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なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「ジェリコ・マイル/獄中のランナー」 The Jericho Mile (1979)

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監督:マイケル・マン
製作:ティム・ジネマン
原案:パトリック・J・ノーラン
脚本:パトリック・J・ノーラン
   マイケル・マン
撮影:レックスフォード・メッツ
音楽:ジミー・ハスケル
出演:ピーター・ストラウス
   リチャード・ローソン
   ロジャー・E・モスリー
   ブライアン・デネヒー
   ジェフリー・ルイス
   ビリー・グリーン・ブッシュ
   エド・ローター
   ビヴァリー・トッド
   ウィリアム・プリンス
   ミゲル・ピネーロ
   リチャード・モル
アメリカ映画/97分/カラー作品




<あらすじ>
西海岸のとある刑務所。父親殺しの第一級殺人で終身刑に服しているラリー・マーフィー(ピーター・ストラウス)は、ほかの囚人たちが人種ごとに徒党を組んでいるのを尻目に、一人黙々と刑務所のグラウンドを走り続けていた。そんな彼の唯一の友人が、隣の独房に入っている黒人の服役囚スタイルズ(リチャード・ローソン)。妻からの手紙で娘が生まれたことを知ったスタイルズは、看守にコネの効く白人グループのリーダー、ドクター・ディー(ブライアン・デネヒー)に頼んで、家族との面会予定日を早めてもらおうと考えるが、マーフィーは強く反対する。悪党のドクターはどんな交換条件を出してくるか分からないからだ。
一方、マーフィーの人並外れた足の速さに気付いたセラピストのヤノフスキー医師(ジェフリー・ルイス)は、ガリバー所長(ビリー・グリーン・ブッシュ)に相談して、地元大学の長距離ランナーとタイムを競わせる。すると、全米トップレベルの記録が出る。驚いたマラソンコーチのベロイト(エド・ローター)やガリバー所長は、オリンピック代表の選考会に出場するよう勧めるが、しかしマーフィーは頑なに拒絶する。
その頃、マーフィーの忠告を聞かず、ドクター・ディーに面会予定日を繰り上げてもらったスタイルズだったが、当日現れたのは赤の他人の女だった。ドクター・ディーはスタイルズにドラッグの運び人をさせようとしたのだ。怒ったスタイルズはドラッグの受け取りを拒否し、その様子を怪訝に思った看守によって女が逮捕されてしまう。事情を知ったマーフィーは看守室に逃げるよう訴えるが、白人グループによってスタイルズは殺されてしまう。
親友の死に強いショックを受けたマーフィーは、条件付きでオリンピック代表選考会への出場を所長に申し出る。30分間だけ、白人グループの作業場で一人にして欲しいというのだ。そこで麻薬密売の資金を見つけたマーフィーは、白人グループの見ている目の前で現金に火をつける。怒り狂ったドクター・ディーは、オリンピック選考会の予選レースへ向けたグランドの整備工事を妨害。さらに、スタイルズが殺された原因をマーフィーになすりつけ、黒人グループにリンチを焚きつける。
しかし、マーフィーとスタイルズが親友だったと知った黒人グループのリーダー、コットン・クラウン(ロジャー・E・モスリー)は、ヒスパニック・グループのリーダー、ルビオ(ミゲル・ピネーロ)と組んで、マーフィーをサポートすることに。工事の邪魔をする白人グループも力づくで排除する。オリンピック選考会のためストイックにトレーニングするマーフィーを見て、心を一つにして応援するようになる囚人たち。これこそ、ガリバー所長やヤノフスキー医師が望んでいたことだった。
刑務所で行われた予備レースで代表有力候補を打ち破ったマーフィー。これには囚人も看守もみんなが狂喜乱舞する。ところが、そこへオリンピックのクリーンなイメージが傷つくことを憂慮する選考委員会の横槍が入ってしまう…。

マイケル・マン監督の出世作となったテレビ映画である。『刑事スタスキー&ハッチ』や『ポリス・ストーリー』、『女刑事ペッパー』など、'70年代半ばからテレビシリーズのエピソード監督&脚本家として頭角を現したマン。その実力を高く評価したテレビ局ABCは、彼が持ち込んだテレビ映画の企画にゴーサインを出す。それが『白銀に賭ける恋』('80)。マンは脚本だけでなく演出も自ら手掛けるつもりだったが、しかし主演俳優デヴィッド・ソウルの怪我で制作が延期されてしまう。そこで、その代わりとしてABCから提案された企画が、この『ジェリコ・マイル/獄中のランナー』だった。

