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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「呪われた女」 Leonor (1975)

「呪われた女」 Leonor  (1975)_f0367483_13400638.jpg
監督:フアン・ルイス・ブニュエル
製作:ミシェル・ピッコリ
原作:ルートヴィヒ・ティーク
脚本:フアン・ルイス・ブニュエル
   ロベルト・ボデガス
   ベルナルディーノ・ザッポーニ
撮影:ルチアーノ・トヴォリ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:リヴ・ウルマン
   ミシェル・ピッコリ
   オルネラ・ムーティ
   アントニオ・フェランディス
   ホセ・マリア・プラダ
   アンヘル・デル・ポーゾ
   ホセ・ガルディオーラ
   ホルヘ・リゴー(ジョルジュ・リゴー)
   ホセ・マリア・カファレル
   カルメン・マウラ
スペイン・フランス・イタリア合作/99分/カラー作品




<あらすじ>
中世ヨーロッパ。とある地方の領主リチャード(ミシェル・ピッコリ)の美しき妻レオノーア(リヴ・ウルマン)が、落馬事故で意識不明の重体に陥る。最愛の女性を救うため、自ら危険を冒して遠方から医者を連れてきたリチャードだったが、その甲斐もなくレオノーアは息を引き取ってしまった。
妻の亡骸を霊廟に運んで入り口を封印したリチャードは、悲しみを忘れるため学者(ジョルジュ・リゴー)の娘キャサリン(オルネラ・ムーティ)とすぐさま再婚する。やがて10年の歳月が経ち、キャサリンとの間に2人の息子をもうけたリチャードだったが、それでもなおレオノーアのことを忘れることができず、霊廟の封印を解いて棺のそばで酒に酔いつぶれるばかりだった。
そんなある日、リチャードは橋のたもとで不気味な浮浪者(ホセ・マリア・プラダ)と出会う。その正体は悪魔だった。レオノーア恋しさのあまり悪魔と取引をするリチャード。すると、目の前で愛するレオノーアが甦る。リチャードはキャサリンを殺害して死体を井戸に棄て、レオノーアを後妻として迎えるのだった。
やがて、近隣の村では幼い子供たちが次々と殺される。犯人はレオノーアだった。彼女は少年少女の血を吸って生きながらえる怪物と化していたのだ。その事実に気付いた村人たちはレオノーアを殺そうとするが、リチャードは命懸けで彼女を守り村人たちを斬り捨てる。
しかし、噂はたちまち広まり、リチャードの腹心トーマス(アントニオ・フェランディス)をはじめ、召使たちはことごとく城から去ってしまう。それでもなおレオノーアの忌まわしい正体を認めたがらなかったリチャードだが、目の前で息子たちを食い殺されて初めて己の過ちに気付く。自分はレオノーアを愛し過ぎてしまったのだと…。

スペインの生んだ世界的巨匠ルイス・ブニュエルの長男フアン・ルイス・ブニュエル。長年父親の助監督を務めたのち、オカルト映画『悪霊の家』('73)で長編劇映画の監督としてデビューするのだが、なかなかヒットに恵まれなかったうえ、映画作家として評価をされることも殆どなかった。結局、手がけた劇場用映画はたったの4本で、主にテレビの演出家として食いつないだ。日本では『赤いブーツの女』('74)が唯一映画館で上映されているが、これとて父ブニュエルの傑作『哀しみのトリスターナ』('70)の主演コンビ、カトリーヌ・ドヌーヴとフェルナンド・レイの顔合わせという話題性のおかげであろう。

そもそも、有名な映画監督の子女が同じ職業で成功した例は極めて少なく、せいぜいソフィア・コッポラかランベルト・バーヴァ、デラン・サラフィアンくらい(まあ、賛否はあると思うけれど)しか思い浮かばない。ダニー・ヒューストンも最初のうちは注目されたが今や俳優が本業だし、トム・マンキーウィッツも脚本家としては有能だったが映画監督としては全くダメだった。リチャード・フライシャーの父親はアニメ監督だしね。最近だとパノス・コスマトスに期待がかかるが、まだまだこれからだ。いずれにせよ二世監督の道は極めて厳しい。

で、『悪霊の家』と『赤いブーツの女』に続く、ブニュエル・ジュニアの長編劇映画第3弾となった本作。基本的には古典的なヴァンパイア映画である。物語の舞台は14~15世紀あたりの南ヨーロッパであろうか。とある田舎の領主リチャードは亡き先妻レオノーアを忘れることができず、悪魔と取引をして彼女をこの世に蘇らせるのだが、生き返った美しいレオノーアは幼い少年少女を毒牙にかける恐ろしい吸血鬼だった…というわけだ。

