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なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「失われた地平線」 Lost Horizon (1973)

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監督:チャールズ・ジャロット
製作:ロス・ハンター
原作:ジェームズ・ヒルトン
脚本:ラリー・クレイマー
撮影:ロバート・サーティース
衣装デザイン:ジャン・ルイ
振付:ハーミズ・パン
音楽:バート・バカラック
歌詞:ハル・デヴィッド
出演:ピーター・フィンチ
   リヴ・ウルマン
   サリー・ケラーマン
   ジョージ・ケネディ
   マイケル・ヨーク
   オリヴィア・ハッセー
   ボビー・ヴァン
   ジェームズ・繁田
   シャルル・ボワイエ
   ジョン・ギールグッド
   ケント・スミス
   ジョン・ヴァン・ドリーレン
アメリカ映画/149分/カラー作品




<あらすじ>
革命の動乱に揺れるアジア某国。国連親善大使リチャード・コンウェイ(ピーター・フィンチ)は、現地政府と革命軍の和平交渉に当たったが決裂し、なんとか飛行機で外国人住民たちを香港へ逃がす。残されたのはリチャードと新聞記者の弟ジョージ(マイケル・ヨーク)、報道写真家サリー(サリー・ケラーマン)、エンジニアのサム(ジョージ・ケネディ)、そしてドサ周りの芸人ハリー(ボビー・ヴァン)の5人。辛うじて脱出に成功した彼らだったが、飛行機が何者かによってハイジャックされ、雪深いヒマラヤ山中に不時着してしまう。
正体不明のパイロットは衝撃で死亡。途方に暮れる5人だったが、そこへラマ僧チャン(ジョン・ギールグッド)率いるチベット人の一団が通りがかり、彼らの居住地へ案内されることになる。到着した場所は、外界から遮断された秘密の楽園シャングリラ。そこは1年を通して温暖な気候で草花が咲き乱れ、人々は自給自足で争いのない平和な生活を送っている。そのおかげで誰もが健康で長生きだという。電気や水道・ガスなどの現代文明とは無縁だが、衣食住は等しく行き渡っており、住民は音楽や読書を楽しんで余暇を過ごしていた。
この戦争や貧困などの苦しみとは無縁の理想郷に、リチャードたちはすっかり魅了される。小学校の美しい女教師キャサリン(リヴ・ウルマン)に一目で惹かれたリチャード、同じくうら若い舞姫マリア(オリヴィア・ハッセー)と恋に落ちたジョージ。紛争地の取材で世界の醜さに辟易していたサリーは、ラマ僧トーレン(ジェームズ・繁田)に教え諭され心の平安を得る。かつて世界的なエンジニアだったサムは、自らの技術をシャングリラの人々に無償で提供することに生きがいを感じる。また、売れない芸人のハリーはすっかり子供たちの人気者となり、愛されることの喜びを噛み締めた。
ある日、リチャードは隠居した高僧(シャルル・ボワイエ)と面会し、シャングリラの成り立ちを教わる。それは1747年のこと。ベルギーのペロー神父が西洋人として初めてこの地を訪れ、現地の人々と共に理想郷シャングリラを建設した。その目的は、争いや憎しみで世界の文明が滅び去ったのち、残された人類を教え導くこと。そのリーダーとして相応しい人物がリチャードだというのだ。そのときリチャードは、飛行機のハイジャックを計画したのがこの高僧であること、そして彼こそがペロー神父その人だと気付く。
リチャードは余命幾ばくもない高僧の遺志を継ぐ決意を固める。そのほかの人々もシャングリラに残るつもりだった。ただ一人、ジョージだけを除いて。どうしても文明社会へ戻りたいジョージは、マリアを連れてシャングリラを去るつもりだった。しかし、チャンが警告する。若く見えるマリアだが、実は100歳を超えている。外の世界へ出たとたん、老いて死んでしまうはずだと…。