もともと、元大学教授のパトリック・J・ノーランが書いた脚本をABCが買い上げたものの、長いことお蔵入りしたままだったという本作。当時、エミー賞やゴールデン・グローブ賞を総なめにしたミニシリーズ『リッチマン・プアマン/青春の炎』('76)で大ブレイクし、テレビ界のスーパースターとなった俳優ピーター・ストラウスが、過去の2枚目役とは全く異なるものをやりたいとABCに持ち掛けたところ、この企画が浮上したという経緯があったらしい。当初、マイケル・マンはノーランの脚本をリライトするだけのはずだったものの、これを読んで感銘を受けたストラウスが監督も兼ねることを進言。念願の長編映画デビューを飾ったマンは、本作でエミー賞やアメリカ監督組合賞などを席巻し、これを足掛かりに劇場用映画へも進出することとなる。

主人公は父親殺しの罪で終身刑を言い渡された服役囚マーフィー。子供の頃は優しくて大好きだった父親だが、酒に酔って年の離れた妹を虐待するようになり、見るに見かねたマーフィーは思い余って射殺してしまったのだ。自らの罪を黙って受け入れ、残りの人生を刑務所の中で生きていく覚悟を決めた彼は、他の囚人とはほとんど関りを持たず、人種ごとにグループ分けされた派閥間の勢力争いや対立からも距離を置き、ただひたすらグラウンドを走ることに専念する。それだけが、刑務所生活の中で彼が生きていることを実感する時間だからだ。哀しみを秘めたストイックな孤高のヒーロー像は、その後のマイケル・マン作品の主人公たちの原点と呼んで間違いはないだろう。

そんなマーフィーと同じく、刑務所内の煩わしい人間関係を避けているのが、隣の独居房に収容されている黒人のスタイルズだ。ただし、マーフィーが自らの内側に生きる目的を見出そうとしているのとは対照的に、スタイルズは外の世界にいる家族の存在を糧に刑務所内の狭い社会を生き抜こうとしている。それは、白い壁だけに囲まれたまっさらなマーフィーの独居房に対し、スタイルズの独居房が無数の家族写真で飾られていることからも明白だ。徹底して孤独に生きることを決めたマーフィーと違って、スタイルズはそこまで精神的に強くはない。結局、彼はその弱さに足元をすくわれ、頼ってはいけない人間に頼ってしまう。

一日でも早く妻や生まれたばかりの娘の顔を見たい彼は、家族との面会日を繰り上げて貰うため、白人グループの危険なリーダー、ドクター・ディーに口利きを頼むのだ。見返りを求められるのは分かっている。そのリスクを取ってでも家族に会いたい。マーフィーの強い反対にも耳を貸さず、「なんとかなるさ」という希望的観測のもとに危険を冒したスタイルズは、しかし見返りがドラッグの運び屋役だと知って愕然とする。そんなことをして、もしバレたら刑期が伸びてしまう。土壇場で拒絶してドクター・ディーの麻薬ビジネスに損害を与えた彼は、その報復として殺されてしまうのだ。

一方、マーフィーの長距離ランナーとしての類稀な才能に気付いた刑務所の上層部は、彼をオリンピック代表の選考会に出場させようとする。閉鎖された空間の中で暮らす囚人たちに、外の世界との繋がりを意識させることで、所内の風紀が少しでも改善されるのではないかと期待したのである。しかし、これから一生刑務所で暮らさねばならないマーフィーにとって、ほんの束の間とはいえ外の世界の自由な空気に触れることは、むしろ残酷な仕打ちでもある。それゆえ頑なに出場を拒否する彼だったが、唯一の親友スタイルズが非業の死を遂げたことで態度を変える。オリンピック選考会に出てもいい。ただし条件がある。それは、スタイルズを死に追いやったドクター・ディーへの復讐だ。

選考会への出場を引き受ける代わりに、白人グループの作業場への立ち入りを認められたマーフィーは、そこで発見した彼らの麻薬ビジネスの資金に火をつけて燃やす。怒り狂うドクター・ディー。当然、マーフィーには報復が待っている。ドクター・ディーはスタイルズ殺しについて嘘の情報を流し、黒人グループがマーフィをリンチするように仕向ける。自分の行為に対する代償を覚悟していたマーフィーは、毅然とした態度で真っ向から逆境に立ち向かい、自らにかけられた濡れ衣を晴らしただけでなく、黒人やヒスパニックなどのマイノリティ・グループから一目を置かれるようになる。ここからが本作の山場だ。

