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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「戦慄!2Aの女」 La casa della paura (1974)

「戦慄!2Aの女」 La casa della paura  (1974)_f0367483_18491876.jpg
監督:ウィリアム・ローズ
製作:ディック・ランドール
脚本:ウィリアム・ローズ
   ジャンフランコ・バルダネッロ(イタリア語版)
撮影:マリオ・マンチーニ
   ジョルジオ・モンタニャーニ
音楽:ベルト・ピサーニ
出演:ダニエラ・ジョルダーノ
   アンジェロ・インファンティ
   ジョン・スカンロン
   ロサルバ・ネリ
   ブラッド・ハリス
   カリン・シューベルト
   フランク・ラティモア
   ジョヴァンナ・ガレッティ
特別出演:ラフ・ヴァローネ
イタリア映画/85分/カラー作品




「戦慄!2Aの女」 La casa della paura  (1974)_f0367483_17552125.jpg
<あらすじ>
マリファナ所持の誤認逮捕で警察に2週間に拘留されていた若い女性マーガレット(ダニエラ・ジョルダーノ)は、心機一転のため都会を離れて静かな田舎町で暮らしたいと考え、ソーシャルワーカーのアリシア(ロサルバ・ネリ)の紹介でグラント未亡人(ジョヴァンナ・ガレッティ)の邸宅に部屋を借りることとなる。しかし、グラント夫人もその息子フランク(アンジェロ・インファンティ)も一見したところ過剰に親切だが、しかし彼女が無実の罪で逮捕されたという事実を全く信じようとはせず、罪を悔い改めるよう無言で責められているようで居心地が悪い。
また、住むことになった2A号室の床には血のように真っ赤なシミがついており、それも薄気味悪く感じられる。そのせいか、夜な夜な真っ赤なマスクを被ったマント姿の人物が出てくる悪夢を見るようになった。さらに、警察署を出た時から彼女の後をついてきた中年男性ドリーズ氏(ラフ・ヴァローネ)が、グラント家に出入りしていることを知って屋敷を出ていこうと決意する。
そんな折、マーガレットの前に2A号室に住んでいた女性イーディの兄ジャック(ジョン・スカンロン)が彼女を訪ねてくる。変死体で発見されたイーディは、自殺として警察に処理されたのだが、どうしても信じられないジャックは独自に死因を調べていたのだ。ジャックに同情したマーガレットは調査に力を貸すことを約束する。やがて、2A号室を借りていた女性たちがことごとく行方をくらましていることが発覚。彼女たちの共通点は、何らかの事情で警察に逮捕された過去があることだった…。

