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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「Miss Leslie's Dolls」(1973)

「Miss Leslie\'s Dolls」(1973)_f0367483_17460247.jpg
監督:ジョセフ・G・プリエト
製作:ラルフ・J・レミー
脚本:R・レミー(ラルフ・J・レミー)
   J・プリエト(ジョセフ・G・プリエト)
撮影:グレゴリー・サンドール
音楽:アイマー・リーフ
出演:サルヴァドール・ウガルテ
   テリー・ジャストン
   マーセル・ビシェット
   キティ・ルイス
   チャールズ・ピッツ
アメリカ映画/89分/カラー作品




<あらすじ>
とある嵐の夜、ボストンへ戻る途中で車が泥濘にはまってしまった男女。大学教諭フロスト先生(テリー・ジャストン)と学生のリリー(マーセル・ビシェット)、マーサ(キティ・ルイス)、ロイ(チャールズ・ピッツ)の4人は、雨宿りする場所を探して森を彷徨っていたところ、人気のない寂しげな一軒家を発見する。ドアの鍵が開いていたため、勝手に中へ入った4人。すると、奥からミス・レスリー(サルヴァドール・ウガルテ)と名乗る独身の中年女性が現れる。母親を亡くして独り暮らしだという彼女は、予期せぬ客人を受け入れる。
マーサを一目見て驚きの表情を浮かべるミス・レスリー。20年前に亡くなった幼馴染の親友と名前も顔も全く同じだというのだ。「きっと私のマーサの生まれ変わりに違いない」と口走るミス・レスリーを、怪訝そうな顔で見つめる若者たち。さらに、彼らは地下室に並べられた等身大の人形を発見して衝撃を受ける。どれも、まるで人間の女性にしか見えない。ミス・レスリーによると、死んだ母親はかつてボストンで人形工場を経営し、その影響で彼女も美しい人形を崇拝するようになったという。「この場所は私が女性の美を崇めるための神殿」と呟く彼女を、またもや若者たちは訝しげな眼で見るのだった。
やがて深夜となり、男女はそれぞれミス・レスリーの用意した客室で眠ることになる。2人きりになってセックスを楽しむマーサとロイ。フロスト先生と同室になったリリーは不満だったが、しかしネグリジェに着替えたフロスト先生は普段と見違えるほどセクシーな美女に変身し、リリーを女性同士の官能の世界へと誘う。すると、酒を飲みにキッチンへ降りて行ったロイにミス・レスリーが襲い掛かり、その様子を目撃したリリーを斧で斬殺。さらに、その悲鳴を聞きつけたマーサをミス・レスリーは催眠術で眠らせ、地下室へと連れ込む。実はミス・レスリーの正体は性同一性障害の男性で、自分の望む肉体を手に入れるため若く美しい女性を拉致し、魔術によって体ごと乗っ取ろうとしていたのだ…!

<作品レビュー>
恐らく、コアなホラー映画マニアでも本作を見聞きしたことのある人は少ないかもしれない。なにしろ、'73年にアメリカの一部地域で限定的に封切られただけですぐに市場から姿を消し、イギリスでも場末の映画館で『セックス・アドベンチャー/女淫の館』('73)と二本立てで上映されたことがあるのみ。実際にいつ撮影された作品なのかも分からないし、そもそも監督のジョセフ・G・プリエトが何者なのかもいまいちハッキリしていない。imdbでは'60年代末にグラインドハウス向けのC級映画を何本か撮ったホセ・プリエト(本名ジョセフ・マウラ)と同一人物としているが、しかし本人が近年になってウェブ上のインタビューで完全否定しており、全くの別人である可能性が捨てきれないのだ。

確実に分かっているのは、本編のクレジットにもある通り、マイアミのマクロード・スタジオという場所で撮影されていること。出演者のチャールズ・ピッツによると、スタジオと呼ぶには程遠い人里離れた一軒家だったらしいが、そんな彼も監督の素性については記憶が曖昧なのだという。なにしろ、税制優遇政策で映画撮影の誘致に積極的だったフロリダ州は、'60~'70年代にかけて「東のハリウッド」とも呼ばれ、ハーシェル・ゴードン・ルイス監督の『悪魔のかつら屋』('66)やウィリアム・グルフェ監督の『タートゥ/死霊の呪い』('66)など、数えきれないほどのエクスプロイテーション映画のロケ地となった。その中には、本作のように時が経って出自不詳となってしまった映画があってもおかしくはないだろう。そのうえ、本作は長いことフィルム自体が行方不明の「幻の映画」とされてきた。しかし、近年になって古い上映用プリントがイギリスの個人宅で発見され、修復作業を施されたうえで'09年にリバイバル上映されている。

で、肝心の中身はというと、これがまたちょっと不思議なテイストのC級サイコ・ホラーに仕上がっている。とある嵐の夜、車が泥濘にはまって身動きの取れなくなった男女4人(引率の女性教師1人と女子2人男子1人の大学生)が、人里離れた寂しげな一軒家で雨宿りをしたところ、そこには天涯孤独の中年女性ミス・レスリーが独りで暮らしていた。しかし、このミス・レスリー、どうも様子がおかしい。まずは女学生マーサのことを自分の幼馴染の生まれ変わりだと言い張り、彼女を「私のマーサ!」と呼んで取り乱す。ちょっと困惑する先生と生徒たち。さらに、家の地下室には人間の女性ソックリな等身大の人形が並べられており、ミス・レスリーはそれを「女性の美を崇める私の大切な神殿」と説明する。今度ばかりは、さすがにドン引きの先生と生徒たち。そのうえ、彼らの知らないところで20年前に死んだ母親の骸骨と会話をしている。いったいミス・レスリーの正体とは…!?

