なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「象牙色のアイドル」 La residencia (1969)

監督:ナルシソ・エバニエル・セランドール
原作:フアン・テバール
脚本:ルイス・ペニャフィエル(ナルシソ・エバニエル・セランドール)
撮影:マヌエル・ベレングエル
美術:ラミロ・ゴメス
音楽:ワルド・デ・ロス・リオス
出演:リリ・パルマー
クリスチナ・ガルボ
ジョン・モルダー・ブラウン
マリベル・マルタン
メアリー・モード
カンディダ・ロサダ
ポーリーン・シャロナー
トマス・ブランコ
ヴィクトル・イスラエル
テレサ・フルタード
マリア・ホセ・ヴァレーロ
スペイン映画/105分/カラー作品
<あらすじ>
19世紀のフランス。躾がとても厳しいという評判から、良家の不良少女ばかりを預かる全寮制女学校に、テレーズ(クリスチナ・ガルボ)という真面目な優等生がやって来る。女手一つで育てる母親が忙しく、娘の面倒を見る余裕がないため、知人の有力者を介して紹介されたのだ。しかし、そこは必ずしも居心地のいい場所ではなかった。
校長フルノー夫人(リリー・パーマー)は冷酷非情な女性で、規律を守らない生徒には容赦ない体罰を与えている。その右腕となるのが意地悪な少女イレーヌ(メアリー・モード)。フルノー夫人の命令に従って体罰を実行する彼女は、その立場を利用してほかの少女たちを支配していたのである。テレーズもさっそくイレーヌに目をつけられ、自分に従うよう脅されるのだった。
そんな少女たちを物陰から覗き見しているのが、後者の2階に住むフルノー夫人の一人息子ルイ(ジョン・モルダー・ブラウン)。息子を溺愛するフルノー夫人はルイを部屋の中に閉じ込め、素行の悪い少女たちと関わることを固く禁じていたが、しかし異性に強い関心を示す思春期のルイは母親の目を盗み、こっそりと部屋を抜け出しては女生徒たちを観察していたのである。一方の少女たちも異性との接触に飢えており、週に一回薪木を運んでくる木こりの若者ヘンリーと順番を決めて秘め事を楽しんでいた。ただし、イザベル(マリベル・マルタン)だけは特別。なぜなら、彼女はルイとたびたび逢引をしていた。
このように閉鎖的で歪んだ学校内の雰囲気に戸惑いを隠せないテレーズ。そればかりか、深夜の寝静まった校舎では怪しい人影がうろつき、やがて少女たちが一人また一人と殺されていく…。
<作品レビュー>
ダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』('77)に影響を与えたとも言われている、ゴシック・スタイルのスペイン産ジャッロである。『象牙色のアイドル』というホラー・サスペンスらしからぬタイトルは、恐らく主演俳優の一人である美少年スター、ジョン・モルダー・ブラウンの人気に当て込んだためだろう。'70年代初頭、日本ではビョルン・アンドレセンと並んでティーン女子の憧れだったというジョン・モルダー・ブラウン。'69年に制作された本作がその3年後の'72年に日本で劇場公開されているのは、彼の主演作『初恋(ファースト・ラブ)』('70)と『早春』('70)が日本で相次いでヒットしたからであろう。スペイン語の原題は「La residencia(屋敷)」、英語タイトルは「The House That Screamed(絶叫した家)」。どちらもなるほどホラー映画っぽいが、しかしジョン・モルダー・ブラウンのファン層である若い女性を呼び込むならば、おのずと青春映画や恋愛映画のような邦題に落ち着くのもむべなるかな。ただ、何を以てして「象牙色のアイドル」なのかはいまひとつ分かりかねるのだけれど…(笑)。
閑話休題。19世紀フランスの全寮制女学校を舞台とした本作。15歳~21歳の若い女性たちが学ぶこの学校は、中でも躾に厳しいことが父兄の間で評判となっており、そのため裕福な家庭の問題を抱えた女子ばかりを受け入れている。だが、冷酷非情な校長フルノー夫人(リリ・パルマー)の教育方針は、ただ単に厳しいだけでは済まないものだった。規律に従わない生徒に対する体罰・監禁などは当たり前。しかも、絶対服従を誓うイレーヌ(メアリー・モード)ら一部の女生徒に特権を与え、自分ではなく彼女たちに体罰を実行させることで、生徒間のヒエラルキーを作って恐怖支配していたのだ。イレーヌらはその特権を最大限に有効活用し、自分たちに従う生徒にはおこぼれを与えるものの、そうでない生徒には陰湿な虐めを加えている。それが嫌になって脱走した生徒も少なくないが、しかしなぜか彼女たちはその後消息不明となっていた。
さらに、学校内ではそんな少女たちを物陰から覗き見て回る少年がいた。フルノー夫人の一人息子ルイ(ジョン・モルダー・ブラウン)だ。異性に対する好奇心を抑えられない思春期のルイだが、しかしフルノー夫人はそんな息子を女生徒たちから遠ざけ、一切関わらせないようにしている。なぜなら、彼女たちは素行不良だから。あなたにはいずれ相応しい女性が現れる、私みたいにあなたを愛してくれる立派な女性が。そう息子に言い聞かせるフルノー夫人は、ルイを自室に閉じ込めようとするものの、しかし10代の少年が母親の言うことに素直に従うはずもなく、こっそりと部屋を抜け出したルイは扉の隙間や換気口などに隠れて少女たちの生態を観察していたのだ。
一方、表向きはフルノー夫人や教職員に従順なふりをする女生徒たちにも、実は大きな秘密があった。なにしろ、彼女たちとて異性に興味津々な年頃。しかも、この学校に来るまでは不純異性交遊など当たり前だった少女も少なくない。なので、女だらけの環境は彼女たちにとって生き地獄のようなもの。そんな女生徒たちの欲求不満を解消するのが、週に一度だけ薪木を運んでくる木こりの若者ヘンリーだ。少女たちは仲間内で順番を決め、教師たちの目を盗んでヘンリーとのセックスを楽しんでいたのである。そればかりか、中にはフルノー夫人の息子ルイと秘かに逢引しているイザベル(マリベル・マルタン)のような少女までいた。
そんな歪んだ欲望とドス黒い悪意が渦巻く禁断の「女の園」へ、ある日一人の新入生がやって来る。シングルマザーの母親に世話をする余裕がなくなったため、知人の有力者を介して預けられた18歳の美少女テレーズ(クリスチナ・ガルボ)だ。ほかの女生徒たちと違って品行方正かつ真面目なテレーズは、由緒正しき名門寄宿学校の裏の顔を知って大いに戸惑い、その清らかな正義感ゆえにイレーヌらいじめっ子たちから目をつけられる。そのうえ、誰もが寝静まった深夜の校舎に怪しげな人影がうろつき、一人また一人と少女たちが殺されていく。果たして、いったい誰が何のために残忍な凶行を重ねているのか…!?
