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なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「ザ・サイキック」 Sette note in nero (1977)

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監督:ルチオ・フルチ
製作:フランコ・クッチ
脚本:ルチオ・フルチ
   ロベルト・ジャンヴィーティ
   ダルダノ・サケッティ
撮影:セルジョ・サルヴァーティ
特殊メイク:マウリツィオ・ジュスティーニ
音楽:フランコ・ビクシオ
   ファビオ・フリッツィ
   ヴィンチェ・テンペラ
出演:ジェニファー・オニール
   ガブリエル・フェルゼッティ
   マルク・ポレル
   ジャンニ・ガルコ
   イヴリン・スチュワート(イーダ・ガリ)
   ジェニー・タンブリ
   ファブリツィオ・ヨヴィーネ
   ファウスタ・アヴェリ
   エリザベス・ターナー
イタリア映画/97分/カラー作品




<あらすじ>
1959年、イタリアのフィレンツェに住んでいた少女ヴァージニア(ファウスタ・アヴェリ)は、遠く離れたイギリスのドーバー海峡で母親(エリザベス・ターナー)が投身自殺する様子を透視してしまう。それから18年後、イタリアの裕福な実業家フランチェスコ(ジャンニ・ガルコ)と結婚したヴァージニア(ジェニファー・オニール)は、ロンドンへ出張する夫を見送った帰り道、奇妙な幻覚に襲われてしまう。
それは、血みどろになった中年女性の死体、暗闇から姿を現す足を引きずった中年紳士、割れた鏡、壁に大きな穴の開いた赤い部屋、黄色いタクシーなど、断片的なイメージの羅列に過ぎなかったが、しかしヴァージニアは何か恐ろしい事件を透視してしまったことを直感する。すぐに彼女は超心理学者の友人ルカ(マルク・ポレル)に相談するものの、当然ながら真剣に取り合ってはもらえなかった。
夫の留守中に古い別荘を改装しようと考えていたヴァージニア。初めて屋敷へ足を踏み入れた彼女は、かつて夫の寝室だったという部屋が、幻覚の中に出てきた部屋と同じであることに気付く。ふと見ると、壁に穴をふさいだような跡がある。その部分を壊すと、中から白骨化した遺体が出てきた。果たして、やはりあの血みどろの中年女性なのか?ところが、警察が検視をした結果、遺体は25歳くらいの若い女性であることが判明する。
何かが少しだけ、透視したものとは違っていた。被害者の死亡推定時期は'72年の1月から6月にかけて。やがて、その身元が夫フランチェスコの元恋人であると分かり、ロンドンから帰国した彼は警察に逮捕されてしまう。しかし、義姉グロリア(イーダ・ガリ)によれば、被害女性の死亡推定時期にフランチェスコは渡米しており、その際に彼女が弟の部屋を模様替えしたという。つまり、ヴァージニアが透視した殺人現場の様子は、夫がアメリカへ渡った後で起きた可能性が高いのだ。
夫の無実を証明するため、ルカの協力を得ながら透視イメージの謎を紐解いていくヴァージニア。やがて、幻覚の中に出てきた裕福な中年紳士ロスピーニ(ガブリエル・フェルゼッティ)の存在が浮上する。彼こそが真犯人だと考えるヴァージニア。ところが、謎のパズルを繋ぎ合わせていくうち、彼女は幻覚で透視したイメージが過去に起きたことではなく、むしろこれから起きる出来事を示唆していることに気付き始める…。

イタリア産ゾンビ映画の巨匠ルチオ・フルチが手掛けたジャッロの佳作である。もともと、コメディから西部劇、ミュージカルに歴史劇と、様々なジャンルを幅広く網羅する娯楽職人だったフルチ。ジャッロの世界にも結構早い段階から足を踏み入れている。最初の作品がジャン・ソレルとマリーザ・メルを主演に迎えた『Una sull'altra』('69・日本未公開)。さらに『幻想殺人』('71)と『マッキラー』('72)が続き、フルチにとって4本目のジャッロ映画となったのが、この『ザ・サイキック』だった。

