なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「猟獣人ヒューモンガス」 Humongous (1982)
監督:ポール・リンチ
製作:アンソニー・クラムレイサー
製作総指揮:マイケル・M・スティーヴンソン
脚本:ウィリアム・グレイ
撮影:ブライアン・R・R・ヘッブ
特殊メイク:ゴードン・J・スミス
音楽:ジョン・ミルズ・コッケル
出演:ジャネット・ジュリアン
デヴィッド・ウォーレス
ジャニット・ボールドウィン
リン・コールマン
ジョン・ワイルドマン
ジョイ・ボーシェル
シェイ・ガーナー
ペイジ・フレッチャー
カナダ映画/94分/カラー作品
<あらすじ>
物語の始まりは1946年の秋。材木王パーソンズ家の邸宅で労働祭のパーティが盛大に開かれたのだが、酔っ払った若者トム(ペイジ・フレッチャー)にパーソンズ家の令嬢アイダ(シェイ・ガーナー)がレイプされてしまう。しかも、アイダの悲鳴を聞きつけた番犬たちがトムに襲いかかり、彼を八つ裂きにして殺してしまった。
それから36年後の1982年。若者エリック(デヴィッド・ウォーレス)とニック(ジョン・ワイルドマン)の兄弟は、それぞれの恋人サンディ(ジャネット・ジュリアン)とドナ(ジョイ・ボーシェル)、さらに末の妹カーラ(ジャニット・ボールドウィン)を連れ、父親のヨットを借りてセント・マーティン島へ、夏休みのバカンスを過ごすため向かう。すると、深夜になって彼らはボートで遭難した若い漁師バート(リン・コールマン)を救出。そのバートによると、この周辺はドッグ・アイランドという小さな孤島の近くであるため岩場が多く、明るくなるまではヨットを停泊させるべきだという。そこで、若者たちはエンジンを止めて一泊することになる。
ドッグ・アイランドから聞こえてくる不気味な犬の遠吠え。この島にはアイダという中年女性が独りで住んでおり、大勢の番犬が飼われているらしい。一族の財産で生活しているアイダは、年に数えるほどしか島の外へ出ることがなく、また外から島へ訪れる人も全くいないという。漁師をしているバートも彼女の姿を見たことは1度もない。やがて、態度が悪いせいでみんなから無視されたニックが癇癪を起し、怒りに任せてヨットのエンジンをかけてしまう。勢い激しく岩場に座礁したヨットは燃料が漏れて爆発。若者たちは辛うじて脱出したものの、カーラが行方不明になってしまった。
命からがらドッグ・アイランドへ上陸した若者たち。そんな彼らを物陰から見ている怪しい目。助けを求めてパーソンズ邸へ向かったニックは、その途中の森で巨大な何者かに襲われ殺されてしまう。翌朝、若者たちはニックが戻ってこないことに気付くが、身勝手な行動はいつものことなので気にも留めなかった。ひとまず、エリックとサンディの2人は島の船着き場へボートを探しに出かけ、ドナは昨晩の事故で脚を怪我したバートと海岸に残る。しかし、2人は物陰から現れた何者かによって惨殺された。
一方、船着き場でカーラと再会して喜ぶエリックとサンディ。だが、肝心のボートは腐敗していて使い物にならない。そればかりか、物置では大量の犬の死骸が見つかった。次に丘の上のパーソンズ邸へ向かう3人。そこで彼らは白骨化したアイダの遺体と彼女の日記を発見する。その日記によると、アイダは36年前に息子を産んでいたらしい。だが、その息子は発達障害を抱えた奇形児だったため、アイダは彼を守るため外部との接触を断っていたらしい。彼女は獰猛な怪物へと成長していく息子を心配していた様子だ。やがて、屋敷の地下室でニックやドナの無残な死体を発見したエリックたちは、アイダの息子がまだ生きていることに気付く…。
<作品レビュー>
『ハロウィン』('78)や『13日の金曜日』('80)シリーズの爆発的な大ヒットを受け、'80年代に雨後の筍とのごとく大量生産されたスラッシャー映画のひとつである。一部を除くと粗製乱造の感は否めず、たいして注目されることもなく消えていった作品も多い中、当時あまり話題にならなかった本作は、しかし意外にも手堅い作りの良心的な仕上がり。隠れた名作と呼んでも良かろう。監督のポール・リンチと脚本のウィリアム・グレイは、『ハロウィン』に影響されたカナダ産スラッシャー映画『プロム・ナイト』('80)を大ヒットさせたコンビ。個人的に『プロム・ナイト』はあまり好きな映画ではないのだが、こちらはなかなか悪くない。
