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なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「愛の嗚咽」 A Bill of Divorcement (1932)

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監督:ジョージ・キューカー
製作総指揮:デヴィッド・O・セルズニク
戯曲:クラレンス・デイン
脚本:ハワード・イースタブルック
   ハリー・ワグスタッフ・グリブル
撮影:シド・ヒコックス
音楽監督:マックス・スタイナー
出演:ジョン・バリモア
   ビリー・バーク
   キャサリン・ヘプバーン
   デヴィッド・マナーズ
   エリザベス・パターソン
   ポール・カヴァナー
   ヘンリー・スティーブンソン
   ゲイル・エヴァーズ
アメリカ映画/69分/モノクロ作品




<あらすじ>
イギリスのとある上流家庭。マーガレット(ビリー・バーク)の夫ヒラリー・フェアフィールド(ジョン・バリモア)は高名な作曲家だったが、第一次世界大戦で従軍した際に戦争後遺症を患い、15年前に精神病院へ入院したまま今も治療を受けている。女手一つで育てた17歳の娘シドニー(キャサリン・ヘプバーン)が恋人キット(デヴィッド・マナーズ)と婚約した今、母親のマーガレットもまた彼女を支え続けた男性グレイ(ポール・カヴァナー)との再婚を控えていた。というのも、新たな法律によって精神病を理由とした離婚が可能となり、子育てが終わって自分の幸せを考えた彼女は、ヒラリーとの離婚手続きが認められ晴れて独身となったのだ。
クリスマスの朝、マーガレットが婚約者グレイと一緒に教会へ出かけると、留守番をしていたシドニーは父親ヒラリーが精神病院を脱走したとの連絡を受ける。実はすでに彼の症状は改善していたのだが、退院を待ちきれずに外へ飛び出してしまったらしい。精神病が完治するなどと思いもよらなかったシドニーは驚くが、父方の叔母ヘスター(エリザベス・パターソン)は過去に同じような例が親戚にあったと語る。つまり、シドニーの精神病は遺伝である可能性があったのだ。そのことを初めて知ったシドニーは、さらにショックを受けるのだった。
しばらくすると、玄関の扉が開いて一人の男が入って来る。紛れもない父親ヒラリーだった。もの心のつく前に離れ離れとなった父との再会に感極まるシドニー。失われた時間を取り戻すかのように多くの言葉を交わす父と娘。シドニーは自分が父親とよく似ていることに気付く。彼は決して頭がおかしいわけじゃない。普通の人よりも繊細で感受性が豊かなだけなのだ。しかし、この15年間の出来事を全く知らない彼に、母親の再婚話をどう打ち明けていいのか彼女には分からなかった。
帰宅したマーガレットはヒラリーの姿を発見して大きな衝撃を受ける。もう彼のことは愛していない。妻としての義務も十分に果たしてきた。しかし、正気を取り戻した彼を見捨てて再婚するのはあまりにも酷だ。思い悩むマーガレット。両親がそれぞれ幸せになってほしいと願うシドニーは、考え抜いた末にある決断を下すのだった…。

アカデミー主演女優賞に史上最多の4度輝く大女優キャサリン・ヘプバーンの映画デビュー作である。父親がドクターで母親がウーマンリブ活動家という、インテリかつリベラルな恵まれた家庭に育ち、ブロードウェイの正統な舞台女優として頭角を現したヘプバーン。当時のハリウッドでは、トーキーの普及によって多くのサイレント映画スターが職を失う一方、きちんとセリフが喋れて真っ当な芝居のできる人材が求められたことから、ジェームズ・キャグニーやベティ・デイヴィスなどの舞台俳優が、ブロードウェイから映画界へとスカウトされた。ヘプバーンもその一人だったのである。

舞台はイギリスのとある上流家庭。15年前に著名な作曲家の夫ヒラリーが精神病で入院し、女手一つで愛娘シドニーを育ててきた女性マーガレットは、その間に自分を支えてくれた男性グレイとの再婚を考える。夫はもう死んだも同然の存在。娘も17歳になってフィアンセとの結婚を控えているし、そろそろ私も自分自身の幸せを掴んでもいい頃合いじゃないかしら?というわけだ。