女性ばかりの古い寄宿学校、新入生の清らかで可憐な美少女、生徒たちを支配する厳格な女教師、学園に蔓延る陰湿なイジメやヒエラルキー、そして次々と殺されていく美少女たちなどなど。本作が本当にアルジェントの『サスペリア』の元ネタとなったのか、その真偽のほどは定かでないとはいえ、しかし両者に単なる偶然と片付けられないほどの共通点があることは確かだろう。厳かで格調高い正統派のゴシック・ムードこそ、極彩色に彩られた『サスペリア」の独創的な異空間とは一線を画すものの、閉鎖的な「女の園」に渦巻く抑圧された性の欲望が醸し出す淫靡でデカダンな雰囲気も非常に似ている。まるでオーソン・ウェルズの『偉大なるアンバーソン家の人々』('42)を彷彿とさせるような、重厚感あふれる美術セットも素晴らしい。
監督は後に“無垢な子供が大人を殺す”映画の金字塔『ザ・チャイルド』('74)を手掛ける、スパニッシュ・ホラーの名匠ナルシソ・エバニエル・セランドール。スペインのヒッチコックとも呼ばれた彼は、あくまでも思春期の不安定な少女たち(+少年)が織り成す危うげな青春模様と、彼女たちの自然な発育を抑えつけようとする権威主義的な女教師の歪んだ道徳観に焦点を絞ることによって、ある意味で当時の独裁者フランコ将軍の政権下におけるスペイン社会の閉塞感を投影するような作品に仕上げている。ホラーというよりはサイコロジカルなスリラー。確かに正体不明の殺人鬼が少女たちを殺していく筋立てはジャッロ的だが、しかし肝心の殺人シーンはほんの僅かであるうえ、スローモーションと切ない音楽のメロディで描かれる凶行は、むしろ恐ろしさよりも哀しみのような感情を掻き立てる。ラストに明かされる真犯人の正体とその動機にも、どこかやるせない「もの悲しさ」が漂うと言えるだろう。そこはやはりヨーロッパ映画。日本の少女漫画の世界観とも親和性が高いように思う。
主演は鬼のように厳格な校長フルノー夫人役を演じる、ドイツ出身の国際的な大物女優リリ・パルマーだが、実質的なヒロインはテレーズ役のクリスチナ・ガルボ。スパニッシュ・ゾンビ映画の大傑作『悪魔の墓場』('74)でも有名なスペイン女優だ。そして、覗き見マニアの変態美少年ルイ役が当時まだ16歳だったジョン・モルダー・ブラウン。もともとイギリスの子役だった彼にとって、メインクラスの仕事はこれが初めてだった。本作にはイレーヌ役のメアリー・モードやカトリーヌ役のポーリン・シャロナーなど英国人のキャストも少なくないが、セランドール監督は英語が話せないため撮影現場では通訳が付いたそうだ。なお、メアリー・モードは『スコルピオ』('73)でアラン・ドロンと共演し、ノーマン・J・ウォーレン監督が『サスペリア』をパクった英国ホラー『ギロチノイド』('79)にも出ていた。
ちなみに、当時のスペイン映画界では異例と呼べるほどの高額な製作費を投じ、本国では『風と共に去りぬ』を上回って当時の史上最高額の興行収入を稼ぎ出す大ヒットを記録したという本作。日本では長いことテレビ放送もソフト化もされない幻の映画だったが、'05年にようやくDVDが発売されている。また、海外では'16年にアメリカで2Kリマスターされたブルーレイが登場。こちらはオリジナルのインターナショナル完全版と、94分にカットされたアメリカ公開版の2種類が収録されており、さらには特典としてジョン・モルダー・ブラウンやメアリー・モードのインタビューも収められている。
評価(5点満点):★★★★☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:104分(完全版)・94分(アメリカ公開版)/発売元:Scream Factory
特典:俳優ジョン・モルダー・ブラウンのインタビュー('11年制作・約6分)/女優メアリー・モードのインタビュー('12年制作・約12分)/オリジナル劇場予告編/テレビ・スポット/ラジオ・スポット集/スチル・ギャラリー
by nakachan1045
| 2020-03-29 03:02
| 映画
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