舞台はアメリカ東部の小さな孤島ドッグ・アイランド(ロケ地はカナダのトロント近郊)。かつて陰惨な事件が起きて以来、誰も近寄らなくなったこの島では、今では没落した大富豪一族の女性当主アイダが大勢の獰猛な番犬と暮らしているらしいが、しかしその姿を見た人は殆どいない。そんな島へひょんなことから上陸した6人の若者が、草むらをうごめく巨大な怪物に次々と殺されていく…というわけだ。実はこの怪物、36年前にレイプされ妊娠したアイダが秘かに出産した息子だった。奇形症候群と発達障害を抱えた息子は、粗暴で怪力なモンスターへと成長。母親が病気で死んだことから食料が底を尽きたため、たまたま島へやって来た若者たちを狩猟し始めたのである。
どことなく、イギリス産の猟奇ホラー『愛欲の魔神島・謎の全裸美女惨殺体』('72)を彷彿とさせる設定の本作。同時期に撮影されたB級スラッシャー映画『The Slayer』('82・日本未公開)ともストーリー的に似ているが、しかしさすがにこれは偶然の一致であろう。映像の雰囲気的には『悪魔のいけにえ』('74)や『ザ・フォッグ』('79)、『バーニング』('81)などを想起させるシーンも多く、とりあえずオリジナリティには乏しい。とはいえ、伝奇ホラー的な禍々しいムードはなかなか捨て難く、主人公たちの人物描写が丁寧なところも好印象である。
また、直接的な残酷描写こそわりと控えめだが、それでもリンチ監督の前作『プロム・ナイト』よりはスプラッター要素が多く、要所々々でショッキングな特殊メイクを披露して楽しませてくれる。その特殊メイクを担当したのは『ミミック』('97)のゴードン・J・スミス。モンスターの造形は『死霊の悪夢』('81)のモーリーン・スウィーニーが担当している。デヴィッド・クローネンバーグ作品で知られるキャロル・スピアーの手掛けた美術デザインも秀逸。時が止まったまま廃墟と化した豪邸の、寂しくも不気味な雰囲気が良く出ている。
ちなみに、タイトルの「ヒューモンガス」とは完全なる造語。どこぞの子供が「ヒューモンガス」という言葉を口走っているのを聞いたリンチ監督は、その言葉の響きをことのほか気に入ったらしく、まずはタイトルありきで本作の企画を立てたのだという。なので、特にこれといった意味があるわけではない。本編を見れば分かる通りモンスターの名前ではないし、そもそも劇中で「ヒューモンガス」という言葉自体が一切言及されない。
ファイナルガールのサンディを演じているのは、'70年代の人気テレビドラマ『ハーディ・ボーイズ&ナンシー・ドルー』('77~'79)で2代目ナンシー・ドルーを演じたジャネット・ジュリアン。エリック役のデヴィッド・ウォーレスは、無名時代のビル・パクストンがサイコパス役を演じたホラー『モーチュアリー』('83)の主演俳優だ。ニック役のジョン・ワイルドマンは、'80年代カナダ産青春映画の大ヒット作『マイ・アメリカン・カズン』('86)とその続編に主演していたイケメン俳優。カーラ役のジャニット・ボールドウィンは、オカルト映画『ルビー』('77)でパイパー・ローリーの娘を演じていた。ドナ役のジョイ・ボーシェルは『テラー・トレイン』('80)にも出ている。
なお、冒頭シーンでレイプされる若き日のアイダを演じているシェイ・ガーナーは、当時ポール・リンチ監督と付き合っていた恋人。一方のレイプ犯トム役のペイジ・フレッチャーは、その後テレビドラマ『ヒッチハイカー』('83~'87)や『ロボコップ プライム・ディレクティヴ』('01)に主演して有名になった。この被害者目線で描かれる生々しいレイプシーンが衝撃的で、アメリカで公開された際は特にキワどい描写をカットした短縮バージョンが使用されている。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.78:1)/音声:2.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:94分/発売元:Scorpion Releasing
特典:カトリーナ・リー・ウォルターズによる解説ビデオ(約7分)/ポール・リンチ監督と脚本家ウィリアム・グレイ、ホラー映画評論家ナサニエル・トンプソンによる音声解説/オープニング・シーンの別テイク(約6分)/オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2019-11-16 00:03
| 映画
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