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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「若草の頃」Mee Me in St. Louis (1944)

「若草の頃」Mee Me in St. Louis (1944)_f0367483_19404264.jpg
監督:ヴィンセント・ミネリ
製作:アーサー・フリード
原作:サリー・ベンソン
脚本:アーヴィング・ブレッチャー
   フレッド・F・フィンクルホフ
撮影:ジョージ・フォルシー
衣装:アイリーン・シャラフ
楽曲:ヒュー・マーティン
   ラルフ・ブレイン
出演:ジュディ・ガーランド
   マーガレット・オブライエン
   メアリー・アスター
   ルシール・ブレマー
   レオン・エイムズ
   トム・ドレイク
   マージョリー・メイン
   ハリー・ダヴェンポート
   ジューン・ロックハート
   ヘンリー・H・ダニエルズ・ジュニア
   ジョーン・キャロル
   チル・ウィルズ
アメリカ映画/113分/カラー作品




<あらすじ>
時は1903年、場所はアメリカ南部有数の都市セント・ルイス。万国博覧会の開催を翌年に控えた夏休み、町全体が賑やかに活気づいている。そこに暮らすのが裕福な中産階級のスミス一家だ。厳しくも優しい弁護士の父親スミス氏(レオン・エイムズ)と、愛情溢れる母親アンナ(メアリー・アスター)には、5人の子供たちがいる。美人と評判の長女ローズ(ルシール・ブレマー)は恋人との結婚を意識する年頃、恋に恋する乙女の次女エスター(ジュディ・ガーランド)は隣家に引っ越してきた若者ジョン(トム・ドレイク)にお熱だ。三女アグネス(ジョーン・キャロル)はお転婆のはねっかえり娘、末っ子の四女トゥーティ(マーガレット・オブライエン)は可愛い盛りで一家のアイドル。高校生の長男アロンソ・ジュニア(ヘンリー・H・ダニエルズ・ジュニア)がガールズパワーに押され気味だ。
やがてハロウィンの季節がやって来る。悪ふざけの罰が当たって怪我をしたトゥーティは、ついついジョンに虐められたと嘘をついてしまい、それを真に受けたエスターが仕返しに隣家へ乗り込んでいく。すぐに誤解は解け、これを機にエスターとジョンの仲は急接近する。そろそろ冬が近づいてきたある日、父親の転勤でスミス家はニューヨークへ引っ越すことが決まる。スミス氏にとっては待ち望んだ出世のチャンスだ。しかし、住み慣れたセント・ルイスの町に愛着が深いアンナや子供たちは猛反対。学業や恋愛の計画もすっかり台無しだ。なにより、楽しみにしていた万博に行けなくなってしまう。
そしてクリスマス・イヴの夜。これがセント・ルイスで迎える最後のクリスマスかもしれない。そんな複雑な気持ちで舞踏会へ出かけたエスターとローズだったが、そこから思いがけない出来事が次々と起きていく…。

『オズの魔法使』('39)、『スタア誕生』('54)と並ぶ、大女優ジュディ・ガーランドの代表作である。筆者にとっても、数あるMGMミュージカルの中でも最も好きな作品のひとつ。テクニカラーの鮮やかな色彩で再現される、20世紀初頭のアメリカ社会のなんと豊かで美しいこと!もちろん、それが美化された一面的な過去の記憶に過ぎないことは百も承知だが、しかしそれにしたって、古い絵葉書のイラストをそのまま映像化したような、優雅でノスタルジックな世界観の夢見心地は筆舌に尽くしがたいものがある。これぞ、誰もが憧れる古き良きアメリカ。もはや、この世には存在しない懐かしき理想郷だ。

物語そのものは誠にたわいない。舞台は1903年のセントルイス。万国博覧会の開催を翌年に控え、人々の活気にあふれたこの町に、仲睦まじい家族が住んでいる。恵まれた中流階級のスミス一家だ。本作はジュディ・ガーランド演じる溌溂とした次女エスターを中心に、故郷セントルイスをこよなく愛するスミス一家と隣人たちの、賑やかで幸せな日常を四季の移り変わりとともに丹念に描いていく。隣家の少年との淡い初恋、年頃の姉ローズの結婚問題、ヤンチャな妹たちのいたずらに晴れやかな舞踏会。大事件といえば、父親のニューヨーク転勤が決まったことくらいか。住み慣れたセントルイスを離れたくないと、まるでこの世の終わりのように嘆き悲しむ家族。いやはや、なんとも平和である。

原作は'41年から'42年にかけて、雑誌「ザ・ニューヨーカー」に連載されたサリー・ベンソンの短編小説シリーズ。セントルイスに生まれ育ったベンソンの、幼少期の自らの家族をモデルにした半自伝的な作品だ。本作の製作当時は第二次世界大戦の真っただ中。アメリカ社会全体が重苦しい空気に包まれる中、古き良き幸福な時代を郷愁たっぷりに振り返る本作は、戦時下の暗い日常を忘れさせてくれる現実逃避映画として作られたのである。

