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なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「街の野獣」 Night and the City (1950)

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監督:ジュールズ・ダッシン
製作:サミュエル・G・エンゲル
原作:ジェラルド・カーシュ
脚本:ジョー・アイシンガー
撮影:マックス・グリーン
音楽:フランツ・ワックスマン(米国公開版)
   ベンジャミン・フランケル(英国公開版)
出演:リチャード・ウィドマーク
   ジーン・ティアニー
   グーギー・ウィザース
   ヒュー・マーロウ
   フランシス・L・サリヴァン
   ハーバート・ロム
   スタニスラウス・ズビスコ
   マイク・マズーキ
   チャールズ・ファレル
   エイダ・リーヴ
   ケン・リッチモンド
アメリカ映画/96分(米国公開版)101分(英国公開版)/モノクロ作品




<あらすじ>
ロンドンの猥雑な下町ソーホー。アメリカ人のチンピラ、ハリー・ファビアン(リチャード・ウィドマーク)はケチな軽犯罪で生計を立てつつ、いつかビッグになってやるという夢を抱いている。しかし、手を出したビジネスはことごとく失敗し、そのたびにクラブ歌手の恋人メアリー(ジーン・ティアニー)に尻拭いをさせてきた。
そんなある日、たまたまプロレスの試合を観戦したハリーは、イギリスのプロレス界を牛耳る大物興行主クリスト(ハーバート・ロム)の父親グレゴリウス(スタニスラウス・ズビスコ)を見かける。伝説的なプロレスラーであるグレゴリウスは、息子が興行する見世物まがいのプロレスに激怒。その様子を見てひらめいたハリーは、偶然を装ってグレゴリウスとその愛弟子ニコラス(ケン・リッチモンド)に接近する。そして、口八丁手八丁でグレゴリウスを手懐けた彼は、新たなプロレス興行団体を立ち上げることになる。
しかし、ハリーには先立つ金がない。ナイトクラブのオーナー、フィル(フランシス・L・サリヴァン)に借金を申し出るハリーだったが、にべもなく断られてしまう。なぜなら、プロレス興行は実質的にクリストの独占市場。新たな団体が立ち入る隙などないからだ。それでも食い下がらないハリーに、フィルは必要な資金400ポンドの半分を自前で用意出来たら、残りの半分を出資してやろうと申し出る。
不可能だと分かっての提案だったが、そこへ助け舟を出したのがフィルの妻ヘレン(グーギー・ウィザース)だ。彼女は新しいナイトクラブの営業許可証を手に入れることを条件に、ハリーに200ポンドを提供する。夫の束縛に嫌気がさしていたヘレンは、彼と別れて自分の店を持とうと計画していたのだ。抜け目のないフィルは妻とハリーが結託していることに気付くが、それでも約束通りに残りの200ポンドを差し出す。なぜなら、クリストを敵に回した人間に未来はない。フィルはハリーに協力するふりをして、彼を破滅させようと企んでいたのだ。
そうとは知らず、千載一遇のチャンス到来に目を輝かせるハリーだったが、案の定クリストから団体の解散を迫られる。ところが、グレゴリウスがハリーのパートナーだと知ったクリストは、愛する父親のため渋々ながらもハリーの団体を認める。これはフィルにとって計算外だった。そこで彼は資金提供を打ち切るとハリーを脅し、それ嫌ならニコラスの対戦相手に人気レスラー、ザ・ストラングラー(マイク・マズーキ)を起用するよう迫る。
だが、グレゴリウスとザ・ストラングラーは犬猿の仲。対面した両者はすぐにいがみ合い、格闘の末にグレゴリウスが心臓発作で亡くなってしまう。これに激怒したクリストはハリーの抹殺を部下に指示。夜のロンドンを必死で逃げ回るハリーだったが…。

