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なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「パラダイム」 Prince of Darkness (1987)

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監督:ジョン・カーペンター
製作:ラリー・フランコ
脚本:マーティン・クォーターマス(ジョン・カーペンター)
撮影:ゲイリー・B・キッブ
音楽:ジョン・カーペンター
   アラン・ハワース
出演:ドナルド・プレザンス
   ジェームソン・パーカー
   ヴィクター・ウォン
   リサ・ブラント
   デニス・ダン
   スーザン・ブランチャード
   アン・ハワード
   アン・イェン
   ピーター・ジェイソン
   アリス・クーパー
アメリカ映画/102分/カラー作品




<あらすじ>
ロサンゼルスの閉ざされた古い教会。ここは16世紀にスペイン政府が創設したカトリック教会で、その秘密の地下室はヴァチカンにも影響力を持つ信徒会によって守られてきた。しかし、最後の管理者カールトン神父が急逝したことから、地元の老司祭(ドナルド・プレザンス)が初めて足を踏み入れたところ、彼はそこで緑色の液体が入った謎のシリンダーを発見する。
得体の知れない邪気を放つその液体は何なのか?なぜ長年に渡って教会の地下室で守られてきたのか?その正体を科学的に分析して解き明かすべく、老司祭は量子物理学の権威ビラック教授(ヴィクター・ウォン)に協力を仰ぐ。
老司祭から相談を受けたビラック教授は、大学の教え子であるブライアン(ジェームソン・パーカー)やキャサリン(リサ・ブラント)、ウォルター(デニス・ダン)など学生のほか、生物学や放射線学、宗教学など各分野の専門家に声をかけて調査チームを編成。教会には大量の機材が運び込まれ、次々とチームのメンバーが集まって来る。学生たちがふと外を見ると、まるでその様子を監視するかのように教会の周辺を取り囲む浮浪者たちの姿が。しかも、彼らは不気味に黙ったまま微動だにしない。
シリンダーと一緒に見つかった古文書のラテン語を翻訳したところ、どうやら緑色の液体は「闇の王子」すなわち悪魔そのものであるらしい。つまり、悪魔の正体とは有機的な物質であり、様々な理由から教会はその事実を2000年に渡って隠し続けていたのだ。やがてビラック教授と老司祭は、その悪魔を作り出した「アンチゴッド(反対神)」の存在について量子力学に基づいた仮説を立てる。
その頃、作業を終えて帰宅しようとした研究者たちが、相次いで浮浪者集団によって殺害される。それと連動するように、緑色の液体がまるで意志を持つかのごとくシリンダーから流れ出し、放射線学者スーザン(アン・ハワード)に襲い掛かる。悪魔に操られたスーザンは、次々と研究者たちに液体を浴びせて仲間を増やしていった。一方で、ビラック教授や学生たちは仮眠中に同じ夢を見る。それは、未来から送られてくる映像メッセージだった。
やがて、異変に気付いた教授や学生たちは身を守るために抵抗し立てこもる。すると、悪魔に体を乗っ取られたケリー(スーザン・ブランチャード)が、鏡の向こうの世界から自らの父親、すなわち「アンチゴッド」をこちら側へ招き入れようとするのだった…!

インディペンデントで撮った出世作『ハロウィン』('78)の記録的な大ヒットで、一躍映画界の寵児となったジョン・カーペンター監督。やがてメジャー・スタジオへと出世し、『遊星からの物体X』('82)や『スターマン/愛・宇宙はるかに』('84)、『ゴースト・ハンターズ』('86)などの娯楽大作を相次いで撮るわけだが、しかしメジャーでは十分な予算と時間を与えられる一方で、内容に関してスタジオ側からの注文や横やりも多い。そんな煩わしさに辟易したカーペンターは、たとえ低予算でも自分の作りたい映画を誰からも文句言われず作ることにする。言うなれば原点回帰。その一発目が、当時『蜘蛛女のキス』('85)や『八月の鯨』('87)などの秀作を手掛けていた独立系映画会社アライヴ・フィルムと組んだ本作『パラダイム』だった。