※以下のレビューには一部ネタバレが含まれます。
「戦慄!2Aの女」 La casa della paura  (1974)_f0367483_17553096.jpg
'60年代末からイタリアを拠点に数多くの低予算B級映画を製作し、『ブラッド・ピーセス/悪魔のチェーンソー』('83)や『クリスマスまで開けないで/サンタクロース殺人事件』('84)などの悪趣味ホラーを世に送り出した、アメリカ出身の名物プロデューサー、ディック・ランドールの手掛けた猟奇サスペンスである。しばしばジャッロ映画として語られることが多く、実際に数々のジャッロ研究本でも取り上げられてきたが、しかし実際の印象としてはイーライ・ロス監督作『ホステル』('05)の系譜に属する作品。言うなれば、トーチャー・ポルノのご先祖様みたいな映画と言えるだろう。
「戦慄!2Aの女」 La casa della paura  (1974)_f0367483_17553830.jpg
主人公はマリファナ所持の容疑で警察に誤認逮捕され、2週間経ってようやく釈放された若い女性マーガレット(ダニエラ・ジョルダーノ)。しばらく誘惑の多い大都会から離れて暮らしたいと考えた彼女は、ソーシャル・ワーカーのアリシア(ロサルバ・ネリ)に紹介され、年配の未亡人グラント夫人(ジョヴァンナ・ガレッティ)の屋敷に部屋を借りることとなる。いやはや、イタリア映画界の誇る悪女ロサルバ・ネリの紹介という時点で、もはや悪いことが起きる気しかいたしません(笑)。
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案の定というかなんというか、のどかで平和で美しい田舎町に引っ越してひと安心かと思いきや、どうもいろいろとおかしい。グラント夫人とその一人息子フランク(アンジェロ・インファンティ)はお節介なくらいに親切なのだが、まるで監視されているような気がしてならない。しかも、彼女がいくら無実の罪で逮捕されたと説明しても信じてくれず、逆に「罪を働いたことを恥じる必要はない」「誰だって間違いは犯すものだから」「肝心なのは悔い改めることだ」と、気持ち悪いくらいに一方的な善意を押し付けてくる。
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また、借りることになった2A号室もどこか居心地が悪い。なにしろ、床のカーペットを裏返すと、まるで血のように真っ赤なシミが部屋の真ん中にあるのだから。そのせいなのだろうか、マーガレットは夜な夜な部屋に真っ赤なマスクを被ったマント姿の人物が忍び込む奇妙な悪夢を見てうなされる。さらに決定的だったのは、警察署を出てからバス停まで彼女の後をつけてきた怪しい中年紳士ドリーズ氏(ラフ・ヴァローネ)が、実はグラント家の親しい友人だったことだ。まるで自分が最初からマークされているみたいで薄気味悪く感じたマーガレットは、アリシアに別の部屋を紹介して欲しいと申し出るものの、空き物件を探すためには数日かかるとのことだった。
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そんな折、ジャック(ジョン・スカンロン)というハンサムな若者がマーガレットのもとを訪ねてくる。彼の妹イーディは2A号室の前の住人だったのだが、先ごろ変死体になって発見されていた。警察は自殺と断定したが、ジャックは納得がいかない。なにか気になることがあれば教えて欲しいと訴える彼に同情したマーガレットは、イーディの死因を調べるために協力することを約束する。すると、イーディが元恋人チャーリー(ブラッド・ハリス)の犯罪行為に巻き込まれ、無実の罪で警察に逮捕されていたことが分かる。さらに、2A号室に住んでいた若い女性たちが次々と行方をくらましていたことも判明。マーガレットは自分の身に迫る危険を察知する。

