なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「不思議の国のアリス」 Alice in Wonderland (1933)

製作:ルイス・D・ライトン
原作:ルイス・キャロル
脚本:ジョセフ・L・マンキーウィッツ
ウィリアム・キャメロン・メンジーズ
撮影:ヘンリー・シャープ
バート・グレノン
特殊効果:ゴードン・ジェニングス
ファーシオット・エドゥアート
特殊メイク:ウォリー・ウェストモア
音楽:ディミトリ・ティオムキン
出演:シャーロット・ヘンリー
レオン・キャロル
ルイーズ・ファゼンダ
フォード・スターリング
スキーツ・ギャラガー
レイモンド・ハットン
ポリー・モラン
ネッド・スパークス
ロスコー・エイツ
アリソン・スキップワース
リリアン・ハーマー
リチャード・アーレン
エドワード・エヴェレット・ホートン
ジャッキー・サール
チャールズ・ラグルズ
ベイビー・ルロイ
メイ・ロブソン
アレック・B・フランシス
ウィリアム・オースティン
ケイリー・グラント
エドナ・メイ・オリヴァー
ジャック・オーキー
ロスコー・カーンズ
メエ・マーシュ
W・C・フィールズ
ゲイリー・クーパー
アメリカ映画/77分/モノクロ作品

とある雪深い冬の日の午後。家庭教師と2人きりで留守番をしていた少女アリス(シャーロット・ヘンリー)は、外へ出て遊ぶことも出来ずに退屈してしまい、リクライニングチェアで愛猫を膝に乗せたままうたた寝をしてしまう。ハッと目を覚ますと居間には自分ひとりだけ。大きな鏡を覗きながら向こう側の世界に思いを馳せていたところ、気付くとアリスは鏡を通り抜けて反対側に立っていた。
動き回るチェスの駒や喋る置時計などと戯れていたアリスは、体がフワフワと宙に浮くのが楽しくて、そのままへ屋敷の外へ飛び出す。すると、目の前を白うさぎが駆けてい行き、その後を追った彼女は小さな穴へ飛び込む。すると、穴の底でウサギは小さな扉の中へ入っていくが、アリスの体は大きすぎる。ふと見ると、「私を飲んで」と書かれた小瓶が。中の液体を飲んだアリスはさらに大きくなってしまい困り果てる。すると、今度は「私を食べて」と書かれたケーキを見つけたアリス。それを食べるとみるみるうちに彼女の体は小さくなった。喜び勇んで扉を開けるアリス。そこには、今まで見たこともない不思議な世界が広がっていた…。

<作品レビュー>
お馴染みのディズニー・アニメやティム・バートン版を筆頭に、古くはサイレント映画の時代から数えきれないほど映画化されてきたルイス・キャロルの名作児童文学「不思議の国のアリス」。これは、ルイス・キャロル生誕100年を迎えて時ならぬアリス・ブームに沸いていた当時のアメリカで、ハリウッドの映画会社パラマウントが総力を結集して制作した実写映画版である。実際、キャストにはゲイリー・クーパーやケイリー・グラント、W・C・フィールズにエドワード・エヴェレット・ホートンなど、当時のパラマウントを代表する看板スター&ベテラン名脇役が勢ぞろい。監督には『いんちき商売』('31)や『御冗談でショ』('32)などのマルクス兄弟作品で有名なヒットメーカー、ノーマン・Z・マクロードが当たっている。

と同時に、実はこの作品、経営状態が思わしくなかった当時のパラマウントが起死回生を賭けた映画でもあった。折からの世界大恐慌に加えて、社長アドルフ・ズーカーの大作主義が祟り、'32年になるとパラマウントは倒産の危機に直面してしまう。そんなこともあって、大人から子供まで幅広い年齢層に親しまれ、家族連れを呼び込むことが期待できる「不思議の国のアリス」は、一発逆転の大ヒットを欲していたパラマウントにとって願ってもない題材だったのだろう。ところが蓋を開けてみると興行成績は惨敗。その理由は後ほど分析するが、いずれにせよパラマウント経営陣にとって手痛い大失敗となってしまう。結局、同社の経営難を救ったのは、希代の女傑メエ・ウェストが脚本と主演を兼ねた大人向けのセックス・コメディ『私は別よ』('33)と『妾は天使ぢゃない』('33)の2本だった。

脚色を手掛けたのは、後に『三人の妻への手紙』('49)と『イヴの総て』('50)でオスカー監督となるジョセフ・L・マンキーウィッツと、SF映画の古典『来るべき世界』('36)の監督としても知られるウィリアム・キャメロン・メンジーズ。内容的には「不思議の国のアリス」とその続編「鏡の国のアリス」のミックス・ブレンドである。想像力豊かで夢見がちな少女アリスが、鏡を通り抜けて向こう側の世界へ迷い込むプロローグは「鏡の国のアリス」。おや?これって「不思議の国のアリス」の映画化じゃないの?と首をかしげていると、ひょっこりウサギが現れて穴の中へと飛び込んでいく。ここからが「不思議の国のアリス」の導入部分となり、いざアリスが扉の向こうの不思議の国へと足を踏み入れて以降は、「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」のキャラクターが入れ代わり立ち代わり登場することになるわけだ。