期せずして刑務所内のマイノリティたちを結束させ、幅を利かせていた白人グループに打撃を与えることに一役買ったマーフィーは、やがて刑務所内の希望の星となっていく。誰のためでもなく自分自身のために走り続け、オリンピック代表選考会という大きな目標へ向けて挑戦する彼の姿に、多くの囚人たちが共感するようになるのだ。やがて、マーフィーを応援するため刑務所内は一つになっていく。そこには、もはや愚かな争いや対立は見られない。権力の理不尽によって強いられた挫折の末に待ち構える、クライマックスの何とも言えぬ高揚感と一体感は格別だ。

もともとドキュメンタリー畑からキャリアをスタートしたマイケル・マン監督は、本作でも徹底したドキュメンタリー・スタイルのリアリズムを貫く。これは、その後のマン作品との大きな違いと言えるかもしれない。中でも特筆すべきは、刑務所内の生々しい描写であろう。実は、監督は本作以前に実際の刑務所を取材したことがあった。それが、本作の製作者でもあるティム・ジネマン(巨匠フレッド・ジネマンの息子)がプロデュースした映画『ストレート・タイム』('78)だ。主演ダスティン・ホフマンとジネマンからの指名で、脚本のリライトをノークレジットで依頼されたマンは、カリフォルニアのサクラメントにあるフォルソム州立刑務所に3か月間通いつめ、刑務所内の日常をつぶさに記録していた。その時の経験が、本作の脚本と演出に生かされたのである。

そして、そのフォルソム州立刑務所で本作の撮影も行われた。実際、刑務所内では白人・黒人・ヒスパニックの囚人グループが対立し、縄張り争いなどによる殺傷事件も日常茶飯事だった。そのため、なにか争いごとが起きたら、その時点で撮影は中止だと所長から事前に警告されていたという。そこで、監督は『ストレート・タイム』の際に親しくなった作家エドワード・バンカー(同作の原作者で元囚人でもある)と相談し、各グループから均等に囚人役のエキストラを抜擢することで、撮影中の派閥争いを防ぐことが出来たらしい。そう、全編を通して漂うリアルな緊張感は、本物の刑務所でロケされたことに加えて、本物の囚人たちが参加していたことにも理由があるのだ。

もちろん、本物のアスリートさながらに徹底して肉体を鍛え上げ、感情を押し殺して自らの運命を受け入れようとするマーフィーの、胸に秘めた哀しみや怒り、そして人間としての尊厳を力強く演じるピーター・ストラウスも素晴らしい。エミー賞で主演男優賞に輝いたのも当然だろう。その親友スタイルズには、『ポルターガイスト』('82)でレシュ博士の助手ライアンを演じていたリチャード・ローソン。相変わらず憎々し気にドクター・ディー役を演じるブライアン・デネヒーもいいし、ジェフリー・ルイスやエド・ローター、ビリー・グリーン・ブッシュと、'70年代アメリカ映画に欠かせない名脇役たちの顔ぶれも嬉しい。

なお、日本では過去にVHSで発売されたきりの本作。ヨーロッパなどでは劇場公開された地域もあったという。当時のアメリカはテレビ映画の黄金時代。どのネットワーク局も劇場用映画並みにクオリティの高い作品を次々と生み出し、スピルバーグの『激突』('71)や『サンシャイン』('73)、『ヘルター・スケルター』('76)、『ジョーイ』('77)など、日本では劇場公開されてヒットした作品も少なくない。'90年代以降は多チャンネル化の影響などにより著しくクオリティが下がり、今では日本の2時間ドラマみたいな扱われ方をしているが、最近はNetflixのオリジナル映画が、かつてのテレビ映画と似たような存在になりつつある。

アメリカでは昨年ブルーレイが発売済み。デジタル化に際しての修復作業は行われていないらしく、数か所でブチっというオリジナル・ソースに起因する音声ノイズが聞こえるものの、映像自体は極めて高画質だ。特典の少なさは惜しまれるところだが、これまで滅多に見る機会のなかった貴重な作品をHDで楽しめるのだから、あまり文句も言えまい。ただ、日本のAmazonでの取り扱いは今のところない模様なので、海外から取り寄せるしか入手方法はないだろう。

評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/スタンダードサイズ(1.33:1)/1080p/音声:2.0ch DST-HD Master Audio/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/時間:97分/発売元:Kino Lorber
特典:映画史家リー・ギャンビンによる声解説/オリジナル予告編(音声なし)



by nakachan1045 | 2019-01-09 11:21 | 映画 | Comments(0)

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