史上サイテー映画の一つとして、たびたび名前が挙がるミュージカル映画である。実際、劇場公開時の評価はボロクソ。ロジャー・エバートやポーリン・ケイルといった大御所評論家たちからこき下ろされ、ウディ・アレンには本作を見たことが「人生最大の失敗」などと揶揄された。当時は封切に先駆けてテレビ特番が組まれ、ピエール・カルダンなどの企業と提携した関連グッズも次々に販売されるなど、宣伝にも相当な予算を割いたらしいのだが、結果的に5100万ドルという空前の大赤字を出してしまう。おかげで大物製作者ロス・ハンターは映画界でのキャリアを絶たれてしまった。

'60年代半ば以降、『サウンド・オブ・ミュージック』('65)の大ヒットに誘発され、ハリウッドでは巨額の製作費を注ぎ込んだ大型ミュージカルが次々と作られたが、やはり興行的に失敗してしまったものも少なくない。『ハロー・ドーリー!』('69)然り、『スイート・チャリティ』('69)然り、『ラ・マンチャの男』('72)然り。中でも桁違いの失敗作が本作だった。当時、ハリウッド業界では「Lost Horizon(失われた地平線)」ならぬ「Lost Investment(失われた投資)」などと皮肉られたそうだ。

ただ、劇場公開から40年以上を経た今見直すと、いやいや、それほど酷い映画でもないんじゃない?というのが正直な感想だ。贅の限りを尽くした大掛かりな美術セットや煌びやかな衣装、オールスターを揃えた豪華なキャストなど、いかにもロス・ハンターらしい風格あるハリウッド・ミュージカル大作。『心のともしび』('54)や『悲しみは空の彼方に』('59)など一連のダグラス・サーク監督によるメロドラマ群で一時代を築き、その後はドリス・デイ主演のロマンティック・コメディでヒットを連発、『大空港』('70)ではパニック映画ブームの先陣を切った。たとえ映画界がニューシネマの時代に突入しても、「私の作る映画にリアリズムは不要」と断言し、一貫して古き良き「ハリウッド黄金期」の伝統にこだわり続けたラスト・タイクーン。そんなロス・ハンターの個性と趣味が全面に出た作品と言えるだろう。

逆に言うと、それゆえに公開時は総スカンを食らった…というより、笑いものにされたとも考えられる。確かに、'70年代の映画にしては古臭さく見えることは否めない。美術デザインは『巴里のアメリカ人』('51)や『恋の手ほどき』('58)などMGMミュージカルを支えたプレストン・エイムズ、衣装デザインはリタ・ヘイワースの専属デザイナーだったことで有名なジャン・ルイ、そしてミュージカル・シーンの振付はフレッド・アステアの専属振付師だったハーミズ・パン。主要スタッフの多くが、良く言えば「ハリウッドの伝説」、悪く言えば「ハリウッドの化石」みたいな人々である。それゆえ、いろいろな面でセンスの古さが垣間見えてしまうのだ。

それでもなお、'70年代初頭のフラワームーブメントをだいぶ意識していることは一目瞭然。そもそも、戦争や貧困とは無縁な理想郷シャングリラを描いた物語は、ジェームズ・ヒルトンの原作本が出版され、フランク・キャプラ監督による最初の映画化が公開された、第二次世界大戦の不穏な足音が近づく'30年代と同様、ベトナム反戦運動が盛り上がるラブ&ピースな'70年代前半に相応しいと言えよう。根源的なテーマに関わる東洋思想も、当時のヒッピー・カルチャーとの相性抜群である。

しかし、『恋する女たち』('69)でオスカー候補になったラリー・クレイマーの脚本は、普遍的な人類愛を謳う作品のテーマを深く掘り下げようとはせず、大ベテランのおじさんスタッフたちが頑張って時代のトレンドを取り入れようとした美術・衣装・ダンスは、フラワーパワーの先鋭性とエネルギーの欠けた、派手だが空虚な紛い物になってしまった。英国歴史劇『1000日のアン』('69)や『クイン・メリー/愛と悲しみの生涯』('71)で高く評価されたチャールズ・ジャロット監督の演出にも個性がない。

