なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「スーパーガール」 Supergirl (1984)
製作:ティモシー・ブリル
製作総指揮:イリヤ・サルキンド
脚本:デヴィッド・オデル
撮影:アラン・ヒューム
特殊視覚効果:デレク・メディングス
オプチカル視覚効果:ロイ・フィールド
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
出演:フェイ・ダナウェイ
ヘレン・スレイター
ピーター・オトゥール
ハート・ボクナー
ピーター・クック
ミア・ファロー
マーク・マクルーア
モーリーン・ティーフィ
ブレンダ・ヴァッカロ
サイモン・ワード
アメリカ映画/125分/カラー作品
<あらすじ>
クリプトン星の生き残りたちが異次元に創造した安住の地アルゴ・シティ。クラーク・ケントことスーパーマンの従妹に当たる少女カーラ(ヘレン・スレイター)は、優しい両親(サイモン・ワード、ミア・ファロー)の愛情に包まれて健やかに成長していた。ある日、アルゴ・シティの設計者ザルター(ピーター・オトゥール)がこっそり持ち出した、都市のエネルギー源オメガへドロンで遊んでいたカーラ。すると、ふとしたはずみでオメガへドロンが外宇宙へと飛び出してしまう。このままではアルゴ・シティからエネルギーが失われ、いずれは生命が死に絶えてしまう。責任を感じたカーラはオメガへドロンを追って時空の壁を超えるのだった。
その頃、地球へ飛来したオメガへドロンを魔女セリーナ(フェイ・ダナウェイ)が偶然拾う。親友の魔女ビアンカ(ブレンダ・ヴァッカロ)を相棒に、地球征服の野望を燃やしているセリーナだが、口うるさい魔法使いナイジェル(ピーター・クック)に教わっている魔術はまだまだ半人前。オメガへドロンに何かとてつもないパワーが宿っていると気付いた彼女は、まず手始めにたまたま見かけたハンサムな庭師イーサン(ハート・ボクナー)を自分のものにしようと画策する。
一方、オメガヘドロンを探して地球へ降り立ったカーラは、超人的なパワーを持つスーパーガールへと変身。地球人を装うため全寮制の女学校ミッドヴェイルに入学した彼女は、ルームメイトであるロイス・レインの妹ルーシー(モーリーン・ティーフィ)やデイリー・プラネット社の写真家ジミー・オルセン(マーク・マクルーア)と親しくなる。ある日、ルーシーやジミーと街で食事をしていたカーラは、セリーナに媚薬を飲まされて意識の朦朧とするイーサンを救出。カーラを一目見たイーサンは彼女に恋してしまう。
これに腹を立てたセリーナは、オメガへドロンでパワーの増した魔術を使い、カーラのもとへモンスターを送り込むものの、スーパーガールに変身した彼女に撃退されてしまう。邪悪なセリーナの存在を知ったカーラは直接対面するが、しかし今や強大な魔力を手にしたセリーナにイーサンが囚われてしまった。魔法を使って巨大な城を出現させ、いよいよ世界を支配すべく動き出すセリーナ。そんな彼女の野望を阻止しようとしたカーラだったが、反対に無限地獄ファントム・ゾーンへと追いやられてしまう。そこで、アルゴ・シティを追放されたザルターと再会するカーラ。果たして、彼女は元の世界へ戻って地球の人々を救うことが出来るのか…?
<作品レビュー>
スーパーマンの従妹スーパーガールが遂に実写映画化!という話題性をひっさげ、大ヒットした『スーパーマン』シリーズのスピンオフとして公開された娯楽超大作でありながら、見事なまでに関係者の期待を裏切るような興行的惨敗を喫してしまった作品。これにガッカリしたサルキンド親子が、『スーパーマン』フランチャイズの権利をキャノン・フィルムに売り払ってしまったほどの大失敗だったわけだが、何を隠そう(?)筆者は当時も今も『スーパーガール』が大好き。なにしろ、初渡米時に真っ先に向かったのが、劇中でカーラやルーシーがフライドチキンを食べる有名ファストフード・チェーンPopeyesだったくらいですから(^^;
まあ、確かに酷評された理由も分からないではない。なによりもまず、話のスケールがちっさい(笑)!とどのつまり、男を巡る女同士の痴話喧嘩ですよ。ことの発端は、クリプトン星の崩壊を免れた生存者たちが暮らす異次元都市アルゴ・シティの動力源である球体オメガへドロンを、若くて無邪気なカーラ(ヘレン・スレイター)がうっかり失くしてしまったこと。このままではアルゴ・シティまで滅びてしまう。責任を感じたカーラは外宇宙へ飛び出していったオメガへドロンを取り戻すべく、時空の壁を飛び越えて地球へやって来るというわけだ。
