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なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「ビジル」 Vigil (1984)

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監督:ヴィンセント・ウォード
製作:ジョン・メイナード
脚本:ヴィンセント・ウォード
   グレーム・テトリー
撮影:アラン・ボリンジャー
美術:ケイ・ホーキンズ
音楽:ジャック・ボディ
出演:ペネロープ・スチュワート
   フランク・ホイッテン
   フィオナ・ケイ
   ビル・カー
   ゴードン・シールズ
ニュージーランド映画/90分/カラー作品




<あらすじ>
人里離れた丘陵地帯にポツンと建つ一軒の農家。11歳の多感な少女トス(フィオナ・ケイ)は、大好きな父親ジャスティン(ゴードン・シールズ)と母親リズ(ペネロープ・スチュワート)、そして変わり者の祖父バーディ(ビル・カー)と一緒に暮らしていた。そんなある日、羊の放牧に出かけた父親が、トスの目の前で崖から転落して死亡してしまう。たまたま近くを通った猟師イーサン(フランク・ホイッテン)が、放牧中とは知らずに羊を撃ち殺してしまい、ジャスティンがその巻き添えを食らってしまったのだ。
深い罪悪感から謝罪に訪れたイーサンを、祖父バーディは住み込みの作業員として雇う。重労働の農作業には若い男手が必要だったからだ。リズは仕方なくそれを認めるが、しかし心情的にはイーサンを歓迎することが出来ない。父親の死を受け入れられないトスもまた、よそ者のイーサンを侵入者と見なして敬遠する。
一見したところ武骨で口数の少ない謎めいた男イーサンだが、実際は真面目で心の優しい働き者だった。そんな彼にリズは少しづつ好意を寄せるようになり、トスも父親代わりとして次第に懐いていく。だが、ある日家の中を覗き込んだトスは、全裸で激しく愛し合う母親とイーサンの姿を目撃して大きなショックを受ける…。

カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に招待された、史上初のニュージーランド映画である。'90年代以降、ジェーン・カンピオンやリー・タマホリ、そしてピーター・ジャクソンなどの世界的な映画監督を生み出し、近年はハリウッド映画のロケ地としても引っ張りだこのニュージーランドだが、しかし'78年に同国初のフィルム・コミッションが創設されるまでは、ニュージーランドにおいて映画産業は存在しないに等しかった。なにしろ国内ですらニュージーランド映画の需要が少ないため、2~3年に1本の割合でしか国産映画は作られていなかったのである。

しかし、'77年に公開されたロジャー・ドナルドソン監督のポリティカル・サスペンス『テロリストたちの夜/自由への挽歌』が異例の大ヒットを記録し、ニュージーランド映画として初めてアメリカでも配給されるという快挙を成し遂げた。これを機に、政府は国産映画の制作支援と国外への売り込みに力を入れるべく、ニュージーランド・フィルム・コミッションを設立。おかげで製作本数も'81年には年間5本を超えるまでに増え、モスクワ国際映画祭に出品された『UTU/復讐』('83)など国外でも高い評価を得る作品も出てきた。そんなルネッサンス期の真っ只中にあったニュージーランド映画界において、本作が世界3大映画祭のひとつカンヌのコンペティション部門でパルムドールを競ったことは、まさしくエポックメイキングな出来事だったと言えるだろう。

舞台はニュージーランドの片田舎。森と山に囲まれた谷間の丘陵地帯に、寂れた農家がポツンと一軒だけ建っている。家の中にある電化製品といえば、古いラジオと冷蔵庫くらいのもの。訪ねてくる人も殆どない。さながら文明社会から隔絶された辺境の地である。そこで両親や祖父と暮らす11歳の少女トスは、母親の家事を手伝うよりも父親の農作業を手伝う方が好きなお転婆娘だが、しかしその父親がヒツジの放牧中に目の前で崖から転落死してしまう。大黒柱を失ってしまった一家に、働き手として雇われたのはよそ者のハンター、イーサン。ただでさえ父親の死を受け入れることが出来ず、なおかつ生まれ故郷を一歩も出たことのないトスは、見知らぬ土地からやって来たイーサンを侵入者のように警戒し、母親や祖父と親しくなっていく彼に対して強い反発心を抱く。

