なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「片腕サイボーグ」 Vendetta dal futuro (1986)
監督:マーティン・ドールマン(セルジョ・マルティーノ)
製作:ルチアーノ・マルティーノ
原案:マーティン・ドールマン(セルジョ・マルティーノ)
脚本:エリザベス・パーカー・ジュニア(エリサ・ブリガンティ)
マーティン・ドールマン(セルジョ・マルティーノ)
ソウル・サスカ(サウル・サシャ)
ジョン・クロウザー
台詞:ルイス・A・チアネッリ
撮影:ジョン・マクフェランド(ジャンカルロ・フェランド)
特殊効果:セルジョ・スティヴァレッティ
音楽:クラウディオ・シモネッティ
出演:ダニエル・グリーン
ジャネット・アグレン
クラウディオ・カッシネッリ
ジョン・サクソン
ジョージ・イーストマン(ルイジ・モンテフィオーリ)
エイミー・ウェルバ
ロバート・ベン(ロベルト・ビサッコ)
パット・モンティ
ドナルド・オブライエン
イタリア映画/93分/カラー作品
<あらすじ>
時は1997年、アメリカでは悪徳実業家フランシス・ターナー(ジョン・サクソン)の経営する巨大企業が違法なエネルギー開発を進め、深刻な環境破壊が社会問題となっていた。そんなターナーの悪事を暴こうとする環境保護団体のリーダー、アーサー・モズリーが、ターナーの送り込んだ暗殺者に命を狙われる。暗殺者の名前はパコ・ケルアク(ダニエル・グリーン)。ターナーの会社によって、肉体の70%をサイボーグに改造された人造人間だ。ところが、今まさにモズリーを仕留めようという瞬間、残り30%の人間性が目覚めてしまい、パコはモズリーの息の根を止めることなく逃げ去ってしまう。
モズリー暗殺計画の失敗を知ったターナーは、右腕クーパー(ロベルト・ビサッコ)にパコを口封じのため殺すよう命じる。万が一、パコがFBIに捕まりでもすれば自らの関与が露呈してしまうからだ。クーパーはパコにサイボーグ手術を施したオルスター教授(ドナルド・オブライエン)から、人間の記憶を取り戻したパコが故郷アリゾナへ向かった可能性が高いとの情報を得る。一方、FBIも犯人の行方を捜していたが、あまりにも謎が多いため捜査は困難を極めていた。
その頃、アリゾナの砂漠地帯へと流れ着いたパコは、リンダ(ジャネット・アグレン)という女性が経営する寂れたモーテル兼ダイナーに住み込みで働くようになる。ここは夜になると粗暴なトラック運転手たちの溜まり場になり、そのリーダーであるラウール(ジョージ・イーストマン)に挑発されたパコは、腕相撲でラウールを打ち負かしてトラック運転手たちの恨みを買ってしまう。
やがて、クーパー一味にダイナーの場所が突き止められてしまった。なんとかクーパーを倒したパコだったが、すぐさまターナーは名うての殺し屋ピーター・ハウエル(クラウディオ・カッシネッリ)にパコの暗殺を依頼。パコに恨みを持つラウールがピーターに加勢し、さらにサイボーグの存在に気付いたFBIの捜査網も迫ってくる。今や相思相愛の仲となったリンダと共に逃亡を図るパコだったが…?
<作品解説>
日本ではヘラルド・ベストアクション・シリーズの一環として、『吐きだめの悪魔』('86)との二本立てで劇場公開されたイタリア産B級SFアクション。ずばり、マカロニ版『ターミネーター』である。当時のイタリア映画界は文字通りパクリ天国で、なんちゃって『コナン・ザグレート』やなんちゃって『マッドマックス2』、なんちゃって『ランボー』になんちゃって『プラトーン』が大量生産されていたが、意外にもなんちゃって『ターミネーター』は本作を含めて数少ない。やはり最先端のSFX技術が必要とされるジャンルだからだろうか。折しも、'80年代後半はイタリア産B級娯楽映画が急激に衰退の一途をたどった時代。予算的にも技術的にもハリウッドとの差は広がるばかりで、とてもじゃないが太刀打ちできないような状況だった。その“歴然とした格差”は、本作を見ても一目瞭然と言えるだろう。
舞台は近未来の1997年。環境を破壊しまくる巨大企業の悪徳経営者ターナー(ジョン・サクソン)が、邪魔になる環境保護団体のリーダーを暗殺すべく、肉体の70%をサイボーグとして改造した人造人間パコ(ダニエル・グリーン)を送り込む。ところが、土壇場になって人間性を取り戻してしまったパコは暗殺ミッションに失敗して逃亡。サイボーグ手術を受ける以前の記憶を頼りに、故郷のアリゾナ州へと流れ着いたパコは、砂漠のど真ん中でモーテル兼ダイナーを経営する女性リンダ(ジャネット・アグレン)の世話になる。
一方、パコがFBIに捕まりでもしたら自分の関与がバレてしまうと危惧するターナーは、右腕のクーパー(ロベルト・ビサッコ)や殺し屋ハウエル(クラウディオ・カッシネッリ)、女サイボーグ(パット・モンティ)らを刺客として次々送り込み、やがてパコの逃亡先を見つけ出して抹殺しようとする。また、サイボーグのサの字も思いつかなかったFBIも、女性科学者ペキンパー博士(エイミー・ウェルバ)の助言でようやく事態を把握し、ターナー一味の悪事を立証するためパコを捕えようと動き出す。果たして、いよいよ追い詰められたパコは両者から逃げ切ることが出来るのか…!?