『遊星からの物体X』と『マウス・オブ・マッドネス』('94)に並ぶ、カーペンター監督「世紀末三部作」の第2弾にも位置付けられている本作。劇場公開時には筆者も映画館へ足を運んだのだが、いまひとつ内容が掴めなかったこともあってか、全体的に盛り上がりに欠ける地味なオカルト映画という印象だった。なにしろ、本作のテーマには量子力学と宗教学が大きく関わっており、そこをある程度まで自分の中で噛み砕いて理解しないと、カーペンターの作り上げた独特の世界観が伝わりづらい。そもそも高校時代の物理と科学の成績が万年落第スレスレで、とにかく理数系が大の苦手である筆者には少々ハードルが高いってもんだ(笑)。

そんなわけで、このたびおよそ31年ぶりに再見したのだが、なるほど確かに前半は注意深くセリフに耳を傾ける、もしくは字幕に目を凝らしていないと話についていけなくなる。それはなにも物理学や宗教学の専門用語が多いからというわけではなく、核心部分の解釈を観客に委ねる抽象的な言葉の表現が目立つからだ。反対に映画の基本プロット自体は極めて単純。ロサンゼルスの古い教会で緑色の液体が入った謎のシリンダーが発見され、老司祭の依頼で専門家と学生がその正体を科学的に分析して突き止めようとするも、地下室に閉じ込められた彼らは一人また一人と悪魔に体を乗っ取られていく。物語の構造的には『遊星からの物体X』と似ている。

面白いのは、本作における神と悪魔の解釈だ。シリンダーに入った緑色の液体の正体とは悪魔。かつて地上に存在した神は、我が子を箱に閉じ込めて闇の中へと消えたという。つまり、悪魔とは聖書や宗教画などで描かれてきたような肉体と人格を持つモンスターではなく、悪意の込められた物質であり概念であるということのようなのだ。で、その生みの親というが、もともと地球上に存在したものの姿を消した神。ということは、クライマックスで悪魔に体を乗っ取られたケリーが「父」と呼び、鏡の向こうの世界から引き寄せようとする魔物は、筆者などは昔見た時にすっかり地獄の王ルシファーか何かだと思い込んでいたのだが、どうやら神様ってことだったらしい。つまり、悪魔の親玉は神様だった(笑)。

さらに意表を突くのは、イエス・キリストが地球の外から警告にやって来た、人類とよく似た宇宙人だったということであろう。しかし、人類は彼の言葉に耳を傾けず、狂人扱いして殺してしまったため、使徒たちは人類がキリストの主張を立証できる科学力を得るまで秘密を隠し通すことにした。その秘密というのが「悪魔の親玉は神である」ということ。ん~、なるほどね。っていうことは、もともと地球上の神様も人類も邪悪な存在だったものの、イエス・キリストの布教活動によって善という概念が広く浸透したという解釈も成り立つ。要するに、人間の初期設定は悪ですよってわけだ。

で、久しぶりに本作を見ていて思い出したのが、ハマー・フィルム制作のSFホラー『火星人地球大襲撃』('67)である。これはナイジェル・ニール原作による「クォーターマス」シリーズの第3弾。ロンドンの地下鉄で発見された謎の物体と人骨を科学者が分析したところ、悪魔の正体が太古に地球へ飛来した火星人だったこと、その火星人の優性遺伝子を移植されたことで人類は高度な知性を得たこと、しかしそれゆえに邪悪な本能が植え付けられて戦争や諍いを繰り返してしまうことなどが明らかとなり、やがて火星人の「怨霊」が現代に甦ってロンドンをパニックに陥れる。そう、本作のストーリーと共通点がかなり多いのだ。

実際、カーペンター監督自身も本作がナイジェル・ニールに多大な影響を受けていると語っており、その作品の主人公であるクォーターマス博士の名前を脚本のペンネームに使用している。『パラダイム』では主人公たちが睡眠中に未来からの映像メッセージを脳波で受信するが、逆に『火星人地球大襲撃』ではテレキネシスによって遺伝子に刻まれた過去からのメッセージを映像化する。これまたよく似た設定だ。本作はカーペンター監督による作家ナイジェル・ニールへのオマージュ、という側面も備わっている。そう考えると、いわゆる「世紀末三部作」なるものの共通点もおのずと見えてくるだろう。

