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なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「恐怖の足跡」 Carnival of Souls (1962)

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監督:ハーク・ハーヴェイ
製作:ハーク・ハーヴェイ
脚本:ジョン・クリフォード
撮影:モーリス・プレイザー
音楽:ジーン・ムーア
出演:キャンデイス・ヒリゴス
   フランシス・フェイスト
   シドニー・バーガー
   アート・エリソン
   スタン・レヴィット
   ハーク・ハーヴェイ
アメリカ映画/78分/モノクロ作品




<あらすじ>
カンザスの田舎町。若い男女の運転する車2台がスピードを競っているうち、1台が古い橋の上から川へと転落してしまう。乗っていたのは女性3人。警察は懸命の捜索を行うが、川の水が濁っていてなかなか見つからない。3時間が過ぎて誰もが諦めかけたその時、泥まみれで岸へと這い上がる女性の姿が発見される。行方不明者の1人、メアリー・ヘンリー(キャンデイス・ヒリゴス)だった。
奇跡の生還を遂げたメアリーだが、しかし川へ落ちてから岸へ上がるまでの記憶が全くない。すっかり周囲に心を閉ざしてしまった彼女は、心機一転のためユタ州のソルトレイク・シティへ移り住み、教会のオルガン奏者として働くことにする。
ユタへ向けて一人車を走らせるメアリー。すると、ラジオから不気味なオルガン音楽が流れ始める。周波数を変えても音楽は消えない。さらに、白い顔をした不気味な男の姿をたびたび見かけたメアリーは、恐怖のあまり途中で車を止める。すると、グレートソルト湖の岸にそびえ立つ巨大な遊戯施設の廃墟が、彼女の目に飛び込んでくる。幻想的な光景に思わず目を奪われたメアリーは、その場所に何か不思議なつながりを感じる。
ソルトレイク・シティへ到着したメアリーは、トマス夫人(フランシス・フェイト)の経営する小さな下宿で部屋を借りる。隣の部屋に住む若者ジョン・リンデン(シドニー・バーガー)が親しげに話しかけてくるが、他人と関わり合いたくないメアリーは冷たくあしらう。すると、彼女は1階から階段を上がって来る例の不気味な男の姿を目撃し、部屋へ閉じこもって恐怖に怯えるが、扉を開けると夜食を運んできたトマス夫人だった。
やがて、彼女は不可解な現象を体験するようになる。街中で突然周囲が死んだような静寂に包まれ、誰一人として彼女の存在に気付かなくなってしまう。ある時は、教会でオルガンを演奏しているうちにトランス状態となり、遊戯施設のダンスホールで踊る死者たちを目にする。あの不気味な男の姿にも相変わらず怯えていた。たまたま知り合った医師サミュエルズ(スタン・レヴィット)は、交通事故のトラウマが原因ではないかと診察するのだが、メアリーは納得できない。ついに町を出る決意をした彼女だったが…。

※注意:下記のレビューにはネタバレが含まれます。

これは紛れもない、ホラー映画史上屈指の大傑作である。カンザス州の地方都市ローレンスで、30年以上に渡って産業映画を撮っていたハーク・ハーヴェイ監督が、自ら資金を集めて自主製作した唯一の長編劇映画。これを見て感化されたジョージ・A・ロメロ監督が『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』('68)を作ったことは有名な話だが、ほかにもデヴィッド・リンチやジェームズ・ワンなど数多くの映像作家たちに多大な影響を与えてきた。リンチの『イレイザーヘッド』('77)や『ツイン・ピークス』('90~'91)が本作の影響下にあるのは明白だし、エイドリアン・ライン監督の『ジェイコブス・ラダー』('90)やM・ナイト・シャマラン監督の『シックス・センス』('99)、さらにはあの『ファイナル・デスティネーション』('00)シリーズにも本作の影響が垣間見えると言えよう。

