なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「Le combat dans l'ile」 (1962)

監修:ルイ・マル
脚本:アラン・カヴァリエ
台詞:ジャン=ポール・ラプノー
撮影:ピエール・ロム
音楽:セルジュ・ニグ
出演:ロミー・シュナイダー
ジャン=ルイ・トラティニャン
アンリ・セール
ピエール・アッソ
ディアーヌ・レプヴリエ
ロベール・ブースケ
ジャック・ベルリオズ
モーリス・ガレル
フランス映画/104分/モノクロ作品

時は1961年、冬も終わりに近づいたパリ。裕福な実業家の御曹司クレマン(ジャン=ルイ・トラティニャン)は、ドイツ人で元女優の美しい妻アン(ロミー・シュナイダー)と何不自由ない暮らしをしていたが、しかし実は極右思想に傾倒して過激派グループのメンバーとなっていた。表向きは狩猟グループを装っている彼らだが、その目的は共産主義者やリベラルを一掃し、滅びかけた西欧社会の誇りと権威を取り戻すこと。フランス国内で労働者運動が活発になる中、彼らはそのリーダーであるテラッセ(モーリス・ガレル)の暗殺を計画する。
秘密裏に入手したバズーカ砲を用いて、グループのリーダー、セルジュ(ピエール・アッソ)と共に初めて実行役を任されたクレマン。ところが、裏切り者によって事前に計画情報が流されており、テラッセの暗殺に失敗したばかりかクレマンとセルジュの素性まで警察にバレてしまう。慌てて潜伏するため郊外の田舎へと向かうクレマン。一度は夫のもとを去ることを考えた妻アンも、彼のことを見捨てることが出来ずに付いて行く。
夫婦が身を寄せたのはクレマンの幼馴染ポール(アンリ・セール)の家。お互いにアルジェリアで生まれ育ち、幼少期からクレマンと固い友情の絆で結ばれているポールは、事情を聞くことなく2人を受け入れるのだった。夕食のテーブルでラジオを聴いていると、テラッセ暗殺計画の密告者の音声テープがニュース番組で流れる。クレマンはその声の主が、他でもないセルジュだと気付いて、いてもたってもいられなくなる。
すぐさまパリへ戻ったクレマンとアンだが、しかし既にクレマンは指名手配されており、街中に彼の写真を掲載した新聞が溢れている。セルジュが国外へ逃亡したと知ったクレマンは、仲間からの連絡が入るまで妻と一緒にポールの家で待つことにする。しかし、戻ると既にポールはクレマンが暗殺事件の実行犯であることを知っていた。リベラルで平和主義者のポールは、クレマンに対する嫌悪感を隠さない。その翌日、セルジュの行方を掴んだ仲間が訪れ、クレマンはアンを残して南米へと向かう。セルジュを処刑するために。
引き続きポールの家に滞在するアンは、努めて明るく振る舞いつつも内心では自暴自棄になっている。結婚してからはクレマンの要望で女優を辞め、独占欲の強い彼に配慮して大好きな夜遊びも控え、夫のためだけに尽くしてきた彼女は、まるでもぬけの殻のようだった。そんな彼女にポールは生きる支えを取り戻すため女優復帰を勧め、やがてアンはクレマンと正反対なポールの優しさに惹かれていく。だが、舞台の初日を目前に控えた頃、セルジュを殺したクレマンがパリへ戻ってくる…。

<作品レビュー>
日本ではカンヌ国際映画祭の審査員特別賞を受賞したフランス映画『テレーズ』('86)で知られる映画監督アラン・カヴァリエの処女作である。ヌーヴェルヴァーグ華やかなりし'60年代初頭に登場し、ゴダールやトリュフォー、シャブロルなどと同世代に当たるカヴァリエ。もともとはルイ・マルの助監督だった人だが、自身はジャン・ルノワールやロベール・ブレッソンに多大な影響を受けたといい、ヌーヴェルヴァーグのムーブメントと敏感に呼応しつつも、正統派フランス映画の伝統を継承する映像作家だった。これはそんな彼が、当時のアルジェリア戦争に揺れるフランスの混沌とした世相を投影しつつ、'40~'50年代ハリウッドのフィルム・ノワールへオマージュを捧げたポリティカルなラブストーリーだ。