まずは、透視能力に端を発するオカルト的なプロットが面白い。ヒロインはイタリア在住の英国人女性ヴァージニア(ジェニファー・オニール)。まだ幼かった頃、突然幻覚に襲われた彼女は、遠く離れたイギリスにいる母親の自殺現場を透視してしまう。それから18年後、裕福な実業家フランチェスコ(ジャンニ・ガルコ)と結婚した彼女は、再び幻覚に襲われて殺人現場の様子を透視する。殺されたのは見知らぬ老婆。犯人の姿はよく見えない。そして、実際に犯行現場から白骨死体が発見される。ところが犠牲者は若い女性で、幻覚に出てきた老婆はまだ生きていた。これは何を意味するのか?透視した断片的なイメージを繋ぎ合わせながら、友人の超心理学者ルカ(マルク・ポレル)と共に謎を探り始めたヴァージニアは、やがて恐るべき真相に気付き始める。幻覚に出てきたイメージの数々は、彼女自身が殺される未来を警告する予知夢だったのだ…!

基本プロットにご都合主義的な要素が全くないとは言わないが、しかし透視イメージによって散りばめられたヒントの数々が、ストーリーの進むに従ってちゃんと意味を成していく脚本の構成は見事なもの。数多のジャッロ映画とは一線を画す完成度の高さだ。いかにも'70年代後半的なソフトフォーカスは個人的に好みではないものの、それでもシンボリックなロングショットを多用したカメラワークは実にスタイリッシュで、ビジュアリストとしてのフルチの優れた才能を垣間見ることができる。ディテールの行き届いた美術セットや、ブルガリやフェンディなどの高級ブランドを配したジェニファー・オニールの衣装、北イタリアとイギリスで撮影されたゴージャスなロケーションなど、作品全体にも堂々たる風格が漂う。この頃までのフルチ作品は、後の安上がりなB級映画群と違って、それなりに潤沢な予算が用意されていたのである。

実は、本作の企画が立ち上がったのは'74年のこと。もともとはヴィエリ・ラッジーニの書いたミステリー小説「Terapia mortale(死のセラピー)」の映画化となる予定で、フルチと長年の盟友ロベルト・ジャンヴィーティが共同で脚色に取り掛かった。ところが、この原作小説があまり映画向きとは言えなかったそうで、半年以上経っても執筆は一向に進まなかったという。そこで、頭を悩ませた製作者アウレリオ・デ・ラウレンティス(ディノ・デ・ラウレンティスの甥っ子)が白羽の矢を立てたのが、新進気鋭の脚本家として頭角を現していた若手ダルダノ・サケッティ。特に、彼がダリオ・アルジェントの『わたしは目撃者』('70)の脚本を書いていたことが最大の理由だったそうだ。当時のアルジェントといえばイタリア映画界の寵児。その人気に少しでもあやかろうという目算もあったらしい。ゴブリン風の音楽スコアを筆頭に、本作の随所で『サスペリアPART2』('75)を彷彿とさせる要素が見受けられるのもそのためだ。

かくして、父親世代の大ベテランと組むことになったサケッティ。ところが、後輩アルジェントに激しいライバル心を燃やしていた当時のフルチは、その「仲間」であるサケッティに対しても敵意を露わにしたそうで、2人の間には言い争いが絶えなかったという。また、上下関係などのしきたりを重んじる、フルチとジャンヴィーティの旧世代的な仕事のやり方もサケッティには不満だった。そのうえ、ラッジーニの原作小説は彼の手にかかっても脚色が難しい。1カ月で初稿を書き上げたサケッティだったが、案の定アウレリオ・デ・ラウンレティスからは却下されてしまった。煮詰まった彼はフルチと相談の上、全く新しいオリジナル・ストーリーに着手する。それがこの『ザ・サイキック』だった。ラッジーニの小説から残された要素は超心理学者ルカのキャラクターのみ。それゆえ、完成した本編には原作のクレジットはない。

ところが、このオリジナル脚本を巡ってデ・ラウレンティスとの仲がこじれてしまった。まあ、仕方あるまい。向こうとしてみれば、期待していた中身と全く違うものが出来上がったのだから。そこでフルチとサケッティは、大物製作者アンジェロ・リッツォーリの経営する映画会社チネコンパニーに脚本を持ち込んだところ、これをリッツォーリがいたく気に入り、すぐにゴーサインが出たという。結局、企画のスタートから撮影に入るまで、実に2年の歳月がかかったというわけだ。