で、一足先に地球へ飛来したオメガへドロンをたまたま拾ってしまったのが、高慢ちきで欲の深い美熟女魔女のセリーナ(フェイ・ダナウェイ)。常日頃から世界征服に野望を燃やし、根拠のない自信と態度のデカさだけは一人前だが、しかし実のところろくに魔術も使えないポンコツ魔女である。親友で相棒のビアンカ(ブレンダ・ヴァッカロ)も頭のネジが一本はずれた天然ボケおばさん。そんなセリーナが、偶然手に入れたオメガへドロンの影響で、徐々に強大な魔力を身に付けていくわけだが、まず最初に魔法を使って何をするのかといったら、上半身裸で作業をしているセクシーなイケメン庭師イーサン(ハート・ボクナー)をツバメにすること。相棒が天然ボケなら肝心のボスは色ボケですよ。
ところが、そこへ邪魔に入ったのが若くてピチピチした天然美少女カーラ=スーパーガール。セリーナの毒牙にかかりかけたイーサンを間一髪で救出し、そのうえお互いに一目でフォーリンラブしちゃったのである。あんな小娘に男を取られてたまるもんか!とばかりに嫉妬の炎を燃やし、そのついで平和な田舎町を魔法で支配するセリーナ。どうやら、世界征服は時間がかかるので後回しにする模様。素性を隠すために女子高生となって学園生活を満喫し、すっかり地球の生活に慣れ親しんだカーラは、大好きな友達やイーサンを守らなくちゃ!ということで、セリーナからオメガへドロンを取り返すために直接対決するものの、まんまと罠にかかって一度入ったら二度と出られない無限地獄ファントム・ゾーンへ追いやられてしまう。果たして、カーラは無事に元の世界へ戻ってセリーナの野望を阻止できるのか…?
というわけで、ほらね?どうでもいい話でしょ(笑)。なんというか、いろんな意味でとても平和。ジャノー・ズヴァーク(日本ではヤノット・シュワルツとかジュノー・シュワークとか表記されるが、本人がDVDなどの音声解説で自己紹介している発音はこれ)監督が、「『スーパーマン』はSFだったけれど『スーパーガール』はおとぎ話」と語っているように、制作サイドはあくまでもキッズ向けのジュヴナイルなファンタジーとして描いている。だからヴィランはどこか滑稽で憎めないし、ヒロインだって清く正しく美しいし、ストーリーも基本的に世界征服・世界征服と言いながら「おらが村」の話に終始する。そもそも、よく考えれば設定は白雪姫と悪い女王様やドロシーと西の悪い魔女のバリエーションだ。このグリム童話的な「素朴さ」や「のどかさ」こそが本作の魅力であり、筆者が昔から好きな理由なのだろうと自分では思っている。
それから、やはりスーパーガール役にヘレン・スレイターを選んだ功績も大きい。現在人気のテレビ・シリーズ『SUPERGIRL/スーパーガール』のメリッサ・ベノイストもどことなく彼女に似ているが、しかし昔の原作コミックで描かれるスーパーガールは、いかにも気の強そうなセックス・シンボル的容姿だった。そのまま実写化するならパメラ・アンダーソンだ。それを、見るからにチャーミングでピュアで親しみやすい、当時19歳のフレッシュなヘレンに演じさせたのは、ある意味で先見の明とも言えよう。実際、映画の低評価とは対照的にヘレンの評判はとても良く、その後のコミック版のキャラデザインにも影響を与えたように見受けられるし、彼女のスーパーガールがなければメリッサ・ベノイストのスーパーガールもなかったように思う。ちなみに、ヘレンはそのテレビ版『SUPERGIRL/スーパーガール』にカーラの養母役で出演していた。
さらに、魔女セリーナ役のフェイ・ダナウェイと相棒ビアンカ役のブレンダ・ヴァッカロの、コッテコテに漫才的な凸凹コンビぶりも傑作。まさにボケとツッコミですよ。これが見事なくらいに息が合っているし、両者ともにノリノリで楽しそう。見た目の派手な毒舌オバサン2人が、子供みたいにキャッキャやっている感じが微笑ましい。やっぱり、どちらもすこぶる芸達者なのだよね。それだけに、当時失敗作の続いていたダナウェイが、これ以降しばらく鳴りを潜めてしまったこと、ヴァッカロもまたこれを最後に話題作から縁遠くなってしまったことが惜しまれる。
また、'84年という時代を考えても稚拙に見える特撮も低評価の要因のひとつで、実際に筆者もその通りだよなとは思うものの、しかし初めて地球へやって来たカーラがスーパーガールとしての能力に目覚め、まるで初めてオモチャを手にした子供のように、自由かつ楽しげに空を飛び舞い踊るシーンの高揚感は筆舌に尽くしがたい。ワイヤーを使った原始的な特撮がむしろ効果的。これはワイヤー担当者の巧妙な操術も然ることながら、演じるヘレン・スレイターのしなやかな身体能力に負う部分も大きいだろう。ちなみに、最初にスーパーガールが湖から飛び出すシーンをよく見ると、ヘレン・スレーターの写真を切り抜いて貼った木製ボードであることが分かる。というのも、制作陣は湖から飛び出したスーパーガールが全身びしょ濡れだったらおかしいと考えたのだが、しかしあらゆる方法を試してもヘレンの髪やコスチュームが濡れてしまうことを避けられないため、最終的に辿り着いた答えが等身大の写真を使うことだったのだそうだ。