ただ、本作は『火星人地球大襲撃』と違ってロサンゼルスがパニックに陥るようなことはない。まあ、そこまで大風呂敷を広げるべきだったかどうかは疑問だが、結果的に小ぢんまりとした映画になったことは確かである。そこは好き嫌いないし賛否が分かれるところだろう。個人的には、少なくとも改めて見直すと、それで正解だったように思える。そもそも『火星人地球大襲撃』は、科学的な論理性をすっ飛ばしたせいで荒唐無稽な設定に真実味を与えられなかった。本作では逆にその科学的論理に重きを置くことによって、よくよく考えると荒唐無稽で無茶苦茶な設定に説得力を持たせ、ある種のロマンすら感じさせる壮大で深遠な世界観を構築している。ゆえに、見る人を選ぶ作品でもあるのだが。

カーペンター作品の常連でもあるドナルド・プレザンスがまた素晴らしい。前作『ゴースト・ハンターズ』に引き続いてのヴィクター・ウォンも見事な存在感だ。この老優2人の矍鑠たる熱演が作品に風格を与えていることは間違いないだろう。実質的な主演に当たるジェームソン・パーカーがいまいちパッとしないのが惜しまれるところだが、しかし'80年代ホラーには欠かせない美女リサ・ブラント、軽妙洒脱な芝居で群像ドラマにリズミカルなアクセントを加えるデニス・ダンなど、脇を固める若手たちは魅力的だ。また、ハードロック界の奇才アリス・クーパー率いる浮浪者軍団の薄気味悪さも格別。'80年代ホラーにしてはショッキングな血みどろスプラッターの少ない映画だが、いやいや、彼らの存在だけで十分に怖い。

ちなみに、鏡の世界の描写はジャン・コクトーの『オルフェ』('49)を参考にしており、悪魔化したケリーが鏡に手を入れるシーンの撮影では、水槽に溜めた水銀を鏡に見立てて使用している。特殊メイクで腕全体が覆われているとはいえ、これはかなり危険な撮影だったと言えよう。また、舞台となる古い教会はダウンタウンのリトルトーキョーに今も存在する日系のカトリック教会。画面をよーく見ると、教会の隣には「TOKYO COLLECTION」という看板を掲げたブティックが確認できる。現在はカルチャー・センターとして運営されており、定期的に演劇やコンサートが上演されているそうだ。ただし、地下室のロケに使用されたのは、ロングビーチにあった古いホテルの廃墟。ここは当時、映画やテレビの撮影場所として頻繁に利用されていたらしい。

なお、本作は日本でもすでにブルーレイ化されているが、筆者は昨年11月にイギリスで発売された4Kレストア版ブルーレイを所有。本編の超高画質・高音質もさることながら、2枚組にたっぷりと収録された特典映像の数々が嬉しい。価格もかなりお手頃なので、リージョンフリーの再生機を所有されているファンであれば、手に入れておいて損は絶対にないはずだ。

評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ仕様(イギリス盤2枚組)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:5.1ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:B/時間:102分/発売元:Studiocanal
特典:ジョン・カーペンター監督と俳優ピーター・ジェイソンによる音声解説/メイキング・ドキュメンタリー「Malevolent: Unearthing John Carpenter's Prince of Darkness」('18年制作・約34分)/ジョン・カーペンター監督インタビュー「Sympathy for the Devil」('18年制作・約10分)/ロケ地再訪ドキュメンタリー「Horror's Hallowed Grounds with Sean Clark」('15年制作・約14分)/ジョン・カーペンター監督によるイントロダクション(’07年制作・約7分)/ジョン・カーペンター監督によるシーン解析('07年制作・約3分)/オリジナル劇場予告編/撮影舞台裏写真を含むフォト・ギャラリー/ラジオスポット集



by nakachan1045 | 2019-02-09 15:41 | 映画 | Comments(0)

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