『オズの魔法使』の少女ドロシー役のイメージをようやく脱却し、当時22歳の実年齢に相応しい役を演じるようになっていたジュディは、本作のティーンエージャー役にあまり乗り気ではなかったそうだが、しかし結果としては大正解。これをきっかけにジュディと結婚したヴィンセント・ミネリ監督は、ソフト・フォーカスを駆使することで10代の少女らしい瑞々しさと煌めきを引き出しており、恐らくジュディをこれだけ美しく撮った作品は他にないだろう。ちなみに、原作者ベンソンがモデルとなったのはジュディ演じるエスターではなく、マーガレット・オブライエン演じる末っ子トゥーティだ。

しかし何よりも特筆すべきは、20世紀初頭のアメリカ南部に暮らす人々のささやかな生活の営みを、まるで古いアルバムをめくるように描いていくミネリ監督の情感に溢れる演出だ。もちろん、テクニカラーの色彩を存分に活かした撮影監督ジョージ・フォルシーの、うっとりとするほど美しい絵画的なビジュアルも見事。また、今とは全く違うハロウィンの風習やセントルイスの街中を走る路面電車、アイスクリーム売りに家庭用のガス灯などなど、今から100年以上前のアメリカ庶民の風俗を現代に伝える作品としても見どころはいっぱいだ。

さらに、今やクリスマスの定番ソングとなった「Have Yourself a Little Merry Christmas」を筆頭に、「The Trolley Song」や「Meet Me in St.Louis」などのミュージカル・ナンバーも素晴らしい。一番の見どころはやはり、ジュディ・ガーランドとマーガレット・オブライエンによる「Under th Bamboo Tree」だろうか。当時天才子役として名を馳せたマーガレットの、なんと可愛らしいこと!クリスマス・イヴの夜に泣きながら雪だるまを壊すシーンの演技も、ビックリするくらい真に迫っており、先輩のジュディを完全に食ってしまっている。

父親はレオン・エイムズで母親がメアリ・アスター。この2人は5年後の『若草物語』('49)でも、マーガレットの両親役を演じている。'20~'30年代のトップスターだったメアリーは、この当時はすっかり理想のお母さん役でお馴染みだった。そのほか、脇役を固めるのはマージョリー・メインやハリー・ダヴェンポート、チル・ウィルズなど、MGM専属の名バイプレイヤーたち。長女ローズ役のルシール・ブレマーは、本作の製作者アーサー・フリードがニューヨークの高級ナイトクラブでスカウトした秘蔵っ子で、これが本格的な映画デビュー作という大抜擢だったが、その後はパッとせず早くに引退してしまった。そのローズのライバル、ルシール役のジューン・ロックハートは、映画『名犬ラッシー』シリーズやテレビ『宇宙家族ロビンソン』のお母さん役として有名になる。

なお、日本では今のところDVDでのリリースだけだが、海外ではワーナーがリマスター版のブルーレイを発売中。これが非の打ちどころのないくらいの高画質で、テレビモニターから飛び出してくるような色彩の鮮やかさに驚かされる。5.0chにリミックスされた音声トラックも、不自然なサラウンド感など全くなく、むしろ厚みのあるサウンドでミュージカル・ナンバーを楽しむことが出来る。特典内容は、日本でも発売されている2枚組DVDと一緒。'60年代に制作されたテレビドラマ版のパイロット・エピソードが興味深い。

評価(5点満点):★★★★★



参考ブルーレイ情報(イギリス盤)
カラー/スタンダードサイズ(1.37:1)/1080p/音声:5.0ch DTS-HD Master Audio・2.0ch Dolby Digital/言語:英語・フランス語・スペイン語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:ALL/113分/発売元:Warner Home Video
特典:ライザ・ミネリによるイントロダクション('04年制作・約5分)/ジュディ・ガーランド伝記著者ジョン・フリックと女優マーガレット・オブライエン、脚本家アーヴィング・ブレッチャーらによる音声解説/メイキング・ドキュメンタリー「Meet Me in St.Louis: The Making of an American Classic」('04年制作・約31分)/ドキュメンタリー「Hollywood: The Dream Factory」('72年制作・約50分)/ドキュメンタリー「Becoming Attractoins: Judy Garland」('96年制作・約46分)/テレビ「Meet Me in St.Louis」パイロット版('66年制作・約26分)/ジュディ・ガーランド出演短編映画「Bubbles」('30年制作・約8分)/短編ミュージカル「Skip to My Lou」('41年制作・約3分)/未発表曲音源集/ラジオ・ドラマ版/オリジナル劇場予告編/音声トラック独立再生機能



by nakachan1045 | 2019-06-09 07:33 | 映画 | Comments(0)

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