後から知って驚いたのは、劇中に出てくるアメリカの平均的な田舎町が、実は『007』シリーズでも有名なロンドンのパインウッド・スタジオに建設された屋外セットだということ。これはさすがに考えてもみなかった。全くセットには見えないほどのクオリティ。なので、当然ながら筆者が行ってみたい!と思ったPopeyesの店舗も、撮影用にそれらしく再現されたセット。当時はイギリスとカナダでしかチェーン展開されていなかったはずだから、恐らく劇中でカーラやルーシーが食べるフライドチキンも、撮影用にスタッフが用意したものなのだろう。実はケンタッキーのフライドチキンだったりして(笑)。それにしても、マクドナルドじゃなくてPopeyesというとこが考えられているよね。少なくともアメリカの観客だったら、てっきり国内で撮ったんだろうと思っちゃうもん。
そういうわけなので、フェイ・ダナウェイを含めてキャストの多くがロンドン在住のアメリカ人か現地のイギリス人。英国コメディ界のレジェンド、ピーター・クックが珍しくハリウッド映画に出演しているのも、恐らくそのためだったのだろう。ルーシー役のモーリーン・ティーフィは、当時『フェーム』('80)や『グリース2』('82)など青春映画で活躍していた人で、筆者はけっこうファンだった。イーサン役のハート・ボクナーは、往年のダンディで渋い名脇役ロイド・ボクナーの息子で、後に『ダイ・ハード』('88)でナカトミ商事のいけ好かないエリート重役を演じることになる。本家『スーパーマン』シリーズから唯一の登板は、ジミー・オルセン役のマーク・マクルーア。実はクリストファー・リーヴにもゲストとして出演がオファーされており、本来であれば地球へ初めてやって来たスーパーガールをスーパーマンが出迎え、彼が空の飛び方を指南するという設定だったらしいのだが、結局リーヴ自身が断ったためにその案はボツとなり、劇中ではスーパーマンが新たなミッションのため地球を留守にしていることになっている。
ちなみに、本作には劇場公開版よりも14分ほど長いディレクターズ・カット版が存在する。両者を見比べてみるとディレクターズ・カット版がいわゆるロング・バージョンで、全体を通して満遍なく各シーンを短くカットしたのが劇場公開版(全米公開版はそれよりも短い105分であるため、インターナショナル・バージョンと呼ばれる)であることが分かる。なので、ストーリー自体はそれほどの大差もないのだが、目立つ違いは2つほど見受けられる。ひとつめは、女学校でルーシーとカーラを目の敵にするいじめっ子コンビのエピソード。ディレクターズ・カット版では諍いの原因となった出来事がちゃんと描かれている。
そしてもうひとつが、ルーシーとジミーのラブストーリー。ディレクターズ・カット版ではジミーがルーシーに愛を告白するシーンがあり、実は2人が初めて会った時から相思相愛だったことが判明する。劇場公開時、いきなりラストでキスしているジミーとルーシーを見て「えっ!?いきなり?」と思ったのだが、なるほど本来はそういう前置きがちゃんとあったのだ。そのほかにも、劇場公開版では唐突に感じられるシーンが幾つか存在するが、それらも同じ理由であったことが確認できる。
そのディレクターズ・カット版を収録しているのが、米ワーナーから発売されているアメリカ盤ブルーレイ。劇場公開版の本編はインターポジ・フィルムを改めてクリーンアップしたうえで、ブルーレイ用に2K解像度でスキャン&レストアされているとのことで、過去のDVDよりも遥かに画質が向上している。全体的にフィルム・グレインが濃いめなので、そこが気になるという向きもあるかもしれないが、そもそも80年代のアメリカ映画はグレインの濃い作品が多い。本作ももともとそうなのだろう。一方のディレクターズ・カット版は、どうやら素材フィルム自体の保存状態に問題があるらしく、残念ながら画質は決して良いと言えない。そのため、ブルーレイではなくDVDでの収録で、あくまでもボーナス特典扱いとなっている。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)※2枚組(BD+DVD)
カラー/ワイドスクリーン(2.4:1)/1080p/音声:5.1ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:124分/発売元:Warner Home Video
特典:メイキング・ドキュメンタリー('84年制作・49分)/ジャノー・ズヴァーク監督とスコット・マイケル・ボスコによる音声解説/オリジナル劇場予告編/ボーナスDVD(ディレクターズ・カット版収録)
by nakachan1045
| 2020-09-09 22:31
| 映画
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