筆者がこの『恐怖の足跡』の存在を知ったのは、高校時代のホラー映画バイブル「スクリーン臨時増刊 HORROR MOVIES」シリーズのパート3に掲載された作品解説が最初。その後もたびたび「幻の傑作」との噂は耳にしていた。なので、大学3年生だった'89年の夏に初めてロサンゼルスを訪れた際、ハリウッド大通りの土産物店で山積みにされたワゴンセールのVHSテープの中に、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』や『シャーロック・ホームズの殺しのドレス』('46)などと並んで、本作の激安ビデオを発見した時は小躍りしたもんだった。もちろん、まとめて衝動買い。当時はまだ英語力も英検3級程度だったので、セリフのよく分からない部分もあるにはあったが、それでも幻想的な映像美とシュールなストーリーにいたく強い感銘を受けたことを記憶している。

物語の始まりはカンザス州の田舎町。若い男女がドラッグ・レースを楽しんでいたところ、女子チームの車が誤って古い橋の上から川へと転落してしまう。たちまち濁流に呑み込まれる車。通報を受けた警察の捜索も虚しく、事故車も犠牲者も一向に見つからない。3時間が経過してみんなが諦めかけた頃、にわかに人々がざわつき始める。1人の女性が自力で川岸へと辿り着いたのだ。泥だらけになった女性を見て町民が口々に叫ぶ。「メアリー・ヘンリーだ!」と。どうやって水没した車から脱出したのか、本人には記憶が全くない。よっぽど無我夢中だったのだろうか。しかし、それにしても事故から3時間も経っての生還劇は、常識的に考えれば有り得ないことだろう。普通ならとっくに溺死しているはずだ。そんな大きな謎を残しつつ、人々はこの奇跡のような出来事に沸き立つのだった。

それ以来、自分の殻に閉じこもってしまったメアリー。自分だけ助かったことへの負い目もあるのだろう。心機一転のため町を出ていく決意を固めた彼女は、ユタ州の大都会ソルトレイク・シティの教会でオルガン奏者としての職を得る。スーツケース1つを持って車の旅に出るメアリー。すると、カーラジオから不気味なオルガン音楽が流れ始める。しかも、どれだけ周波数を変えても音楽は消えない。何かがおかしい。

ふと助手席の窓から外を見ると、白塗り顔の不気味な男の姿が!ハッと驚いてもう一度見直すと誰もいない。なんだったんだろう?と思って正面を見ると、再びあの恐ろしい男の姿が目の前に現れ、恐怖のあまりメアリーは思わず車のブレーキを踏む。改めて車を走らせた彼女の目に入ってきたのは、夕闇の向こうにそびえ立つ巨大な建物。立ち寄ったガソリンスタンドの店員に聞いたところ、かつてダンスホールやカーニバル会場として賑わったパヴィリオン(遊技場)の廃墟だという。彼女はそこに何か引き付けられるものを感じる。

ソルトレイク・シティに着いてからも、依然として例の不気味な男の陰に脅かされ続けるメアリー。しかし、その姿は彼女にしか見えない。幻覚なんだろうか。それしては、あまりにも現実的だ。怯えるメアリーは、夜もろくに眠ることが出来ない。そればかりか、彼女はさらに不可解な現象に見舞われる。なにかザワザワとした妙な感覚に襲われた次の瞬間、周囲の音が一切聞こえなくなって戸惑うメアリー。環境音だけでなく、喋っている人の声まで聞こえない。そればかりか、誰も彼女の存在に気付かなくなってしまう。いくら呼びかけても話しかけても、そっぽを向いて通り過ぎていく人々。それはまるで、透明人間になってしまったかのようだ。私はここいるのよ!と叫ぶ彼女の声だけが空しく響く。疲れ果て公園にたどり着いたメアリーが、ふと空を見上げると鳥のさえずりが聞こえはじめ、やがて世界は普段通りの日常に戻る。

なんだか、この世界に私の居場所がなくなってしまったみたい。あの交通事故以来、あえて他者との関りを避けて孤独に生きてきたメアリーだが、そう考えると急に心細くなってしまい、それまで冷たくあしらってきた隣人の青年ジョンとの距離を縮めていく。自分の居場所を、そして自分の存在を確かめるために。だが、例の不気味な白塗り男の存在は次第に強まっていく。ついには、教会のオルガン演奏中にトランス状態へと陥った彼女は、遊技場のダンスホールで舞い踊る死霊たち(白塗り男も含む)の幻覚に襲われ、そのただ事ではない様子に驚いた牧師から解雇を言い渡される。