'54年から始まるアルジェリア戦争の末期に当たる当時のフランスでは、'59年に就任したド・ゴール大統領がアフリカ植民地の独立を次々と承認し、遂にはアルジェリアの独立を容認する方針を打ち出すに至っていた。国内の世論も概ねこれを支持。そのため、アルジェリア独立に反対する極右勢力は武装して要人暗殺などのテロ活動を行い、'61年の9月にはド・ゴール大統領の暗殺まで計画する。彼らにとって植民地の独立を容認することは、それすなわち偉大な祖国フランスの威信を傷つけ、文明的な西欧人が未開の野蛮人に屈することを意味していたのだ。もちろん、植民地での既得権益を死守せんとする勢力もあったことだろう。いずれにせよ、ド・ゴール大統領の暗殺計画は未遂に終わり、これを機に独立反対派は急速に勢いを失うわけだが、本作を見るうえでそうした当時の社会情勢を念頭に置いておくことは必須であろう。

舞台は'61年の冬の終わり。裕福な実業家の父親を持つ御曹司クレマン(ジャン=ルイ・トラティニャン)は、元女優の美しい妻アン(ロミー・シュナイダー)と共にパリ一等地の高級アパルトマンに住み、何不自由ない暮らしを送っている。だが、そんな彼には誰も知らない裏の顔があった。というのも、貧しい労働者階級を社会の寄生虫だと見下し、有色人種の外国人を下等生物のように忌み嫌う彼は、秘かに極右グループのメンバーとして活動していたのだ。普段は狩猟同好会を装って戦闘訓練に明け暮れている彼らの目標は、社会主義者とリベラルをこの世から一掃し、今や地に堕ちたも同然である西欧社会の威信を取り戻すこと。そのために彼らは、大企業に対して賃上げを要求する身の程知らずな労組運動のリーダー、テラッセ(モーリス・ガレル)の暗殺を計画していた。

一方の妻アンは、そんな夫の非合法活動に薄々気づいていたものの、政治に無関心であることから大して気にも留めていない。そんなことよりも、彼女は嫉妬深くて支配的なクレマンの激しい束縛の方が深刻な悩みだ。ハンサムでお金持ちだし、普段は優しく甘えさせてくれる夫だが、しかし女優時代からの友達との交際は禁じられ、大好きなナイトクラブも滅多に行かせてもらえない。よその男性と親し気にしただけでも売春婦呼ばわりされる。そもそも女優を引退したのもクレマンの強い要望で、まるでアンは籠の中の鳥のようだった。そんなある日、彼女は夫が寝室に隠し持っていたバズーカ砲を発見し、我慢の限界に達したことから家を出て行ってしまう。だが、彼が何か事件でも起こしたら大変だと心配し、結局は戻って来るのだった。

いよいよテラッセの暗殺を決行することとなり、グループのリーダー格セルジュ(ピエール・アッソ)とクレマンが実行することとなる。ところが、何者かが裏切って事前に計画を漏らしていたらしく、暗殺が失敗に終わってテラッセは無事だったばかりか、クレマンが実行犯であるという情報も警察にバレてしまう。セルジュから連絡を受けたクレマンは、ほとぼりが冷めるまで郊外の田舎に身を潜めることとなり、彼を一人きりにできないアンも夫に付いて行くことにする。

2人が向かったのは、クレマンの大親友ポール(アンリ・セール)の暮らす家。彼らは共にアルジェリアで生まれ育った幼馴染で、裕福なクレマンに対してポールは平凡な庶民だったが、しかしお互いに血の誓いを交わすほど強い友情の絆で結ばれていた。といっても、最後に会ったのはかなり前の話で、妻アンはポールと初対面だ。事情を尋ねるわけでもなく、久しぶりに再会した友とその妻を温かく迎え入れるポール。その晩、食事をしながらラジオを聞いていたクレマンは、ニュース番組で流れてくる密告者の音声テープを耳にして愕然とする。声の主は明らかにセルジュだったのだ。