…実は彼女、なんと中年のオバサンじゃなくて中年のオジサンでした!というのが本作最大のネタバレなのだけれど、いや、それ最初から分かってるし!どこからどう見たって女装した地味なオジサンだし!むしろ先生も生徒もなぜ気付かない!?と突っ込みたくなるところだが、とりあえず、どんでん返しが全くどんでん返しになっていないのは苦笑いするしかあるまい。別人の女優がミス・レスリーの声を吹き替え、役者のクレジットもあえて最後に表示しているものの、しかし演じているのが髭の剃り跡も生々しい中年男性だというのは一目瞭然。だいたい、吹き替えも微妙に口の動きとズレているしね。先生も生徒もすっかり騙されました!って、それはさすがに無理あり過ぎだろうとしか思えません(笑)。

そんな女装家のミス・レスリーなのだが、どうやら今で言う性同一性障害の男性という設定らしく、子供の頃から母親の経営する人形工場で作られる美しい人形を愛し、自分の性別に違和感を覚えて女性になりたいと強く願っていたが、それを最愛の母親から非難・拒絶されて深く傷つき、そのうえ怒りに任せて人形工場に放火して母親を死なせてしまったことから、ついに心を病んでしまったということのようなのだ。そして、こんな中年男の醜い体は嫌だ、若くて美しいお人形さんのような体の女性に生まれ変わりたいという思いが募り、やがて理想の女性を捕まえては黒魔術でその肉体を奪う…つまり、相手と自分の中身を入れ替えようと試みてきたのである。しかし、そのいずれもが失敗に終わり、死んでしまった女性たちは美しさを保つため特殊加工を施して永久保存。それが、神殿に並べられた等身大の人形たちなのだ。

そして今、幼馴染だった理想の美女マーサと瓜二つの女子大生が目の前に現れた。邪魔者を斧で次々と惨殺し、黒魔術でマーサの肉体を乗っ取ろうとするミス・レスリーだったが…?ということで、基本設定は『サイコ』(60)×『肉の蝋人形』('53)。そこに『猫とカナリヤ』('27)や『魔の家』('32)のような「オールド・ダーク・ハウス」物の要素を盛り込み、LGBT的な捻りを加えたというわけだ。トランスジェンダーであるミス・レスリーを怪物的なサイコパスではなく、周囲の無理解ゆえに精神の歪んでしまった犠牲者として描いているところが重要なポイントであろう。

ただし、だからといって本作が性同一性障害をテーマにした、メッセージ性の高いアート映画だなどと言うつもりは全くない。むしろ、これは純然たるグラインドハウス向けのエクスプロイテーション映画。やたらと無駄にヌードやセックスシーンが多いのは、ソフトポルノ市場でも売ろうという目論見があったからに違いない。普段は生真面目で堅物な女教師フロスト先生が、眼鏡をはずして髪をほどいて服を脱いだとたん、色情狂のセクシーなレズビアンに変身して女子大生に女の味を教える…なんて展開も「やっぱりそうきたか!」と言いたくなるくらい超ベタである。C級映画の定番的な見せ場のオンパレードではあるのだが、それでもなお本作が捨て難いのは、全編に漂うダークで奇妙な雰囲気。ミス・レスリーが死んだ母親と対話して自らの運命を呪うシーンなどは、まるでシェイクスピア悲劇のように鬼気迫るものがあり、なんとも不思議な気分を味わえる。アンディ・ミリガンに真っ当な演出力があったら、もしかするとこんな映画を作っていたかもしれない。

そのミス・レスリー役を大熱演するのは、マイアミ出身の舞台俳優サルヴァドール・ウガルテ。セリフの大半は別の女性によって吹き替えられているが、それでもなお彼が体当たりで真剣にこの役を演じていることがよく分かる。キャストの中で恐らく最も有名なのは、女の子にモテモテでウハウハの男子学生ロイを演じているチャールズ・ピッツ。当時はまだ役者になりたての新人だったが、その後ラス・メイヤー監督の『スーパー・ヴィクセン』('75)で主人公クリント役を演じて知られるようになる。

なお、今のところイギリスでのみブルーレイ化されている本作。上映用プリントからのHDリマスターとはいえ、レストア作業が丁寧に行われていることもあってか、フィルムの経年劣化や傷・汚れなどは殆ど目立たない。特典映像が全くないのは少々寂しいものの、超激レアな「幻の映画」であることを考えれば、これだけの十分な高画質で本作を鑑賞できること自体が有難い。

評価(5点満点):★★★☆☆



参考ブルーレイ情報(イギリス盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:89分/発売元:Network
特典:フルカラー解説ブックレット(初回封入特典・12P)



by nakachan1045 | 2019-11-14 20:03 | 映画 | Comments(0)

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