===ここからネタバレ===
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実はマーガレットの身辺に付きまとっていたドリーズ氏は狂信的なカルト宗教団体の教祖で、罪を犯した女性の魂を清めると称して拉致・監禁しては、激しい拷問を加えた末に殺していたのである。20年前に夫が犯罪の犠牲になったグラント夫人や息子フランクも熱心な信者で、逮捕歴のある女性に限定して部屋を貸すことで獲物を探していたのだ。マーガレットに気付かれたと知った彼らは計画を実行に移すことに。異変を感じたジャックは彼女を救出しようとするのだが…?
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見るからに舞台はイタリアなのに、登場人物の名前がことごとくアングロサクソン系なのは、監督と脚本を手掛けたウィリアム・ローズがアメリカ人だからであろう。'60年代からニューヨークのインディーズ・シーンで活動していたローズは、当時「スキン・フリック」と呼ばれたアングラのヌード映画を専門にする場末の映画監督だった。日本で言うならばピンク映画である。
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当時アメリカのインディペンデント映画監督は多かれ少なかれ、この手のヌード映画で稼いで生計を立てていた。ラス・メイヤーやドリス・ウィッシュマンなどはその好例であろう。中にはフランシス・フォード・コッポラのように、ハリウッドへ進出して有名になった監督もいる。まあ、さすがにコッポラは特例だとしても、ヌード映画を足掛かりにして一般映画で活躍するようになった監督は少なくない。ウィリアム・ローズ監督もその道を目指す一人だったが、しかし肝心の才能に恵まれなかったせいか、いつまで経っても一向に芽が出る様子はなかった。
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やがて'70年代に入るとアメリカでハードコア・ポルノが合法化され、ヌード映画は商売として成立しなくなってしまう。キャリアの崖っぷちに立たされたローズ監督だったが、しかし高校の同窓会で友人に見せたサスペンス映画の脚本が面白いと評判になり、当時コダック社に勤めていた友人たちが出資を申し出てくれた。そこで彼は、数々のヌード映画で組んだ製作者スタン・ボーデンにディック・ランドールを紹介してもらい、人件費の安いイタリアでその脚本を映画化することになる。それが『戦慄!2Aの女』だったというわけだ。
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正直、ローズ監督がヌード映画の世界から抜け出れなかった理由も本作を見れば一目瞭然だろう。ストーリーのアイディア自体は悪くないのだが、脚本には明らかな説明不足や矛盾点が多く、早い段階でカラクリの察しがついてしまうため、恐怖もサスペンスもスリルも殆ど盛り上がらない。なんというか、物語を組み立てるうえでの詰めが致命的に甘いのである。ディテールの整合性にも気を配っている様子は全く見られない。そもそも、なぜカルト教団のターゲットが女性ばかりなのかという理由すら放置しっぱなし。この無頓着さは演出にも言えることで、観客の不安や恐怖を煽るための工夫がまるで感じられない。というより、恐らくサスペンス演出の基本を理解していないのではないかと思われる。要は、単純に下手クソなのだ。結局、本作がローズ監督にとって最後の作品となったのも、むべなるかなと言えるだろう。
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イタリア映画なのにイタリア映画らしくないドライなテイストも、個人的には少なからずビミョーなところ。エロもグロもたっぷり用意されているけど、すごく素っ気ないというか、イタリア映画独特のネチネチした厭らしさが全くないのだ。やっぱりそこはアメリカン。持って生まれた感性が違うんだろうね。ただ、マリオ・バーヴァ監督の『モデル連続殺人』('64)や『白い肌に狂う鞭』('63)を彷彿とさせる、鮮烈な色彩を散りばめたビジュアルは大きな見どころ。これは数々のバーヴァ作品でカメラ助手を務めた、本作の撮影監督マリオ・マンチーニの功績であろう。また、カンツォーネの女王ミーナのアレンジャー出身である作曲家ベルト・ピサーノの手掛けた、ラウンジスタイルのジャジーな音楽スコアも良い。
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主演は元ミス・イタリアで、数多くのマカロニ西部劇やジャッロ映画で活躍した美人女優ダニエラ・ジョルダーノ。ただし、劇中のヌードシーンはボディ・ダブルを使っている。相手役のジョン・スカンロンは、『ドク・ホリデイ』('71)や『アルカトラズからの脱出』('79)に端役で出ていた無名のアメリカ人俳優。ヒロインに横恋慕するフランク役のアンジェロ・インファンティは、『ゴッドファーザー』('70)シリーズのファブリツィオ役や『バラキ』('72)のラッキー・ルチアーノ役などで有名な役者だ。
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アリシア役はイタリア産B級映画ファンならお馴染みのセクシー女優ロサルバ・ネリ。出番がことのほか少ないのは惜しい。ドイツ出身の人気ソフトポルノ女優カリン・シューベルトも、ほぼ脱ぐためだけにキャスティングされたという感じだ。そのほか、イタリア産スペクタクル史劇のヒーローとして活躍したブラッド・ハリス、名作『無防備都市』('45)の悪女イングリッド役や『呪いの館』('66)の男爵夫人役で知られる名女優ジョヴァンナ・ガレッティが登場。また、戦後のイタリア映画界を代表する大スター、ラフ・ヴァローネが、カルト教団の教祖ドリーズ氏役として顔を出している。特別ゲストという扱いだが、それにしてもこの手のB級映画への出演は珍しい。
「戦慄!2Aの女」 La casa della paura  (1974)_f0367483_17572410.jpg
評価(5点満点):★★☆☆☆

参考DVD情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.66:1)/音声:1.0ch Dolby Digital Mono/言語:イタリア語・英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:85分/発売元:Mondo Macabro
特典:女優ダニエラ・ジョルダーノのインタビュー(約11分)/作品解説テキスト/アメリカ公開版劇場予告編/スタッフ&キャスト・プロフィール



by nakachan1045 | 2019-08-21 00:01 | 映画 | Comments(0)

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