巨匠ジュールズ・ダッシンが、赤狩りでハリウッドを追放される直前に発表したフィルムノワール映画である。功名心と金銭欲だけは人一倍のケチなチンピラが、人生の一発逆転を賭けた大勝負に出たまでは良かったが、しかしその軽率さと愚かさゆえ真っ逆さまに転落の道を辿っていく。大都会ロンドンの掃きだめを舞台にした悲惨で破滅的なストーリー、息つく暇もないほどスピーディでスリリングなダッシン監督の演出、そして撮影監督マックス・グリーンの映し出すダークファンタジーのごとき悪夢的なイメージの数々。フィルムノワール史上屈指の紛うことなき傑作と言えるだろう。

出世作『真昼の暴動』('47)で高く評価され、アカデミー賞2部門に輝く『裸の町』('48)でノワール映画の第一人者となったジュールズ・ダッシン監督。しかし、かつてアメリカ共産党のメンバーだった彼は、そのせいで下院非米活動委員会(HUAC)に目を付けられてブラックリスト入りしてしまう。20世紀フォックス社長ダリル・F・ザナックはダッシン監督の強力な味方だったが、しかし大勢の株主に対して責任のあるメジャースタジオとしては政治的な圧力に屈せざるを得ない。まだ確定する前のブラックリストにダッシン監督の名前が挙がっていることを知ったザナックは、自らのオフィスに彼を呼び出してその事実を伝えたうえで、最後にもう一本だけ好きな映画を自由に撮るチャンスを約束する。それが『街の野獣』だった。

しかし、現実問題として時間的な余裕がない。いつ何時、HUACから撮影ストップを命じられるか分からないからだ。そこでダッシン監督は、アメリカ当局の目を避けるためロンドンでの全編ロケを決断する。要するに、国外でこっそり撮影しようというわけだ。さらにザナックのアドバイスによって、コストのかかる重要なシーンから撮影を始めることで、制作進行全体のスピードアップと効率化を図った。ジェラルド・カーシュの小説を基にした脚本も、カリフォルニアからロンドンへ向かう飛行機の中でジョー・アイシンガーと打ち合わせ、ロンドン到着後すぐにアイシンガーが書き上げたそうだ。

ロンドンではスコットランドヤードの警察官パーシー・ホプキンスの協力を得て、ソーホー近辺のロケ地を足早に確保していったという。セットを組んでいる時間がないため、一部を除いて大半がロケーション撮影。時には許可なしのゲリラ撮影も敢行した。ダッシン監督としては、『裸の町』でのニューヨーク・ロケの実績が大いに役立ったはずだ。こうして撮影は順調に進められていったが、それでも途中でダッシン監督のブラックリスト入りが確定したため、彼はハリウッドでの編集作業や音楽スコアの録音には立ち会うことが許されなかった。そこでダッシン監督は、ロンドンからの国際電話で編集担当者に直接指示を出したという。『裸の町』でスタジオ側に自らの意図と異なる編集をされた苦い経験のある彼は、なんとしてでも自分の希望通りに仕上げたかったのである。

ただし、実は本作のイギリス公開に際して、20世紀フォックスはダッシン監督に無断で再編集を行っている。最大の違いは音楽スコア。アメリカ版ではフランツ・ワックスマンによるサスペンスフルな音楽が使用されているが、一方のイギリス版ではベンジャミン・フランケルの渋めな落ち着いた音楽に差し替えられている。ちなみに、アメリカ盤は96分、イギリス版は101分。およそ5分の違いがあるわけだが、しかし単純に5分のフッテージを追加したわけではない。

アメリカ版には存在するがイギリス版には存在しないシーン、逆にイギリス版には存在するがアメリカ版には存在しないシーンがあるほか、アメリカ版でダッシン監督が却下した別テイクをイギリス版では使用していたり、アメリカ版では丹念に描かれているシーンがイギリス版では短くカットされていたりする。このイギリス版の存在をダッシン監督が知ったのは、劇場公開より10年近くも経ってからだったとのこと。なぜザナックがイギリス市場向けに再編集を行ったのか、今となっては誰も分からないのだそうだ。

