なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「プラデューム/悪魔の閃光魔宮」 Death Spa (1989)
監督:マイケル・フィスチャ
製作:ジェイミー・ビーズリー
脚本:ジェームズ・バートラフ
ミッチ・パラダイス
撮影:アーリッジ・アルメナキ
特殊メイク:メル・スラヴィック
美術デザイン:ロバート・シューレンバーグ
音楽:ピーター・D・ケイ
出演:ウィリアム・バミラー
ブレンダ・バーキ
ケン・フォリー
ロザリンド・キャシュ
メリット・バトリック
ロバート・リプトン
アレクサ・ハミルトン
シャリ・シャタック
チェルシー・フィールド
アメリカ映画/87分/カラー作品
<あらすじ>
ロサンゼルスで大人気の高級フィットネスクラブ「スターボディ・ヘルス・スパ」。ここは全館コンピューター制御の最新鋭システムが売りで、高額な会費にも関わらず入会希望者が殺到していた。しかしある晩、最後まで店に残って汗を流していたスタッフのローラ(ブレンダ・バーキ)が、スチームサウナの故障で全身に火傷を負ってしまう。警察が調べたところ、蒸気に塩素が含まれていたのだ。
オーナーのマイケル(ウィリアム・バミラー)は、真っ先にシステム管理担当のデヴィッド(メリット・バトリック)を疑う。デヴィッドはつい最近焼身自殺を遂げたマイケルの妻キャサリン(シャリ・シャタック)の双子の弟で、マイケルとその恋人であるローラを常日頃から逆恨みしていたのだ。
その後もスパでは不可解な事故が頻発する。プールの飛び込み台のネジが緩んで会員が転落したり、シャワーから熱湯が噴出して壁のタイルが飛び散ったり。さらには、女性スタッフが一人また一人と姿を消していく。デヴィッド一人の犯行とはとても思えず、マイケルはマネージャーのプリシラ(アレクサ・ハミルトン)や共同オーナーのトム(ロバート・リプトン)などにも疑惑の目を向けていく。
一方で朗報もあった。ローラが退院したのだ。すると、店のコンピューターをチェックしていたマイケルは、死んだキャサリンからのメッセージを受け取る。実は、キャサリンの怨霊がデヴィッドに憑依し、様々な怪現象を引き起こしていたのだ。これ以上犠牲者を出したくなければ、自殺してこちらの世界へ来いと脅迫するキャサリン。なんとかして彼女を止めようと考えるマイケルだったが…。
いや、もうね、「ザ・'80年代」ですよ。「ザ・'80年代」。派手なネオンカラーに彩られたインテリアやファッション、キッラキラにキャッチーでダンサンブルなテクノポップスが鳴り響き、ハイレグレオタードにレッグウォーマーを履いたタテガミヘアーのヤンキー姐ちゃんたちがエアロビダンスを踊りまくる。これでもかっ!てくらいコッテコテなんだけど、もはや1周も2周も回ってなんだか意外とお洒落。そんなMTV感覚のナウい80'sポップカルチャーが満載の、血沸き肉躍るC級スプラッター映画である。
舞台は時代の最先端を行くロサンゼルスの超ハイテクな高級フィットネスクラブ。なにがどう超ハイテクなのかというと、フィットネスマシンから冷暖房、プールやシャワーに至るまで、何もかもが全てコンピューターで制御・管理されているのだ(!)。ってもちろん、当時も今もそんなフィットネスクラブが存在するわけはなく、あくまでも脚本家ミッチ・パラダイスが考えついた仮想現実なのだが、本作ではそのコンピューター・システムが原因不明の暴走を始めて死者や怪我人が続出。営業妨害を目論む何者かによる人為的な犯行なのか、それともコンピューターのプログラムに欠陥があるのか。謎を追究するオーナーのマイケルは、やがて驚くべき真実に突き当たる。すべては、自殺した妻の悪霊による仕業だったのだ…!