ちょうど、イギリスでは法改正で配偶者の精神病が離婚理由として認められることになった。思い切って離婚手続きを申請して認められたマーガレット。ところが、そんな折に突然、ヒラリーが無断で家に戻って来る。すっかり病気が完治した彼は、一刻でも早く家族に会いたいからと、退院手続きも済ませぬまま病院を飛び出してしまったのだ。もはや愛情がないとはいえ、彼には自分くらいしか頼れる人がいない。そのうえ、長い病院生活で孤独や苦痛を味わってきた彼は、ようやく家族と一緒に暮らせるとの喜びでいっぱいだ。そんな元夫を見捨てて自分だけ再婚して幸せになっていいのだろうか?マーガレットは深く苦悩する。

一方、もの心つくまえに父親と離れ離れになってしまったシドニーは、半ば諦めかけていた親子の再会に感極まるものの、同時に父親の精神病が遺伝によるものかもしれないという事実を知って動揺する。しかも、父親のことを知れば知るほど自分と性格がよく似ていることに気付く。どちらも繊細で感受性の豊かな自由人。それだけに傷つきやすく壊れやすい。そんな父親のことを愛さずにはいられないし、もちろん母親にだって幸せになって欲しい。悩みに悩み抜いた彼女は、これ以外に最善の策はないと考え、ある重大な決断を下すことになる。

もともとはイギリスの女流劇作家クレメンス・デインが'21年に発表した舞台劇。実際、当時のイギリスでは精神病を離婚理由に認める法改正が行われ、そこから本作のアイディアが生まれたのだという。ストーリーの根幹をなすのは「家族の在り方」と「精神病への理解」なのだが、なにしろ今から90年近くも前の映画、原作に至っては100年近くも前の舞台劇ゆえ、いろいろな意味で時代に色あせてしまった作品であることは否定できないだろう。特に、「精神病の遺伝性」というセンシティブな問題の取り扱いには疑問の余地があり、それゆえ終盤でシドニーが決断する選択には、21世紀の価値観においては少なからず納得しがたいものがある。

監督は女性映画の名匠と呼ばれたジョージ・キューカーだが、この頃はまだ監督として一本立ちをしてから間もなく、いかにも舞台劇的な演出は映画ならではの面白みに欠けると言わざるを得ない。とはいえ、「俳優(特に女優)から最高の演技を引き出す」ことに定評のあった人だけに、その点では早くも才能を遺憾なく発揮していると言えるだろう。ジョン・バリモアにビリー・バーク、そしてキャサリン・ヘプバーンという、いずれ劣らぬ伝説的な名優たちの真に迫った熱演は、思わずスクリーンに目が釘付けになるほどの迫力だ。

中でも白眉なのは、やはり当時25歳の才気ほとばしるヘプバーンの、誇り高く力強い存在感と感情のほとばしる表現力である。「アメリカで最も偉大な悲劇役者」と呼ばれたバリモアと堂々と渡り合い、まったく引けを取ることがないのは立派だ。本作が11年ぶりの映画復帰となった、ブロードウェイの名花ビリー・バークの情感溢れる芝居も深い味わいがあり、バリモアとヘプバーンのともすると過剰になりかねない大熱演を上手いこと中和している。見事なアンサンブルと言えるだろう。

ヘプバーンのカメラテスト映像を見て惚れ込み、製作者デヴィッド・O・セルズニクの反対を押し切って彼女を起用したというキューカー監督。本作で互いに友情と信頼を深めあった2人は、その後10本の作品でコンビを組み、『素晴らしき休日』('38)や『フィラデルフィア物語』('40)、『アダム氏とマダム』('48)など不朽の名作を生み出すことになる。文字通りこれが原点。そういう意味でも、映画ファンなら1度は見ておきたい作品だ。

評価(5点満点):★★★☆☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/時間:69分/発売元:Kino Lorber
特典:RKO作品予告編集



by nakachan1045 | 2019-02-11 13:17 | 映画 | Comments(0)

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