いったい自分はどうなってしまったのだろうか?精神的に追い詰められたメアリーは、自分に好意を持つジョンに助けを求めてすがりつくが、しかし本当のことを話した途端に「このキチガイ女め!」とにべもなく突き放される。不安と恐怖で取り乱し、大騒ぎを繰り広げたせいで、小さな下宿にも居づらくなってしまった。もうこの街にはいられない。再び別の場所へ移ろうと決めたメアリーだったが、またもやあの「透明人間現象」に襲われてしまい、街から出るバスに乗ることすら出来ない。絶望に打ちひしがれるメアリー。ハッと気づくと車の中だ。どうやら白日夢を見ていたらしい。一目散に車を走らせ町を出た彼女は、気が付くとあの巨大パヴィリオンへとたどり着いていた。まるで探し求めていた答えを見つけようとするかのように…。

さながら、ヨーロッパ映画のような雰囲気をたたえた不条理な恐怖譚。ストーリー的にはルイス・ブニュエルが好みそうなタイプだが、印象としてはミケランジェロ・アントニオーニの『情事』('60)やアラン・レネの『去年マリエンバートで』('60)を彷彿とさせる。ダークで幻想的なモノクロの映像美は、監督自身が強く意識したと述べているように、ベルイマンやコクトーの影響も如実に感じられるだろう。3万3千ドルという超低予算の自主製作映画でありながら、その完成度はヨーロッパの巨匠たちにも引けを取らぬほど高い。アメリカでは劇場公開当時全く当たらず、後にフランスで上映された際に高く評価され、テレビの深夜放送を通じて徐々にカルト的な人気を得たわけだが、なるほど、それも十分に頷ける。だいたい、ロン・チェイニー・ジュニア主演のオカルト映画『死神の使者』('61)と二本立て興行だったということは、明らかにドライブイン・シアター向けのB級ホラーとしてプロモートされたわけで、そもそもの扱われ方が間違っていたと言える。本来ならば、シネフィル向けのアートシアターで上映されるべき作品だ。

で、ここからはネタバレ。最後の最後になって、実ははじめからメアリーは車の中で溺死していたことが明かされる。つまりこれは、己の死を自覚しないまま現世に留まってしまったメアリーが、この世とあの世の狭間を漠然と彷徨い続けた末、死者の群れによって黄泉の世界へと引き戻されていく物語なのだ。この世界に自分の居場所がないと感じていたのもそのため。さらに見方を変えれば、一連の出来事は実際に起きたわけではなく、死の間際にメアリーが見た幻覚だった…との解釈も成り立つだろう。実際、ラストシーンに出てくるメアリーの死体には腐敗の兆候は見られない。

いずれにせよ、他者との関りを避けて自分の殻に閉じこもった生還後のメアリーは、現世において物理的には確かに存在しているのかもしれないが、しかし本質的には既に死んだも同然だったと言える。生きるとはどういうことなのか。ただそこに存在するだけでは、生きていることにはならないのではないか。教会の牧師が地域社会との関りや、神への信仰心を持つことの大切さを説くも、メアリーはそれを頑なに拒絶し、死者の群れが舞う迷宮へと迷い込んでいく。もし彼女が周囲に対して心を開き、自分だけで不安や恐怖を抱えたりせず、積極的に社会と繋がろうとしていたら、よもや死者に足をすくわれることもなかったのだろうか?なんとなく実存主義に対するアンチテーゼのような意味合いも感じ取れる。そういう意味では、非常に哲学的な映画でもあるのだ。