圧倒的なまでに神秘的で美しい映画である。ニュージーランドの豊かな大自然や荒涼とした陰鬱な天候に、思春期へと差し掛かった少女の複雑で繊細な心の揺れ動きを投影し、時として想像力豊かな少女の悪夢やファンタジーを織り交ぜながら、大人への階段を上り始めた彼女の精神的・肉体的な成長に伴う葛藤と目覚めを丹念に描き出していく。まるでドイツ表現主義を彷彿とさせる、幻想的でシンボリックなカメラワークの見事なことといったら!撮影監督は『乙女の祈り』('94)でも知られるアラン・ボリンジャー。筆者は本作をビデオレンタルで初めて見たのだが、ロードショー公開時に見逃したことをつくづく後悔したものである。やはり、この魔法のように魅惑的な映像美は映画館で堪能すべきであろう。

これが長編処女作だったヴィンセント・ウォード監督は当時まだ28歳。企画の立ち上げから完成までに実質5年もかかったらしい。中でも、理想のロケ地を探すためニュージーランド中を旅して廻ったそうで、なるほど、よくぞまあこんな神がかった異次元のような土地を見つけたもんだと感心する。よくぞ見つけたと言えば、主人公の少女トスを演じている子役フィオナ・ケイの、まるで少年のような一種独特の存在感と演技力も素晴らしい。雄大な大地のように強く逞しく、しかし同時にガラス細工のごとく繊細で傷つきやすい少女。このロケ地でなければ、この子役でなければ、恐らく本作の魅力は半減していたはずだ。

自分の世界しか知らなかった主人公が、ある出来事をきっかけに未知の世界と対峙する旅へ出る。これは本作以降もヴィンセント・ウォード作品に一貫したテーマだと言えよう。続く冒険ファンタジー『ウィザード』('88)でさらにスケールを広げ、「対蹠地(オセアニア地域)のウェルナー・ヘルツォーグ」とも呼ばれ高く評価されたウォード監督だが、しかし『エイリアン3』('92)の脚本でハリウッド進出を果たして以降は、必ずしも恵まれたキャリアを歩んでいるとは言い難い。傑作との呼び声も高いハリウッドでの初監督作『心の地図』('92)は興行的にいまひとつ振るわず、ロビン・ウィリアムスを主演に迎えた『奇跡の輝き』('98)も評判は良かったが巨額の製作費を回収できなかった。'05年には母国ニュージーランドで『ファイナル・ソルジャー』をヒットさせたが、アメリカや日本では劇場未公開に終わっている。

なお、日本ではVHS時代にレンタルビデオで発売されたきりの『ビジル』だが、アメリカとイギリスでは'18年にArrow Films社よりブルーレイが発売されている。ニュージーランド・フィルム・コミッションが出資し、ヴィンセント・ウォード監督自身が監修を手掛けたデジタル・レストア版をマスターとして使用。驚かされるのはその鮮やかな色彩だ。VHSでは少々くすんだように見えた草原や森のグリーンをはじめ、白はより白く、黒はより黒く、赤はより赤く、カラコレ作業によって濃厚な深みを増した色彩が、作品全体を包む神秘的なムードをさらに高めていると言えよう。特典映像のオリジナル予告編と比べてみても違いは歴然。その美しさに改めて息を呑む。



評価(5点満点):★★★★★

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:1.0ch リニアPCM/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:90分/発売元:Arrow Films
特典:映画評論家ニック・ロディックのインタビュー(約13分)/ニュージーランドのテレビ番組「Country Calender」のロケ現場レポート(84年制作・約14分)/ヴィンセント・ウォード監督のインタビュー(87年制作・約7分)/オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2019-01-23 02:19 | 映画 | Comments(0)

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