホラー映画『Queen of Blood』('66)でも再びコンビを組んでいる。モーラ役のリンダ・ローソンは主にテレビで活躍した女優で、ジャズ歌手としても知る人ぞ知る存在だ。また、ロジャー・コーマン作品の常連女優として知られるルアナ・アンダースが、ジョニーに秘かな思いを寄せる女性エレン役として登場。デニス・ホッパーは彼女のことを高く評価していて、その後『イージー・ライダー』('69)に起用している。

また、脇役で興味深いのは謎の中年女性を演じるマージョリー・キャメロンと、占い師の老女を演じるマージョリー・イートンだ。キャメロンは女優としてよりも、前衛芸術家および神秘学者として有名だった女性。かの有名な錬金術師アレイスター・クロウリーの信奉者であり、ハリントン監督やケネス・アンガーとも古い友人だったそうだ。また、『スター・ウォーズ』シリーズのパルパティーン皇帝を最初に演じたことで知られる女優イートンもまた、もともとはキュービズムの影響を受けた前衛芸術家であり、'30年代から既にヒッピーのような暮らしをしていたという人物。芸術家として生計を立てるのが難しかったことから、40歳を過ぎて女優へ転向したというユニークなキャリアの持ち主だった。

ちなみに、本作のオリジナル・ネガは現在、ニコラス・ウィンディング・レフン監督が所有しているとのこと。'07年に映画芸術科学アカデミーの関連機関アカデミー・ファウンデーションが、35ミリの上映用フィルムをもとにデジタル修復作業を行っており、アメリカでリリースされたブルーレイもそのデジタル修復版を本編マスターに使用している。

評価(5点満点):★★★☆☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.66:1)/音声:2.0ch リニアPCM Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:86分/発売元:Kino Lorber/The Film Foundation
特典:カーティス・ハリントン監督とデニス・ホッパーによる音声解説/カーティス・ハリントン監督インタビュー(約55分)/オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2018-12-13 16:51 | 映画 | Comments(0)

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