ということで、ハイテクの暴走というSF的な題材にオカルト要素を絡めたところがミソ。いかにもC級感漂うプロットではあるものの、意外にも作品そのものは真面目にちゃんと作られている。'60年代にブロードウェイ・ミュージカルのポスター・デザイナーとして活躍したロバート・シューレンバーグによる美術セットは、ポップ・アート的な前衛性すら感じられてなかなか良く出来ているし、後に『ゴースト/ニューヨークの幻』('90)や『天使にラブソングを』('92)などのメジャー映画で活躍するエリザベス・ジーグラーによるステディカム撮影にも安定感がある。スタッフはきっちりとプロの仕事をしているという印象。恐らく最大の問題は脚本だ。
荒唐無稽な設定はともかくとして、説明不足なせいで意味がよく分からない展開が少なくない。そもそも、主人公マイケルの妻キャサリンがなぜ焼身自殺したのかという説明が全くないし、百歩譲って夫を自殺へ追い込むために怨霊として甦ったことは理解できても、なぜ直接関係のない人たち(まあ、マイケルの恋人ローラを恨むのは仕方ないとして)を血祭りにあげていくのかも理解に苦しむ。クライマックスはフィットネスクラブ主催のパーティで大量殺戮が繰り広げられるわけだが、いやいや、それだけ事故が多発していたら普通は店の営業を停止するでしょ!?と突っ込まずにはいられない。
意味もなく唐突にゴア・シーンをぶち込んできたり、思わせぶりな伏線を回収しないまま放置するマイケル・フィスチャ監督の演出も稚拙な印象が否めない。ただ、ケバケバしいスタイリッシュ感や臆面もないエログロ描写、クラウディオ・シモネッティ風のオペラチックなシンセサウンドで恐怖を煽る音楽スコアの使い方などが、当時のイタリアン・ホラーを彷彿とさせる点は面白い。フィスチャ監督がオーストリア出身だからなのか、どことなくヨーロッパの香りがする。悪趣味で安っぽい特殊メイクも、ジョー・ダマートとかブルーノ・マッテイのC級スプラッター映画みたいだし。そういう意味で、個人的にはなかなか憎めない作品ではあるのだ。
さらに興味深いのは、本編にクレジットこそされていないものの、あの『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』('64)と『ヘルプ!4人はアイドル』('65)を手掛けたプロデューサー、ウォルター・シェンソンが本作に出資していることだ。本作のプロデューサーと第2班監督を兼ねるジェイミー・ビーズリーは、もともとシェンソンがプロデュースしたロバート・ドーンヘルム監督の『エコーパーク』('85)で制作マネージャーを務めていた女性で、彼女のことを気に入ったシェインソンは、プロデューサーとしての一本立ちに力を貸してくれる約束をしていたという。で、当時ちょうどホラー映画が世界的にブームだったことから、「初プロデュース作はホラーがいいんじゃないか?」とシェインソン本人が提案したらしい。ただ、彼自身はホラー映画が好みではなかったため、あえてクレジットから名前が外されたそうだ。
なお、本作は当時低予算のB級映画で頭角を現しつつあったブレンダ・バーキ、『ラスト・ボーイスカウト』('91)や『ハーレーダビッドソン&マルボロマン』('92)でブレイクする前のチェルシー・フィールドが出演していることでも要注目。元プレイメイトのシャリ・シャタックが脱がない代わりに、ブレンダ・バーキが冒頭から大胆なヌードをたっぷりと披露している。後に『キューティ・ブロンド』('01)シリーズでリース・ウィザースプーンのママ役を演じるテイン・マクルーアも、おっぱいポロリのお色気要員として登場。また、『ゾンビ』('78)でお馴染みのケン・フォリーがフィットネスクラブのトレーナー役、『地球最後の男オメガマン』('71)や『殺人者にラブ・ソングを』('72)のロザリンド・キャッシュがLAPDの女刑事役を演じているが、どちらも特別ゲスト的な扱いで出番は少ない。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ&DVD情報
ブルーレイ
カラー/ワイドスクリーン(1.78:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:87分
DVD
カラー/ワイドスクリーン(1.78:1)/音声:2.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:英語/地域コード:1/時間:87分
発売元:MPI Home Video/Gorgon Video
特典:マイケル・フィスチャ監督、製作者ジェイミー・ビーズリー、編集者マイケル・キューリーによる音声解説/メイキング・ドキュメンタリー「An Exercise in Terror」('14年制作・約56分)/オリジナル劇場予告編/ビデオ版予告編
by nakachan1045
| 2019-02-01 21:11
| 映画
|
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