原作はドイツのロマン主義作家ルートヴィヒ・ティークが1800年に発表した、世界最古のヴァンパイア小説と呼ばれる短編『死者よ目覚めるなかれ』。映画ではだいぶシンプルにストーリーを換骨奪胎しており、特にクライマックスの展開はほぼ別物と呼んでいいくらいに改変されているが、失われた愛への過剰な執着が結果的に悲劇を招くというギリシャ神話的な教訓めいたテーマは同じだ。また、ヒロインの名前レオノーアは、吸血鬼文学の源流の一つとされるゴットフリード・ビュルガーの同名バラッドに由来しているものと思われる。

息子ブニュエルのアプローチは、シュールリアリスティックな実験映画の趣き。正統派のゴシック・ホラーを期待すると大きく裏切られるだろう。そこが実は彼の弱点の一つだったとも考えられる。どういうことかというと、配給会社的にはマーケティングが非常に難しいのである。今であれば「アートハウス系ホラー」というジャンルも商売として十分に成立するし、現にそうした作品も少なくないと思うが、まだまだ「ホラー=B級ゲテモノ」というイメージの強かった'70年代当時において、本作のような芸術志向の強い怪奇幻想映画を配給網に乗せることは至難の業だったはずだ。

実際、本作もアメリカでは「Mistress of the Devil(悪魔の愛人)」というタイトルのもと、当時千葉真一の『殺人兼』シリーズやジョン・ウォーターズ作品を全米配給していたニューライン・シネマが、『エクソシスト』ブームに乗ったオカルト映画として売り出したものの見事にコケている。そりゃそうだろう。宣伝に釣られてオカルト映画かと思って見に行ったら、ヌードはちょこっとあるとはいえ、肝心の恐怖シーンも血みどろシーンも皆無の小難しい芸術映画だったんだから(笑)。

息子ブニュエルの好む題材は一貫してエクスプロイテーション映画的だが、しかし彼の作家性は紛れもなく父親の影響を受けたシュールリアリズム。また、その父ブニュエルを崇拝するアレハンドロ・ホドロフスキーやフェルナンド・アラバルが始めた芸術運動「パニック・ムーブメント」に相通ずるものもある。本作などはまさにその好例と言えるだろう。ただ、前作『赤いブーツの女』もそうなのだが、父親の影がチラつきすぎて模倣に見えてしまうことは否めず、彼自身のオリジナリティはあまり感じられない。やはり最大の弱点はそこであろう。

撮影はスペインで行われたようだが、スタッフにはイタリア人が多く参加している。脚本にはフェリーニ映画でおなじみのベルナルディーノ・ザッポーニ。撮影はアルジェントの『サスペリア』('77)や『シャドー』('82)のルチアーノ・トヴォリ。カメラマンは同じくアルジェントの『インフェルノ』('80)と『フェノミナ』('85)で撮影監督を手掛けるロマノ・アルバーニだ。そして、音楽スコアは巨匠エンニオ・モリコーネが担当。このとてつもなく美しく幻想的なメロディは、彼の代表作の一つに数えられるほど素晴らしい。なお、画面クレジットには出てこないものの、父ブニュエルのコラボレーターとして有名なジャン=クロード・カリエールも脚本に携わっていたらしい。

ちなみに、リヴ・ウルマンにミシェル・ピッコリ、オルネラ・ムーティと国際的なキャストを揃えた本作。当時20歳だったムーティの輝かんばかりの美しさもさることながら、ベルイマン映画とは一味違ったウルマンのミステリアスな艶めかしさは意外な見どころだ。まあ、それでもミシェル・ピッコリがムーティを邪険にして殺してしまう展開は納得しがたいが、ん~、やはり南欧ではブロンドが珍しいからなのかな(笑)?あと、若かりし頃のカルメン・マウラが陽気な下女役として顔を出しているのも映画ファンなら要注目だろう。

評価(5点満点):★★★☆☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー作品/ワイドスクリーン(米国公開版1.66:1/インターナショナル版1.78:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語・スペイン語/字幕:英語/地域コード:A/時間:85分(米国公開版)・99分(インターナショナル版)/発売元:Scorpion Releasing
特典:映画史家トロイ・ハワースによる音声解説



by nakachan1045 | 2019-02-12 10:43 | 映画 | Comments(0)

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