また、これが初の本格ミュージカル映画となった、バート・バカラック&ハル・デヴィッドによる楽曲も全体的に弱い。ディオンヌ・ワーウィックやカーペンターズなどの大ヒット曲を次々と生んだ名コンビだが、本作に取り掛かった当時はすでに折り合いが悪くなっており、実際これを最後にコンビを解消してしまった。そのせいなのだろうか、どのミュージカル・ナンバーも決して悪くはないのだが、しかしどうもいまひとつ決定打に欠ける。映画を見終わた後も口ずさんでしまうような楽曲がないのだ。

それは製作者のロス・ハンターも感じていたらしく、「届けられた音楽はお粗末な代物だったが、その時点で既にプリプロダクションがだいぶ進行していたため、私らには手の打ちようがなかった」と後に語っている。また、バカラック本人も自分の音楽に満足しておらず、アフレコで何とか改良しようとしたらしいのだが、邪魔者扱いされダビングルームから締め出されたという。だからなのか、彼は後に自身のソロ・アルバムで本作の楽曲を録音し直している。

さらに、メインキャストの歌声が吹き替え処理されているのもマイナスポイントだ。実際に本人が歌っているのは、もともと歌手としてデビューしたサリー・ケラーマン、ミュージカルの経験も豊富な美声の持ち主ジェームズ・繁田、ブロードウェイのミュージカル俳優だったボビー・ヴァンの3人だけ。オリヴィア・ハッセーは吹替え担当の歌手アンドラ・ウィリスと声質が似ているので違和感ないが、ピーター・フィンチの歌声を担当したセッション歌手ジェリー・ホイットマンは明らかに声が若く、一聴しただけで別人であることがバレバレ。リヴ・ウルマンの吹き替えをしたダイアナ・リーも、セリフを喋る本人の声と聴き比べると、英語の発音がまるで違うため不自然に感じる。役者の歌声を本職の歌手が吹き替えること自体は悪くないのだが、もうちょっと整合性を取れなかったものかとは思う。

とまあ、なんだか辛口な批評になってしまったが、冒頭でも述べた通り、今改めて見ると、確かにミュージカル映画として抜きんでた作品ではないものの、しかしことさら目くじらを立てるほどの駄作ではない。むしろ、王道的ハリウッド・ミュージカルと'70年代的トレンドカルチャーの奇妙な融合は、ある種のキッチュな魅力を醸し出して面白い。

ちなみに、日本ではこれまで一度もビデオソフト化されたことがなく、アメリカ本国でも'90年代に一度LD化されただけだった本作。'11年にようやく米盤DVDがオンデマンドで発売され、その翌年、ソニー・ピクチャーズから版権を借りた米トワイライト・タイム社が3000枚限定プレスのブルーレイをリリースした。HDリマスターされた画質はまずまず。恐らくレストア作業まではされていないのだろう。フィルムのグレインや退色が若干目立つ部分もあるものの、全体的には鮮やかでクリアな印象だ。5.1chサラウンドにリミックスされたオーディオ・トラックも悪くない。劇場公開時のプロモーション用メイキング映像など、特典もそれなりに充実している。

評価(5点満点):★★★☆☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)※3000枚限定プレス
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:5.1ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:149分/発売元:Twilight Time/Columbia Pictures
特典:メイキング・ドキュメンタリー「Ross Hunter: On the Way to Shangri-La」('73年制作・約10分)/オリジナル劇場予告編/テレビスポット(2種類)/未公開シーン/バート・バカラックによる楽曲デモ・バージョン集(約24分)/音楽トラック独立再生機能



by nakachan1045 | 2019-03-15 09:38 | 映画 | Comments(0)

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