翌朝、真相を確かめるためパリへ戻るクレマンとアン。しかし、暗殺未遂事件の実行犯クレマンの写真を大きく掲載した新聞が街中に溢れており、なおかつ既にセルジュは国外へ高飛びしていた。仲間たちが情報収集するのを待つため、再びアンを連れてポールの家へと戻るクレマン。だが、ニュースはポールの耳にも届いていた。平和主義者のリベラルを自負するポールは、極右思想に染まった親友に対して怒りと嫌悪を露わにする。だが、明け方になってセルジュの逃亡先を掴んだ仲間が現れ、クレマンは一人でセルジュを抹殺するため南米へ向かうことに。アンはポールの家に留まることとなった。

ある意味で生活の全てだったクレマンがいなくなり、心にぽっかりと穴が空いてしまうアン。そんな彼女を見兼ねたポールは女優復帰を勧め、亡き妻が遺した舞台劇の脚本をアンに手渡す。そんなポールの優しい気づかいに励まされ、忘れかけていた自分を取り戻していくアン。いつしか2人は愛し合うようになり、女優復帰を決意したアンは舞台に立つこととなる。ところが、初日を目前に控えた矢先、ブエノスアイレスでセルジュを殺害したクレマンが秘密裏に帰国。親友と妻の仲を知った彼は激しい嫉妬心に駆られ、友情を裏切ったポールに復讐せんとするのだが…。

夫クレマン(=極右保守)とその親友ポール(=左翼リベラル)の間で揺れる妻アン(=民衆)という三角関係を、当時のアルジェリア独立を巡るフランス国内の分断になぞらえつつ、憎悪と偏見に駆り立てられた極右のレイシストが自滅していく様をノワールタッチで描いているのがミソ。クライマックスの決着はなんとなく不完全燃焼な感は否めないものの、政治的なテーマを普遍的なラブストーリーへ落とし込む手法と着眼点はとても面白い。陰影を強調したダークで荒涼とした映像美は、師匠ルイ・マルの『死刑台のエレベーター』('58)やシャブロルの『美しきセルジュ』('59)、メルヴィルの『いぬ』('63)辺りを彷彿とさせるものがある。そういう意味では、やはりヌーヴェルヴァーグ的とも言えるだろう。

その一方で、主演のロミー・シュナイダーとジャン=ルイ・トラティニャンを徹底して美しく撮ることに注力したカメラワークは、ヌーヴェルヴァーグというよりもハリウッド的なスター映画の趣がある。中でも、当時アイドルから大人の女優へと成長しつつあったロミー・シュナイダーの、エレガントな佇まいのなんとフォトジェニックなこと!撮影監督は『モーリス』('87)や『カミーユ・クローデル』('88)、『シラノ・ド・ベルジュラク』('90)で映画賞を席巻し、メルヴィルの『影の軍隊』('69)も手掛けた名カメラマン、ピエール・ロム。さすが文句なしの腕前である。クールな面持ちの中に狂気を秘めたトラティニャンの不穏な存在感も強烈で、ベルトルッチが『暗殺の森』('71)のファシズムに傾倒する主人公マルチェロ役に彼を起用する際、念頭に浮かんだ映画のひとつに本作があったという説も納得がいく。なお、ポール役のアンリ・セールはトリュフォーの『突然炎のごとく』('62)のジム役で有名な俳優だ。

評価(5点満点):★★★★☆
参考DVD情報(アメリカ盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(1.66:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/音声:フランス語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:104分/発売元:Zeitgeist Films
特典:ドキュメンタリー「France 1961」('10年制作・約13分)/ルイ・マル所蔵の撮影舞台裏フォト・ギャラリー/予告編/解説リーフレット封入
by nakachan1045
| 2020-09-16 18:47
| 映画
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