77分という短めな上映時間とも相まって、全体的に2つの原作をコンパクトにまとめたダイジェスト版みたいな印象の作品。恐らくコアな原作ファンにとっては不満もあろうとは思うが、これはこれでバラエティ・ショー的なノリのライト・エンターテインメントとして素直に楽しい。要するに、基本は原作から抜粋された有名なエピソードの寄せ集めであり、主人公のアリスは狂言回し的な存在として位置づけられている。テレビが普及する以前のハリウッドでは、ミュージカルや舞台劇の抜粋を一堂に集め、オールスターキャストの顔合わせで披露する「レビュー映画」というジャンルが存在したが、本作はその延長線上にあると考えていいかもしれない。

ただ、この映画には大きく分けて2つの問題がある。まずは、パラマウントの誇る専属スター25名をズラリと揃えたオールスターキャストなのだが、いかんせん主人公のアリス以外は全ておとぎ話のキャラクターであり、それらを演じる役者も全員が特殊メイクを施したり着ぐるみを着たりしているため、肝心のスターの顔がほとんど判別できない。代用ウミガメに扮しているケイリー・グラントは牛のマスクにカメの体だし、ゲイリー・クーパーだって禿げ頭のカツラにデカ鼻と付けヒゲを装着して白の騎士を演じている。これじゃあ、せっかく天下の二枚目スターたちを目当てに映画を見に来た観客はガッカリだ。さすがにオールスターを売りにした顔見せ映画としては本末転倒であろう。

そしてもう一つは、実写化されたキャラクターのデザインが総じて「気味が悪い」ことだ。ジョン・テニエルの描いた原作本の挿絵をそのまま再現しているのだが、さすがにあのイラストを忠実に実写化してしまうと、妙に生々し過ぎてむしろ怖いのだよね(笑)。特にウサギやカエルなどの動物キャラは、テニエルの原画自体が写実的であるため、リアルな動物が人間の服を着て歩き回っているという、ちょっとした悪夢のような光景が繰り広げられる。ハンプティ・ダンプティとか侯爵夫人とかも、まるっきり原画そのままなのでエグいったらありゃしない。これ、子供が見たら悲鳴を上げるレベルですよ(笑)。そう考えると、本作から6年後に公開された『オズの魔法使』('39)は、ファンタジー・キャラを実写映像化するうえで外せないツボをきちんと心得ており、いろいろな意味で著しく進化していたんだなと思わせられる。

ただ、公開当時は興行の足を引っ張ったであろうそれらの重大な欠点も、90年近くの歳月を経た今見ると妙にキッチュで味わい深く感じられる。古き良き時代の素朴な特殊効果も微笑ましいし、文字通り絵本から抜け出てきたようなファンタジックな美術デザインもレトロでお洒落だ。ちなみに、美術デザインを手掛けたのは脚本のウィリアム・キャメロン・メンジーズ。『赤い鳩』('27)と『テンペスト』('28)でアカデミー賞の美術賞に輝いた彼は、むしろこちらの方が本業だったと言っても差し支えなかろう。

ヒロインのアリスを演じているのは、6800人もの応募者の中からオーディションを勝ち抜いた当時19歳(!)のシャーロット・ヘンリー。これが初の大役だった彼女は、ローレル&ハーディのファンタジー・コメディ『玩具の国』('34)ではボー・ビープ役にも起用されたが、大成することなく28歳で映画界を引退している。オールスターキャストの中で特筆すべきは、代用ウミガメを演じているケイリー・グラント。先述したように、被り物を着用しているためスクリーンに一切顔を出さないものの、牛の頭にカメの体という珍妙なキャラクターをコミカルに演じ、えっ?これがあのケイリー・グラント!?と驚くような芸達者ぶりを披露している。ちなみに、実はこの代用ウミガメ役、当初はパラマウントを代表するトップスター、ビング・クロスビーが演じるはずだったのだが、キャリアに傷がつくという理由で断ったのだそうだ。

なお、パラマウントは'58年に古いライブラリー作品700本の権利をユニバーサルへ売却しており、本作も現在はユニバーサルがマスターと著作権を管理している。恐らく当時コケてしまった作品ゆえなのだろう、長いことアメリカ本国ですらビデオソフト化されたことが一度もなかったのだが、'10年にティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』が大ヒットした際、その話題性に便乗する形で初めてアメリカおよびイギリスでDVD化されている。

評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/時間:77分/発売元:Universal Studios
特典:なし
by nakachan1045
| 2020-08-13 08:57
| 映画
|
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