ちなみに、劇中に登場するロシア宮殿風の巨大パヴィリオンは、ソルトレイク・シティ郊外に今も実在するソルトエアーという建物。もともと、モルモン教会が観光客誘致を目的に、1893年に建設した複合レジャー施設だったが、戦後各地に出来たリゾート施設との競争に勝てず1958年に廃業していた。当時カリフォルニアでの仕事を終えて地元カンザスへ戻るところだったハーヴェイ監督は、その途中でたまたま見かけたソルトエアーの廃墟に心を奪われ、この建物を使って何か映画が作れないものかと思案。勤務先である制作会社セントロンの同僚ジョン・クリフォードに脚本を依頼し、休暇を利用して同社スタッフの協力のもと3週間で本作を撮りあげたという。セントロンは数々の企業PR映画や教育映画を手掛け、アカデミー賞候補にもなったことのある地元の名門制作会社。これだけの短期間でこれほどの映画を作ることが出来たのは、ひとえにハーヴェイ監督を含む同社の一流スタッフが携わっていたからに他ならないだろう。

そんなハーヴェイ監督にインスピレーションを与えたソルトエアー。この華やかで煌びやかな往時の面影をそこかしこに漂わせつつ、時代に取り残され朽ちかけてしまったレジャー施設の、なんとも言えない侘しさが作品全体の幻想的なムードをさらに高めている。廃墟マニアにはたまらないはずだ。そんな古びた建物の薄暗いダンスホールで、顔を白く塗った死者たちの群れが舞い踊るシーンも素晴らしくシュール。死者たちを演じているのはユタ大学の学生らしいのだが、前衛舞踊的な振り付けがとてもアバンギャルドだ。そうそう、ハーヴェイ監督自身が演じる白塗り男もインパクト強烈。ちなみに、本作の出演者でプロの俳優は主演のキャンデイス・ヒリゴスのみで、あとは監督やスタッフの友人・知人を集めている。なお、撮影に使用されたソルトエアーの建物は'67年に焼失したものの、'81年に地域再開発の一環でイベント会場として再建され、近年は主にロックコンサートやDJイベントが行われているそうだ。

劇場公開時、本編に著作権表記が抜け落ちていたせいでパブリックドメインとなってしまった本作。VHS時代から数えきれないほどの廉価版ソフトがリリースされてきた。過去に出た日本版DVDも、パブリックドメイン素材を使用している。ただ、共通ソースとなった上映用プリントがことのほか保存状態良好だったためか、パブリックドメイン素材としては予想外の高画質に驚いた視聴者も多いだろう。また、もともとの劇場公開版は上映時間が78分だったが、'89年のリバイバル公開に際してハーヴェイ監督自身が84分のディレクターズカット版を制作している。

で、'16年にクライテリオン社からリリースされた米盤ブルーレイは劇場公開版のみを収録。ディレクターズカット版で追加されたシーンは、画質が異なるためか「削除シーン集」として別にまとめられている。35ミリのオリジナル・カメラネガから4K解像度で修復された本編映像は、文字通り目から鱗のウルトラ超高画質!とても60年近く前に撮影された映画とは思えない。特典では未編集の別テイクや、'89年のリバイバル公開時に制作されたメイキング・ドキュメンタリーなども楽しめる。また、ハーヴェイ監督が所属した制作会社セントロンの短編映画も多数収録されており、彼が普段はどのような仕事をしていたのか窺い知れるのも興味深い。

評価(5点満点):★★★★★

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.37:1)/1080p/音声:1.0ch リニアPCM/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:78分/発売元:The Criterion Collection
特典:ハーク・ハーヴェイ監督と脚本家ジム・クリフォードによる音声解説/『シンプソンズ』の製作者ダナ・グールドのインタビュー(約23分)/削除シーン集/アウトテイク集(約27分)/メイキング・ドキュメンタリー『The Movie That Wouldn't Die!』('89年制作・約32分)/批評家デヴィッド・ケアンズのインタビュー(約23分)/ソルトエアーの歴史を振り返るドキュメンタリー『Saltair: Return to the Salt Queen』('66年制作・約26分)/制作会社セントロンの歴史(約10分)/セントロン製作の短編集(計6本・約58分)/オリジナル劇場予告編/解説シート封入



by nakachan1045 | 2019-01-05 01:12 | 映画 | Comments(0)

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