いずれにせよ、3か月という短期間で撮影を終えたとは思えぬほど見事な映画に仕上がった『街の野獣』。主人公はロンドンの貧しい下町ソーホーに住むアメリカ人のチンピラ、ハリー・ファビアン(リチャード・ウィドマーク)である。なぜ彼がイギリスで暮らしているのか、もとは平凡な堅気の青年だったという彼がなぜ裏社会に足を踏み入れたのか、劇中では具体的な説明が殆どされないものの、どうやら挫折に挫折を重ねた末に現状へ流れ着いたらしい。

なので、一言でいえば劣等感の塊。言うことや態度はデカいが気は小さく、口が上手くて人懐っこいけれど猜疑心が強く、裏社会での顔は広いが友達は一人もいない。夢はビッグになって自分をバカにした連中を見返してやること。しかし、コツコツと真面目に努力するつもりなど全くなく、楽して稼ぐことしか考えていない。そのうえ、まるで子供みたいに単純なもんだから、いとも簡単に眉唾な儲け話に乗っかってはいつも失敗している(イギリス公開版では具体例が幾つか登場)。それでも全く懲りる様子のないハリーは、場末のナイトクラブの客引きとして観光客をカモにしたり、詐欺やスリなどの軽犯罪で生計を立てつつ、虎視眈々と一獲千金のチャンスを狙っていたのである。

で、そんな山師そのもののダメ男ハリーが新たにひらめいたのは、プロレス興行でガッツリ儲けること。だが、プロレス業界はヤクザな大物興行主クリスト(ハーバート・ロム)が牛耳る独占市場。確かに新規参入すれば大金を稼げるチャンスはあるかもしれないが、その代わりクリストを敵に回してしまうことになる。非常に危険な賭けだ。しかし、ハリーにはとっておきの秘密兵器があった。クリストの父親グレゴリウス(スタニスラウス・ズビスコ)である。

往年の大物プロレスラーであるグレゴリウスは、息子クリストが興行する見世物的なプロレスを邪道だとして忌み嫌っていた。そこに目を付けたハリーは、正統派のプロレス団体を立ち上げようとの口実で、グレゴリウスをビジネス・パートナーに引き入れたのである。これなら、さすがのクリストも邪魔は出来まい。なにしろ、彼は父親を誰よりも敬愛しているのだから。

だが、ハリーにはビジネスの元手となる現金がなかった。ナイトクラブのボス、フィル(フランシス・L・サリヴァン)に借金を願い出るものの、当然ながら一笑に付されてしまう。そりゃそうだ、どう考えたって上手くいきっこない。素人のチンピラがいきなりプロレス団体を立ち上げて、しかも暴力団組織の独占市場に殴り込みをかけようってんだから。しかし、こんなデカいヤマは滅多にない!やるならどう考えたって今でしょ!いよいよ俺にもツキが回ってきたか!?と、すっかり有頂天になって状況を冷静に判断できないハリーは、フィルの妻ヘレン(グーギー・ウィザース)と結託して、まんまとフィルからの出資金を引き出す。束縛の強い夫に愛想を尽かしたヘレンは、フィルと袂を分かってハリーと組み、自分の店を持とうと考えていたのだ。

しかし、実のところフィルは妻とハリーがグルであることに気付いていた。黙って出資金を提供したのは、あえてハリーにプロレス団体を立ち上げさせ、激怒したクリストに叩き潰してもらうため。自らの手を汚さず復讐しようという算段だ。それまで調子こいてブイブイいわせていたハリーだが、ここからが悪夢のような転落の始まり。浅はかな考えと行動が次々と裏目に出てしまい、最後は組織から命を狙われてロンドン中を逃げまどうことになる。決して根っからの悪人ではないため、その悲惨な末路はなんとも哀れを誘う。