ということで、まあ、どうにもこうにも安い映画である(笑)。そもそも、明らかに『ターミネーター』のパクリではあるのだが、しかし肝心の『ターミネーター』感は激薄。せいぜいショートした右腕の回路を修理するシーンと、ラストで頭部の機械部分が露出するシーンくらいしか『ターミネーター』っぽさは見られない。あとは終盤で登場する女サイボーグか。と言っても、こいつはターミネーターよりも『ブレードランナー』('82)に出てくる女レプリカントの激安コピーといった感じで、ハイレグレオタードに透明ビニールのスカートという粗末な近未来コスチューム(?)がなんとも切ない。もうちょっと気の利いた衣装を用意させてあげられなかったもんですかね。いずれにせよ、アルジェント映画でもお馴染みのイタリアを代表する特殊メイクマン、セルジョ・スティヴァレッティの腕の見せどころも殆どないに等しい。
監督はセルジョ・マルティーノ。'60年代末からマカロニ・ウエスタン、ジャッロ、ポリス・アクションなどのジャンルで、優れた娯楽映画を数多く残してきた名職人だが、'80年代に入ると明らかに失速してしまう。『ニューヨーク1997』にインスパイアされた『サイボーグ・ハンター/ニューヨーク2019年』('84)こそ、低予算の限界がある中で大健闘していたものの、それ以外はどれも残念な仕上がり。マルティーノ監督自身、この頃になると「もはやハリウッドの真似をしても無理がある」と感じてたそうだが、その着実に終わりへと向かっていく“諦め”のようなものが本作にも感じられるだろう。オープニングの環境保護団体リーダー暗殺未遂も、中盤の『オーバー・ザ・トップ』を先駆けた(?)トラック運転手軍団との腕相撲合戦も、あまりにもユルユルな展開で緊張感を微塵も感じさせない。
ただ、終盤のヘリと車との激しいチェイスはなかなかの迫力で、こういう派手なスタント・シーンになるとマルティーノ監督の演出も俄然冴えてくる。イタリアのアクション映画は昔から無茶なスタントに定評(?)あるが、やはり命がけで危険な撮影をものにしてこそプロ!みたいなマカロニ映画人の血が騒ぐのだろうか。しかし、本作ではそのチャレンジ精神が裏目にも出てしまった。メインキャストの一人であるクラウディオ・カッシネッリが、撮影中の事故で亡くなってしまったのだ。
主人公パコを追い詰める凄腕の殺し屋ハウエルを演じるカッシネッリは、リリアーナ・カヴァーニやタヴィアーニ兄弟の映画で評価された名優だったが、当時はキャリアの低迷で仕事が減少したことから、旧知の仲であるマルティーノ監督に頼み込んで本作へ出演することとなった。だからなのだろう、ハウエルがヘリに乗ってパコとリンダを追跡するシーンの撮影で、彼は自分も実際にヘリに乗ると言い出したのだそうだ。もちろん、それは本来であれば俳優がやる必要のない撮影。代役のスタントマンがヘリに乗ってロングショットを撮影し、役者の演技を見せるクロースアップは安全な環境で別撮りするのが普通だ。しかし、マルティーノ監督によると子供のようにチャレンジ精神の旺盛なカッシネッリは、息子に武勇伝を話して聞かせたいからと、あえて自ら危険な撮影に挑んだのだという。とはいえ、当時の彼を取り巻く状況を考えると、ここで役者としてのやる気や本気度を見せておきたい、との気持ちが強かったのではないかとも推察できるし、むしろそちらの方が理に適っているようにも感じる。
いずれにせよ、実際に自らヘリへ乗り込んでチェイスシーンを撮影することになったカッシネッリ。撮影用のヘリはロケ地である米アリゾナに在住の元ベトナム帰還兵の私物を借用し、その持ち主本人がスタントパイロットを務めることになっていた。もちろん、安全性を考慮してリハーサルも行われている。ところが、撮影当日になってヘリ所有者が急用で来れなくなり、代わりに若いパイロットをピンチヒッターとして送ってよこしたという。人件費が余計にかかる撮影延期は低予算映画にとって大きな痛手となるため、一抹の不安を残しつつも撮影は決行されることに。最大の難関はコロラド川にかかった鉄橋をヘリがくぐりぬけるシーンで、一度は成功したもののカメラの問題で撮り直しとなり、二度目のチャレンジでヘリが鉄橋に激突して大破してしまったのだ。