そして、脚本の執筆中は激しく対立したフルチとサケッティだが、その一方でフルチはプロとしてサケッティの才能を高く買ったらしく、以降もサケッティは『サンゲリア』('79)や『地獄の門』('80)、『ビヨンド』('81)などに参加し、合計で8本の映画でタッグを組むことになる。それでもなお、お互いを友と呼べるようになったのはフルチの晩年に至ってのことだったというのだから興味深い。

なお、先述した通りアルジェントの『サスペリアPART2』の影響が少なくない本作だが、フルチの自作『マッキラー』を彷彿とさせる要素も散見される。崖から身投げした人間の顔面が岩にクラッシュして崩壊する描写はそのまんま(『マッキラー』の方が出来は良い)だし、ルカ役のマルク・ポレルや別荘管理人役のヴィト・パッセーリなど一部のキャストも被っている。また、予知夢をカギにして殺人事件の謎を紐解いていくというプロットは、後の『マーダロック』('85)でも再び使用されている。ちなみに、本作の翌年アメリカでも、フェイ・ダナウェイ主演の『アイズ』('78)という、同じように透視能力を持つ女性が殺人犯に命を狙われるジャッロ風のスリラー映画が作られた。

主演は名作『おもいでの夏』('72)で一躍スターダムを駆け上がり、当時はイタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコンティの遺作『イノセント』('76)に出演したばかりだったハリウッド女優ジェニファー・オニール。友人ルカ役のマルク・ポレルは、そのヴィスコンティがアラン・ドロンやヘルムート・バーガーに続く美青年スターとして、『ルードウィヒ/神々の黄昏』('72)から育てていた俳優で、ジェニファーとは『イノセント』に続く再共演となった。確かにポレルはアラン・ドロンと顔つきがよく似ており、『シシリアン』('69)や『ビッグガン』('73)ではドロンとも共演している。ただ、ヘロイン中毒でせっかくのキャリアを台無しにしてしまい、34歳の若さで病死してしまったのは残念だった。

謎のカギを握る中年紳士ロスピーニを演じているのは、アントニオーニの『情事』('60)で有名なイタリアの大スター、ガブリエル・フェルゼッティ。サルタナ・シリーズなどのマカロニ西部劇でお馴染みのジャンニ・ガルコが、ヴァージニアの夫フランチェスコとして登場する。マカロニ西部劇の名物女優イヴリン・スチュワートことイーダ・ガリが、フランチェスコのビッチな姉グロリアを演じているのも面白い。そういえば彼女もヴィスコンティの『山猫』('63)に出ていたっけ。ルカの若い助手ブルーナ役には、当時ソフト・ポルノで活躍していた人気セクシー女優ジェニー・タンブリ。幼少期のヴァージニア役にはニコレッタ・エルミと並ぶ赤毛の子役女優ファウスタ・アヴェリ、母親役には『デアボリカ』('74)や『地獄の謝肉祭』('80)の女優エリザベス・ターナーと、イタリアン・ホラー映画のファンには嬉しい顔ぶれも揃う。また、警察コミッショナー役で登場するファブリツィオ・ヨヴィーネは、後にフルチの『地獄の門』で地獄の門を開くトーマス神父役を演じている。

ちなみに、本作のファンであることを公言しているクエンティン・タランティーノ監督は、かつてブリジット・フォンダ主演でリメイクを企画したものの、資金が集まらなかったこともあって頓挫。その代わり、『キル・ビル Vol.1』('03)で本作の音楽スコアの一部が使用されている。

過去に幾度となくソフト化されてきた本作だが、アメリカでは'19年初頭に一部オンライン通販サイト専用の限定プレス版ブルーレイが発売され、その半年後に一般流通向けの廉価版ブルーレイが再リリースされた。本編は'18年にイタリアでオリジナルのカメラネガから2Kスキャンされたデジタルマスターを使用。アメリカで独自にカラコレと音声修復を施したという。部分的に小さな傷やシミは見受けられるものの、全体的にはきめ細やかで滑らかな高画質。音声トラックも概ねクリアで、若干のヒスノイズも殆ど気にならない。

評価(5点満点):★★★★☆



参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語・イタリア語/字幕:英語/地域コード:A/時間:97分/発売元:Scorpion Releasing
特典:映画史家トロイ・ハワースによる音声解説/脚本家ダルダノ・サケッティのインタビュー('18年制作・約50分)/スチル・ギャラリー/オリジナル予告編集



by nakachan1045 | 2019-08-13 00:18 | 映画 | Comments(0)

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