金にも頭脳にも運にも恵まれない最底辺のクズ男が、身の丈に合わない野心を持ったせいで自滅をする。だが、彼のような凡人に豊かな生活を夢見る権利はないのだろうか。確かにやり方は愚かで軽率で向こう見ずにもほどがあるものの、しかし学歴もコネもないハリーのような男にとって、貧乏から抜け出すには一発逆転の大勝負に出るほか術はなかったのではないか。ラスト、珍しく晴れ渡った港の空に昇る鮮やかな朝日を眺めながら、自らのクソみたいな負け犬人生を振り返って涙するハリーの姿が切ない。

そのハリー役を演じるリチャード・ウィドマークが圧巻!何もかもが思い立ったら吉日、行動力はずば抜けているけれど、まるでこらえ性のない単細胞。新たな儲け話に食いつくたび、目をキラキラさせながら大喜びする姿は、野獣というよりは無邪気なヤンチャ坊主だ。このなんとも憎めないチンピラの暴走と破滅を、凄まじい気迫と悲哀で演じ切るウィドマークには最後の最後まで目が離せない。そんな彼を突き放したり見捨てたりすることが出来ず、どれだけ傷つけられ失望させられても助けてしまう恋人メアリー役のジーン・ティアニーも、少ない出番ながら深い印象を残す。

年下の美人妻ヘレンを繋ぎ止めようと執着するクラブオーナーのフィルを演じるフランシス・L・サリヴァン、そんな夫の束縛に耐え切れなくなった野心家のヘレンを演じるグーギー・ウィザース、冷酷非情なヤクザでありながら父親グレゴリウスを尊敬してやまない大物興行主クリスト役のハーバート・ロム、人畜無害なように見えて実は意外と狡猾な花売りの老婆モリー役のエイダ・リーヴなど英国映画界の名優たちが脇を固め、喧騒にまみれたロンドン下町の生々しい人間ドラマを紡いでいく。ただ、メアリーに想いを寄せる売れない芸術家アダム(演じるはフォックスの専属俳優ヒュー・マーロウ)は、いまひとつ立ち位置が不明瞭でストーリー的な必然性があまり感じられない。

なお、グレゴリウス役のスタニスラウス・ズビスコは世界ヘビー級チャンピオンに2度輝く20世紀初頭の有名なプロレスラー、その弟子ニコラス役のケン・リッチモンドもオリンピックで銅メダルを獲得した男前な一流レスラー。宿敵ザ・ストラングラー役のマイク・マズーキはギャング映画の悪役として有名だが、彼もまたもともとはニューヨークのプロレスラーだった。

日本ではアメリカ公開版のみがDVD化されている本作だが、アメリカやイギリスでは2バージョンを収めたブルーレイが発売済み。筆者が所有するイギリス盤ブルーレイは、アメリカ公開バージョンを4Kレストア版で、イギリス公開バージョンを2Kレストア版で収録している。全体的にナイトシーンの多い作品ではあるが、真っ暗闇の格闘場面でもちゃんと何が起きているのか見て取れるのは、さすが4Kレストア版ならではだと感心させられる。晩年のリチャード・ウィドマークが自らの長いキャリアを振り返る、1時間以上にも及ぶロングインタビューも嬉しい。

評価(5点満点):★★★★★



参考ブルーレイ情報(イギリス盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ(1.33:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:英語/字幕:英語/地域コード:B/時間96分(アメリカ公開版)101分(イギリス公開版)/発売元:British Film Institute/20th Century Fox
特典:フィルムノワール専門家ポール・ダンカンによる音声解説(アメリカ公開版)/映画専門家エイドリアン・マーティンによる音声解説(イギリス公開版)/リチャード・ウィドマークのインタビュー('02年制作・約72分)/ジュールズ・ダッシン監督の音声インタビュー('81年制作・約52分)/オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2019-07-14 05:47 | 映画 | Comments(0)

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