カッシネッリも代打の若いパイロットも即死。完成版で終盤にハウエル(演じるはボディダブルの別人)が射殺され、代わりに社長ターナーがヘリでパコとリンダを追跡することになるのはそのため。その時点で前半のカッシネッリ出演シーンも撮影されていなかったので、急遽ロベルト・ビサッコ演じるクーパーというキャラを立てて穴埋めすることとなった。マルティーノ監督は現在に至るまで自責の念に苛まれることとなったそうだが、しかしトラック運転手ラウールを演じたジョージ・イーストマンことルイジ・モンテフィオーリによれば、俳優の安全管理を怠ったスタッフの責任も大きいという。モンテフィオーリ自身、パコとリンダの乗った車をラウールが巨大トラックで破壊しようとする危険なカーチェイス・シーンで、大型免許すら持っていない彼にスタント・ドライブをやらせようとした助監督やスタッフに激怒したそうだ。実際、大破したヘリには彼も乗るよう指示されていたが、パイロットがスタントのプロではないため断ったらしい。心配する必要などない、どうせ事故なんて起きないさ、という安易な楽観主義がスタッフの中にあったとモンテフィオーリは振り返っている。
主人公のパコを演じているダニエル・グリーンは、当時アメリカのテレビ界で頭角を現していたマッチョ俳優。シルヴェスター・スタローンと個人的に親しかった彼は、『ランボー/怒りの脱出』(85)のプレミア試写に招待されたところ、その会場でイタリアの映画会社メドゥーサのロサンゼルス支部関係者にスカウトされ、本作に出演することとなった。これを機に『アフガン・フォース/戦場の黙示録』('88)など合計で8本のイタリア産B級アクションに主演した彼は、ハリウッドでも当時人気絶頂だったエルヴァイラことカサンドラ・ピーターソンの主演作『エルヴァイラ』('88)の相手役にも起用されたが、残念ながら大成することはなかった。
音楽スコアを担当したのはゴブリンのクラウディオ・シモネッティ。アルジェント絡みの仕事が多いという印象のシモネッティだが、当時はルッジェロ・デオダートやウンベルト・レンツィなど、アルジェント関連以外のB級映画のスコアも少なからず手掛けていた。近未来SFをイメージしたエレクトリックな本作のスコアは、よく聴いていると『デモンズ』('85)にそっくりで思わず苦笑い。そういや、アルジェント以外の仕事はわりと手抜きが多いもんな~。
なお、アメリカとイギリスで既にブルーレイ化さあれている本作だが、どちらも本編素材はイタリアで制作されたHDマスターを使用。ただし、アメリカ盤のみ独自に色調補正が施されているという。画質は可もなく不可もなくという印象だが、これまでVHSソースのDVDしか出ていなかったため、それに比べると雲泥の差ではある。音声トラックもまずまずの重量感。特典映像に関しては、マルティーノ監督のロングインタビューのみのイギリス盤に対し、アメリカ盤はダニエル・グリーンやジョン・サクソン、ジョージ・イーストマンらのインタビューがたっぷりと収録されているため、こちらの方がお買い得であることは間違いないだろう。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.78:1)/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/時間:93分/発売元:Code Red
特典:ダニエル・グリーンのインタビュー('17年制作・約31分)/ジョン・サクソンのインタビュー('17年制作・約5分)/セルジョ・マルティーノのインタビュー('16年制作・約17分)/ジョージ・イーストマンのインタビュー('16年制作・約11分)/ロベルト・ビサッコのインタビュー('17年制作・約18分)/オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2020-05-12 10:53
| 映画
|
Comments(2)
Commented
by
na
at 2021-08-21 15:00
x
もしコロラド川にかかった鉄橋をヘリがくぐりぬけるシーンがカメラの問題で撮り直しとならずにカッシネッリが生きていたらこの映画はどうなっていたでしょうか。
0
Commented
by
nakachan1045 at 2021-08-23 10:05
恐らく後半のストーリーは違うものになっていたかもしれませんが、もともとの脚本ではどういう展開になっていたのか知らないので、現状よりも面白くなっていたかどうかは分かりませんね。
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